表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/51

10話 子供は偉大でした

 (前略)

 エルフの里中を走り回って危なそうなエルフを助けたりしながら、ダークエルフを倒し続けたがスワーに聞いた髪の色が銀で長髪の黒い鎧を着たダークエルフは1人もいなかった。ダークエルフのほとんどがエルフと同じ金髪で、緑っぽい鎧を着てるから間違いはない。というか、傷ついたエルフがほとんど一か所に集まってきて、他には俺が倒して呻いているダークエルフ以外は議事堂以外に人っ子1人見当たらない。隠れてでもいない限りダークエルフは全滅している。

 2周回って確かめたから間違いない。

 いや、ほんと、スタリオは好戦的だってロアが言ってたからすぐに戦えるもんだと思ってたのにぜんぜん見つかんないんだから困った。

 というか、ダークエルフ全滅させて、議事堂に来たらエルフたちに警戒されまくりでそれも困った。レスティアナさんたちもどこにいるんだよ。これじゃあ相談も出来やしない。

 さすがにダークエルフからエルフを助けたことが評価されたのか直接攻撃されたりはしないものの、めちゃめちゃ警戒されていて議事堂に近づくことも出来ない。エルフたちも混乱しすぎて、スクルドをどうにかするような余裕もないみたいなのが幸いだな。


「にしても、どうすっか……」

「キュ?」


 俺のつぶやきにスクルドが不思議そうな顔をして見上げてくる。気にするなと言いながら俺はスクルドの耳の裏をかいてやった。とりあえず戦いは終わったようだから鎧を脱いでちょうどいい高さの木の根に腰かけて小休止しつつ、どうすればいいのかさらに思案する。

 スタリオが見つからない以上、俺の知らないところでエルフの誰かに倒されたのか、何かの理由で里から出て行ったかのどちらかだろう。

 俺の考えている通りだとすれば、計画の邪魔にならないように排除する必要がなくなったのだからスタリオを気にする必要はなくなるってことだ。問題は、この後の指示がないことだな。

 スタリオとスワーを倒したくらいにレスティアナさんとロアの方が行動を終えて結果が出るだろうって言われていたけど、一向にわかりやすい結果ってやつが起こらない。

 ダークエルフに家族を殺されたらしいエルフが涙を流し、家が燃やされたエルフがダークエルフへの呪詛を吐く。エルフたちからのダークエルフへの恨みが残らないようにするって言ってたけど、この調子だと失敗したのかな?

 正直、エルフへの恨みでエルフの里を襲ったダークエルフ、エルフの里を襲ったダークエルフへの恨みでエルフが復讐する。復讐のいたちごっこが始まりそうな気がしてならない。

 本当にレスティアナさんたちはどうする気なんだろうか。


「か~いい」

「ん?」


 思考の海に沈んでいた俺は突然の声に現実に引き戻された。声の主、まだまだ舌足らずなしゃべり方の少女は火の近くを通って逃げてきたのかわずかに顔が煤けているのだが、わずかばかりも苦しそうだったりつらそうな顔一つせずに太陽のような明るい笑顔でスクルドに手を伸ばしていた。

 少女の手はスクルドに触れ無遠慮に無邪気な手がスクルドを撫でまわす。スクルドも少女に悪気がないことはわかっているのだろう。ちょっと嫌そうな顔はするけど抵抗することなく少女の手を受け入れている。


「に~ちゃ、こおこちょーだい」


 お兄ちゃんこの子ちょうだい。とでも言っているんだろう。いやいや、それはダメだよ。こいつは俺の相棒なんだから。


「ごめんね。この子はにーちゃんの大切な友達だからあげられないんだ」


 俺はそう言って少女の頭を撫でた。残念そうにうつむくが少女はすぐに笑顔に戻るとスクルドを撫でまわす。

 エルフがみんなこの子みたいに人族だからとか偏見のこもった目で相手を見ないで笑いかければ今回の争いも起きなかっただろうに。


「だ、ダメよユーナ!」


 少女の母親らしいエルフが慌てて駆け寄ってくる。そのダメってのは神獣のスクルドに触れてはいけないって意味なのか、人族の俺に近づいたらいけないって意味なのか……たぶん俺に近づくなって方なんだろうな。


「こっちに来なさい」

「やぁ~」


 母エルフが少女の抱き上げて俺から離そうとするが、少女は母の腕を振り払って抵抗する。

 そんな少女の反応に焦った母エルフは近くにいた他のエルフたちに声をかけ、気付けば騎士が2人も現れる事態にまで発展していた。


「お前は完全に包囲されている。おとなしく少女を解放しろ!」

「娘を返して!」


 どんなコントだよ……

 完全に包囲とか言ってるけど、半円形に俺の前を囲んでるだけで後ろはがら空きだ。というか、解放とか返すとか言う前に、俺は何もしてないっつの。まぁ、この子の頭は撫でてるけど、それだけだし。この子がそっちに行こうとしたらいつでも行ける状態だって。でも、大勢の大人に囲まれて強面の騎士が母親の近くにいるのが怖いのか、少女は完全にビビッて俺の脚にしがみついている。

 お母さん、あなたのやってることは完全に逆効果です。


「あ~……この子が怖がってるみたいだから、騎士の人とか大人はちょっと下がってみたらどうですかね? お母さんが1人でもう少し近寄ればこの子もすぐにそっちへ行くと思いますけど」

「私たちが下がったところでお前はその子を攫って逃げるつもりだろう」


 いや、そんなことしないから。あ、そうか。俺が下がれば……

 立ち上がって数歩後ろへ移動すると少女も俺に引っ付くように移動する。ダメじゃん。

 少女を抱き上げて母親の方へ運ぼうかとも思ったけど、抱き上げた瞬間に俺を人攫いと勘違いしているエルフたちが襲い掛かってきたり、ものすごい面倒な事態になるだろうなぁ……

 どうしよ……


「ウォォォ!」

「!」


 どうしたものかと考え込んでいるところで、突然後ろから聞こえた声に振り返ると家の屋根から飛んだのだろうダークエルフが空中からこちらに斬りかかってくるところだった。

 俺は慌てて少女を抱えるとすぐさまその場を飛び退いてダークエルフの剣を避ける。

 確実にったと思ったのだろう、着地したダークエルフは俺を睨みつけながら舌打ちした。


「避けるとはな……」


 いや、んな意外そうに言われてもね……不意打ちするなら声出しちゃダメでしょ。

 突然ダークエルフが現れたことにエルフたちはしばらく唖然としていたが、状況を理解すると一気に混乱が広がった。慌ててその場から逃げだし、騎士と母エルフだけを残してみんないなくなってしまった。まぁ、半分野次馬みたいなノリだっただろうから、ダークエルフに襲われるかもしれないってわかったらそりゃ逃げ出すよな。

 そんなエルフたちなど無視してダークエルフは俺を睨みながら剣を構え直す。

 よくよく見てみると、ダークエルフの黒い鎧は胴のあたりがへこんでいる。どうやら最初にエルフと即席コンビを組んでいたダークエルフみたいだ。

 顔立ちは中性的で、長く伸ばした銀髪も相まってパッと見た感じは女と勘違いしてしまうかもしれない。そう言えば、どこかスワーにも似ている。


「あれ?」


 もしかしてこいつがスタリオじゃないのか?

 俺はそんな考えにようやく行き着いた。

 そう。そうと知らず最初に倒してしまったからいくら探しても見つからなかったんだ。スワーに似た顔、銀髪、黒い鎧。スワーから聞いていた特徴に見事合致しているじゃないか。最初に戦った時は顔のことなんて気にしてなかったからぜんぜん気づかなかったよ。


「なぁ、お前がスタリオか?」

「!?」


 突然名前を呼ばれてスタリオの表情が凍り付く。どうやらビンゴみたいだな。

 いきなり名乗ってもいないし、今日までかかわりのなかった相手に名前を呼ばれたらそりゃ驚くだろう。


「なんだよ。そうならそうと言ってくれればよかったのに……げ」


 ようやく言われていた分の作業が終わる。そう思って腰に手を当てた俺は、そこにあるはずの感触がないことに気が付いた。

 そう。さっき戦いは終わったもんだと思って鎧も剣も全部外しちゃったんだよ。

 まずいな。

 剣は騎士や母エルフたちの近くで、取りに行くにはちょっとばかり距離がある。取りに行けば、かなりまずいレベルの隙ができるのは間違いない。

 剣を構えジリジリと油断しないよう距離を詰めてくるスタリオ。少女を抱えている俺はものすごい不利だ。できることなら騎士たちが割って入ってくることを期待したいけど、あっちはあっちでこっちがどうなるかを油断せずに眺めているだけで一向に事態に介入しようとはしてこない。子供助けろよ。

 スタリオが近づいてくるのに合わせて俺も少しずつ下がってなんとか剣との距離を縮めようとはかない努力を続けるが、一足一刀の間合いに俺を入れたのかスタリオが斬りかかってくる。紙一重で躱すと抱えてるエルフ少女が斬られてしまうかもしれないので、スタリオが斬りかかるのと同時に大地を蹴って大きく後ろに下がる。が、スタリオの攻撃は一振りだけで終わるわけではない。

 2度、3度と続けざまに斬りかかってくるスタリオの攻撃をエルフ少女を抱えたままなんとか回避するが、避けるのに必死で剣との距離は離れていく一方だ。

 エルフ少女は振り回されるのが遊んでもらっているのと勘違いしているのか、無邪気な笑みを浮かべている。将来は遊園地で絶叫マシーンばかり乗る子に育ちそうだな。って、この世界に絶叫マシーンはないか。


「……お嬢ちゃん、高いところは好き?」

「?」


 スタリオの攻撃を避けつつ少女に問いかけるが、少女は不思議そうに首を傾げるばかりで答えない。そりゃそうだろうな。突然高いところは好きかって聞かれてもわけがわかんないだろう。


「怖かったらごめんね。そぉ~れっ!」

「っ!」


 スタリオの攻撃を避けるのと同時に少女を思いっきり上に放り投げる。視界の隅で母エルフがふらりと倒れ、騎士たちが慌てているけどそんなことを気にしてる余裕はない。この世界に来てレベルが上がったおかげで漫画みたいにエルフ少女は宙に浮いている。とは言っても落ちてくるまで10秒もないだろう。

 俺は振り下ろされているスタリオの剣を踏みつけ地面にめり込ませると、もう片方の足をスタリオの顔面に叩き込む。グラリと揺れるスタリオに追い打ちで膝と肘、止めに掌底で顎を打ち抜くと脳が思いっきりシェイクされたんだろう、糸が切れた人形のようにスタリオはその場に倒れ込んだ。


「っうし」


 スタリオはなんとかできたけどこれで終わりじゃない。急いで少女の位置を確認すると、落下位置に割り込んで極力エルフ少女に衝撃がいかないよう軟らかく受け止める。

 恐る恐る少女の顔を覗き込むと、予想外にも浮かんでいる表情はこの上ないほど明るい笑顔だった。


「もっかい! もっかい!」


 きゃっきゃっと笑いながら超高層高い高いを再度要求してくるエルフ少女。いや、何気に受け止めるときとか投げる時にも神経使うからもう1回は勘弁してください。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ