表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/51

10話 対人戦

 (略)

 俺はとにかく走っていた。事前にアリアさんから聞いていた情報は、普段ギルド職員が行く店よりもお高い店というだけだ。

 ギルドにいた女性職員に確認してみたが、誰も知らなかった。行きたくなってしまうし、騎士との合コンなどうらやましいばかりだから、あえて話は何も聞かなかったらしい。

 それでもいくつかの可能性がありそうな店をリストアップしてもらったが、いかんせん土地勘がなさすぎる。道行く人に聞きつつ、見つかった店の中を確認していく。


「っくそ……予想が外れてるといいんだけどな……」


 往々にして悪い予感ってのは当たるもんだ。騎士たちの話していた合コンってのがアリアさんたちとの合コンと同じってのはまず間違いないだろう。

 「薬漬けにして合コンを開かせた」なんて、不穏な言葉から察するに、あいつらは女性を食い物にして悪事を働いているような人間なんじゃないだろうか?

 そんな男の毒牙にアリアさんをかけさせるなど、絶対にしたくない。彼女は俺の家族のような人なんだ。

 恋愛対象として見てはもらえないだろうが、家族としては扱ってもらえてると思う。まぁ、彼女が世話焼きってことは確かにあるが、世話になっているもたしかだ。

 少なくとも、恋愛対象、家族云々を別にしても、自分が知っている人が何か犯罪に巻き込まれるなんて絶対に許せない。


「キュイ!」

「!?」


 スクルドの鳴き声に反応して、視線を動かすと、1軒の店が目に入る。リストにある名前と一致する料理屋に戸をあけて入ると、三井さんの姿が目に入る。ビンゴだ。


「すいません、お待たせしました」

「やぁ、思ったより早かったね」


 声を潜めながら席に着く。

 草原での仕事の終わり際にお願いして、三井さんにはあの騎士たちをつけてもらっていた。

 自分と同じ騎士団に所属する人間が悪さをしているかもしれない、って話は仕事がある三井さんでも手伝わざるを得ないだろう。

 まぁ、三井さんみたいにいい人だったら、それがなくても手伝ってくれたかもしれないけど……

 できれば、話だけ聞けばかなり悪質な手口をつかう連中みたいだし、さっさと捕まえてほしいと言ったが、さすがに話を聞いただけで悪と判断するわけにもいかない。

 仮にもバルデンフェルト帝国に所属する騎士でもあるため、犯罪行為を行っている証拠がないのであれば、現行犯逮捕をするしかないと三井さんに言われた。

 まぁ、もしかしたら、万が一の可能性でも、普通に合コンをするだけかもしれないって言われたら、反論はできない。

 実際、話を聞いたのは俺だけ……いや、俺と言葉を話せないスクルドだけなのだから。

 不意に三井さんの目が細められた。


「どうしました?」

「飲み物に何か入れた……」

「!」


 三井さんの言葉に、俺は睨むように視線をそちらに向けた。

 アリアさんやギルドで見かけたことのある女性たちが、複数の男たちと話している。

 アリアさんの表情があまり楽しそうでないところに、少しばかり心が軽くなる。


「行きますか?」

「……そうだね」


 俺たちは席を立つと、アリアさんたちが座る席へと歩み寄った。

 今日の昼間に一緒に草原で魔物を狩っていたので、何人かは俺に見覚えがあったみたいだ。少なくとも三井さんのことはわかっているだろうが、俺を覚えているやつは一様に不思議そうな顔をしている。

 女性らの表情がどこかおかしい。……やっぱり、なんか怪しい薬を使ったみたいだ。


「貴様ら、バルデンフェルト騎士としての恥を知れ!」


 三井さんが剣を抜くのに合わせて、俺も剣を抜く。

 いきなり店中に響く大声で話した上に、剣を抜き放つような男たちの登場に、店の中がにわかに騒ぎ出す。

 騎士たちの方も三井さんの登場など予想外だったのか一様に慌てている。


「なんで、三井の野郎が!?」

「やばいぞ、逃げろ!」

「くそ、もう少しだったってのに!」


 騎士たちは慌てて立ち上がると三々五々と散り散りに逃げていく。


「っち!」


 三井さんは舌打ちすると騎士たちを追って店を飛び出した。警笛の音があたりに響いているので、増援を呼んでいるのだろう。

 でもね、あの……三井さん?

 こちらに2人ほど残っているのですが……

 裏手から逃げると見せかけて戻ってきたときはビビった。普通、こんな騒ぎになった店に戻るか?三井さんの後を追おうとして、アリアさんたちを残していくわけにはいけないんじゃないかと足を止めたのは、ある意味正解だったってことだ。

 ……でも、あの……俺が騎士を二人も相手できるとお思いですか?こちとらレベル3ですよ!?


「くそっ! 三井が現れるなんて予想外だったぜ」

「今まではうまくいってたって言うのに……」

「どうせ、バレた以上バルデンフェルトにはいられないんだ。この女たちだけでも、どっかに売りつけて金にするぞ」


 ちょっと、あんたら悪すぎない? っていうか、こんな早く戻ってきたのはそのためか!?

 アリアさんたちを売るって、お前ら何考えてるんだよ!


「……お前は、今日の仕事にいたギルドのガキだよな」

「三井に言われて無理やり手伝わされたんだろ? 見逃してやるから、さっさと逃げな」


 言いながら男たちはアリアさんたちに近づいていく。やっぱり、アリアさんたちを攫おうって言うのか!?

 ……ちょっと待てやコラ! その薄汚ぇ手でアリアさんに触らせるか!

 なんかもうプッツンといきそうです。


「その薄汚ぇ手で、その人に触るんじゃねえよ!」

「あぁん!?」

「んだと、ガキが!」


 騎士2人は怒り心頭みたいだが、こっちだってかなり頭にきてる。昨日楽しそうに服を選んでいたアリアさんを、今朝合コンを楽しみにしながら家を出たアリアさんの期待をこいつらは薄汚い欲望で裏切ったんだ。

 許せねぇ……絶対に。


「スクルド、1人相手できるか?」

「キュイ!」

「よし、いい子だ」


 元気よくうなづいたスクルドは右の男に襲い掛かる。

 アリアさんを売ろうとするようなクソ野郎だ。刺し違えてでも倒してやる。

 先手必勝、バスタードを振りかぶり、左に立っていた男に俺も斬り掛かる。いかんせん実力差があるためにこちらの攻撃は当たらないが、抵抗すると思っていなかったらしい男は剣を抜いてすらいない。

 刀であったなら居合を警戒するところだが、この世界の西洋系の剣じゃ、日本刀みたいな素早い居合はできないことは知っている。

 だんだんと剣が重くなってきて息も切れるけど、部屋の隅まで追い込めばこっちが有利になるはずだ。

 そう考えてとにかく連続で剣を振るが、次第に疲れて攻撃が雑になり剣が床に刺さってしまった。

 っ! やばい!?


「なめんじゃねぇガキが!」


 俺に隙が出来た瞬間、男の方も剣を抜き放ち好機と見て俺に襲い掛かる。

 くそっ。

 俺は剣を放して後ろに跳ぶ。肩で息をしながら後ろ腰に差してあったグルカナイフに手をかける。

 即座に追撃を仕掛けてくる男の攻撃をなんとか回避し、グルカナイフを抜く。

 男の剣はロングソード、こっちはグルカナイフ。間合いは完全に相手の方が長いし、技量も相手が上。やべぇ、また勝ち目ないな……

 俺は上段から振り下ろされた男の剣を刃先を持って横にしたグルカナイフで受け止める。

 アリアさんを守らなきゃいけない。

 さすがに、さっき頭をよぎった刺し違えてでもってのは勘弁願いたいが、命を惜しんで引き下がるのは絶対に嫌だ。

 繰り返される斬撃を時に避け、時に受けて何とか攻撃に転じる気を窺う。

 店の中は俺たちの戦いで大騒ぎになっているが、そんなことを気にしてる余裕はない。

 思いのほかスクルドも苦戦してるのか? 気になるけど、そっちに意識を向けられる状況じゃない。

 男が動いた。

 武器のリーチと体格の差を活かしての突き。横に避けて懐に潜り込めるか? いや、相手の攻撃が速い。

 攻撃が避けられそうにない、一瞬のうちに攻撃を喰らう覚悟を決めて歯を食いしばる。

 攻撃を喰らう覚悟は決めたが、おとなしく喰らう道理はない。剣が真っ直ぐと伸ばされれば致命傷になりかねないので何とか避けようと体をひねる。

 案の定完全に避けることはできず、剣が俺の左腕を貫いた。


「っぐ」

「くそっ」


 男は狙いが外れたことに舌打ちし、慌てて剣を戻そうとする。

 好機だ。

 俺は男が剣を引っ張るのに合わせて前に出た。男の引っ張る力もあっていつも以上に素早く前に出る。

 懐に潜り込むのと同時に俺はナイフを下から上へ躰を回すようにして斬り上げた。


「ぐあっ!」


 鮮血をまき散らしながら男が倒れた。かなり強く斬ったので傷はそうとう深いはずだ。少なくともしばらく起き上がることは不可能。もしかしたら死ぬかもしれない。

 肩で息をして俺は自分が斬った相手を見下ろした。人を斬ったと言うのに思ったよりも思うところはない。

 相手が悪人だったことや、アリアさんを守るためという代えがたい理由があったことも確かだろうけど、俺もこの世界に染まってきたってことだろう。


「はぁ……はぁ……アリアさんっ!」


 慌てて振り返ると、アリアさんは椅子に座わったまま驚いた顔でこちらを見ている。

 あぁ……よかった。

 アリアさんの無事を確認して、安心できたのはよかったが、急に体が重くなる。自分よりも格上の相手との戦いだから、仕方ないが神経を使いすぎたんだろう。

 疲れた。

 剣で突かれた腕からは止めどなく血が流れ、だんだんと意識がもうろうとしてくる。

 スクルドはどうしたんだ? ヤバそうなら助けないと……

 何とか踏ん張ってスクルドの方に目を向けてみれば、ちょうどあちらも男に止めを刺したところだった。

 よかった、あいつも無事か……

 だめ……だ………………ね……む……い………………

 ――――――――――――――――薄れゆく意識の中、誰かに名前を呼ばれるような気がした。





―――――side out


 アリアは自分の鼓動が早鐘のようになっているのを感じていた。

 急に酔いとは違う体のほてりを感じ、なにかがおかしいと思った矢先に、さきほどのできる雰囲気を纏った男と、青年が現れたのだ。

 最初は何事かと思った。

 慌てて逃げ出す騎士たちの姿と、できる男の言葉から、騎士たちがなにかおかしなことでもやったと言うのはぼんやりとした頭でも理解できた。

 目の前で繰り広げられる戦い。

 冒険者ギルドにある酒場で、殴り合いの喧嘩を目の前にすることなどは多々あったが、剣を抜いての戦いなど初めて見た興奮からか心臓が早鐘のようになっている。

 しかもその初めて見た戦いが、頼りないと思っていた青年が自分を守るためのものなのが不謹慎ながら妙に嬉しく思えた。

 しかし、青年はこの世界に来たばかりで、剣の扱いだってまだまだだと聞いていたアリアは、青年が危ないのではないかと不安も覚える。彼が精強で知られるバルデンフェルトの騎士を相手にするなど、どんな冗談かと目の前にしながらそう思えた。

 その場の出来事のすべてが悪い夢のようにも思える。しかし、夢ではない。

 青年が腕を貫かれ、鮮血が舞う。先ほどから騒がしい他の客から一際大きな悲鳴が上がった。

 アリアも青年が斬られたことで悲鳴を上げ、目を逸らしそうになったが、きつく口を結んで真っ直ぐと戦いの行く末を見守った。

 目をそらしてはいけない、青年は自分のために戦っているのだ。

 万が一のことがあれば、青年の敵を討つのは自分の役目と、そんなことすらも考えていた。

 男の懐に潜り込む青年、ナイフで男を斬りつけ、無事とは言い難いが青年の勝利が決まる。


「はぁ……はぁ……アリアさんっ!」


 青年に名を呼ばれてさらに心臓が高鳴る。この興奮は初めて命のやり取りとも言える戦いを目の前にしたことだけが理由ではないだろう。

 自分は無事だ。と、ありがとう。と、伝えようと口を動かすがうまく言葉にすることが出来ない。

 アリアが言葉を発せずにいるうちに青年は倒れ、慌ててアリアは青年の下に駆け寄った。


「……ガイ?」


 無事とは言い難いが、男に勝利した青年が倒れた。駆け寄ったアリアはようやく、青年の名を呼んだ。

 医者でも魔法使いでもないアリアには、詳しい診断などできはしないが、倒れたのは疲労と腕の傷が原因だろう。

 慌てて店員に医療魔法の使い手を呼ぶように言って、アリア自身はハンカチを青年の腕に押し付ける。

 瞬く間に血で染まるハンカチ。このままでは出血多量で危ないかもしれない。

 血を止めるには傷より心臓に近い場所を縛ればいい。しかし、都合よく縛るヒモのようなものがあるわけもない。

 アリアは一瞬の躊躇もなく自らのスカートを破りいびつなヒモを作ると青年の腕をしばりつけた。

 今度また青年と一緒に服を買いに行こう。

 せっかく今日のために買ったスカートダメにされたのだから、1日青年を引っ張り回し、スカート代は青年持ちで。

 そして青年にお礼を言おう。助けてくれてありがとう。と、青年にお腹いっぱいうまい料理を食べさせてやろう。これは自分のおごりで。

 だから、無事で。絶対に助かって。と、アリアは青年の傷口を抑えながら強くそう願った。


6月21日 設定変更

戦闘の勝利時に不思議な力で勝利→気合で勝利

sideout後にアリアの心情描写を追加

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ