5話目 ---執筆者 くるっせる---
「玖沙里のクセに何威張ってんの?マジむかつくー。」
今日だって、また、私はいじめられる。
きっと名前のせいだ。私が両親から16年前にもらった名前は玖沙里。
高校生の私達は、『都市伝説』というものが大好きで、『噂』にとても操られやすい。
その中の一つに、クサリイチゾク というものがあった。
人によって、表現の使い方が違って、
或る者は「世界を救うもの。」
といい、
また、或る者は「世界を滅ぼすもの」
という。
私は、ただ名前が同じ。というだけで今までいじめられ続けた。
中学にあがった頃だっただろうか。
入学して暫く経ったころ登下校中にサングラスをかけた青年にあった。
もちろん、いじめられていた私は当然1人で行動していた。
はじめは、最近多い不審者かと思い、踵を返して逃げようとした。
しかし、振り返り3歩歩まず、おかしなことに気付いた。
目の前に先ほどの青年がいるのだ。
「お嬢さん?どこへお行ですか?」
気味悪くなって私は逆方向に逃げ出した。
今度は逃げ切れたと思って、角を曲がるとまたあの人。
「どこへ、お行ですか?」
口元にうっすらと笑みを浮かべて、とてつもなく気持ち悪い。
「逃げないでください。我が同胞よ。」
その声を聞いた途端、身体は置き去りに、意識だけ連れていかれた。
真っ暗になる意識のなか、脳裏にこびり付いた映像。
(・・・。あ、知ってる。この人たち)
知らないはずの記憶なのに懐かしい。
私の知らない記憶。きっと生まれる前の・・・。
両親はいない。
本当の両親は私が生まれてすぐに不審死という形で亡くなっていった。
まるで、役目を終えたように。
母親は、分娩室で落ちてきた照明が刺さった。
父親は、東京の路地で何者かに射殺された。
私は周囲の人間に、「悪魔の子」と囁かれた。
なぜ、私の名前が「玖沙里」なのかは知らない。
遺書に残されていたからだ。
両親が亡くなる直前に残されていたもの。もう自分たちが殺されることを見通したような文だった。
その後、自分を育ててくれるところがなく、知らない家を転々としていった。
中学生の頃に青年と出会い、意識を落としたまま、一年が経過していたとは気付かなかった。
意識を消され、次に気付いた頃には、丁度一年ここの年月は流れていた。
そのとき住んでいた家の人は私のことなんか気にも掛けていなかったので居なくなったことに、きっと清々していたことだろう。
この事件が広がり、私はますます気味悪がられた。
そして、またこの事件をきっかけに私自身にも様々な変化が現れた。
ある日、いつものようにいじめられ、過激を求め、一人が刃物を持ち出した。
脅すぐらいのつもりだったらしいが、うっかり刃先が私の手首を切った。
紅い飛沫が飛び散るかと思いきや、ツウっとひと筋流れるだけで、致死量ではなかった。
血が出たことで驚いた奴等は私を置いて我先にと逃げ出した。
1人取り残された私は流れる鮮血を止めることなく眺めていた。
暫くして意識が朦朧としてきた。
普段からあまり食物を口にしていない私は健常な人より早く死期が訪れるらしい。
座り込んでいる足元の周りに紅い円が広がる。
死ねるならそれでいいか。
生きることを諦めた私だった。
しかし、傷口はふさがった。一瞬だった。
死にたいと思った瞬間傷口は泡も立てることもなく、傷などなかったように綺麗になっていた。
死ぬことが出来ない。
それが一番最初の変化だった。
「我が同胞よ。」
青年のあの言葉が脳裏に残ったままだった。