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32話 決闘

(略)

 ゴブリン討伐の依頼を終えた翌日、依頼内容と実際のゴブリンの数があまりにも違ったため追加報酬をガッポリ受け取って懐が大分温かくなっている。とは言っても、1000Bだから迷宮をクリアした報酬と比べれば微々たるものだけど嬉しいもんは嬉しい。

 臨時収入もあったし、アリアさんが非番だと言うこともあって、俺たちは3人と1匹で朝から街に繰り出していた。

 アリアさんとレスティアナさん、両手に花の状態に加えて肩にはスクルド。道行く男たちの視線が痛いこと痛いこと。俺が今の状況を外から見れば爆発するように呪詛の念を送るだろうから気持ちもわからなくはないけどな。

 街中は人通りも多いので、最近はレスティアナさんも隣を歩いてくれるようになった。まぁ、若干視線に敵意みたいなものが混じってるけど、出会ったばかりのころに比べればだいぶマシになっている……よな。うん、たぶん。

 昨日は依頼の帰りに直接仕事の依頼しようとするタンクトップ男もいたぐらい冒険者としての仕事も順調だし、レスティアナさんとも徐々にだけど打ち解けてきている。

 平和だ。

 実に、平和だ。この平穏がずっと続けばいい。


「いたぁっ!」


 ? 何事だ?

 いきなり街中で大声を張り上げるなんて非常識だぞ。

 声のした方に目を向けてみると昨日俺に直接仕事の依頼をしようとしたタンクトップ男の姿があった。なにやらこちらを指差して仁王立ちしている。

 道行く人たちも何事かと視線を集めているけど、ほんとにどうしたんだこいつは。

 とりあえず、無視だな。


「ちょっと待て」

「うげっ」


 その場を後にしようとしたところで後ろ襟を掴まれて首が絞まる。何しやがるんだこの野郎。


「で、考えは変わったか?」

「変わらない。んじゃ」

「だから待てって」

「なんなんだよ……」

「依頼を受けてくれ」

「い や だ」


 まったく、困った奴だぜ。

 しつこいったらありゃしない。


「どういうことだ?」

「ん?」

「あれ?」


 あいつは……そうだ、金鬼○郎だ。

 城で俺に難癖つけてきた騎士だよ。思い出した。

 でもなんで城にいるはずの騎士がここに居るんだ?

 騒ぎを収めに来るなら警兵だろ。


「なぜ、貴様らが一緒に居る!」


 タンクトップ男と俺を交互に見ながら金鬼○郎が怒鳴り散らす。

 なんでって、俺はただのストーカー被害者ですけど何か?


「おぉ、お前はさっきの」


 あれ? 知り合い?

 まさか、タンクトップ男と金鬼○郎は知り合いだったの?

 でも、なんか金鬼○郎の様子を見る限りだと、好意的には見えないんですけど。


「貴様はリエルドの人間だな?」

「ん? あぁ。リエルド王国リュートミナ領騎士、ゲイル・チゲーゾだ」


 おいおぃ。まだ戦争になってないとは言え、緊張状態が続いている相手国でそこまで堂々と名乗っていいのか?

 ていうか、こいつゲイルって名前なんだ。


「今、バルデンフェルト、リエルドの両国は移動に厳しい規制がかかっているはずだ。騎士であれば国境を越えられるはずがないのに、なぜ貴様はこの街にいる!」

「そりゃぁ、関所を通らないで国境沿いの壁を乗り越えて」


 ……犯罪じゃん。

 え? そんな方法で、この街に来たの?

 しかも堂々とそれを話すとか……分かっちゃいたけどお前馬鹿だろ。

 ……いやいや、冗談だよな。

 さすがにそこまで馬鹿じゃないだろ。仮にも騎士なんだし。


「……この場でそんなくだらない冗談を言うのか?」

「いやいや、マジだから」


 マジだったらなおさらダメでしょ。

 ていうか、本気で言ってたんだ。

 ここまで堂々としてるといっそ清々しい……わけないよな。

 やっぱこいつ馬鹿だ。


「……こ、この街に来た理由は?」

「そこにいる、獅子王ガイをリエルドにつれてきてほしいってやつがいてな。そいつを連れに来たんだ」


 お前だって知ってるよな? 俺はセリル姫が気に入ってる冒険者なんだぞ?

 それをこれから戦争になる国の人間が呼びに来たとか馬鹿じゃないの?


「本気で言っているのか?」

「あぁ」

「……そうか」


 金鬼○郎はそう言うと、腰にある剣を抜き放ち、それを俺に(・・)向けた。


「獅子王ガイ。私、キッタローン・マグカフェルは貴殿に決闘を申し込む!」


 え、なんで俺?

 いきなり現れて、突然決闘とか言われてもわけわかんないしね。

 普通今の状況だったら、決闘を申し込むのは俺じゃなくてゲイルの方じゃないの?

 だって言うのになんで俺?


「なぁ。なんで俺と決闘なんだ? 普通に考えたらあっちのゲイルの方に決闘を申し込むもんじゃないのか?」

「お前をこの街から出すわけにはいかない」

「まぁ、お姫様にもご贔屓にされてるし、その理由はわかるけど。だったらなおさら俺を連れ出そうとしてるゲイルの方を止めるんじゃないのか?」

「私にも理由がある。あの男を止める以前に貴様を殺さなくてはならない」


 殺すとか……いきなり穏やかじゃない話になったな。

 なんでだ?


「ちょ、ちょっと。あんたバルデンフェルトの騎士でしょ? なんでガイを殺すとか言うのよ」

「うるさい。関係のない貴様は黙っていろ!」

「はいそうですか、なんて黙るわけないでしょ! ふざけたこと言ってないで理由を話しなさいよこの馬鹿男!」


 俺とキッタローンの間に割って入ったアリアさんがまくしたてる。

 いやいや、馬鹿男はキッタローンじゃなくてゲイルの方でしょう。


「き、貴様!」


 馬鹿呼ばわりされたことに怒ったのか、何かそれ以外にも理由があったのかはわからない。

 わからないんだけど、キッタローンは剣を振るった。

 そして、その剣はアリアさんを捉え、アリアさんの頬が切れる。

 アリアさんが斬られた(・・・・・・・・・・)。


「てめぇ!」


 俺は一も二もなくバスタレイドを抜き放ってキッタローンに切りかかった。

 寸でのところでバスタレイドの一撃はキッタローンに受けられたが、俺はとにかくキレていた。

 このふざけた野郎を許せるわけがない。


「決闘でもなんでも受けてやろうじゃねえかよ! このくそ野郎!」





 俺とキッタローンの2人は街の外まで移動した。

 幸いにもアリアさんの傷は浅く、治癒魔法を使わなくとも痕も残らず治るだろうとレスティアナさんが言っていた。

 治癒に関しては人族など及びもつかないエルフ族のレスティアナさんがそう言ってくれたことには安心できたが、大事を取ってアリアさんにはレスティアナさんに連れ添ってもらってギルドの診療所に行ってもらった。

 俺はとにかくキッタローンの野郎をぶちのめしてやらないと気が済まない。

 自国の人間を守るべき騎士が、自国の人間であるアリアさんを傷つけた。

 正確にはアリアさんはバルデンフェルトの人間じゃないし、歴史上の地球に存在した騎士は自分の利益なんかのために戦っていたってのは知ってる。

 だけど、三井さんに聞いていたバルデンフェルトの騎士は、たとえ自分の国の人間ではなくともいたずらに一般人を傷つけたりはしない。

 名誉と自分の国、王族に忠誠を尽くす、地球の騎士と違い俺たちが物語の中で知るような騎士に近い姿だという話だった。

 だと言うのに、キッタローンはアリアさんを傷つけた。

 あろうことか自分たちの守るべきものを守るための剣で一般人のアリアさんを斬りつけたんだ。

 到底許せることじゃない。


「あぁ。一応決闘と言う話だから、立会人にはリエルド王国リュートミナ領騎士、ゲイル・チゲーゾがつとめさせてもらう」


 俺とキッタローンの後についてきていたゲイルが俺たちの真ん中に立って言った。


「勝負の方法は、剣でいいんだよな? 勝敗は負けを認めるか相手の剣を飛ばすか。まぁ普通の決闘と同じ方法で。なんか意見はあるか?」

「ない」

「私も構わん」

「んじゃ、始め」


 ゲイルのやる気のなさそうな声と共に俺は一気に駆け出した。

 間合いにキッタローンが入るのと同時に剣を抜き放ち、逆袈裟の形で斬りかかる。

 日本刀のように速さのある居合ではないが、キッタローンは剣を抜いているわけじゃない。さっきのように剣で受けることはできないはずだ。

 と、思ったらキッタローンは後ろに下がって俺の攻撃を避けた。

 そのまま俺と同じように鞘から剣を抜くと同時に俺に斬りかかってくる。

 俺は無理やりに空振りをした剣を引き戻してキッタローンの一撃を受ける。

 この野郎、俺を殺すつもりだ。

 決闘の正式なルールなんかは知らない。だけど、少なくとも今回の決闘では相手の剣を飛ばすか、戦闘不能にする、相手に負けを認めさせる。って方法がある。

 俺はムカつくとは言え殺すのも後味が悪いから、右腕を狙ったんだけど、キッタローンは問答無用で俺の首を狙ってきた。

 剣を受けられなかったら、頭と胴体がさようならしてたのは間違いない。


「て、てめぇ」

「おとなしく死ね」

「んな風に言われるだけで死ねるかよ!」


 俺はつばぜり合いの状態からキッタローンを押し込んで空間をあけると後ろに下がりざま胴を放つ。

 真剣を使った対人戦の経験は少ない俺だけど、元の世界で剣道の授業をしていた時に、剣道部のやつから1本を奪った俺の必殺技だ。

 今までほとんど人間相手の戦いがなかったから使う機会がなかったけど。

 俺の胴は空を斬り、キッタローンは俺に押された勢いを利用して、さらに後ろに下がっていた。

 あっけなく俺の引き胴は避けられてしまい、キッタローンからの反撃に備えようとするが、キッタローンは攻めてこなかった。


「?」


 キッタローンは俺が構え直すのとほぼ同時に俺との距離を詰め、正面から斬りかかるかと思えば横から、横にいたかと思えば後ろに回り込んでいた。


「な!」


 ぎりぎりでキッタローンの攻撃を受けたと思ったら、キッタローンはすぐに別の位置に移動し、攻撃を放ってくる。

 キッタローンの攻撃は変幻自在に、俺を翻弄するような動きと共に放たれる。

 もしもダメージ狙いで腕や足なんかを狙われれば受けきれなかっただろうけど、なぜかキッタローンは俺の頭や首、心臓なんかの急所しか狙ってこなかったので、受けたり避けたりすることが出来た。

 けど、強いわこいつ。

 迷宮で戦ったアイアンナイトなんて比べ物にならない。

 アリアさんを助けるために戦った騎士よりもはるかに強いだろう。

 俺はレベルアップして強くなったけど、キッタローンの方が実力的に上なのは間違いなかった。

 このままだと負けるのは時間の問題だな。

 何とかしないと。

 防戦一方だった俺はなんとか反撃しようと剣を振るう。

 がむしゃらに振るったところでキッタローンには簡単に受けられてしまうけど、俺の強みは剣が普通のものじゃないことだ。

 バスタレイドはスーパーレアの剣。

 対してキッタローンの持つ帝国の騎士の剣はそこまで大したものじゃない。加えてキッタローンの剣は普通のものより細めだ。

 剣の耐久度を考えればアドバンテージは俺にある。

 俺はがむしゃらに剣を振るってとにかくキッタローンの剣を狙った。

 急に俺が攻勢に転じたのに焦ったのかキッタローンの動きがわずかに鈍る。

 俺はその隙を見逃さずに渾身の力を込めてバスタレイドを振り下ろした。

 それまでの剣と剣がぶつかる音ではなく、乾いた音が鳴り響いた。

 バスタレイドは地面に突き刺さり、キッタローンの持っていた剣の半分が見当違いの場所に突き刺さる。


「それまで。獅子王ガイの勝ちだな」


 キッタローンの剣が折れたのを確認してゲイルが言った。

 はぁ……完全に無理やりな方法だけど何とか勝てた。

 ったく。

 こいつにはアリアさんに土下座させよう。

 戦っているうちに多少は怒りも冷めた俺はそんなことを考えながらバスタレイドを鞘に戻した。


「おい。お前にはアリアさんに謝ってもらうからな。って、あれ?」


 キッタローンはいつの間にかその場からいなくなっていた。

 さすがに消えるわけがないとあたりを見回してみると、すでに街へと続く門をくぐろうとしているところだった。

 って、逃げるつもりかあの野郎。


「待てこら!」


 俺は慌ててキッタローンを追いかけようとしたが、街の中の人ごみに紛れたキッタローンの姿を見つけることはできなかった。

 まったく。どうなってんだこれは?


8月14日

本文全改訂

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