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5話 武器入手

 俺の名前は獅子王 ガイ、勇気あるGGGの隊員……ではない。勇者……らしい。ちなみに本名。

 俺は今、冒険者ギルドのギルドマスターの応接室にいる。なんか、いかにもと言った風情の執務机にいろんな本やファイルなんかが並んだ本棚。そして、部屋の中央に置かれた豪奢な椅子と妙につややかな光沢を放つ机が置かれている。

 想像以上に豪華であっても想像以下ではないと思う。貧困な俺のボキャブラリーではこの部屋の豪華さをなんとも説明しづらい。

 まぁ、さすがにふかふかのソファってのはこの世界にないのか、椅子は木製だったけどソファに負けないぐらいすわり心地は抜群だ。


「さて、まずは自己紹介をさせてもらおう。この街で冒険者ギルドのギルドマスターをしているキューマ・ベキだ」


 ギルマス、キューマさんはなんとも落ち着いた雰囲気のオジサマだ。見た目と雰囲気だけだったらジェントルマンってこういう人を言うんじゃないか?って思える。

 スーツみたいな服を着こなし、蓄えられた髭もダンディの一言に尽きる。


「獅子王 ガイ、先日この世界に召喚された勇者です」


 一応、キューマさんもわかってるだろうけど、勇者だってことをもう一度言っておく。いや、俺自身勇者だなんて自覚は全然ないですけどね?


「ふむ、不躾で悪いがガイ君。君はこの世界に来てどのくらいになるのかね?」

「今日で2日目です」

「2日? それはまた、ずいぶんと面白い時期に召喚されたものだね」


 まぁ、召喚された当日に国が亡びるんだから、面白い時期だろうな。ほんと、国が亡びるなんて誰が原因でそんな大事になったのやら。


「しかし、2日でどうやってこの国……いや、もうバルデンフェルト領だな。どうやってこの街へ来たんだい?」

「どうやって……ってのは?」

「隣国だったバルデンフェルトにしろリエルドにしろ、召喚の神殿からこの街までは早馬を潰しながら走り続けても4日はかかる。それをどうやって、召喚されて2日でこの街まで?」

「どうやってもなにも、俺はこの街で召喚されたんですよ」

「この、街で?」

「はい」

「なるほど……あぁ、すまない話題がそれてしまったね。君をこの部屋に呼んだのはギルドの説明のためだった」


 キューマさんはそう言って、一枚の板を机の上に置いた。

 その板は、漆塗りっぽい机の光沢とはまた違う、かといって金属らしい光沢とも違う光方をしていた。大きさはテレカや免許証とそう大差ないみたいだ。これ何製?


「これが明日、君に渡されるギルドカードと同じものだ。血液による登録をすることでその人物の情報を記録する。たしか……ディエヌエィとか言うんだったかな、君の世界では」


 こんなちゃちな板がDNAを記録する? まぁ、地球での道具だってそんなに大きくないのか? いや、詳しいことなんて何も知らないけど。


「そして、この板がギルドに所属する者にとっての身分証であり、成果の一端だ」

「?」

「このカードはさっきも説明した通り、複雑な魔法がかけられていてね。一般的には特殊魔法と呼ばれる、成立から300年以上が過ぎた今も詳しい原理なんかは解明されていない魔法なんだ。その魔法により、登録者のデータの記録、更新、実績の記録、更新、物品の譲渡契約、売買契約、様々な部分で使われている」


 いや、どんなカードですか?ちょっと高性能すぎるんじゃない?

 だって記録はわかるよ。いや、わからないけど納得はできる。だけど、更新ってなんですか?どうやって判断してるんですか?

 つか、解明してない技術ってことはオーパーツじゃん。それを普通に使ってるんですかあんたらは!


「……その、ギルドカードって貴重なんじゃないですか?」


 オーパーツなくしたりしたらすんごい金額取られたりするんじゃないの? っていうか、それは貸与? それとも付与?


「いや、そんなことはない。どういった原理かはわかっていないが、作り方はわかっている。これも大量生産されたものの一つだから、なくしたところで少しの再発行手数料で作り直せるさ」


 あぁ、俺以外にもそんな心配する人いるんでしょうね。なんか、説明が手馴れてますよ……いや、ギルマスがわざわざ説明することってあるのか? 下積みが長かったとか?


「とりあえず覚えておいてほしいことは、このカードは君が冒険者として生きていくうえで、冒険中でも、普段の生活でも大事にしなくてはいけないということだ」

「普段の生活でも?」

「あぁ。さっきも言ったが、売買の契約つまり、普通の買い物にも使えると言うことだ。基本的にギルドの報酬はギルドカード内にデータとして記録される。使えない場所もあるから、多少はギルドで現金化して受け取る必要はあるだろうが、この街で買い物をするなら、カードさえあれば問題はない」


 その後も、カードの説明を続けられたけど、それはなんでそんなに高性能なんですか?

 このちっぽけなカード一枚が、クレジットカードにキャッシュカードとして使えるほか、各種契約書の保存機能、さらには一般人でも操れるレベルの魔力を流し込むことで、その場でお互いに契約の魔法をかけることができるとか……これってある種のチートアイテムじゃないですか?


「さて、次に君がこれから行う冒険者ギルドに依頼されている仕事についてだが、基本的には街の外での活動が中心になる。時折、用心棒みたいな依頼もあるが、あれはまぁ例外ってやつだ」


 そもそも戦闘力皆無……いや、不明ってことにしておこう。戦闘力不明な俺では用心棒なんてできるわけない。


「大まかに分類すると、冒険者ギルドの仕事は、採集、討伐、探索の3つに分けられる」


 まぁ、名前のままだな。採集は、依頼主が欲しいものを取ってくるだけ。討伐は、依頼されたモンスターを倒すだけ。探索ってのは……ダンジョンとかを調べることか?


「前の2つはわかるんですけど、探索っていうのは?」

「そのままの意味だ。街の外にあるダンジョンに潜ることや、未開拓の地を調べることっていうのが一番多い仕事だな」


 なんでもこの世界には、突如何もなかった場所に小さな山?みたいなものが出現し、その山の麓にある穴に入ると迷宮と言われるダンジョンが存在するらしい。

 一般的には最下層に存在するボスを倒すとダンジョンは消滅するらしいのだが、実際に消滅したダンジョンは両手の数で数えられる程度のものらしい。


「先日もこの街の近くにダンジョンが出現した。何名かの冒険者が探索に向かったが、半数は重症、4分の1が死亡した」


 ……危なくない? ダンジョンって、マジで危なくない?

 無事に帰ってきたのが1/4それと同じだけ死人が出て残りは全員負傷、しかも単なる負傷の一言じゃなくて重症でしょ?


「……でも、ダンジョンってのは探索しなくちゃいけないものなんですか? 死ぬような危険な目に遭うくらいなら、ちょっかい出さなければいいじゃないですか」

「それが、そうもいかなくてね。定期的にモンスターを間引いておかないと、迷宮からモンスターが外に出てくるようになる。そうすると近隣にある町や村が危ないし、街道も安心して往来することができない」

「……なるほど」


 迷宮の出現理由や、ボスを倒すことで消滅する詳しい原理なんかは解明されてないらしい。この世界では、そういうものと半ば納得と言うか諦めているとか。

 しかも、迷宮ではRPGよろしくアイテムが散在しているらしい。比較的上の階層では、それほど貴重なものはないらしいが、ボスに近づけば近づくほどレア度の高いアイテムが手に入るとか。

 さすがに、モンスターを倒して金を拾うことはできないが、死骸から売れる部位をはぎ取ることで結構な金になるとか……どこのモン●ン?


「君にお勧めするのは、やはり採集の仕事になる。気を付けてさえいれば、危険なモンスターに会うこともなく仕事を進めることができる」


 まぁ、そうでしょうね。討伐の依頼が出されるようなモンスターなんて、凶暴だとか人を殺したとかって理由で依頼が出されるに決まってる。そんな一般人が相手にできないようなモンスターを、俺が相手できるはずがない。


「さて、仕事についてはだいたい説明も終わったが、なにか質問はあるかね?」

「ん~……今のところは大丈夫だと思います」


 まぁ、仕事を続けていくうちに疑問は出てくるかもしれないが、それはその時に聞けばいい。採集だったら死ぬ危険も少ないって言うし、油断は危ないかもしれないけど、気を張りすぎる必要はないだろ。


「そうかい? では、君に渡す装備を決めたいのだが、君は何が得意かね?」

「さぁ?」


 物語の主人公みたいに剣道をやってただとか、武道の経験があるなんて設定が俺にあるわけない。運動神経が悪いとは言わないが、武道の経験なんて、中学の時に授業でやった柔道と高校の授業で選択した剣道くらいのもんだ。

 授業で習うレベルなんて、素人に毛が生えた程度。本職の人間と比べられるようなもんじゃない。いや、でも剣道やってたし、ある意味では剣がいいのか? でも、剣道で使ってたのは竹刀だし、剣道のまんま使うって考えれば、刀だけど、この世界に刀なんてあるのか?


「なら、君の世界には侍とか言うものがいたんだろ? なんとなくでも動きが分かるぶん、剣がいいだろうな」


 侍を知っているし、案外俺の前に召喚された誰かが刀を作ってもらってるかも。キューマさんは女性職員さんに言っていくつかの武器を持ってこさせた。

 けっこう重そうなロングソード、刀に近いがどちらかというとカトラスっぽい片刃剣、俺の身長ぐらいの長さがある大剣、皮っぽいテカり具合の鎧、銅製の鎧、先の2つと違い全身を鉄で覆うタイプなんだろうバラバラになったプレートメイル。

 他にもよくわからん武器なんかがところ狭しと並べられる。が、どうやら侍を知っているキューマさんでも刀を用意はできなかったみたいだ。

 さすがに、一人でこれだけのものを持ってこれるわけないので、持ってきたのは男性職員を中心とした数名だが、プレートメイルを一式抱えていた男の人なんか、俺よりも確実に力がありそうなのに息を切らしている。

 プレートメイルなんかは、訓練された人間なら普通に動けるようなものらしいけど、事務仕事中心だろうギルドの職員さんや、俺みたいに休日は日がな1日、家に籠ってゲームしてるような人間には重すぎる装備だろう。

 プレートメイルと同じ理由で大剣もアウトだな。というか、ゲームならともかく、あんなデカい武器を人間が振りまわせるなんて到底思えないんだが、どうなんだろう?


「好きなものを選ぶといい。引退した冒険者の中古品や、冒険者が迷宮の上の階層で見つかけたものばかりで申し訳ないんだがね」


 いや、種類の豊富さから見てもあんまり気にしなくていいですよ? まぁ、中古品だと手入れとかしないといけないかもしれないから、ちょっと微妙な感じはするけど。

 もったいない精神が強い俺は、使えるなら中古だとかそう言うことは気にしない。

 さて、どうするか……いくらなんでも、3つも4つも貰うのはちょっと気が引ける。というか、持って帰るのも大変だ。せいぜい武器と防具2つずつってのがいいところだな。

 とりあえず、命に直結する防具から選ぶことにする。

 いくつか手に取ってみるけど、重いもの軽いものデカいもの小さいものと種類は本当に多い。

 移動のことなんかを考えるとあんまり重いものはいやだけど、金属の重さはすなわち防御力の高さだろう。命の危険を考えると重いからいやだなんて言えない。

 だからって、移動できないぐらい重いものは論外。適度な重さで頑丈そうなやつがいいな。ってか、気持ち銅より鉄の方が軽いって驚きだ。なんか、銅の方が軽くてもろく、鉄の方が重くて硬いってイメージあったんだけど……

 まあいいや。とりあえず防具はこの鉄の鎧にしよう。前面は胸と腹、後面は背中全体を守るタイプで、肩は出てるから、腕も動かしやすそうだし。見た目がなんとなくサ●ヤ人の戦闘服っぽいけど、まぁそれは、気にしない方向で。

 でも、そうすると肩から腕までが守れないし、手甲も貰っておこう。

 あとは武器だけど……どうすっかな?

 手に取って振ってみたりするけど、なんとなくしっくりこない。最初に目が入った、ロングソードは結構な大きさと重さがあるから、ちょっと取り回しに難があるし、細剣は軽くていいけど、なんか頼りない。

 形的に日本刀に近いものがあるし、カトラスがいいかな……


「?」


 カトラスを取ろうと手を伸ばしたところでそれの存在に気が付いた。

 刃は細く、長い。だいたい5センチぐらいの幅で、1メートルほどの刃と他のものに比べて少し長く作られている柄。

 手に取ってみると、なんとなく他の剣とは違った印象を受ける。なんて言えばいいのか……そう剣を振った感触が違う。他の剣は刃の方が重いから、振った時に遠心力で振り回される感じがするのだが、この剣は柄が重いからそれがあまりない。


「これにします」

「これを? いや、刀身の長い剣がいいのだったら、こっちのツーハンデットソードの方がいいんじゃないかね?」


 どうやら、俺が最初に手に取った剣はロングソードじゃなくてツーハンデットソードと言うらしい。ツーハンデットってことは両手で持つ剣ってことかな?


「いえ、こっちの剣の方がしっくりくるんですよ」

「ふむ……得意な武器はないと言っていたが、バスタードの訓練を受けていたのかい?」

「バスタード? この剣のことですか?」

「なんだ、知らずに選んだのか? バスタードは訓練次第では、両手持ち、片手持ち両方使え、刃が長いことで間合いが広いなど利点はあるが、普通の剣とは重心や扱い方が違うから、あまり一般的とは言えない武器だ」


 なるほど、さっきの俺が感じてた他の剣と違うと感じたのは重心が違うからか。バスタードってことは……あぁ……破壊者? なんか、かっこいいじゃん。

 副装備にグルカナイフを選び、それを腰に差す。誰だ、なんでグルカを選ぶんだって言ったやつ! いいじゃん、かっこいいじゃんグルカナイフ! ずっと欲しかったけど、日本じゃ使い道がないから買えなかったんだ、趣味に走って何が悪い!

 まぁ、副装備って言うには、ちょっとデカいけどその分、便利な使い道がたくさんあるはずだ。うん、そういうことにしておこう。

 一通り選んだ装備を身に着けて、体を動かしてみる。重さは全部で10キロちょっとぐらいかな? 少し重いけど、これは慣れるしかないな。このぐらいの重さだったらトレーニングすれば大丈夫だろ。……たぶん。





 説明が終わり、装備も選び終わったので、帰り支度を整えたお姉さん。アリアさんだったか? と合流して家へと案内してもらう。

 帰り道がすっごい気まずいです。


「あの……俺は獅子王 ガイです。これから、ご迷惑おかけするかと思いますが、よろしくお願いします」

「アリア・ロントリーよ……そうね、すっごい迷惑」


 ……あの、アリアさん。それはこれからじゃなくて、今このときの感想ですよね?

 諸手を挙げて、キューマさんの提案に賛同してしまったけど、早まったかもしれない。なにせ、俺を冒険者ギルドに引き込んだ張本人だ。

 今日一日の感想だけで言うなら、短気でめんどくさがりってところか?


「なんてね。そうは言っても、あんたがうちに来る原因を作ったのは私なんだから、あんたを責めたって仕方ないわよ」


 一応、自覚はあるんですね。


「ま、半年の我慢だしね。短いって言うほどじゃないけど、長くもないし、自業自得ってあきらめるわよ」


 苦い笑みを浮かべながら、アリアさんはこちらに片手を差し出してきた。


「これからは一緒に暮らすんだし、ギスギスすんのはいやでしょ? ま、よろしく」

「……よろしくおねがいします」


 俺はアリアさんの手を取り、握手を交わす。思ってたより、彼女はいい人なのかもしれない。脳内での評価は見直す必要があるな。

 夕暮れ時の街の中を二人で歩く。


 アリアさんの手はすべすべしていて気持ちよかったです マル


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