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2話 俺は厄介ものみたいな扱いでした

(前略)

 馬に乗れない俺は仕方なくレスティアナさんの後ろに乗って移動することになった。なんだか男として情けないような気がしたけど、乗れないものは仕方ない。馬車にはリエルドで暮らすことも含めてけっこうな荷物があるため、ちょっと移動するのには重すぎて使いづらい。あまり時間もないのでいまさら乗馬の練習から始めるわけにもいかないんだから仕方ない。

 そう、仕方ないんだ。でも、リエルドに着いたら乗馬の練習もしておこう。仕方ないんだけど……

 で、途中で魔物に襲われることもなく森へ入り、奥へ奥へと進んでいく。レスティアナさんの通るエルフの里へ続く道はエルフの術で結界が張られているらしく魔物は近づいてこないんだそうだ。

 無事にエルフの里へ到着して、俺は予想以上にすごいエルフの里の光景にしばし唖然とした。

 いや、自然と共に暮らすエルフたちの里って言うぐらいだから今までいた街や見たことのある村よりは自然と共存しているんだろうと思っていたけど、完全に俺の想像を超えている。

 里の真ん中あたりには樹齢が千年単位だろう巨大な樹が生えていて、それ以外にも日本ではまずお目にかかったことのない太さの樹が何本もある。中には木の根が盛り上がっている下に扉があって一種の竪穴式住居みたいになっているだろう家もちらほらと見える。

 ところどころで人間が生活しているような感じは見て取れるものの、その大部分は自然と共存していると言うよりも自然を尊重した生活をしている感じだ。人間のように自然を淘汰して自分たちの環境を作っているわけじゃなく、自然の環境に合わせて生活しているってのがよくわかる。

 そんなエルフたちの生活スタイルのおかげか、人が生活しているって言うのにそびえる巨木を中心としたその光景はファンタジーな世界でより一層幻想的な森という光景をそのままに残している。

 大きく広がる木々の枝が天然の天井のようになっていて、隙間から差し込む日の光が幻想的な里の光景をより際立たせてるんだろう。


「……すごいな」


 目の前の光景に圧倒されながらも俺はなんとかそれだけの言葉を絞り出した。


「別に、すごいことなんてありません。私からすれば人型の、中でも人族の生活する環境の方がすごいと思えますよ」


 レスティアナさんは俺のつぶやきにそう言ってから止まっていた馬の足を進めさせた。

 馬の上から見える範囲に扉は多いけれど人影があまり見当たらない。食事には中途半端な時間だし、日も高い時間にまさか寝ているわけじゃないだろう。


「レスティアナさん、なんだか全然人がいないみたいだけど……」

「あなたがいるからです」

「は?」


 俺がいるから?


「村を出る前に魔術で連絡を入れました。人族にさらわれたエルフは数えきれないので、警戒しているんです」

「お、俺がそんなことするわけないじゃないか!」

「えぇ。私もそう思います。ですが、一般論としてそうする人間が多く、あなたのことを知らないこの里の者はあなたとそんなエルフを誘拐する人間との違いが判るわけもないんです。我慢してください」


 そう言われてしまうと反論できない。

 どんな場合でも例外はあるけれど、そのことに詳しいだけじゃなくてその例外のことにも詳しくないとそれが例外だってわからないのは当然のことだ。

 今まで会ったこともないこの里の人たちが俺のことを人攫いと同列に見てしまうのも仕方ないことなんだろう。あまり長くここに留まるわけじゃないけど、ちょっとでも誤解が解けると嬉しいけど。


「つきました。ここです」


 そう言ってレスティアナさんが馬を停めたのは里の中心にそびえる巨木のすぐそばにある俺の見た限り里の中で一際大きな建物の前だった。

 どうやらここで道すがら説明された話を聞かされるらしい。

 ……ちょっと面倒かなぁ。




「おぉ! クレイ様。突然里からお姿を消して驚きましたぞ」

「よくぞ戻ってきてくださった」


 巨木のそばにある大きな建物、議事堂と言うらしいそこへ足を踏み入れた俺たちを迎え入れたのは数人の老人……老エルフだった。

 この老エルフたちが、ここに来るまでに聞いた話に出たこの里の責任者と言える長老会のメンバーだろう。

 老エルフたちの目当てはスクルドなんだろうってのはわかるけど、俺の肩にいるスクルドに声をかけてるのにあからさまに俺を無視するのは正直どうなんだろう。


「ささ、クレイ様こちらへ」


 老エルフの1人がスクルドを誘導し、議事堂内の上座っぽい場所にスクルドがお座りする。

 うん、あの……スクルドみたいな小動物が一段高い場所で犬みたいにお座りしているのをありがたそうに老人たちが拝んでる光景は非常にシュールだな。


「して、その者がクレイ様の従者じゃな」

「はい」


 えっ!?

 声に出しそうになったが必死で驚きの声を呑み込んで俺はじろじろとこちらを老エルフたちとレスティアナさんを交互に見た。

 俺がスクルドの従者ってどういうことだよ。ここまで来る道すがら俺をエルフの里へ呼んだ理由の説明は受けたけど、俺がスクルドの従者扱いってのは初めて聞いた。

 いや、エルフの里的にスクルドは神様と同レベルだから、まさか侮蔑している人族のペットになってるって説明は出来なかったんだろうけど、まさか自分のペット兼相棒の従者扱いってのは予想外だな。

 まぁ、話は出来るだけ合わせるように言われてるし下手な口出しはしないようにしておこう。


「クレイ様の従者にしては、ずいぶんと貧相な男だな」


 うっさいわ! こっちだって見ただけで分かるような冒険者としての風格がないことぐらいわかってるんだよ。

 あれか、平然と毒を吐くのがスタンダードなエルフ族なのか?


「確かに見るからに貧相な男ですが、この者は冒険者として並々ならぬ実力を持っております。クレイ様の従者として不足ということはありません」


 貧相ってレスティアナさん…………っな!? ほ、褒められてる……

 なんかレスティアナさんに褒められるとむず痒い。いや、確かに貧相とかいつもと変わらない毒舌ぶりだけど、どう考えても後半は俺のこと褒めてるよな。

 本心でそう思ってもらってるなら嬉しいけど、どうなんだろう。


「ふむ……まぁよい。クレイ様の従者にふさわしいかはこれから分かることじゃ」


 これからわかる? あぁ。そう言えばここに来るまでの説明でレスティアナさんがたぶんスクルドの従者として相応しいか試練を課せられると思うって言ってたけどたぶんそれだな。

 レスティアナさんの話によればそれほど難しくはないって話だけど、何せ情報源はあのレスティアナさんだ。嘘の可能性が高すぎるから油断なんてできるはずがない。


「人間よ。クレイ様がお前を従者として認めているとしても、クレイ様をルーティア様より預かった我らにはお前を見定める義務がある。断ろうとも試練を受けてもらう」

「…………」

「…………」

「…………んっ」


 数秒の間が開いたかと思ったら小さく咳払いしてレスティアナさんが肘で突いた。

 あの……みぞおちは軽くでもけっこう効くんですけど……

 ……あぁ。返事しなくちゃいけないのね。


「わかりました。スクル……クレイ様の従者として相応しいことを示すため、試練を受けさせていただきます」

「……ふむ」


 あらかじめレスティアナさんに対応の仕方を聞いてたのにすっかり忘れてた。

 間違ってないよな……

 ちらりとレスティアナさんに目を向けると満足そうにうなづいている。よかった、間違ってなかったみたいだ。


「よかろう。試練は3つじゃ」

「まずは、この森の深くにある泉より人魚の涙を取ってこい」


 ……人魚の涙?

 魔物がいるんだし人魚もいるだろうけど、涙か。どうやって持ってくればいいんだ?


「あの……」

「では行け! ブロウティア、お前はその者と知人である以上協力するやもしれん。よって試練が終わるまでこの里を出ることを禁ずる」

「はい」

「いや、だから……」

「さっさと行かぬか!」


 長老衆の中でも比較的歳の若そうなエルフに両脇を抱えられて議事堂を追い出されてしまった。俺を追い出したエルフたちもさっさと議事堂の中に戻ってしまい、エルフの里の屋外で動いているのは俺だけになってしまう。

 いや、だから人魚の涙ってどうやって持ってくればいいの? あと、泉ってどこだよ!



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