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17話 仲間が欲しい

 (略)

 迷宮を探索した翌日、俺は城へとやってきた。

 昨日は両肩および両手首の完全脱臼に加えて腕の骨が折れてるところとかひびが入ってるところなんかもあるような、かなり重症じゃないのこれ? ってぐらいの怪我をしていたわけだが、この世界のすごさってのを改めて思い知らされた。

 迷宮管理人のおっさんがやっつけで応急処置したそのままの状態で、街にあるギルド付属の診療所に行き、回復魔法をかけたらあら不思議。

 まったく痛みもないし、違和感もない。

 なんでも、骨が外れた場合ならはめてから魔法をかけないとダメらしい。

 魔法で何から何まで治すってわけにはいかないようだ。

 とまぁ、そんなどうでもいい話は置いておいて、俺はお姫様に昨日の結果を報告するために城に来たわけだ。

 さすがに直でお姫様に報告するわけじゃないだろうけど、やっぱり城にくるのは緊張する。

 できれば三井さんあたりが担当してくれれば、あんまり緊張もしないで済むんだけどそんな都合よくは進まないよな。


「こちらへどうぞ」


 門番に話をしてすぐに、身なりのいい男が現れてそう言った。

 なんか見たことのない人だけど、こんな人もいたんだな。

 軽く門番に会釈をしてから、男に続いて門をくぐる。

 あぁっと……どう説明するかなぁ…………





 で、やってまいりました謁見の間でございます。

 おかしいなぁ。俺の中では、適当な部屋であんまり話したこともない騎士さんかなんかに話をするのが決定事項だったんだけど……

 っていうか、お姫様はそんなに頻繁に俺みたいな一介の冒険者と話すほど暇なのか?

 そんなことを考えながら跪いていると、騎士の一人が声を張り上げてお姫様が入室することを告げた。

 俺は一層頭を低くして、お姫様に声をかけられるのを待つ。


「早速だが、迷宮はどうなっていた?」


 何の前置きもなしに姫様は言った。

 あの、早すぎませんか?

 もうちょっと、こう前置き的なことを言ってほしい。

 面を上げよとか、そんなことでいいからさ。


「あぁ、っと……依頼された迷宮探索を昨日行ってきました。何度潜るのか、何階まで潜るのかとか、どのようなことを調べ上げるまでという達成条件を厳密にお知らせいただいていませんでしたので、とりあえずですが、経過報告に参った次第です」


 今更だけど、敬語とかそれ系の言葉遣いは苦手だ。

 相手はただでさえ恐ろしいお姫様だから、変なことを言って斬首になったりしたら目も当てられない。

 なんとかつっかえたりしないで言うことが出来たけど、言葉遣いは間違ってたりしてないよな?


「そう言えば、そうだな。うむ。賢明な判断だ。して、昨日の結果を聞こう」

「はい。迷宮に潜る際に確認したところ、迷宮には魔物があふれかえっていると聞いていたのですが、私が実際に潜ったところ、まったく違う結果となりました」

「全く違う結果?」

「はい。昨日はひとまず30階まで潜ってみましたが、そこに到達するまで遭遇したモンスターはおらず、30階にてようやく初めてのモンスターがいました」


 姫様に促されて言った俺の言葉に、周りに控えていた騎士たちがざわめいた。

 騎士の皆さんはたぶん、迷宮管理人のおっさんが言っていたように、モンスターが異常発生していると思っていたんだろう。

 だから、「なに」だとか「馬鹿な」みたいなことを言っているけど、俺が実際にそうだったという事実を話してるんだから、仕方のないことだと思ってほしい。


「静まれ。して、30階にて魔物を見つけたのだな?」

「はい。私は冒険者になって日も浅いため、モンスターに詳しくないのですが、よく知る人間に私が遭遇したモンスターの特徴を話したところ、ギガースパンダではないかとの結論に達しました」

「ギガースパンダだと?」


 もっと取り乱すかと思ったけど、お姫様はいたって平静なままだった。

 逆に周りの騎士たちは面白いぐらいに驚愕している。

 ただ1人、三井さんだけが神妙な面持ちで佇んでいるけど、どうしたんだろう。


「はい。ご存じのとおり私はGランクの冒険者です。さすがにギガースパンダと戦って無事に済むはずもなく、両肩が外れるなどの怪我を負って命からがら逃げ帰ってきました」

「ふむぅ……」

「迷宮を管理している人間に尋ねたところ、迷宮ではモンスターが異常発生しているとの話を聞きました。しかし、実際に私が潜ったところ、モンスターはまったくいなかった。そこがはなはだ疑問に思われるところです。ひとまず、その迷宮を管理している人間にも事情を話したので、ギルドでも調査をする方向になると思われます」


 昨日の時点で、おっさんがギルドに報告するから、明日……つまりは今日にギルドへ行くように言っていたから、現状ではどうなっているか分からないけど、話は通っているはずだ。


「つまり、お前の調査の結果は他の冒険者たちとは違うものというわけだな」

「はい」

「しかし、なぜそのようなことになった?」


 知らんよ。

 いや、迷宮の探索自体昨日が初めてのことだったし、本来はどんなもんだか知らない。

 それをいきなり、なぜ? とか聞かれてもわかるわけないじゃないか。


「それは、今のところ私には――」

「姫様、そのような男の話を聞く必要はございません!」

「――わかりません。……ん?」


 なんだ、突然話に割って入りやがって。


「貴様のような男が、迷宮探索? それも30階まで潜るなど信じられるものか。どうせ、適当なことを言って報酬だけを受け取ろうと言う心積もりだろう!」


 言いながら、控えている騎士の列から1歩前に進み出たのは、いかにも純粋培養されたようなエリート風の騎士だった。

 無駄に長い前髪は顔の左半分を覆い隠し、実用性に欠けるほど磨き上げられた鎧は他の騎士たちのものに比べて、無駄に華美な印象を受ける。

 こいつは、あれだ。鬼○郎か?

 顔の半分を隠してるし、頭頂部の髪の毛を一本逆立てて、「父さん妖気が」とか、言わせたらまんまそうだと思う。

 いや、鬼○郎にしては、ちょっと顔が女っぽい。中性的って言えばいいのか? とりあえず爆発してほしいと思えるぐらいのイケメンだ。

 それに鬼○郎は茶髪と言うか、黒系の髪で、こっちの鬼○郎は金髪だ。

 これじゃあ、鬼○郎じゃなくて、金○郎だな。……あれ、日本昔話のキャラクターみたいになってる……


「冒険者とは言え、所詮はGランクの小者。ギガースパンダを前にして無事に逃げおおせるはずがない。それらしい話をして謀ろうとしたところで、その話に信憑性などまるでないわ!」


 いや、確かにその通りと言えばその通りだ。

 下階層に出現するはずのギガースパンダをたった1人の冒険者、それもGランクの新米が相手にして無事で済むなんて普通はない。

 まぁ、俺が言っていることは事実だから例外にしても、この金鬼○郎の言っていることにはある程度同意できる。


「自分でも嘘のような話ですが、この話は事実です。証拠を見せろと言われても、物的なものは何も持ち帰っていないので、申し訳ないですが不可能ですが」


 一応、迷宮の方に冒険の記録があるけど、あれは持って帰れるようなものじゃない。

 ……ん?

 というか、あれはどうやって記録されてるんだ?

 もしかして、ギルドカードに記録されてるならそれを見せれば証拠になるかもしれない。

 俺は小声で、オープンと言ってギルドカードの情報を表示すると、手早く内容に目を通す。

 生憎と迷宮関連の項目もそれらしい表示もなかったので、ギルドカードに記録されてるってわけでもなさそうだ。少なくとも、ギルドカードを使いこなせていない俺にわかる範囲での話だけど。


「貴様、何をやっている! 姫様の前で失礼だろう! だから私はこのような下賤の者に誇りあるバルデンフェルトが仕事を依頼するなどと――」

「黙れ」

「――いうのは嫌……だった……の……だ…………姫様?」


 俺をぐちぐちと罵ろうとしていた金鬼○郎の言葉をさえぎって、姫様は有無を言わさぬ口調で言った。

 金鬼○郎の間抜けな顔がなかなかに見ものだ。


「黙れキッタローン。その者を貶める言葉は、つまりその者に依頼を決めた私を、ひいては王族をも貶めるということだ。文句があるのならば私に直接言えばいい!」

「いえ、姫様。姫様の決断に異論があるはずなどありません。ただ、私はこの者の言う虚偽にまみれた言葉が――」

「私は黙れと言ったぞ、キッタローン!」

「――っ。申し訳ありません」


 ……あの、金鬼○郎はキッタローンと言うのか。

 まんまだ。

 あいつの両親はきっと、某リモコン下駄を履いた少年妖怪(要するに鬼○郎)の大ファンなんだろう。


「話の途中ですまんな、現状は詳しくわかっていない。これからさらに調査を進める。と言うことでいいんだな」

「はい」


 できることなら、ここまでで終わりにしたいけど。


「っと、そうだ。調査を進めるに当たり姫様にお願いがございます」

「願い?」

「はい。ご存じのとおり私はGランク冒険者で剣の腕も大したことがありません。今回のようにギガースパンダや、下階層のモンスターが現れた際に対処する術がありません。そこで、騎士の何名かを護衛につれていくことができませんか?」


 これを言っておかないとな。

 ギガースパンダなんて化け物が出るってわかったんだ。姫様だって助けてくれるだろう。

 …………あの、姫様?

 なんでそんなに馬鹿を見るような眼をこちらに向けるんですか?

 明らかに相手を見下したような目ではないけど、なにこいつ馬鹿なこと言ってるんだ? みたいな顔は辞めていただけませんか? お美しい顔が、馬鹿に見えますよ?

 やばい、口にしたら殺されそうだ。

 って、なんか俺変なこと言ったか?


「お主は冒険者だろう。騎士を護衛に付けるよりも仲間を探すなり、己が強くなるなりという選択肢はないのか?」

「……あぁ」


 俺は思わず手を打って納得してしまった。

 確かに商人やお姫様みたいな偉い人が護衛をつけるのならわかるけど、俺は冒険者だ。

 どちらかと言えば護衛する側の人間。

 護衛をつけるよりも、仲間を探したり自分のレベルを上げたりするのが常識だ。

 でも、仲間を探そうにもレベル5程度の俺とパーティを組んでくれそうな人間はいないだろうし、強くなろうにも迷宮ではほとんどモンスターに遭うことがなかった。

 どっちも難しそうだな。


「まぁよい。願いというのはそれだけか? 以前にも話したが、騎士たちは皆、地上にあふれた魔物たちの討伐で手一杯だ。お主の護衛につける余裕はない。しかし、このままでは調査を進めるのが難しいこともわかった。報告は1週間に1度、週の終わりに城へ来るようにしろ。今週の分は今日終えたことにしてよいから、次の報告までは10日ある」


 つまりは、その間にレベルを上げるなり仲間を探すなりして、調査を進めろ、と言うわけですね。

 でも週に1度の報告ってことは、ずいぶんと長期的に調査をする方向で考えてるのか?


「はい、わかりました。あと確認しておきたいのですが、報酬はどのようになるのでしょうか?」


 長期的になるのはこの際仕方ないにしても、今回は報酬もちゃんと確認しとかなきゃいけない。

 前回はご褒美が、俺にとって何の役にも立たない指輪だったし、今回もおんなじようなことになったら目も当てられない。


「どのように、とは?」

「この依頼が達成するまでは、他の依頼を行う余裕が私にはありません。生きていくうえで最低限のお金は必要になります」

「……なるほどな。よいだろう。受けた報告に応じてそれなりの報酬を支払う。今回はそうだな……1000Bと言ったところか」


 1000Bか……


 ま、十分かな? いや、でもなぁ……

 文句言って下げられたりしたらシャレにならないけど、腕の治療費が300B、失くしたバスタードが前見た感じだと900Bぐらい。

 完全に赤字ですね。

 もう少し何とかしてほしい。


「念のために確認しておきたいのですが、最低額はいかほどで?」

「なに? ……そうだな。価値のない報告であれば0、有益であれば金に糸目はつけん」

「そうですか……ちなみに、今回の報酬は価値的にはどの程度のものなんでしょうか?」

「なんだ、金額に不服でもあるのか? ふむ。まぁ、原因もわからず対策の立てようもないが、新たなる発見ではあったからな。まったくの無価値でもない、といった程度だ」


 つまりは、本来なら0だったってことですね。

 そりゃそうか、何もわからないけど、こんなでしたよ。って報告は誰にでもできる。

 姫様が依頼したのは、原因の調査とできることなら事態の解決。

 調査の方ですら不十分なんだから、文句は言えないな。


「そうですか、わかりました。ありがとうございます」

「うむ。他に何ぞあるか?」

「いえ、大丈夫です」

「そうか。では、次の報告の日に待っておる」

「はい」


 お姫様は意外と心優しい? 言葉を残して謁見の間を後にする。

 俺はお姫様がいなくなってから、立ち上がると、目の前にさっきの文句を言っていた男、キッタローンが立っていた。


「調子に乗るなよ、薄汚い冒険者風情が」


 ……なんか、こいつはずいぶんと小者くさいな。

 あれだ。主人公に散々文句を言って、不満たらたらなところを悪役に利用されて使い捨てで殺されるようなやつ?

 まぁ、俺が主人公かどうかは別にしても、こういうやつを俺は好きになれそうにない。


「調子になんて乗ってませんよ」

「なんだとぉ!」

「はいはい、抑えて抑えて」


 激昂して剣の柄に手をかけるキッタローンと俺の間に入ってきたのは、三井さんだった。

 ま、三井さんがいるってわかってたからこいつの神経逆撫でるようなことを言ったわけだけど。

 ……止めてくれてなかったらやばかったな。

 次からは気を付けよう。


「彼を選んだのはセリル様だ。その彼を侮辱するのは姫様に忠誠を立てた騎士としてどうなんだ?」

「……姫様はこの薄汚い冒険者を過大評価しているにすぎん。今日の報告にしても、近所の子供が買い物のついでにできるようなものではなかったか」


 近所の子供って……さすがにそれは無理だろ。


「キッタローン。これ以上の暴言はセリル姫殿下直属騎士隊隊長として処罰しなくちゃいけなくなる。抑えろ」

「だが…………っく、わかった」

「ありがとう、キッタローン」


 キッタローンは柄から手を放すと、俺に背を向けて無言のままに謁見の間から出て行った。

 ずいぶん怒ってるみたいだけど、俺にはどうしようもないかな。


「すいません、三井さん。助かりました」

「いや、こっちこそお願いしてる立場だってのに嫌な思いをさせてしまったね」

「いえ、俺が半人前の冒険者だってことは事実なんで」

「ま、誰でも最初は初心者だよ。そうそう、ギガースパンダと戦ったってのは本当?」

「三井さんも疑うんですか? 嘘みたいな話ですけど事実ですよ。まぁ、戦ったって言うよりも命からがら逃げだしたってののほうが正しいですけど」

「ごめんごめん。それにしたって、ついこの間冒険者になったばかりだって言うのに、ギガースパンダに襲われて無事ってのは驚きだよ」

「無傷ってわけじゃないですけどね。両腕の関節が外れたし……しかも外れただけじゃなくて折れてたし。でも、昨日はギルドにある診療所で治癒魔法かけてもらって驚きましたよ。この世界の魔法ってのはほんとすごいですよね」

「そうだね。たしかに俺も初めて目の当たりにしたときは心の底から驚いたよ」


 そりゃそうだよな。

 完全脱臼をはめなおした状態にしてからとはいえ、痛みを一瞬で消せるんだ。

 地球の医療では考えられないレベルだよなぁ。


「でも、信じないわけじゃないけど、ガイ君の話が本当だとしたら、迷宮はいったいどうなってるんだろうね」

「そうですね。大多数の人間が魔物が増えてるって言ってるのに、俺が潜ったらモンスターはパンダしかいなかった、なんて、普通はありえないんですよね?」

「そうだね。周りにモンスターは溢れ出てるし、実際に迷宮に潜った冒険者たちもモンスターの数が多すぎるって言ってるわけだから」


 普通に考えれば、俺が嘘を言っているって判断するしかないだろう。

 俺が実際に体験したことは他の誰も知らない。

 幸い、お姫様も三井さんも信じてるとは言わないまでも、事実の可能性を考慮してるってのは十分にありがたい話だ。


「っと、あまり長く引き留めても悪いね。俺も仕事があるしそろそろ行くよ」

「そうですか。お仕事頑張ってください」

「うん。ガイ君も頑張ってくれよ。君の働き次第で地上でモンスターを倒してる僕らの忙しさが変わってくるんだから」

「わかりました。でも、あんまプレッシャーかけないでくださいよ。俺なんて大した冒険者じゃないんですから」

「ははは、わかったよ。あまり期待しないでおく。それじゃあ」

「はい、また来週に」


 謁見の間を出て報酬を受け取りに向かう。

 そして、そこで気が付いた。

 どこで報酬をもらえばいいのかわからない。そして、俺は姫様にはずいぶんと失礼な口をきいていたから、今更そんなことを気にしてなくても大丈夫じゃないか? と言う事実に……


 いや、とりあえずどこで報酬をもらえばいいんだ? 


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