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18話 ギルドで説明

 (略)

 謁見の間から廊下に出たところで、案内をしてくれた身なりのいい人から報酬の1000Bを受け取り、俺は城を出た。

 一度家に帰ろうかとも思ったけど、昨日おっさんからギルドに行くように言われていたので、とりあえずギルドへと足を向ける。

 城からギルドまでは近くはないがさして遠くもない。

 途中でパンで肉を挟んだハンバーガー風のものを購入してのんびりとギルドを目指す。

 あいにくと道を歩いていると声をかけられるほどこの街に馴染んでもいないし、見知らぬ女性が話しかけてくるほどのイケメンでもない。

 バーガーもどきを食べ終えたところで、何の真新しい出会いもなかった俺はギルドの扉をくぐった。





「あら、ガイじゃない。どうしたの?」

「あ。アリアさん。ちょうどよかった」

「ちょうどいい?」


 俺がギルドに入ると、ちょうど受付にいたアリアさんが声をかけて来た。

 昨日の迷宮での話はそこそこにしかしていなかったし、おっさんがギルドへ行くようにって言っていたのは知らないんだろう。


「昨日、迷宮であったことをギルドで説明するようにって迷宮の管理をしてる人に言われたんですよ。だけど、誰に言えばいいのかってのがわかんないんですけど、どうすればいいんですか?」

「はぁっ!? 昨日ギガ―スパンダとやりあったのってあんただったの? ……ま、良く考えれば1人で迷宮に潜る馬鹿なんてあんたぐらいしかいないわね」


 バカって……

 まぁ、1人で潜るのはありえないってのは、昨日の経験から俺もしっかり理解したけどさ。

 面と向かって言うのはひどいと思う。


「で、誰に説明すればいいんですか?」

「ん~、この場合はそれなりの上役かしら? あんまりこんなことないから私もよくわかんないわ。 とりあえずマスターかしら?」

「キューマさんですか?」


 まさか、直接ギルドマスターに説明するようなことなのか?

 たしかに城で話した時もけっこうな反応だったけど、それだけ珍しいことなのかなあ?


「ちょっと待ってて」


 そう言ってアリアさんは受付から立つと、奥へと向かった。

 他のギルド職員と話してるところを見るとキューマさんがどこにいるのか確認してるってところだろうか。

 しばらく待たされるとアリアさんがキューマさんを連れて戻ってきた。本当に直でギルマスに説明することになるんだ……


「お待たせ。わざわざ悪かったね」

「いえ、冒険者として当然のこと……なんですよね?」

「ははは。確かにこう言った場合は報告の義務はあるよ。だけど、めんどくさがって報告しない人だっているからね」


 どこの世界にもそういう人間はいるもんだ。

 まぁ、このギルドにはお世話になってるし……いや、お世話になってるか?

 むしろ俺がかなりいろんな被害を受けてる気がするけど……

 って、そんなことは別にして冒険者になったんだから義務なら当然。そう、当然だ。

 あんまマイナス思考すんのはやめよう。


「とりあえず僕の部屋で話を聞かせてもらおう。アリア君、お茶を頼むよ」

「りょーかいです」





「――というわけで、俺はギガ―スパンダから逃げ出して、さっき話した管理をしてるおっさんに腕をはめてもらったんです」


 城で説明したのと同じようなことを説明し終えると、キューマさんは考え込むように押し黙った。

 沈黙が続いて、なんだか気まずい俺はアリアさんが運んできてくれた紅茶みたいなものが満たされたカップをとる。


「……冷めてる」


 ぽつりと漏らした俺の言葉ですら馬鹿みたいに大きく聞こえる。

 普段キューマさんが仕事をしているであろう執務机の向こうにある窓からは街の喧騒が聞こえてくる。


「迷宮に魔物はいなかった。そういうわけだね」

「はい」


 5分か10分か、黙ったままだったキューマさんはようやく口を開いた。


「昨日も迷宮に潜った冒険者たちは何人かいる。彼らはみなかなりの数の魔物と戦って傷つきながらも成果をあげている」

「……そうなんですか?」

「あぁ。昨日のうちに報告を受けていたから、今日もすでに何人かの冒険者が迷宮に潜った。戻ってきた者は数名だが、君の話した状況とはずいぶんと違う」


 つまり、モンスターだらけでめちゃめちゃきつい思いをしたってことだよな。

 でも、昨日の今日でモンスターが増えるのか?

 ……そもそも、昨日迷宮に潜った冒険者の中には俺の後に潜った人間だっているはずだ、そいつらも全員モンスターだらけだって言ってたのか?


「詳しい状況がまったくわからない。そもそも、できたばかりの迷宮から大量の魔物が溢れだすことすらも前代未聞だ。今までとは何もかもが違う」

「つまり、どういうことですか?」

「考えられるのは3つ。君が嘘をついている」

「嘘ついたってしょうがないでしょう」

「あぁ。僕もそうは思っていない。短い時間とはいえ、君がそんな不正を働くような人間じゃないことはわかってる」


 そりゃよかった。

 ここでキューマさんにうそつき扱いされたら、今後のことに差し支えすぎる。


「次に考えられるのは、君の潜った迷宮が別の迷宮だった可能性だ」

「別の迷宮? でも、俺は間違いなく漆黒の迷宮に入りましたよ?」

「あぁ。だが、数こそ少ないが迷宮の入り口とは別の迷宮に飛ばされた例がある」

「……はぁ」


 ということは、例えば入り口は漆黒の迷宮だけど、地上にある移動紋章から別の迷宮の1階に飛ばされたってことだよな。


「そんなことがあったんですか。でも、どうしてそんなことがあるんですか? 言い方が正しいかはわかんないですけど、移動紋章が暴走したってことですよね」

「考え方はあっていると思うよ。ただ、迷宮に存在する移動紋章はギルドカードの魔法回路のように詳しい原理が解明されていない」

「確か、転送魔法と移動魔法ってのがありましたよね。それとは違うんですか?」

「どちらもまったくの別物だよ。過去に移動紋章を調べようとした人間もいたようだけど、何の手がかりもつかめずに終わっている」


 原因不明ってわけですね。

 でも、そんな怪しげなもんをよく普通に使えるよな。いや、キューマさんも言ってるけど、そういう意味ではギルドカードだって原理は分かってないんだからおんなじか。


「まぁ、可能性の1つさ。そして、最後が全く違う階層に飛ばされたという可能性だね」

「違う階層? つまり、1階に飛んだはずが30階まで飛んでたとかってわけですか?」

「あぁ。こちらには前例はまったくないが、あの迷宮にはギガ―スパンダが生息していることは確認されているし、魔物がまったくいなかった階層はギガースパンダや他の下階層の魔物に上へ追いやられていたとすれば、多少の説明はつく」

「でも、前例がないならなんでそんな可能性があるんですか?」

「状況的にそういう判断ができるだけさ。どこの迷宮でもモンスターが全くいない階層があるなんて話は聞いたことがない。中階層の魔物が増えすぎて上階層の魔物が地上へ溢れ出すということはあるから、下階層の魔物が増えたために中階層以上の魔物が逃げ出し、もぬけの殻になった。とね」


 ……それもちょっと無理がありませんか?

 まぁ、いいですけど。あくまで可能性の話だしね。


「いくら話したところで、可能性の話でしかない。実際のところがどうなのかというのは、調べるしかないだろうね」

「やっぱりそうですよね……そうそう、ところで相談なんですが」

「なにかな?」

「2つあるんですけど、まず1つ。さっき話した通り、ギガースパンダと戦った時に剣を迷宮の中に残してきちゃったんですよ。本来なら自分で買わなきゃいけないんでしょうけど、自分で了承したとはいえ俺はギルドの被害者じゃないですか」

「なるほど、剣がほしい。と」

「はい」


 今回の迷宮探索は何の収穫もなかったし、赤字だ。

 できることなら自分で北地区に行って新しい剣を買いたいところだけど、そんな金はない。


「わかった。ちょっと待ってくれ」


 キューマさんはそう言うと隣の部屋に続いてる扉をたたいた。

 ほんのわずかな時間をおいて開かれた扉の向こうに立っていたのは普通のギルド職員とは違った制服に身を包んだ女性。

 たぶん、キューマさんの秘書かなんかだろう。

 2人は2、3言葉を交わすと、秘書さんが頭を下げて扉が閉められる。


「さて、剣は取りに行かせたから、次の話を聞こう」

「はい。今は1人でやってるんですけど、今回の調査の間だけの臨時でもいいんで仲間がほしいんですよ。なんかいい人知りませんか?」

「……1人で迷宮探索をしていたのかい?」

「はい」

「…………まったく、君は何を考えてるんだ」


 キューマさんもやっぱり無謀だって判断したんだろう。

 そりゃ当然だ。

 何度も言うが、Gランクの俺がたった1人でできたばかりの迷宮に潜るなんて自殺行為以外の何物でもないのだから。


「今回潜ってきつさはよくわかったんで、仲間がほしいんですよね。今さらですけど」

「ふむ……君の言いたいことはよくわかる。実際、君が冒険者になってから迷宮に行くとは思ってもみなかったし、仲間を探す必要性もなかったからな」

「えぇ」

「紹介したいところだが難しいだろう」

「え!?」

「実績は皆無。そもそも、ギルドPマイナス。ランクはG、装備も中古レベル。レベルは…………5か」

「そんな人間と組みたがる人間はいないと……」

「そうだ。いたとしても、自分たちの手に負えない魔物が現れた時に君を囮にして逃げるだとかの目的を持っているだろうな」


 きっつぅ……

 たしかに実績ないし、ランクも最低。その他もろもろマイナス要素しかないもんな。

 普通に考えたら仲間になってくれる人間に下心がない方がどうかしてる。


「とりあえず、信頼を置ける何人かに打診してみよう。だが、あまり期待はしないでくれ」

「いえ、お願いしてもらえるだけ助かります」


 ちょうど話が終わったところで扉がノックされ、ギルド職員の男性が部屋に入ってきた。

 キューマさんになにやら耳打ちすると、キューマさんの顔色が渋いものになる。


「どうかしましたか?」

「いや。申し訳ないんだが、君の望む剣。バスタードがないらしい。もともと使い手も少ないので、在庫として用意していたのが君に渡した分だけだったようだ」

「まじっすか!?」

「他の剣であれば、すぐに用意させよう」


 バスタード以外か……

 もともと練習していたのはあの剣だけだし、それ以外ってのはなぁ……

 バスタードは癖が強いらしいから、あれしかまともに振ったことのない俺が他の剣を振っても、バスタードの癖があるせいでまともに振れないんじゃないのか?

 仮に他の剣にしたとしたら、また練習だけで3日を消費することになるかもしれない。

 まぁ、癖の強いバスタードでも3日の練習だったんだから、他の剣ならもっと短いかもしれないけど、練習は必須だろう。


「なんとかなりませんかねぇ? バスタード以外はちょっと……」

「むぅ……」


 やっぱり難しいよな。

 倉庫にあるから無償でくれてたんだ。倉庫にないものを頼まれたってどうしようもないんだろう。


「ならば、北地区で購入するのはどうかね?」

「北地区でですか? でも、俺手持ちの金が……」

「仮にも冒険者ギルドだ。懇意にしている武器屋も何人かいる。紹介状を書いて特別にローンを組めるようにしよう。後は……そうだね、料金の30%はギルドが負担しよう。さすがにあまり高いものは遠慮してほしいが」

「うぅん……」


 ないなら買え。か。

 ローンってことはぶっちゃけた話、借金だろ?

 ただでさえ金がないのにさらに借金しろってのかよ……

 できたら新しくていい武器は欲しかったけど、借金までしてってのはなぁ。


「紹介状にある程度理由を書いておくから、おそらくは値引きもしてくれるはずだ」


 日本人はみんな値引きとかサービスに弱いと思ってるのか?

 いや、善意で言ってくれてるんだろうけど。

 バスタードにこだわるなら買うしかない。

 でも、ローンを支払って行けるかわからない。

 新しいバスタードを買えば、迷宮探索が楽になる可能性がある。

 そうすると?

 姫様から報酬がどっちゃり。イコールはローンを即払い。

 って、楽に進んだらいいんだけど。

 無理だろうなぁ。

 この世界で俺ってめちゃめちゃ不幸だろ。

 次から次に無理難題が降ってくるし。

 うぅ~ん。

 迷ってても仕方ないか。


「わかりました。北地区に行きます。ただ、30%じゃなくてギルドで出せる限界金額にしてください」

「む」

「こっちが無理なこと言ってるのはわかりますけど、そもそも俺がこんな目に遭ってるのは蒸し返すようで申し訳ないとは思いますけど、ギルドのせいです。まぁ、安心してください。金額によりますけど、無理に全部使おうとしたりはしないんで」

「……しょうがない。この間の事件の際にも世話になったしね」


 交渉成立。

 金額は1万Bと、俺の予想以上に金額は高かった。

 というか、ある程度安いのなら剣1本買える金額だし、これなら初めから全額だすって言ってほしかった。

 俺は、懐が潤ってホクホク顔でギルドを出る。まぁ、正確には俺の金ではないわけだけど。





 北地区へとやってまいりました。

 相変わらず職人さんばかりみたいで、そこら中の店から剣を打つ音が聞こえてくる。

 相変わらずって言っても、まだ2回目だけど……

 気を取り直して、ギルドで紹介された店を探してるんだけど、それが全然見つからない。


「スクルド、お前知らない?」

「キュイ」


 俺の問いかけにスクルドは首を横に振る。

 そりゃそうか、小動物が武器屋の場所を知ってたらビックリだな。 


「すいません、この店に行きたいんですけど」


 仕方ないので道行く人に聞きました。


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