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11話 お呼び出し

 (略)

 合コン事件から3日が過ぎた日、俺は城へと呼び出された。

 まさか総じて誇り高く、国に忠誠を尽くす騎士がそんな犯罪行為に手を染めているなどと、って感じで城の方はかなり慌ただしかったらしく、翌日にでも呼び出したかったそうだが、俺が呼ばれるのもだいぶ遅くなってしまったとか。

 こっちはこっちで、疲労と出血で気を失ったらしくて、目覚めてからはいろいろと大変だった。目覚めた直後、涙を流すアリアさんにものすごい勢いで説教され、それだけで一晩が終わった。

 なんで、あんな危ないことをしたんだ。絶対にこんなことはもうするな、と言われて助けたはずなのになんで? って思わなかったわけじゃないけど、俺の身を心配してくれるアリアさんの気持ちが嬉しかったのも事実だ。心配してくれるのはうれしいけど、また同じようなことがあれば俺は同じように行動する。と、素直に思ったことを俺はアリアさんに伝えた。怒られるかと思ったけど、頬を染めながら何か仕方がないと言う風に微笑むアリアさんにちょっと勘違いしそうだった。

 冒険者ギルドの方でも事後処理は大変だったようで、モブ美さんが騎士たちに命じられて被害者が増えることを知りながら、合コンをセッティングしたってことで、こっちも大騒ぎ。お城の方とかなり面倒なやりとりが多くなされたらしい。

 ようやく落ち着いてきたところで話を聞くと、どうやらあの店で俺が斬った騎士はそのまま死んだらしい。

 人を斬って、この手で殺した。

 斬った時もそうだったけど、特に何か思うところはなかった。たいがい俺もこの世界に染まってきたらしい。

 物語の主人公みたいに、人を殺すのに慣れたくないとは言わない。ただ、この世界に染まりすぎて人を殺すことに快楽を見出すのは勘弁願いたいな。

 で、城に呼び出された俺は噂の回復魔法の使い手に腕の傷を治してもらい、続けて連れて行かれた謁見の間でお姫様の前に跪いている。

 この前は、何にも知らなかったから、立ったままだったけど、三井さんがいろいろ教えてくれたのと、俺の隣にキューマさんがいるので、それに倣うって感じで礼を尽くしている。


「此度の一件、ギルドには迷惑をかけた。其方そちのギルドに所属する冒険者のおかげで助かった、礼を言う」


 セリル姫様は、相変わらずの口調でそう言った。

 勘違いしてはいけないのは、別に謝る気がないわけじゃないことだ。

 王族である以上、多少自分の方に非があることであっても簡単に頭を下げたり、諂ってはいけない。

 そう言ったことを理解したうえであれば、お姫様の言葉は最大限の王族としての謝罪である。


「いえ……この国に居を置く以上は当然のことでございます」


 バルデンフェルトが運営するわけじゃないが、ギルドには居を構える国に最低限の中で最大限に協力する義務がある。らしい。

 ちなみに、モブ美さんは仕事帰りに騎士たちに襲われ、薬を飲まされたらしい。その薬が、媚薬でありながら麻薬らしく、1度の服用にも関わらず激しい中毒性があるものだった。

 そのため、薬欲しさに騎士たちの言うことを聞かされていたため、ギルドとしては被害者と認定したらしい。自国の騎士が犯罪行為に走ったことが原因であるため、バルデンフェルトもそれを正式に認め、彼女にも謝罪している。

 ただ、そう言った事態になった際に、キューマさんに報告するだとか、警兵に相談するといった対処を怠ったとして、ギルドからは謹慎と減給の罰を下されたとか。ちなみに、今は中毒の治療のために入院中。

 たぶん、このままこの街で仕事を続けるのは本人としても、周りとしてもいろいろやりにくいだろうから、最終的には違う国なり、違う街に異動されるんだろう。

 とまぁ、モブ美さんのことは俺には関係ないので、それ以上のことを知ることはないだろう。


「うむ、問題を起こした者たちは、騎士の位を剥奪し身分を奴隷とした。一族郎党に関しても国で役に付いているものは相応の罰を下してある」


 あ、奴隷制とかあるんですね。犯罪を犯したら、全員奴隷になるのか?

 まぁ、懲役とかで監獄に入れられたら、国の税金なんかで食わしていくことになるんだろうから、その辺の金額考えたら無駄、それなら奴隷として売った方が金の足しになるって考え方なのかなぁ……


 あれ? もしかして俺、過剰防衛で奴隷堕ち?

 ははは……それはない……よな?


「さて、今日お主らを呼んだのは他でもない、ギルドには詫びと謝礼。そして、実際に動いた冒険者であるお主に褒美を取らせようと思ってな」


 あ、過剰防衛じゃないんですね……よかった。褒美って言って奴隷にするとか、そんな嫌な冗談じゃないですよね?


「ありがたき、幸せにございます」

「へ? …………あ、ありがたきしあわせにございます」


 ほっとしてたから、礼を言うのが遅くなった。

 でも、礼に対して礼をするってどうなんだ?まぁ、いいか。


「ギルドへは、10万Bを支払おう。冒険者……ほぉ、お主はこの国で召喚された勇者だな。覚えておるぞ」

「っは、はい」


 覚えてたんですね、全然アクションがないから俺のことなんて完全に忘れたと思ってました。いや、今の今まで忘れてたんじゃなくて、単純に気づかなかったみたいだな。


「あの時は、実力を隠しておったのか? お主が殺した男は、三井ほどではないが、我が国の騎士の一人だった男だぞ?」


 なんて答えればいいんですか?

 謙遜? 自慢? 日本人的には、そんなことないって謙遜した方がいいとは思うけど、この世界ではどんな態度が望ましいかなんて知らねえし。


「まぁいい。確か、お主は我が国の勇者になりたがっていたな。いいだろう。褒美として取り立ててやろう」


 マジで!?

 あれからいろいろ聞いたりして、知ったけどバルデンフェルトって超大国ですよ?

 俺がその国の勇者の一人って……


「あ、あのぉ……せっかくですがそのお話はお断りしてもよろしいでしょうか?」

「なぜだ? お主は我が国の勇者になりたかったのではないのか?」

「いえ、あの時はこの世界へきて間もなかったので、何もわかっていなかったんです。この世界のことを知るにつれて、やりたいことも出てきましたので、申し訳ありませんが、そのお話は……」

「ふむ……ならば、仕方ないな。ならば、何か望みはあるか?」

「…………できれば、自分もお金のような形あるものの方が……」

「そうか、わかった。形のある物…………ふむ」


 セリル姫様はわかったと言った後、なんかつぶやいたっぽいけど、ちょっと遠くて聞こえなかった。

 それにしてお、これで正解だよな? やりたいことなんて全然見つかってないけど、バルデンフェルトの勇者にはなりたくない。

 実入りが良いとはいえ、バルデンフェルトの勇者ってのは要するに軍隊の一人になるってことだ。留まることを知らず、ひたすらに領土を拡大していくバルデンフェルトの勇者になるってことは、明日にも戦場に立たなければいけないかもしれないってことだ。

 いくら腕のいい回復魔法使いがいるからって、それは勘弁だ。

 しかも、戦場に立つってことは、それだけ命が危険になるってことだ。

 何にしてもレベルが低すぎる。俺のレベルは3なんだから……そう言えば、あの一件でレベルは上がったのか? 後で調べてみよう。


「悪いが、報酬はしばし待て、少し用意しなくてはならないものがある」


 用意? でも、キューマさんの分の金は横にいる侍女みたいな人が持ってますよね

 いや、あれも3日のうちに用意したものってことか? 10万Bってことは日本円でだいたい1000万だ、すぐには用意できないのか?

 まぁ、ここはつい最近占領したばかりの街だから、手持ちが少ないってことかな。うん、もらえるなら別にいいや。

 ふふふ、金さえもらえば、冒険者の仕事なんてしなくても半年は生きていける。そうしたら、冒険者辞めて、どっかで働けばいいんだ。ラッキーだぜ。


「話は以上だ。下がってよいぞ」

「セリル姫殿下、少しお話がございますのでお時間の方よろしいでしょうか?」

「? ……ふむ、よいぞ」


 いざ退室ってところで、キューマさんは立ち上がらず、セリル姫にそう言った。姫様の方も一瞬訝しげな表情をしたけど、今回の件でまだ話したいことがあるみたいだし、うなづいた。

 まぁ、俺には関係ないだろうし俺の方はお暇させてもらおう。

 あぁ……勇者の件を断ったのは失敗だったか? いや、大丈夫だろう。





――――side out


 ガイが謁見の間を後にしたが、その場にはセリルとキューマ、侍女、衛兵たちと人数はほとんど変わっていない。

 セリルは、玉座に腰かけたままで静かに跪くキューマの言葉を待つ。


「して、話とは?」


 さすがにいつまでたっても口を開かないキューマにしびれを切らしたセリルが言葉を促す。


「無礼な物言い失礼いたしますが、姫殿下は……いえ、バルデンフェルトではこの街の周囲での異変に気づいておりますでしょうか?」

「異変?」


 キューマの言葉にセリルは首をかしげる。

 この街の近くに迷宮が出現したことが、異変と言えば異変だが、この世界においてはそれほど珍しいことでもない。最近は、迷宮から漏れ出すモンスターも多く、近隣の村や町との行き来が阻害されているらしいが、それも迷宮がある以上は異変と言うほど珍しくない。

 少なくともセリルにはキューマの言う異変に心当たりはなかった。


「はい、レンドの迷宮からモンスターがあふれ出ております」

「それは、珍しいことではなかろう」

「中階層のモンスターが溢れ出ているのです」

「なに!?」


 通常の迷宮であればギルドが基準にしている中階層の探索推奨レベルは25前後、そのレベルは冒険者のランクで言えばDランク相当だ。

 この街の近くにある迷宮と言えば、最近できたばかりの『レンドの迷宮』だろう。

 できたばかりであるため中階層であれば中危険度のモンスターであっても、より強力な個体が多い。そうすると対抗するには40近いレベルの実力者が必要になるかもしれない。

 バルデンフェルト本国の騎士であれば平の騎士であっても平均レベルが50を超えるため、苦も無く倒せるだろう。

 しかし、今この国に駐在している騎士たちは、そのほとんどが見習いとも言える実力しか有していない。レベルの平均を見れば通常の迷宮で中階層の探索推奨レベルである25に届くか届かないかと言ったものだ。

 セリルたちがいる城があったもともとの国は、平均レベルが10程度しかない弱小国家だった。その向こうに控えるリエルド王国との戦いのために主戦力を温存していたのが裏目に出たかもしれない。

 少なくとも『レンドの迷宮』からあふれ出していると言う中階層のモンスターを相手取るには今ある戦力では力不足だ。

 セリル専属の勇者である三井ならば80を越え、対抗するに足る力を持っているが、1人2人の実力者では、対応できない問題なのだ。


「至急本国に要請して、増援を求めよう。しかし、到着するまでどうやって時を稼ぐか……」


 バルデンフェルトは大陸の西端に位置する国だ。中央に程近いここからでは、魔法による加速を用いても1週間はかかる。軍を率いての移動であれば、ゆうに3倍の時間がかかるだろう。

 増援が到着するまでは1月はかかる計算になる。それまでにモンスターが増え続けては、最悪この街を放棄しなくてはいけなくなる。


「しかし、今までどのように民にその話を隠していたのだ? ひとたび気づかれれば、民衆は混乱していただろう」

「はい、私どもも初めは気づいておりませんでした。しかし、近くにあるアヌの森が少々奇怪な状況にあるとの話を受けてギルドの冒険者を派遣したのでございます」


 キューマの言うギルドの冒険者とは、ギルドに所属する冒険者ではなく、冒険者のギルド職員だ。彼らは、普通の冒険者としての実績を買われ、本籍を捨てギルドと言うある種のに所属する冒険者だ。

 通常、冒険者と言っても、ギルドと言う仲介を通して仕事をするだけの人間だが、ギルドの冒険者は違う。

 彼らはギルドからの報酬やギルドPというシステムの外にあり、ギルドから依頼された仕事をこなす冒険者なのだ。

 当然、実力は精鋭と言うに相応しいものを持っており、年齢、国籍を問わず様々な国に置かれたギルドの本部に駐在している。


「して、そこでなにが?」

「アヌの森にはただ一つの例外を除きモンスターの姿が一切なく、ドメドメ草や他の薬草が食い荒らされておりました」

「ドメドメ草が?」


 ドメドメ草とは、傷薬の原料となる薬草だ。森であれば、大概の場所に自生しており、入手はかなり容易にできる。

 しかし、それが食い荒らされたとあっては、傷薬の値段が高騰してしまう。


「そこで、発見されたのが、中階層のフロアボスであるホワイトボアでした。幸い、すぐに討伐が完了しましたので、その場では事なきを得たのですが、その後も調査を続けていくと、中階層相当のモンスターが地上へ出てきているのが多く確認されました」

「なるほど、ギルドが全力を持って隠ぺいしていたということか」

「隠ぺいしていたとは聞こえが悪いですな。ギルドが全力を持って対処していたので公表する余裕がなかっただけの話です」


 少なくとも、現状では近隣の村が襲われたということはなかった。地上に出てきたモンスターの大部分が、森や鉱山などの資源がある場所に陣取っていた。

 森にしろ鉱山にしろ、一般人はまず立ち寄らない。もともとモンスターが出現するために、そこを訪れるのは冒険者たちがほとんどだ。そういう意味でも、一般人にことが知られなかったのは、隠ぺいしていたのではなく、事実を公表していなかっただけの話だ。

 キューマは立ち上がると、正面からセリルをジッと見る。


「今までは、ギルドの冒険者だけで対処していましたが、一向に数が減りません。ギルド議会にも救援を要請していますが、そちらも到着まで時間がかかります」

「それまでは、互いに協力しよう。と、お主はそう言いたいのだな?」

「はい」


 少なくとも、冒険者ギルドだけで対処できない事態と言うことは、今この街にいるバルデンフェルトの騎士たちだけでは対処できない事態と同義だ。協力体制を取るのは間違いではない。


「いいだろう。三井、冒険者だったお前は使えそうな騎士を連れて、迷宮を調査しろ。ガルデアンは冒険者ギルドと協力し、地上に出てきたモンスターの討伐の指揮を取れ。城に残す兵は最低限でいい、残りはすべてモンスターの討伐にあてろ」

「っは!」

「かしこまりました」


 バルデンフェルトの騎士たちはそれぞれ指示されたことを迅速に行動に移す。被害が出るのを防ぐためには、時間が最大の敵だ。

 その後も話し合いを続け、有力な冒険者や、騎士たちを動員することで、一応の対処は決められたが、このとき、キューマもセリルも互いにガイのことには一切触れようとしなかった。

 互いが互いに、彼には何かあると気づきながら、意図して何も口にしようとはしなかった。

 そして、この日からギルドも城も3日前の事件以上に慌ただしい日々を送ることとなる。


6月21日

冒頭、ガイの葛藤を消去

sideout後の中階層モンスターの危険度、対応の推奨レベル、バルデンフェルト戦力を調整

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