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26話 成長

 (略)

 迷宮が消滅したのは夕方。

 たぶん、迷宮攻略の特典か何かで突然現れたらしい宝箱と、抜け殻のようになった爺を持って(・・)移動することになった。

 さすがに、スクルドやレスティアナさんも怪我をしていたし、その足でお城に説明しに行くのはあれだったので、とりあえずギルドで怪我の手当てをするついでに、キューマさんにお願いして報告は後日にして欲しいとお城に伝えてもらえるように頼んだ。

 ざっとキューマさんに事情を話して、爺はギルドの方で保護と言うか監禁と言うかという対処をしてもらった。

 迷宮攻略と言う大仕事が終わった俺は、家に帰ってすぐに泥のように眠った。

 そして翌日。

 アリアさんはいつもどおりギルドへ向かい、レスティアナさんは部屋の中で何やらやっている様子。

 昼ごろになって起きてからアリアさんの書置きで、お城への説明は明日の昼に迎えが来ることに決まったことを知ったので迷宮をクリアしてから現れた宝箱を調べることにした。

 あぐらをかいている俺の膝の中ではスクルドが丸くなっている。

 出来ることならこの場にレスティアナさんもいて欲しい。

 迷宮を攻略できたのはレスティアナさんのおかげでもあるし、一緒に中身を確認してどうするかを話し合いたいからだ。が、レスティアナさんはいらないの一点張りだった。

 説得しても徒労に終わるだろうから、さっさと説得は諦めた。

 中身次第だけど、売れるようなものだったら売って売り上げの半分を渡そうとは思っているのだが、なかなか箱を開ける勇気がない。

 トラップとかだったらどうしよう。


「悩んでても仕方ないか」


 いつまでもこのままでいるわけにはいかない。

 こういうのは時間をおいたところで気持ちに何か変化が起こるようなものじゃない。出来る時に勇気をもってやるべきだ。

 鍵穴に昨日いつの間にか俺の手の中にあった鍵を差し込んでゆっくりと回す。

 カチンという音が鳴ったかと思えば、あっさりと箱は開かれた。

 中を覗き込んでみれば、袋が3つにナイフが1本、猫か何かにつけるような首輪、そしてこれはサークレットって言えばいいのか?

 なんとなく、孫悟空が頭につけてるやつに似ている気がする。

 あれって確か、呪文を唱えると頭が割れそうになるほど痛むらしい。

 指輪のこともあるから、こういうアイテムを考えなしに装備するのはやめよう。怖いし。

 他のやつは、なんかあれだな。

 首輪はスクルドのサイズにどう見てもぴったりだし、ナイフは緑を基調とする鞘に収まっていて、見るからにエルフとかが使いそうな感じだ。

 3つ並んだ小さな袋の中身を確認すると、中身はすべて10000B金貨が10枚入っていた。

 どう見ても、3人……正確には2人と1匹で分けられる中身だよね。

 俺の心配は、ある意味杞憂だったわけだ。

 あぁ、心配して損した。

 というか、スクルドのコレってどう考えても首輪だけど……

 スクルドは、神獣だ。

 つまりは、獣の神様だ。

 そんなスクルドに首輪なんてつけていいのか?

 リード付でもないから、そんなに屈辱的とかじゃないだろうけど、やっぱり首輪をつけるってことは動物的には主従とかそう言う感じの問題に発展するんじゃないのか?

 というか、スクルドが許可してもレスティアナさんが見つけたら、めちゃめちゃ怒られそうだしな……

 逆に、スクルドの分の報酬があるのに、スクルドに渡してなくてもレスティアナさんは怒りそうだ。

 八方ふさがりじゃないか。

 片手に首輪を持ってぼんやりしながら、膝の上のスクルドをなでる。

 相棒だけどペット。

 ペットだけど相棒。

 ペットなら、首輪ぐらいつけた方がいいのはこの世界でもいっしょなのか?


「キュイ?」

「あ、悪い。起こしたか?」

「キュッ」


 スクルドは、気にするなとでも言うように俺の手を受け入れている。

 はぁ、癒される。

 この家では、女性陣に散々な目に遭わされてるけど、お前だけは俺の味方だよな。


「キュ?」

「ん? あぁ、これか? 昨日の宝箱の中から出てきたんだよ。なんか、俺たち全員に合わせたような装備とかが入ってたんだけど……お前これ付けるか?」

「キュイッ!」


 ご機嫌ですね。

 自分から飛びついてきて、俺の手から首輪を奪い取ると、早くつけろとでも言いたげにこっちに首輪を突き出してくる。


「はいはい」


 俺はスクルドの口から首輪を受け取ると、ベルト型の首輪のバックル部分を外してスクルドの首輪に撒きつけてやる。

 バックルを戻すときに毛を挟んだりすると、スクルドが痛い思いをするから慎重に。

 ん。大丈夫みたいだな。


「よし、できたぞ」

「キュイ!」


 あぁ、あぁ。嬉しそうに走り回ってまぁ。

 鏡の前まで行って、首輪の確認までして……まるでネックレスを贈られた女の子だな。

 ……そう言えば、あいつは女の子だったな。忘れてた。


「さて、問題は俺の方だけど……」


 なんとなく、このサークレットからは指輪と同じ気配を感じる。

 スクルドの首輪はそんな変な気配みたいなものは感じなかったから、安心してつけたし、スクルド本人……人? まぁいい。

 スクルド自身も望んでいたからつけた。

 だけど俺のこのサークレットが、指輪と同じような装備だったら?

 そして、俺がサークレットに認められなかったら?

 頭がボンッ! って……怖っ!

 絶対死ぬ。ていうか、死ななかったら人間じゃない。

 まぁ、どう考えても迷宮で俺たち、パーティの人数に合わせて報酬があるから適性があるようなものだろうけど、万が一のことを考えると冒険できない。

 というわけで、とりあえずは封印だな。

 どっか、適当なところにしまっておこう。

 後はそうだな……迷宮で見た夢であの意味の分からん女がギルドカードを確認しろとか言ってたな。

 迷宮でレベルも上がっただろうし、冒険者として確認しておくのは大事だよな。


「オープン、本人情報」


Name:獅子王 ガイ<Gai Shishioh> Lv.15

Race:人族

Age:17

Job:冒険者 勇者

Title:Tamer


Ability

格闘:Lv.12

剣術:Lv.47

肉体強化Lv.21

冒険者Lv.17

剣士Lv.32


Passive:神獣(幼体)の加護Lv.4 神獣(幼体)の主Lv.4 神獣(幼体)の寵愛Lv.5 運命の上級神(ハルベンダ)の加護Lv.4 幸運Lv.--- ???の加護Lv.--- ???の呪いLv.---

Action:超再生


<skill><equipment><スクルド>


 …………なんか、めちゃめちゃすごいことになってる。

 なんだこの、スキルのレベル。

 前回見たときは2桁なんて俺の年齢ぐらいだったんだぞ?

 それが、なんで40とか、30とかになるんだよ。

 というか、加護が増えてる!?

 前回は???が2つだったのに、神獣(幼体)……どう考えてもスクルドだな。

 スクルドの加護に、運命の上級神? これは、なんだかわかんないけど、運命神の加護。も1つおまけに???の加護……

 3人目?

 3人目の神様にも目をつけられたのか、俺は……

 もしかしたら、運命の上級神か、???が昨日の神様(仮)なのかもしれないな。

 依怙贔屓ってのは加護をするってことだと思うんだけど。

 というか、ギルドカードを見ればわかるって言ってた以上、これ以外にはありえないよな。

 でも、加護ってどんな得があるんだ?

 それにしても、ギルドカードの変化に突っ込みどころが多すぎて、これ以上どうやって突っ込めばいいのかわかんねえ……

 とりあえず、あれだ。特記事項欄が更新されてるってことは、スキルってのが見れるってことだよな……

 1つページをもどして、特記事項からskillの欄を開く。

 どうやら、passiveは見れないみたいだけど、actionの方は見れるみたいだな。


<超速再生> ---/---

 傷を回復する。


 ……意味が分からん。

 超再生……傷を回復する。

 って、まんまじゃねぇかよ。

 スキル名見ればわかるっつうの。

 不親切にもほどがあるだろうが。


「さっきから、ぶつぶつぶつぶつとうるさいのですが、何をしているんですか?」

「あ、レスティアナさん。悪い。ちょっと、いろいろわかんないことがあってさ……」


 どうやら、俺の突込みはちょっと口から洩れていたらしい。

 不機嫌そうな表情で、レスティアナさんが部屋らか出てきてしまった。反省。


「わからないことですか?」

「うん。実は、昨日の戦いで感覚が変わったと言うか……ほんと、いろいろあってわかんないことだらけなんだけど。とりあえず、疑問なのは、俺は倒れただろ?」


 まぁ、確かに自分でも死んだと思っていたわけだけど。


「間違いなく俺は心臓を貫かれた。鎧に傷が残ってたからそれは間違いない。だけど、なぜか俺は生き返った」

「たしかに、それは私も疑問に思っていました。私たちエルフは治癒系の魔法を得意としていますが、あそこまで見事に心臓を一突きにされた人間を生き返らせるような魔法は存在しません」

「だろ? それに、生き返った後も問題なんだよ」

「何がですか?」


 ……あれ? てっきり毒を吐かれるかと思ったけど攻撃がないだと……

 風邪か? 体調不良か? まさか、あの日ってことは……いや、これはさすがに失礼すぎる。口に出さなくても考えただけで毒舌吐かれても文句が言えないレベルだ。


「生き返った後の戦いで、いきなりアイアンナイトの動きが遅くなったんだよ」

「……なるほど。確かにあなたが倒れる前と後では動きの質が違いましたね。それまでは私を油断させるために手を抜いていたのかと思いましたが、違うようですね」


 油断させるためって……なんでよ。

 あぁ、あれか。どうせいざレスティアナさんと戦う時のためにそうしていたとか思ってるのか?

 出来ることなら知り合いと戦ったりはしたくないんだよね。

 人を殺すことに罪悪感を感じることはほとんどないけど、特別憎んでいるわけでもない知り合いを殺すとか考えたくない。さすがに、そんなことしたら罪悪感で潰されちゃうよ。


「仮定の話であれば、心当たりはあります」

「本当?」

「はい」


 まさか、心当たりがあるとは……


「な、なんで?」

「なぜ私が、説明しないといけないんですか?」

「え?」


 そっか、そうだよね……

 毒舌吐かれないからペースが狂ったけど、レスティアナさんが俺に無条件で親切にしてくれるわけないか。


「……冗談です。寝たからだと思います」

「は?」

「間抜けな顔はやめてください」


 いや、だってまさかあの(・・)レスティアナさんが冗談?

 しかもきちんと説明しようとするなんて……いや、そもそも理由が寝たからってのも意味が分からない。


「……あなたが倒れていた間、気を失っていたか、本当に死んでいたのかはわかりませんが、世界はそれを寝ていたと判断したと言うことだと思います」

「……寝たら強くなるのか?」


 そんなんだったら、この世界は強者だらけだろう。

 そもそも、この世界に来てから何度となく眠っているけど、あんな感覚は一度も味わってない。


「この世界にはもともとあなたたちの世界と違って魔法は存在しました。ただし、レベルやスキルといったステータスがもともとあったわけではありません」

「はぁ?」


 あのファンタジー設定がもともとなかった?

 だったら、なんでそんなもんが今はあるって言うんだ。


「あなた方、勇者が召喚されてからこの世界にスキルやレベルと言うものがシステムとして誕生しました。もともと存在しなかったものが、突然現れたので当初は混乱を招きましたが、次第に利便性がわかったので、定着したんです」

「へぇ~」


 携帯とかインターネットが普及したのとか、そんな感じか?

 いや、それよりももっと規模の大きなものだろう。

 なにせ、世界の理そのものが変化したようなもんだ。1年や2年や10年じゃあ混乱はおさまらない……か?


「だいたいそれが1000年ほど前の話です」


 ……1000年……そりゃ、今になったら普通のことだよな。

 当初のことを知ってるのなんてそれこそエルフぐらいだろうな。


「そして、発見されたのが、アビリティはレベルが上がったとしても実際に効果が出るのは、当人が眠った後になるということです」

「……眠っている間に、体がスキルを使えるように変化してるとかそんな感じか?」

「!?」

「何をそんなに驚いた顔をしてるんだよ」

「……まさか、あなたにそんなことが理解できる頭があるとは思いませんでした」

「失礼だな、おい」


 まったく。親切にしてくれることには感謝するけど、この人は俺をなんだと思ってるんだ。


「そういうわけで、あなたもあの迷宮でレベルが上がったと言うことでしょう。胸をランスで突かれてから起き上がるまでの間を、世界はあなたが眠っていると判断したんだと思いますよ」


 なるほど、そう言うことか。

 いきなり剣術とかのレベルが上がってるのは別にしても、レベルが上がった効果が倒れてる間にあったってことなら、一応納得できるな……

 でも結局なんで心臓を貫かれたはずの俺が生きてるのかってのはわからないな。

 やっぱりあの神様(仮)が俺を生き返らせたってことじゃないのか?

 本人は違うって言ってたけど、本当のところなんてわかんないしなぁ。

 部屋の隅に置いてある胸の部分に20センチ近い大穴が開いている鎧を眺めなら俺は首を傾げた。





――――side out


 ギルドにある独房の中、ジ・ジーは抜け殻のように呆然としながら、小さな窓から差し込む日の光を浴びていた。

 迷宮がなくなってから1日が過ぎた。

 本来ならば、今頃も迷宮の中で将来につながる研究を続けているはずだった。

 しかし今は、薄暗い独房の中で、ほんのわずかな光を浴びているだけの男に成り下がってしまった。

 ジ・ジーは昨夜にだされた夕食も、今朝に出された朝食にも手を付けることはなかった。

 生きている意味などない。

 人には、必ずやらねばならぬことがあり、それを成すために人は生きる。

 王であれば国を治めるため。

 騎士であれば国を守るため。

 役者であれば人々を魅せるため。

 物書きであれば人々を楽しませるため。

 吟遊詩人であれば人々に詩を伝えるため。

 ジ・ジーにとっての成すべきこととは、迷宮の謎を解き明かし、宮廷魔法使いとなることであった。

 しかし、その夢ももはやかなわない。

 自分の成すべきことはなくなってしまった。いや、できなくなってしまった。

 あの男のせいで。

 あの男さえいなければ、何も問題はなかった。

 あの男さえいなければ、自分の未来には迷宮の謎を解明したと言う、前人未到の偉業を成し遂げるという明るいものが待っていたと言うのに。

 すべてはあの男のせいだ。

 あの男がこの世界に存在するせいだ。

 その男を召喚したのが、自分自身であると言うのに、ジ・ジーの心の中はそんな恨み言で満ち溢れていた。

 次第に、呆然としていた瞳には憎悪と言う感情が満ちていく。

 殺したい。

 恨めしい。

 呪ってやる。

 負の感情だけが、ジ・ジーを突き動かした。

 そして、やはり運命の女神はジ・ジーに味方しているようだ。


「出ろ。これから、城に向かってもらう」


 ジ・ジーは看守に言われ、牢から出された。

 城でどのようなことが待っているのかはわからなかったが、今はそんなことよりもあの男。獅子王ガイにどのような復讐をするのかということで、頭はいっぱいだった。

 そんな男は城へと連れられて行く。

 それがどのようなことになるのか、それを今知る者はどこにもいなかった。


7月8日

レナの毒舌を緩和

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