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7話 寝過ごしたのは問題でした

「っくそ! ダークエルフどもめ」


 ペン・チノーは里に攻め入ってきた賊、3人目のダークエルフを切り伏せるとそう吐き捨てた。

 周囲には何の罪もない・・・・・・エルフの民が血を流しながら倒れている。倒れているエルフたちに性別や年齢の共通点はない。子供であろうと女性であろうとことごとくが惨殺されている。浮かぶ表情は恐怖に引きつっているものや、突然降りかかった死に驚いているようなものばかりで、抵抗らしい抵抗すら許されずに殺されたのだろうことがよくわかる。

 今もまだそこかしこから悲鳴が聞こえ、近くから聞こえた声に反応して視線を向ければ恐怖に顔を引きつらせるエルフの女性と剣を振り上げながら下卑た笑いを浮かべるダークエルフの姿が視界に映った。


「やめろぉ!」


 ペン・チノーは今にも斬られようとしている女性とダークエルフの間に体を割り込ませると、ダークエルフの凶刃を剣で防いだ。

 このダークエルフは相当な実力を有しているのだろう。今まで彼が切り伏せたダークエルフたちとは比べ物にならないほどの一撃にペン・チノーの表情がゆがむ。


「っち、邪魔すんじゃねぇよ! クソエルフが!」

「黙れ! この薄汚いダークエルフが!」

「薄汚い? 俺たちが薄汚いならテメェラはゴミ屑だろう!」

「なにを……っく!」


 ペン・チノーは続けて刃を振るったダークエルフの一撃をなんとか押しかえし、ダークエルフとの距離を取る。

 エルフの女性は赤ん坊を抱きかかえてまだその場に残って震えている。腰が抜けたのだろうか、いつまでたっても逃げようともしなかった。


「早く立て! 今のうちに逃げろ」

「は、はいっ!」


 女性はなんとか立ち上がろうとするが、その動きはなんとも緩慢だ。そんな女性の動きを視界の隅で捉え苛立ちを覚えながらもペン・チノーは目の前のダークエルフからは1秒たりとも目を逸らさない。

 ようやく女性が離れたことを気配から察したペン・チノーは剣を握りなおすと即座にダークエルフへ斬りかかった。

 ここで時間をかけるわけにはいかない。里へ攻め込んできた賊の正確な数はわからないが10や20では足りないだろう。対してエルフ族の戦士は総勢で22、議事堂に残した者や火を抑えようと動いている者がいないので賊と戦うことが出来るのは半数の11しかいないのだ。

 先ほどの一撃から目の前のダークエルフがそれまでにペン・チノーが切り伏せた3人とは比べ物にならない実力者であることは理解していたが、たかがダークエルフであれば一刀のもとに切り伏せることが出来る。

 そんなペン・チノーの予想はダークエルフの予想以上の動きに簡単に裏切られた。

 ダークエルフはペン・チノーの剣を半身をひいて避けると、即座に反撃が返ってくる。ダークエルフの剣を寸前で回避したペン・チノーであったが完全に避けきることが出来ずに頬が薄く切れ血が滲んだ。


「エルフのくせになかなかしぶといな」


 ペン・チノーの血がわずかに付着した剣を一舐めしてダークエルフがつぶやいた。

 そんな言葉で激昂するほどペン・チノーは若くはない。いや、それよりもまず目の前のダークエルフの実力を訂正することを優先した。

 ――こいつは強い。

 今対峙している敵は300年以上を戦士として生きてきた自分と同程度のものがある。先ほどまでの簡単に倒すことができたダークエルフはまったく参考にならない。里で最強とも言われるレスティアナ・ブロウティアほどではないだろうが、長く訓練を共にしてきたエルフの戦士たちと比べてもなんら遜色がないだけの実力がある。

 ペン・チノーは乾いた唇を軽く舐め、剣を握りなおす。強いが強すぎるわけではない。あまり時間をかけるわけにはいかないが、目の前の敵を放置して次の場所へ向かうのはあまりにも危険だ。


「次はこっちから行くぞ!」

「くぅ……」


 ダークエルフの剣をなんとか防ぎながら反撃の隙をうかがうペン・チノーであったが、怒涛の攻撃になかなか隙を見出すことが出来ない。


「精霊よ、我が敵を凍てつかせろ!」


 剣による反撃が難しいことを悟ったペン・チノーは自身は防御に集中し、攻撃は精霊に任せることを選択した。

 精霊術、それは空気中にいる精霊に願いと言う名の指示を出し、その力を行使する術だ。精霊には属性があり、火、水、風、土の4種が存在する。高度な精霊術が使えるものは精霊の姿を見ることが出来ると言うが、エルフの中でもそんな実力者は各地にある里に1人いるかいないかというレベルでもある。

 しかし、精霊術を使うことに精霊が見えるかどうかなどは問題ではない。精霊の存在を感じ取ることが出来る唯一の種族であるエルフならば、誰でも術の難度を別にすれば精霊術を使うことは可能なのだ。

 当然エルフの戦士であるペン・チノーも普通のエルフよりも比較的高度な精霊術を使うことが出来る。水の精霊のより高度な使い方・・・である氷の精霊術は戦士として日頃から戦闘用の精霊術を訓練しているペン・チノーだからこそ使える術だ。

 ペン・チノーの放った氷の精霊術はダークエルフの足を凍りつかせ、地面と同化させる。


「どうだ、薄汚いダークエルフめ! お前たちのような悪しき種族には使うことすら叶わないエルフの技を喰らった感想は」

「くくく、精霊術か……こんな、こんなチンケな力で俺たちを迫害した屑どもが!」


 足を凍りつかせることに成功し、自分が圧倒的優位に立ったと勝ち誇るペン・チノーだが、足を動かせなくなったダークエルフは少しも焦った様子を見せない。そればかりか笑い出しさえしたのだからペン・チノーの方が戸惑っていた。


「精霊よ、炎にて我が身を縛る枷をとかしたまえ」

「な、なんだと!?」


 ダークエルフがそう言うと、凍っていたはずの足元が燃え上がり数秒と掛からずに氷がとける。そんな光景を目の前にしながらも、ダークエルフが精霊術を行使すると言うあまりにもエルフの常識から逸脱した出来事に、一瞬ペン・チノーは何が起きたのか理解できなかった。

 ダークエルフは精霊術を使うことが出来たとしても、子供の遊戯にも似た程度のことしかできない。それがエルフにとっての常識だ。が、目の前のダークエルフはエルフの戦士が本気で凍らせた足元の氷をわずかな時間でとかせるほど強力な精霊術の炎を使ったのだ。

 目の当たりにした事実であっても心がそれを認めようとしない。


「死ね、エルフが!」

「っな!? くそ」


 唖然としていたペン・チノーであるがダークエルフが斬りかかってきたことに気づき、寸前で攻撃を防ぐ。

 ――いったいどうなっている!? 間違い、そう今のは何かの間違いだ。

 ダークエルフの剣を防ぎながら焦るペン・チノーの出した結論は今のは何かの間違いであると思い込むあまりにも愚かなものだった。

 術が不完全で見た目ほどきちんと凍っていなかった。実はダークエルフが使ったのは精霊術ではなく魔法であり、声に出した呪文はただのハッタリである。などと、考えればそう思い込むことが出来る可能性は確かに存在する。

 だが、それはあまりにも自分の知る常識に都合のいい解釈であり、その考えが間違っているという可能性の方が圧倒的に高いという事実をペン・チノーはかたくなに認めようとしなかった。


「凍れ!」

「精霊よ、防ぎたまえ!」


 間違いである。そう思い込み再度ダークエルフを凍らせようと精霊術を放つペン・チノーであったが、今度はわずかばかりもダークエルフを凍らせることすら叶わず、ダークエルフの精霊術によって防がれてしまった。

 いよいよもって、信じざるを得ない。が、認めるわけにはいかない。

 薄汚いダークエルフが高貴なるエルフと同じ・・精霊術を使うなどというのは認めてはならないのだ。


「く、くそぉぉぉおお!」


 精霊術を使えるために圧倒的優位だったはずのペン・チノーはダークエルフがエルフと同じレベルでの精霊術を使うと言う事実に追い詰められ、破れかぶれになって型もなにもなく斬りかかった。それは、子供のチャンバラのようなあまりにも雑な動きであり、エルフの戦士と同程度の実力を有するダークエルフには文字通り児戯にも等しい攻撃だ。

 ダークエルフはほんのわずかに動くだけでペン・チノーの攻撃を避けると先ほどエルフの女性を切り殺そうとしたのと同じように剣を振り上げた。


「死ね!」


 無慈悲に振り下ろされる刃、誰かがその場でその戦いを見守っていたのならば首が飛ぶだろうと思われたその時、あたりに響いたのは金属同士がぶつかる高い音だった。


「なっ!?」


 予想外の感触に驚き目を見開くダークエルフ。目の前のエルフは血迷い遊びのような動きで剣を振ったがために剣は地面に突き刺さっている。防ぐことなどできないはずなのだ。

 この場には今の今まで自分と目の前のエルフ以外に誰一人としておらず、誰かが助けに入るはずもない。ならばなぜ。


「やっべぇ……寝坊したら戦い始まってるし……」


 あまりにも緊張感のないその声は、エルフの里にいるはずのない人族のそれだった。



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