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15話 白黒の悪魔

 (略)


「何も変わらないな」


 11階に到着した俺は、ため息をつきながらそう漏らした。

 10階の移動紋章(仮)が他の階と違う色をしていたし、11階からは今までと違うんじゃないかって予想していた俺の期待は、幸か不幸か裏切られていた。

 一通り11階を回り終えた俺の前では、移動紋章が青い輝きを放っている。

 スクルドもあまりに退屈なのか、俺の肩の上であくびをしている。


「12階こそは……」


 淡い期待を胸に俺は移動紋章の上に乗った。





 現在23階でございます。

 案の定なにもありません。トラップすらありません。宝なんてもってのほか。

 20階の移動紋章が緑の輝きを放ち、10階と同じ記録機能があったので、どうやらセーブは10階ごとにできるらしいことがわかった。

 なにもない。

 17階を過ぎたあたりでスクルドは寝の体勢に入ってしまいました。さっきから声をかけても何の返事もしてくれません。

 というか、眠ってるのによく落ちないなこいつ……

 今日何度目かわからないため息をついて俺は移動紋章に乗った。





 たららたったら~! ガイは30階に到着した。

 ヘイボーブ、今日も平和だな。

 ハーイジョニー、平和なのはいいことさ。

 ダメだ。話し相手が居なくてさびしすぎる。

 意味の分かんないことを頭の中で考えて寂しさを紛らわせているけど、そろそろ限界だ。


「なぁスクルド。そろそろ起きてくれよ」


 返事はない。

 マジで泣きたい。

 上階層でもかなり下の方まで来た。

 これ以上1人で黙々と歩き続けるのは発狂しそうで怖い。ほんと暇だ。

 誰か助けてくれよ。

 奇しくも記録機能付き移動魔法陣があるはずの30階だ。

 とりあえず今日のところは退散して、お城に報告。

 できたら、騎士の何人かをお供に着けてもらえるように交渉して明日出直した方がいいんじゃないだろうか。

 そうしよう。

 このままだと退屈すぎるのとさびしすぎるので発狂しそうだ。


「キュ」

「ん? スクルド、起きたのか?」


 ピクリと耳を動かしたかと思うとスクルドが俺の肩から飛び降りた。

 帰ろうって決めた矢先に起きるなんてこの相棒は俺が嫌いなのか?


「ん? どうしたんだ、スクルド」


 スクルドは毛を逆立てて次の曲がり角を睨みつける、というか、威嚇している。

 今までにない反応だ。

 もしかしたら、この先にモンスターがいるのか?

 ようやく、冒険者らしいことができるのか。と、俺は胸をなでおろしていた。

 そう、曲がり角を曲がるまでは。


「GYUAAAAAA!!!!」


 ……なにこいつ?

 曲がり角を曲がってほんの数歩歩いた先はドーム状の大部屋だった。

 扉はなく、出入り口だけがぽつんとある大部屋。

 そこで俺たちを待ち受けていたのは、巨大な……熊? いや、パンダか?

 全体的に白い色合いで、ところどころが黒い。

 見た目はパンダ。ただサイズは規格外。

 かなりの広さの部屋で、ビックパンダ(仮)とは結構な距離が開いているけど、どう考えても俺が知っているパンダのサイズじゃない。

 目測で6メートル以上ありそうだ。

 腕は俺の胴回りぐらいの太さがあり、正直エントランスにいたおっさんなんかよりもはるかに威圧感がある。


「おいおい、マジかよ……」


 俺は慌てて剣を抜くと、両手で柄を握って構えた。

 すいません、モンスター舐めてました。

 っていうか、ここまで何もなかったから油断してたんだろう。

 デカいパンダ略して、デカパンダは信じらない速さで俺の目の前まで近づいたかと思うと問答無用でその腕を、俺にたたきつけた。

 偶然構えていた剣で受けていなかったら即死してただろう。

 剣で受けたのが幸いしたのは確かだが、俺は5メートルは吹っ飛ばされた。

 攻撃力高すぎません?

 剣は折れてないけど、防具に若干亀裂が走ってる。左手の手甲なんかは一部が完全に欠落して、腕が露出している。


「っちょ!?」


 俺が起き上がるよりも早く、デカパンダは追撃をかけてくる。

 即座に後ろに跳んでなかったら、これまた即死してたっぽい。

 だって地面がえぐれてるんですもの。

 あれが俺の体にあたっていたと思うだけでガクブルだ。


「GYUAAAA!!!!」


 それがパンダの鳴き声なのか!? って突っ込みたい。

 でも、たぶん理解してもらえない。

 追撃を躱されたからか、ビックパンダはさらなる追撃を仕掛けてこなかった。

 じっとこちらを見つめている。

 たぶん、隙を見せた瞬間には襲い掛かってくるだろう。

 油断なんて絶対できないし……


「キュイ!」


 デカパンダに完全に無視されていたスクルドが後ろから襲い掛かった。

 が、サイズが違いすぎるからか、デカパンダはびくともしていない。

 こんなサイズが違う相手に向かっていくなんて自殺行為だぞスクルド。

 ん? 待てよ。

 そうだ、スクルドはあのボス猪だって倒せたんだ。ちょっとデカいけどこのパンダを倒せないって道理はない。

 あの時の突撃を喰らわせてやれば、こいつだって倒せるかも。


「スクルド、前に猪を倒した突撃は使えないのか?」


 剣を構え、パンダの様子を窺いながら叫んだ。


「キュイ」


 ちょっと遠くてわかりづらいけど、首を横にふったっぽい。

 ダメなの? なんで?

 なんか条件でもあるのか?

 仕方ない。三十六計なんとやら、とりあえず逃げるしかないな。

 自分で戦おうとしない小心者だと笑わば笑え、怪我はしたくないんだ。

 と、言うわけで、じりじりと移動し、足の先で小石をデカパンダの後ろまで蹴飛ばす。デカパンダが音に反応して俺から注意を逸らした瞬間、俺はスクルドを拾い上げて元来た通路へと走った。

 っふ、完璧だ。


「キュイ!」

「ん、どうした?」


 不意に腕の中のスクルドが鳴いたので足を止めることなく後方を確認する。


「GYUAAAAA!!!!」


 ……ナンデツイテキテルノ?

 ちょ、おまっ……速い、速いよ。

 なんかの本で読んだ覚えがある。熊は時速60キロで走るって……パンダはどうなんだ?

 うん、どんどん距離を詰められてるみたいだけど、パンダも例外じゃないのか?

 つか、やばいって……


「ぬがぁあぁらぁおえあぇああらぁぁんぎゃぁぁぁああ」


 自分でも意味不明の奇声だと思う。

 でもなんか知らないけど、気づいたら口から洩れていた。

 曲がり角を曲がって、全力疾走。追い付かれそうになってまた曲がる。そして全力疾走。

 パンダは体がデカいせいで、そんなに広くない迷宮の通路内では、あんまり激しく動けないっぽい。

 これなら逃げ切れそうだ。

 で、問題はどこへ逃げるかだな。

 迷宮から脱出するには専用のポイント、たぶん10階ごとにある緑色の魔法陣に到達するか、1万Bはするアイテムを使うかだ。

 当然のことながら、俺がそんな高いアイテムを持ってるはずがない。

 幸いなことにここは30階だから、緑の魔法陣が存在する。つまりは、そこに到達すれば価値なわけなんだけど……

 29階の魔法陣で飛ばされた30階の入り口(?)から、さっきの大部屋までは一本道だったんだ。

 そう、緑色の魔法陣に到達するにはさっきのパンダの向こうに行かなくちゃいけない。

 やばい、死亡フラグ立ったかも……

 そうだ、こんなときこそ、おっさんにもらったブレスレッドが活躍するときだ。

 今こそ、時は来た。俺は喜び勇んで救援要請ボタンを押した。


『ガイは救援要請ボタンを押した。しかし何も起こらなかった』


 なぜに?

 押すのが弱かったのか?


『ガイは救援要請ボタンを押した。しかし何も起こらなかった』


 どういうことだ。

 っくそ、もう一度。


『ガイは救援要請ボタンを押した。ブレスレットが壊れた』


 な、なんだと……

 俺の手の中には真っ二つになったブレスレッドだったもの。

 まさか、さっきのパンダの攻撃で壊れたって言うのか?

 ……おっさん、すまない。あんたの好意は何の役にも立たなかったよ。

 やばいな。どうしよう。

 こうなったら、戦うって選択肢が有力候補。ただし、俺の死亡率高め。

 第二候補、死んだふり作戦。ただし、マジで殺される可能性高め。知ってるか? 熊は動物の死骸も食べるんだぜ。

 第三候補、もう諦めて死ぬのを待つ。ただし、俺は死亡する。意味ないな……

 第四候補、なんとか隙を見つけてパンダの向こう側へ抜ける。ただし、パンダに圧殺される可能性高め。体デカすぎて、隙探す以前に隙間を探さなきゃいけない。これも現実的じゃないな。

 やっぱ戦うしかないんだろうな……


「キュイ!」

「ん、どうした?」


 スクルドが俺の向かってる先に向かって鳴いた。

 後ろからパンダが迫ってくる様子もないので足を止めて様子をうかがう。と、そいつは姿を現した。

 パンダ。

 なぜ? なぜあいつが俺の前にいる。

 いつの間に抜かれた?

 いや、どこか抜け道でもあるのか?

 しかし、これはチャンスだ。

 俺の進行方向にあいつがいるってことは、後ろには誰もいない。

 つまりは緑の魔法陣まで直行できるってことだ。


「よっしゃ!」


 俺は思いつくや否や踵を返して走り出した。

 そして、少し進んだところで再び足を止める。

 なぜかって?

 やつがいたからさ。

 そう、なぜかやつらは前後にいる。

 やつらは2匹いる。


「「GYUAAAAAAAAA!!!!!」」


 前後にいるパンダが咆哮した。

 誰か助けてくれよ……





――――side out


 ガイが迷宮探索に乗り出している頃、セリルは城での政務に忙殺されていた。

 モンスターの出現報告があれば、討伐指示をだし、街からの陳情があれば検討し、指示を出していた。

 街道や近隣の森にあふれているモンスターの数は尋常ではない。

 本来であれば、三井と他数名の騎士たちを迷宮探索に向かわせる予定だったが、それすらも溢れ出てきているモンスターたちの討伐に当てなくてはならないほどに事態は切迫していた。

 モンスターの異常発生の理由は間違いなく迷宮が原因だ。それを調査しないと言う選択肢はありえない。

 しかし、調査するだけの余裕はない。

 冒険者ギルドに依頼を出そうにも、ギルド側もモンスターの討伐で手いっぱいのため、高ランクの冒険者はほとんど迷宮にかまっている余裕がない。

 迷宮に潜る余裕があるのは原因を探ることが出来るほど深くまで進むことが出来る冒険者ではなく、上階層にいるモンスターを倒して小銭を稼ぐ低ランクの人間ばかりだ。

 バルデンフェルトにしろギルドにしろ、増援を要請しているが、到着するまではまだそれなりの日数を必要としている。

 が、それを待っている余裕はない。

 なぜなら、最初に地上で危険度の高いモンスターが発見されてからというもの、同様の事態が加速度的に増加しているのだ。

 増援が到着するころには、増援もモンスターの討伐に当てなくてはならないほどにモンスターが増えることすらもあり得ない話ではない。

 そもそも、増援が到着するまでに街が滅ぼされる可能性すらあるのだ。


「やつは、役に立つのだろうか……」


 バルデンフェルトの元騎士を倒した駆け出し冒険者、獅子王 ガイ。

 セリルは彼のことをよく覚えていた。

 かつてはこの城を王城としていた国を滅ぼした勇者。この国に存在するはずのない人間。

 まったくもって興味深い人材であるのは確かだった。

 いくら腐っていようと厳しい試験を乗り越えて騎士となった男を倒したのだから、実力がないわけではない。

 しかし、どうやら彼はなかなかに変わった人間だ。

 大国バルデンフェルト、その専属勇者となる機会を得てもそれを断る人間など普通はいない。

 リンガ地方と呼ばれる、メトロエロ山脈で3分されている大陸の南西で最大の領土を誇り、圧倒的な武力を持ち、ほとんどの民が不満を抱かないだけの政治を行えるだけの資金と政治力。それらをすべて持ち合わせている国などリンガ地方にはバルデンフェルトを除いてありはしない。

 そんなバルデンフェルトの専属勇者となれば、富も名声も一介の勇者、冒険者とは思えないだけのものを得ることができる。

 冒険者であれば、誰もかれもが喉から手が出るほどにその機会を欲するはずだが、それを彼は断った。

 この世界に来てから日が浅いからバルデンフェルトの強大さを理解していないのか、とも考えられる。が、三井から彼のことを聞いていた限りでは、その程度のことがわからないほどの馬鹿ではないらしい。

 だが、彼は断った。

 なにか理由があるかもしれない。そうは思うが、納得はしかねる。

 なぜなら、バルデンフェルトでも武・魅・政でそれぞれ名高い三姫の1人、セルフィール・シェスト・アナ・バルデンフェルトが直々に声をかけたと言うのに、それを面と向かって断るような人間などよほどの馬鹿か大人だけだからだ。

 少なくとも、事前に自分がどのような人間なのか彼に吹き込むように三井に命じておいた。

 曰く、目的のために手段は択ばない。

 曰く、今までに達せることのできなかった目的はない。

 曰く、彼女の邪魔をすれば下手をすれば命はない。

 後は三井なりに工夫して、セリルの言葉に肯定的な返事を返すように誘導していたはずだ。

 しかし、彼は断ったのだ。

 セリルが知ることのないことではあるが、騎士の勧誘を断った時点では、ガイはその話を完全に忘れていた。

 だからこそ簡単に断った。

 そして、それほどに求められていることを知らなかった。

 事実、セリルは彼を求める理由を誰にも話していないのだから、それを彼が知る由もない。

 だが、そうとは知らない、そして気づいていないセリルは、ガイが馬鹿なのか大人なのかと、心を乱されていた。


「ふん、たかだか一介の冒険者の分際で私の心を乱すとはな」


 セリルは叩きつけるように判子を書類にたたきつけると新たな書類を手に取った。

 わずか3秒ほどで書類に目を通し終えたセリルが、再び判子を振り下ろそうとした矢先、何者かが扉を叩いた。


「入れ」

「失礼します、姫様」


 セリルに促されて彼女の執務室の戸を開いたのは、バルデンフェルト二十五士にしてセリル専属の勇者、三井 純であった。


「どうした?」

「はい、新たな魔物が発見されました」

「なに? どうせ、また中階層の魔物だろう。それらの対応はお前に任せたはずだ」

「はい。ですが、新たな魔物はギガースパンダです」

「ギガースパンダだと!?」


 語感だけ見ればなかなかに滑稽だが、セリルは動物園で人気がありそうな名前を驚きに満ちた表情で言った。


「なぜだ……なぜあんな化け物が、地上に出ている」

「わかりません。わたしも下階層・・・の魔物が地上に現れた話など聞いたことがありませんので」


 三井の言うとおり、ギガースパンダとは本来ならば下階層に出現する魔物だ。

 属性を持った熊のモンスターであれば、地上でもその姿が確認されているし、中階層だけでなく稀ではあるが上階層にも出現することがある。危険度は属性によって中の上から下までピンからキリまでいる。

 しかし、ギガースパンダは、熊種という比較的弱い魔物の種でありながら希少な光と闇、両方の属性を持った高危険度のモンスターだ。

 高危険度とは言え所詮は熊種なので、高危険度の中でも弱い部類に入るが、現在この街にいるバルデンフェルトの戦力で最強と言える三井が苦戦するレベルの敵である。

 そんな下階層のモンスターが中階層や上階層すら通り越して地上に出ているなどと言う話は前代未聞であった。


「幸いにも確認されているのは1体だけですので、私が対応させていただきます。しかし、下階層の魔物が地上に出るのが今回だけとは限りませんので、報告に馳せ参じた次第です」

「そうか、ご苦労。だが、仮に複数の魔物が……いや、今それを問うても意味はないな。わかった、今後の対策は私の方でも考えておく。お前は、とり急ぎギガースパンダを倒してこい」

「っは!」


 バッと胸に握り拳を置いてバルデンフェルト騎士流の敬礼をすると、三井は執務室を後にした。

 執務室に残されたセリルは、先ほど目を通し終えた書類を手に握ったまま思考を巡らせる。

 現存する戦力で下階層の魔物を単独で倒せるのはAランク冒険者だった三井を含め5人しかこの街にはいない。

 多人数でかかれば、いくらかの被害を出しつつも倒すことは可能だが、こちらの被害は拡大するし、他の場所に出現した魔物を放置することはできない。

 今もほぼぎりぎりの状態で対処していると言うのに、ここにきて下階層の魔物が地上に現れるというのは完全に予想外だ。

 もはや、近隣の村や森が魔物に蹂躙されるのは時間の問題になっている。


「……あの男が、うまくやってくれれば…………いや、単なる冒険者に過度な期待はできないな」


 何か普通とは違う雰囲気を纏ったGランク冒険者。何か期待を感じさせる何かがあったからこそ迷宮の調査をさせているが、所詮はGランク冒険者であることに変わりはない。

 セリルはため息を1つつくと、執務机に置いた書類に判を押した。


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