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36話 新たなるお姫様登場なんだぜ

 獅子王ガイとバルデンフェルト騎士、キッタローンが決闘を行ったという話はすぐに城で書類を決裁していたセリルの下にも届いた。


 キッタローン・マグカフェルと言えば、バルデンフェルトでも有数の騎士の家であるマグカフェル家の次男で、この街に来ている騎士の中でも1,2を争う実力者だ。


 なぜ、そんな男が獅子王ガイと決闘なんて真似をするのか理由もわからず、セリルは決裁を終えていない書類などもすべて後回しにしてキッタローンを呼び出した。


 誰も想像もしていなかった事態なだけに、謁見の間にはほぼすべての騎士が集まり、キッタローン自身が来ると収まりのつかないざわめきが謁見の間を包んだ。



「要件は、わかっているな」


「はい」



 ざわめきが収まるのも待たずにセリルは言った。キッタローンは恭しくこうべを垂れたまま、ただ一言答える。


 決闘を終えたばかりだと言うのに怪我らしい怪我も見当たらず、セリルにはキッタローンが決闘をしたという事実がここにきて嘘だったのではないかと思えた。



「キッタローン。お主が獅子王ガイと決闘を行ったと言うのは真か?」


「はい」


「なぜだ」


「それは……あの男が帝国に害をなすとわかったからです」


「害……じゃと?」



 害をなすと言っても、彼自身の功績を考えればまったく見当もつかない。


 この街が危機に瀕した迷宮の件も解決に導き、帝国の恥とも言うべき事件も解決して見せた。


 少なくとも、獅子王ガイが帝国に害をなすとは思えない。ならば、キッタローンの勝手な思い込みだろうか。


 以前にもキッタローンがガイを敵視していたことはセリルも覚えていた。だからと言って、直接決闘を申し込むなどと言うのは、行き過ぎている。



「獅子王ガイが帝国に害をなす。なぜそう思ったのか言うてみよ」


「獅子王ガイ……やつは、人ではありません」


「なんじゃと?」



 人ではない。


 キッタローンの言ったことはあまりにも荒唐無稽でその場にいる誰もがすぐには理解できなかった。


 この場合の人と言えば、人族ではなく人型の種族だろう。エルフも獣人も含めた亜人と人族、そのすべてを含めた人間ではないということなのだろう。


 だが、どう見ても獅子王ガイは人間であり、魔物の類であるとは考えられなかった。



「どういう意味じゃ」


「私は、死亡したジ・ジーから獅子王ガイの召喚に関する話を聞きました」


「なに!?」


「そして、その話の結論として、獅子王ガイは人間ではない。という事実を知ったのです」



 それからキッタローンは自分が知った獅子王ガイの召喚に関する真実をその場で語った。


 誰もが話を信じようとはせず、キッタローンの話を冗談か何かだと思い込もうとしたが、キッタローンの話す雰囲気と、話の内容を聞いていくうちにそれが真実だと理解する。


 獅子王ガイが人間ではない。そんな荒唐無稽な話が、それこそどうでもいい話のようなほどありえない事実を知った、知ってしまったその場にいる全ての人間が、キッタローンの話が終わった後も口を開けずにいた。



「確認するが、それは真実なのだな」


「はい」


「にわかには信じられん……」


「…………」



 獅子王ガイが召喚された方法。そのあまりにも常軌を逸した方法に驚きを隠せないのはセリルも同じであった。


 驚くのと同時に信じられない、何かの冗談ではないかという思いもあるが、自らに仕える騎士の言葉を、その決意の瞳を目の当たりにしては信じるほかになかった。


 それに、以前から感じていた獅子王ガイの異質さ。それがキッタローンの話を聞いた今となっては、間違いでなかったということがよくわかる。


 彼が普通の人間ではない、普通の勇者ではないというセリルの考えは間違いではなかったのだ。



「なぜ、すぐに話そうとはしなかった。いや、今頃になって話すつもりになったのだ?」


「……獅子王ガイを殺すことが出来れば、なにも言わずに帝国を去るつもりでした。しかし決闘をしてわかったのですが、私では奴を殺すことが出来ません」



 決闘を行った最初のうちこそキッタローンが優位にことを進められたが、ガイは戦いの中で成長をしている。


 同じ敵と戦えば一度勝った相手に負けることはないだろう。


 騎士として戦場に立ってきた経験から、キッタローンはそう感じていた。



「ならば、どうせ死ぬとしても真実を帝国に知らせてから死のうと思ったが為です」



 決闘で負けたその瞬間に、キッタローンは自らの生が終わったのだと理解した。


 獅子王ガイがこの世界に来て間もない勇者であることは知っている。


 たとえ迷宮をクリアしたという実績があったとしても、加護や勇者としての才能などによって運だけを味方にそれを成し遂げるのは不可能ではない。


 事実、それだけの実力を持っていたが、迷宮に入ろうとしなかったがためにその名を残さなかった人間をキッタローンは知っている。


 そして、そんなこの世界では運以外に取り柄がないであろう男に敗北した。


 こんなことが家に知れれば今までとは比べ物にならぬほど罵倒の限りを尽くされるだろう。


 いや、それだけではない。


 勘当されるのは間違いないだろう。


 そうであるのなら、もはや生きる意味もない。



「……たしかに、騎士でありながらそのような事実を騙ろうとしなかったのは、騎士として失格だな」


「はい。覚悟はできております」



 キッタローンは自らの生を捨て、これから何が起きようともなんと言われようとも、何の後悔もなかった。



「だが、お主は何か話したのか?」


「え?」



 突然のセリルの言葉に、キッタローンは彼女がなんと言ったのかすぐには理解できなかった。


 自分の一大決心のもとからの発言に対し、何か話したのかとはあまりの話ではないか。



「おそらく、この話を知る騎士は殺されるだろう。だが、そんな話は私が直接あの男から聞いた話であって、この街にいる騎士は誰も知らぬ」


「ひ、姫様……」



 セリルの言葉にキッタローンは我が身が震えた。


 なぜ自分は話すことをためらったりしたのだろうか、このような素晴らしい姫に仕えることが出来て自分はどれだけ果報者なのだろうかと涙が流れそうだった。



「あらあら、セリルったら。相変わらず優しいのね」


「!?」


「ね、姉さま!?」



 感動の場面であったが、突然割り込まれた言葉に、誰もが視線を集めた。


 謁見の間と廊下を区切っている大きな扉を開いて部屋の中に入ってきたのは、煌びやかなドレスに身を包んだ美しい女性。


 その場にいる誰もが知っている人物ではあるが、なぜこの場にいるのかがわからない。


 バルデンフェルト三姫でもことさら美で知られる魅惑の姫、シャイアナ・シェスト・アナ・バルデンフェルトの姿がそこにあった。



「な、なぜシャイナ姉さまが」



 ことさら驚いていたのはほかならぬセリルであった。


 この街の統治、そのすべてを父親であるバルデンフェルト帝から任されている彼女がいるというのに、なぜ新たな王族を迎える必要があるのか。


 リエルド王国との戦いを始めるためには、王族が先頭に立ち戦いの正当性を述べたうえで戦いを始めるのが礼儀であり、実際リエルドとの戦いが始まる際には別の誰かが来ることは理解していた。


 しかし、リエルドとの戦いが始まるのはまだ先の話であり、セリル以外の王族がこの街に来る理由など皆目見当がつかない。



「あら。あなたが救援を要請したんでしょ? まぁ、問題は解決したらしいけど」



 救援。その言葉にセリルは覚えがあった。


 たしかに、迷宮から魔物が溢れだした際には事の重大さから本国に援軍を要請した。


 しかし、シャイナも言っているように問題が解決した際に必要がなくなったと伝令を走らせたのも確かだ。


 連絡が届くのに時間がかかるのは確かだが、すぐに解決したおかげで、軍が本国を出立するよりも早く不要と言う連絡が届いているはずだ。



「援軍は不要と言う連絡は出したはずじゃ。なぜ、解決したことを知りながらこの街へ……いや、それにしても速すぎる」


「ふふふ。もともとリエルドとの戦いを早めると言う話があってね。あなたからの連絡が来たころにはすでに軍は出ていたのよ」


「半年は後の話では?」


「お父様が決めたことですもの。娘の私たちが意見することではないわ」



 父、バルデンフェルト皇帝の話を出されてはセリルには黙る他なかった。


 圧倒的なカリスマ、政治力を持って広がり続けるバルデンフェルトを統べている父は、たとえ娘に説得されようとも意見を覆すことはない。



「じゃ、じゃが。なぜフレア姉さまではなくシャイナ姉さまが」


「あら、セリルは私よりも姉さんの方がよかったの? 昔はあんなに姉さま姉さまと私の後を追いかけてきていたのに。いつの間に嫌われてしまったのかしら」


「い、いえ。けしてシャイナ姉さまが嫌いと言うわけではなく。軍を引き連れるのじゃからフレア姉さまだとばかり……」


「ふふふ。わかってるわよ。でも、フレア姉さまは今ちょぉっと外せない用事があるの。私は代理よ」



 そう言ってシャイナは艶美な笑みを見せる。


 その場にいる騎士たちは皆、シャイナの笑みを見て魂を抜かれるかのような思いだった。


 それだけシャイナの笑みには男を魅了する力がある。



「でも、いざ来てみたらビックリね。まさか、この街を救った冒険者の真実を知ることが出来るなんて」


「……シャイナ姉さまは私の決定が不服ですか?」


「別に。まぁ、いたずらに騎士を減らしたくないというあなたの思いも理解できるわ。でも、当事者に何の罰も与えないのはダメよ」


「では、どうしろと?」


「そうね。そこのあなた」


「はい」


「あなたはクビよ」



 シャイナはキッタローンを差して首を切るジェスチャーと共に言い放った。


 たしかに何の罰もないのは自身でもどこか納得できなかったのだろう。キッタローンは心のどこかでほっとしていた。



「ね、姉さま」


「あら、あなたは反対なの? 彼は納得してるみたいだけど」


「き、キッタローン。貴様はそれでいいと言うのか!?」


「……はい。セリル姫様。致し方ないことかと」



 キッタローンが抗う気がないことを理解したセリルはがっくりと肩を落とした。



「それに、獅子王ガイと言ったかしら? 彼もこの国から出さないとまずいわよね」


「な!?」



 シャイナはあっけらかんと言い放ったが、セリルはキッタローンのことを言われた以上に動揺を隠すことが出来なかった。


 獅子王ガイをこの国から出す。


 その発言が信じられない。


 この国に積極的に協力しようと言う姿勢はあまり見られないが、迷宮をクリアした功績だけでも帝国に有益な人間であることは間違いない。


 たしかに、キッタローンの話から普通ではないことも理解できたが、だからと言って国を出すなどと言う短絡的な考えはありえないとセリルは考えていたからだ。



「何を言っているんですか姉さま!」


「だって、危ないじゃない」


「あ、危ないも何も」


「あれの危険性はあなたも知っているでしょう?」


「ですが、やつを研究することで対策を考えることも出来る。この国から出すべきではない」



 食い下がるセリルにシャイナは呆れたように首を横へ振った。



「何度でも言うけど、危ないじゃない。魔人(・・)なんて」


 





新キャラ登場


魔人とは何ぞやってのは、まだ本文では明らかにはなりません。

箱庭世界における一般的な魔人に関する話は各種設定あれこれに書いてありますので、先にどんなもんか知りたい方はそちらをご一読ください。(設定には魔族と表記されています)

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