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6話 エルフの里は大混乱でした

 (前略)

 なんとか洞窟の中で見つけた岩をいくつか運んで、長老衆に見せたところ鉱石が含まれているものもあったため2つ目の試練も終えることが出来た。

 試練を終えたのが夜も遅い時間だったため、さすがに長老衆たちも即座に次の試練をやれとは言いださなくてホッとしたのもつかの間、俺が泊まる場所はないと言われてエルフの里を出てすぐのところにテントを立てて眠ることになった。

 正直、空き家でもなんでもいいからきちんとした屋根のあるところで寝かせて欲しかったけど、人族を嫌ってるエルフとしては人族が里の中にいることだけでも許容できないみたいだ。

 ひどい話だよまったく……はぁ。

 とりあえず、ロアに言われていた場所に先んじて居られるだけ良かったって考えることにしよう。

 計画通りなら日の出とともにダークエルフがここを通ってエルフの里に攻め込むから、俺はそれに合わせて戦えばいいって手筈になっている。

 エルフとダークエルフが全員レスティアナさんぐらいの強さだったら俺なんか役に立たないだろうけど、レスティアナさんの強さはエルフの中でも異常らしいからその点は大丈夫だろう。それに、レスティアナさんは味方だから、気にしなくていい。

 ダークエルフ側で戦力になるのはスタリオってのとスワーっていう双子にロアの3人で、残りは全員そこまでの強さじゃない。対してエルフ側はレスティアナさんを除けば、戦力になるのは十数人程度だって話だ。練度ではダークエルフを圧倒しているけど、数ではエルフが劣る。里にいる数ではエルフの方が多いんだけど、ほとんどが非戦闘員だから、数には数えられない……と。

 それにしても、エルフとダークエルフの内輪もめに人族の俺が介入しなくちゃいけないってのはどうなんだろう。

 正直、レスティアナさんに頼まれてなかったらこんな面倒なことには絶対関わりたくなかった。

 俺はため息を1つつくとすでに日も変わった今日の早朝からの戦いに備えて仮眠を取ろうとそっと目を閉じた。


――――side out


 日が昇るまであと数分と言う時間、東の空が白み地平線が見えれば明るくなってきているのがわかるだろう。作戦通りに里を囲んだダークエルフたちは決行の時が訪れるのを今かと待ち構えている。


「なぁ、本当に大丈夫なんだよな?」

「あぁ。ロアが言ってただろ。結界はこいつを持っていれば通り抜けられるって」


 エルフの里は何者も通ることが出来ない結界で覆われている。何も知らずに結界に触れれば結界が反応し、周囲を漂う精霊たちに攻撃され黒焦げになるか氷漬けになるかとも言われている。

 結界を通り抜けるには、エルフが結界に干渉して一時的に結界の一部に穴をあける他にはないとされていおり、ダークエルフは結界に干渉する術を教えられていないためエルフの里を攻めることが出来ずにいた。しかし、あるダークエルフが発見した他の種族に知られていない方法に人魚の涙を持っていれば結界を通り抜けることが出来るというものがあるのだ。

 長年エルフに対する恨みを募らせていたダークエルフたちはそのことに狂喜した。ようやくエルフの里を攻めることが出来る。

 結界のおかげで長く平和が続いているエルフの里は、里を守るための防衛力も高くはない。基本的に争うこともないので里にいる戦士は20人もいないはずなのだ。仲間たちを守るために日々戦っているダークエルフは数で襲い掛かるために1人1人の強さこそ大したものではないが、戦う力を持たない子供や老人を除けばすべてが戦士と言える。

 集落に非戦闘員である子供や老人を守れる最低限の戦力を残して、エルフの里を攻めるために集まった戦士の数は80人、たとえ精鋭と言われるエルフの戦士であろうと4倍もの戦力差を覆すことはできないだろう。


「日が昇った、行くぞ!」


 白んでいた東の空が明るくなった。最初に動いたダークエルフを皮切りに、エルフの里を囲んでいたダークエルフたちは次々と結界を通り抜けエルフの里へと攻め込んだ。


「驕るクソエルフども、俺たちの恨みを思い知れ!」




 エルフ族の戦士、ペン・チノーは焦っていた。

 結界で覆われているがため絶対に安全なはずであるエルフの里に賊が攻め入ってきたのだ。時刻は朝日が昇ったばかり、里の民はその多くが眠っていたところを叩き起こされ里は混乱の坩堝と化している。

 賊は里を囲みこんでいたようで、外側から順次火の手が上がりそこかしこから悲鳴が聞こえてくる。

 逃げ惑う民を誘導する余裕もなく、どうすればいいのかもわからない。魔物を狩った経験はある、ダークネスバットであれば5匹いても1人で倒しきることはできるが、それは狩りの準備をしたうえでの話だ。里に攻め込んできた賊と戦った経験など400年近く生きてきた中で一度としてない。

 悲鳴を聞き飛び起きてすぐに武器と防具を装備して家を飛び出したが、すでに里中が混乱しており状況もわからない。とにかく戦士隊の隊長であるパス・ダーのもとへ走ったがすでに家にはいなかった。ならばと里の中央、議事堂へ向かおうとするのだが逃げ惑う民が邪魔をして思うように進むことすらかなわない。

 ようやく議事堂にたどり着くと、そこにはパス・ダーをはじめ戦士隊の面々が揃っていた。


「パス・ダー、どうなっているんですか?」

「わからなん、どうやら賊が侵入したようだが……」


 そんなことはわかっている。パス・ダーに詰め寄ったペン・チノーは叫びそうになったがここで慌ててはいけないとその言葉を飲み込んだ。

 パス・ダーとて自らと同じように今の状況に混乱しているのだ。長い里の歴史の中でも攻め込まれたことなどないのだから当然と言える。

 しかし、民は混乱し周囲は火に囲まれている。何とかしなくてはいけないのだ。


「賊は何者ですか? まさか、件の人族が……」

「わからん。しかし、報告ではダークエルフの姿が多いようだ」

「だ、ダークエルフ!? あの薄汚いゴミ虫め」


 ギリリと奥歯を噛み鳴らした。エルフにとってのダークエルフはまさに忌むべき存在だ。自然にあることこそが正しいというエルフ族の掟があり、殺さずに里から追放するだけにとどめてやっている。というのが大多数のダークエルフへの認識である。

 ダークエルフがエルフの里を攻めるというのは恩を仇で返すほかにならない。


「とにかく動かなくてはならん。隊を2つにわけるぞ。ペン・チノー、お前は半数を率いて賊を倒せ。3人はここに残りクレイ様と長老衆の護衛、ブロウティアもいるのだ、十分だろう。いざとなればクレイ様をお連れして逃げろよ。残りは私と共に火を消せ」


 パス・ダーの指示に従ってエルフの戦士たちが走り出す。ペン・チノーは走りつつ賊の討伐に割り振られた戦士たちに細かな指示を出し、自らは泉のある出口の方へと向かった。




「いったい、どうなっておる!」


 議事堂の中、朝も早くに騒音で叩き起こされたカッズォは護衛に残された戦士に怒鳴り散らした。

 結界に守られた里は魔物が攻め入ろうとしても安全であるはずなのだが、今回はまったく意味を成していない。

 長い歴史の中でも一度として戦場になったことのないエルフの里が戦場となってしまったことは、当代の長老衆筆頭であるカッズォ・ウッシャーマにとって汚名以外の何ものでもなかった。

 代々エルフの里で権力を握ってきたウッシャーマ家の名が汚れてしまったことに、カッズォは興奮し物や人に当たり散らす。


「カッズォ殿、落ち着きなされ」

「えぇい! これが落ち着いていられるか!」


 乱暴に水の満たされたグラスを叩き割り、カッズォはたしなめてきた長老衆の1人を睨みつけた。

 7人いるはずの長老衆もこの場にいるのはカッズォを含めて5人しかいない。2人がどうなったのか知ることはできないが、そのこともカッズォを苛立たせる。

 長老衆であれば、このような時も議事堂に集まり冷静にそして完璧に事態を収拾して見せなくてはいけない。そう考えているカッズォであるが、この場にて一番落ち着いていないのもカッズォである。

 ――このままではクレイ様を預けてくだすったレーティア様に申し訳が立たん。なんとかせねば。

 そんなカッズォの考えとは裏腹に、里を包む混乱はさらに大きくなるばかりであった。




「スクルド様、失礼します」


 ノックをして部屋に入ったレスティアナは部屋の中で困った様子のスクルドに頭を下げた。


「申し訳ありません。あの馬鹿が計画通りに動いておらず、スクルド様をお連れすることが出来ませんでした」

「キュウ……」


 レスティアナの言葉にため息をつくように声を漏らすスクルド。あの馬鹿とはガイのことであろう。

 事前にレスティアナに聞かされていた計画通りであれば、今頃スクルドは自らの主人の肩の上にいたはずであったのだが、計画とは往々にしてその通りには進まないものだ。


「やつが動き始めましたらすぐに送り届けますので、もうしばしお待ちください」

「キュッ!」


 ありがとう。とでも言ったようなスクルドの鳴き声に、レスティアナは柔らかな微笑みを浮かべて答えた。

 ――早くしなさい、馬鹿者……

 レスティアナは窓から見える赤みがかった森の景色を眺めながら、スクルドの主人が動き出すのを願った。



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