1話 退屈で死にそうでした
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俺の名前は獅子王 ガイ、勇気あるGGGの隊員……ではない。どこにでもいる普通の高校生だったはずの俺は、今では異世界に召喚された勇者っていう肩書と迷宮を踏破した凄腕の冒険者になってしまった。
自分から望んで手に入れたわけでもなく、俺は自分の名前の由来となった人物? と同じポジションになってしまったわけだ……いや、凄腕冒険者って分だけ俺が上か? でも勇者の王様ってわけでもないからやっぱりどっこいどっこいかな。
街を出てから2週間、非常にのんびりとした旅で何の問題もなくリエルド王国に……到着していない。と言うのも、順調だった旅で国境にある関所を通ろうとした際に初めて問題が発生したんだ。ゲイルの馬鹿野郎のせいで……
俺とレスティアナさんは冒険者としてリエルドの迷宮に挑戦するため、アリアさんはギルドの勤務異動、キッタローンの野郎は詳しい話は分からないけど、正式な手続きを経てようやく国境を越える許可を得ることが出来た。だが、ゲイルとセリカちゃんはもともとリエルドの人間で正式な手続きを経てバルデンフェルトに入国したわけじゃない。つまり不法入国だ。
いざ関所にたどり着く寸前でそのことに気が付き、どうにかして穏便に国境を越えることが出来ないかと相談した結果、早くもキッタローンがいったん街に戻りセリル姫にどうにかしてもらうことになった。
出来ることなら帝国に不法入国のことをばらしたくないと言うゲイルだったけど、入国方法は大規模な商業ギルドの国境越えに合わせたどさくさまぎれのようなものだったため、同じ方法で国を出ることが出来ない。少なくともしばらくそんな規模の大きな国境を越える集団の情報は皆無なんだ。できるだけ早くリエルドに行ってさっさと仕事を終わらせたいってのにいつまでもバルデンフェルトに残るわけにはいかない。というか、いつまでも残っていたらあのお姫様にどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。
出来るだけ早く関所を越えたいところだけど、ゲイルのやつがいないとリエルドに入ってからどうすればいいのかわからないし、先に入るわけにはいかない。仕方がないのでキッタローンのやつが戻ってくるまで関所の近くにある村で待つことになった。
「で、どうするかだよなぁ」
俺はそう独りごちるとそのまま後ろ向きにベッドに倒れこんだ。
さして軟らかくもないベッドの感触は手放しでほめられるものじゃないけど、馬車の荷台に比べれば軟らかい。
キッタローンを待つ間に留まることになったこの村はそれほど大きくないのでギルドがない。幸い全員が泊まれる宿はあったものの、宿以外は商店の1つもない小さな村だ。ギルドがないので仕事を受けることができないし、村人も冒険者に頼むような依頼はないそうだ。平和なことはいいことだけど、3日もなにもしないでいるとものすごく暇だ。
「キュイ?」
「ん? あぁ……ごめんなスクルド、起こしちゃったか?」
俺の独り言に反応したのか、ベッドに倒れこんだことで起こされたのかベッドの枕もとで丸くなっていたスクルドが一声鳴いた。ごめん、そこで寝てるのに気づいてなかった。もう少し静かに座るとかした方がよかったな。
スクルドの頭を軽く撫でながらこれからどうしようかともう一度考える。
セリカちゃんと遊んであげるのはいいけど、あんまりずっと一緒にいるとゲイルのやつがうるさいしなぁ。アリアさんはリエルドの方のギルドに関する資料とか読んだりしていて仕事が忙しそうだ。
訓練もしてはいるけど、朝と夕方に素振りをするぐらいしかできることもない。
ほんと、どうすっかなぁ。
不意に扉がノックされ、俺とスクルドは同時に扉へ目を向けた。
「クレイ様、いらっしゃいますか?」
ノックをしたのは、この村に来てからすぐにどこかへ行ってしまったレスティアナさんだった。
スクルドに向けて「すぐに戻りますので」って一言残してこの3日俺たちとは別行動だったけど、戻ってきたんだな。
「スクルドならいるよ」
「あなたには聞いていません」
「……あぁそう。まぁ、とりあえず入っていいから」
俺がそう促すと扉の向こうで声をかけてきた女性、レスティアナさんが部屋の中に入ってきた。
この村に来るまで馬車の中でずっと難しい顔をしていたけど、わざわざスクルドと離れたって言うのにどうやら問題は解決していないみたいだ。普段は表情の変化が分かり辛い方だけど、今は誰の目に見てもわかるぐらい問題を抱えていますって顔してるし。いったいどうしたんだろ。
「………………」
「………………」
部屋に入ってから何も話そうとしないレスティアナさん、いつもだったら俺のことなんか無視してさっさとスクルドの世話と言うかご機嫌取りをするはずだって言うのに、なんでか知らないけど今日に限ってはジッと俺のことを見つめてる。
おいおい、ついに俺に惚れたか? ……嘘です、ごめんなさい。
でも、マジでどうしたんだろう。
「………………」
「………………あのぅ」
レスティアナさんが部屋に入ってきてから10分くらいが過ぎ、ついに沈黙に耐え切れなくなった俺の方から声をかけた。
「なんですか?」
「いや、なんですか? じゃなくて、部屋に来たのはレスティアナさんなんだから用事があるのはレスティアナさんの方じゃないんでしょうか?」
「………………」
無言かいっ!
頼むから、コミュニケーションを取らせてくれよ。
「………………まことに遺憾なことではあるのですが」
「遺憾?」
どうしたんだろう。ついにスクルドのことを諦めてエルフの里に帰るのか?
いや、だったら俺に声をかける前にスクルドに別れの言葉を言って、俺には声もかけずにさっさと帰るよな。
だったら、なんだろう。
「あなたにお願いがあります」
「お願い?」
「………………はい」
いや、まぁ確かに嫌なんだろうけど、そんな苦虫を噛み殺したような顔しないでくださいよ。
どんだけ俺に頼みごとするの嫌なんだよ。
「別に、レスティアナさんにはお世話になってるし…………なってる、いや……なってるよな? うん、たぶんなってる」
「……たぶん?」
「間違いなくお世話になっているであります! で、ですのでお願いが自分にできることであれば全身全霊をかけてまっとうさせていただくであります、サー!」
あ、サーって男性上官だっけ? 女性はマムなんだよな、たしか。
「そうですか……お願いと言うのは、他でもありません。リエルドへ行く前、この村に滞在する期間で構いませんのでエルフの里へ来てはいただけませんか?」
「エルフの……里?」
「はい」
エルフの里ねぇ……
なんで俺をわざわざ呼ぶんだ? って、スクルドを連れて行くためだよな。
スクルド自身はエルフの里へ帰りたくないらしいけど、俺が行くってんならおそらくだけど話は別だろう。一時的にエルフの里に立ち寄るぐらいならスクルドだって妥協するかもしれない。
「それって、俺に来てほしいって言うよりスクルドに来てほしいんですよね?」
「……たしかにそれもありますが、今回はあなたにも用があります」
「はぁ?」
なんで俺に?
もしかして、エルフの里はこの近くって話だし、近くに来たこの機会に俺を亡き者にしてスクルドを取り戻そうとか考えてるんじゃないだろうな。
「念のために言っておきますが、あなたに来てほしい理由はクレイ様は関係ありません。クレイ様を人間が連れていると里に報告したところ問題視する者もいましたが、その辺は私がきっちりと説明しておきました」
……レスティアナさんの説明? 安心できる要素がひとつもないじゃん。
里に着いた瞬間、レスティアナさんみたいに「死んでください」とか言いながら多数のエルフに取り囲まれるシーンしか想像できないよ。
「それとは別にもう1つお話しておきたいこともあります。エルフの里に来ていただけませんか? お願いします」
「…………」
俺はレスティアナさんが頭を下げるのを見て目を丸くした。
だってそうだろう、あのレスティアナさんが俺に頭を下げたんだ。さんざん罵倒していた人族の俺に頭を下げるなんてよほどのことなんだろう。
「なぁスクルド」
「キュイ?」
頭を下げたままのレスティアナさんを前に、俺はベッドの枕もとで丸まっていたスクルドに声をかけた。
耳を揺らし、スクルドはどうしたの? とでも言いたげに首を傾げている。
「エルフの里に行くけど、お前もついてくるか?」
「キュゥ……」
「まぁ、無理にとは言わないよ」
エルフの里という言葉を聞いてあからさまに嫌そうに鳴いた後、スクルドは渋々と言った様子で頷いた。
「来てもらえるんですか?」
「えぇ、まぁ。レスティアナさんに頭下げてまでお願いされたら断れませんよ」
「……ありがとうございます」
……なんか毒づかれないと調子でないな。
罵倒してほしいと思うほどマゾじゃないけど、いつもと様子が違いすぎるよ。
このお願いを聞いて少しでもいつもの調子に戻ってもらえたら助かるけど……助かるよな? いや、うぅん……死ねとか言われるのは嫌だよなぁ、やっぱり。
「で、いつ行くんですか?」
「できるだけ早く。今すぐにでも」
そんなに急ぐのかよ。まぁいいか、やることだってないんだし。
俺はさっさと準備を終えると仕事中のアリアさんに一声かけ、一応ゲイルのやつにも声をかけてから村を出ることになった。
レスティアナさんの話によればエルフの里まで馬で1日かからない程度の距離だそうだ。が、ここで問題が1つ。
「どうしたんですか?」
俺は馬のたずなだけを持ったまま馬の前に立っているだけで、いつまでも馬に乗ろうとしない俺をレスティアナさんが訝しげに見つめる。
いや、その……乗りたいのはやまやまなんですけどね。
「俺、馬乗れないんですけど……」