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12話 観光気分

 (略)

 城に呼び出された翌日、俺は街を見て回ろうと散策に出ていた。

 冒険者として働き始めて街の外はある程度わかってきたが、街の中のことは全くと言っていいほどわからない。

 俺が知っている場所なんて、大通りと城の周り、冒険者ギルドのあるあたりぐらいで、意外と広いこの街のほんの一角しか行ったことがない。

 アリアさんに教えてもらって一応知識としてどこに何があるのかはわかったので、さっそく実際に街の中を見て回っている。城を中心として南が全体的に庶民のエリア。俺の知ってるのもこのあたりだけだ。

 北には鍛冶職人や縫製工場なんかのものを作る人間が多いエリア。

 東側は貴族とか金持ちが住んでるエリアで、西はスラムとか全体的に治安が悪いエリアって感じらしい。

 西側の比較的、城に近いあたりには奴隷商店があるらしく、この間の偽合コン事件で捕まった元騎士たちはもうそこで売りに出されているらしい。

 治安が悪い所ってのは怖いし、合コン事件で加害者だった元騎士の連中を笑いに行くほど腐ってもいないので、西側には用はない。

 金持ちに用があるわけでもないので、東側もどうでもいい。

 と言うわけで、俺は北にある職人のエリアへとやってきたわけだ。

 これがまた面白い。

 技術レベルは機械どころか蒸気機関も取り入れられていないっていうのに、魔法があるおかげなのか大量生産品とかのレベルが思ったよりも高い。

 プラスチックだとかの化石燃料を使った素材はさすがに見当たらないけど、木や鉄なんかを使って作られたアクセサリーだとか置物は、地球で売られていた工場で作られた物なんかと比べても遜色ないものが並んでいる。

 一方で、武器や防具なんかはワンオフのものなんかが目立つ。当然、大量生産されたものだって売られているには売られているが、店の一押し商品を前面に押し出すためか、それぞれの店の見える範囲に置かれているものに同じものはほとんどなかった。

 武器の良し悪し、技術の有無なんて俺には判断できないが、値段だけ見ると結構いいものに見える。たぶん……

 興味本位で、見かけた中で一番デカい店に入ってみたけど、やばかった。

 武器の値段は0が最低でも4つはあったんだ。

 日本円で最低でも百万円。武器って高すぎだよ……

 しかもそれが果物ナイフみたいな大きさのナイフだってんだから、剣なんかの値段は察してほしい。ナイフの値段を見て怖くなったから、すぐに逃げ出したから剣の値段は見ていない。

 まぁ、他の店にも冷やかしに行ってみたけど、ピンキリってことが分かった。

 比較的小さな店では一番高くて0が4つ。デカい店の最低品の値段で、最高品として並んでた。

 中くらいの規模の店では、バランスよくって感じ。

 それでも本当に安いものは大量生産の粗悪品ぐらいで、それなりの武器を買おうとしたら云十万円は覚悟しないといけないってことが分かった。

 バスタードはけっこう気に入ってるけど、やっぱり高い武器が欲しい。

 これはもう、お姫様からもらえるご褒美に期待するしかないな。うん。

 その後もテキトーにそこらの店を冷やかしながら、南地区へと戻るために足を進めていく。

 知らず知らずのうちに、体は金持ちってやつに拒否反応を示していたのか、帰り道は西側沿い。

 不意に視界に入ってきた店にふらりと足を運んでみれば、そこには薄汚れた布に身を包んだ人間がずらりと並んでいる。

 子供や大人って区別はないらしく、老若男女けっこう多くの人がいる。

 視界の隅に見覚えのある顔があった気がしたけど、気にしないことにした。

 どうやら、ここは奴隷商店らしい。


「ようこそいらっしゃいました。本日はどのような奴隷をお求めでしょうか?」


 声をかけてきたのは、俺のイメージしていた奴隷商人とは違って、結構まともそうな男だった。

 なんか、こういう場合の奴隷商人って小太りの脂ぎったおっさんじゃないのか?

 まぁ、いいけど。


「いや、ここに来たのは偶然なんで。別に奴隷が欲しいわけじゃないです」

「なんと!? では、偶然にこの店に来たと言うことはこれこそ神の意志に違いありません。どうぞ、ごゆっくりと見て行ってください」


 無理やりだなこの野郎……

 俺は、日本人だからって、奴隷みたいな人身売買に拒否感と言うか嫌悪ってのはあんまりない。

 ここに居る人間は、悪事を働いただとか、やむに已まれぬ事情があって売られたって理由があるんだろう。

 何の罪もない人間が払った税金でのうのうと生活する囚人なんかのことを考えたら、奴隷のほうがマシだろう。ってのが、俺の考え方だ。

 さすがに、無理やり誘拐して売っているとかだったらムカつくし、叩き潰してやりたいけど、その辺は俺には分からないしな。まぁ、見覚えのあるあいつらは間違いなく犯罪人だってのはわかってる。


「ここに居る奴隷ってのは、どうして奴隷になったんですか?」

「はぁ? 多くの場合は、犯罪人への罰ですね。罪の重さによって買い戻しの額が決められるので、重犯罪者はなかなか奴隷身分から解放されません」

「つまり、罪の重い犯罪者は高いんですか?」

「いえいえ、その逆です。重犯罪者は非常に安価です。ただし、罪の重い犯罪者の場合は買う人間にそれなりの用意を求めます。逃げられたりしたら大変なので」


 つまり、家に牢獄みたいなもんを持ってる必要があるってことか。

 まぁ、看守とかその辺も必要だろうから、値段の安い重犯罪者は、数を求めるデカい工事とかの現場での労働力として買われるらしい。

 多くの場合は、貴族が買うとか。

 貴族ではない庶民の富裕層は重犯罪者より値は張るものの、軽犯罪者だとか、口減らしで売られた奴隷を買って、使用人にするらしい。

 この場合は、軽犯罪者より口減らしで売られた奴隷の方が多いらしいけど。

 まぁ、口減らしで売られた奴隷なんかは、金がたまってもよっぽどの額じゃないと、家に戻ることも出来ないし、一人暮らしだってそれなりの額が必要だから、必然的に働く期間が長くなるから、結構元が取れるとか。


「誘拐して、無理やり奴隷を売るってことはないですよね」

「ははは、さすがに私どものような店ではそのようなことはしませんよ。きちんと奴隷ギルドに認可を受けていますので」

「認可?」


 奴隷ギルドってなんだよ。奴隷のギルド? いや、認可を受けるってことは奴隷商を総括するギルドってことかな? 商人ギルドとは別なんだな。


「はい。私どもデレイア商会は奴隷以外に食料や衣類なども販売しておりますし、それなりに大きな部類に含まれております。南地区や東地区でも店舗を構えておりますので、お求めの際は是非デレイア商会をご利用ください」


 さすがは商人。商魂たくましいな。


「おっと失礼、認可のことでしたね。奴隷商というものは、お客様のご指摘の通り、犯罪を行う者も少なくありません。そう言った、犯罪への対策として奴隷ギルドが店舗を調査し、認められた店舗のみが店の前に看板を立てることができるのです」

「つまり、一度認可を受ければ、その後はやりたい放題ってことですか?」

「まさか。当然、定期的に調査が入りますし、年に数回予告なしでの調査も入ります。その時に誘拐した人間を奴隷として売っていれば、その店は即座に潰されてしまいます。つまり、店の前に看板がある奴隷商はそういった犯罪とは無縁の店舗と言うことで安心して奴隷をお求めいただくことができます」


 誘拐した人間を奴隷として売るのは犯罪だし、それを買うのも犯罪になるらしい。

 まぁ、きちんとした店で奴隷を買った場合は書類やらの手続きも多く、国に奴隷を所有することを報告しなくちゃいけないんだとか。

 看板のない店で奴隷を買うと、そう言った手続きは一切なく、隷属の首輪っていうギルドカード並みのチートアイテムを渡されるだけで終わるって……まぁいいや。

 治安の悪い西地区でも、奥の方に行くとそう言った店もあるらしい。

 ただ、そう言った店はアングラに潜り込んでいるだけに、探すのも一苦労。

 そもそも、国の騎士とか警兵が摘発などの理由で探すこと以外は、そう言った店を探すことも犯罪に当たるらしく、一般人が捕まったこともあるらしい。

 まぁ、それぐらいの軽い犯罪だと、何日か独房に捕まって、その間の食費なんかを含めた罰金を支払って解放されるらしい。

 何も知らない俺に懇切丁寧に説明してくれるなんて、この人はけっこういい人だな。うん。

 でもまぁ、俺が知る必要はあんまない知識ばっかだったけど。

 居候の身でペットを飼わせてもらってるんだ、奴隷が欲しいなんて言えるはずない。というか、奴隷が欲しいわけでもない。

 その後、適当に話を聞いてからデレイア商会を後にした。

 うん、美人の女奴隷が欲しくなったけど、少なくともアリアさんの家に居候してるのに買えるわけないな。いつか、買いたい。





 で、家に帰るとアリアさんと三井さんがお茶をしていた。

 いや、三井さんはけっこうイケメンだし、美人のアリアさんと二人でいるとけっこう絵になるんだけど、なぜにあんたがここに居る。


「あ、帰ってきたね。お邪魔してるよ」

「お帰り、北の方はどうだった?」

「ただいまです。北はかなり面白かったです。見るものみんな見慣れないものだし、武器屋なんかもいろんなものが置いてあったんで。で、なぜに三井さんがここに?」


 三井さんは出されていたお茶に口をつけてから、まじめな表情になって口を開いた。


「実は、いろいろと面倒なことになってね。この間の件の報酬と冒険者としての君に依頼があるから、また城に来てほしいんだ」


 ……単なる伝言に三井さんが来るってのは、よっぽどのことじゃないのか?

 聞いた話によれば、この街にいるバルデンフェルトの騎士の中で最強なのは間違いなく三井さんだ。と、言うかバルデンフェルトに所属している勇者は25人で三井さんはその1人。初めて城で三井さんと会った時にお姫様が言っていたバルデンフェルト二十五士ってのは、その勇者だってことらしい。

 その三井さんがメッセンジャーボーイとして寄越されるってことは、事態がよほど切迫しているか、よほど暇か……

 暇なんじゃないのか?

 そうだよな。よく考えれば、隣の国に戦争を仕掛けるって話はよく耳にするけど、まだ戦争が始まったわけじゃない。

 戦争が始まる直前の、平和な日常を過ごしてる段階のはずだ。

 ……すいません。単なる現実逃避です。

 間違いなく事態が切迫してるんだろう。じゃなきゃ、三井さんの表情に説明がつかない。


「わかりました。で、すぐに行った方がいいんですか?」

「いや、明日の朝に迎えの馬車をよこすから、それに乗って城にきてくれ。詳しい話は、明日」

「はい、了解です。あんまり、面倒な話は嫌なんですけどね」

「無理だろうね。覚悟しといたほうがいいよ」


 三井さんの言葉に俺はため息をついて、三井さんを見送った。

 世間話でもしたかったが、三井さんもけっこう忙しいらしい。

 あぁ、褒美でしばらく遊んで暮らすってのはダメになったっぽい。

 勘弁してくれよ……


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