2話目 執筆者---小夜風 藍---
ドッカーン ゴゴゴゴゴ…
そこでは今日も、『平和な国』日本では見受けられないような光景が繰り広げられていた。
「ここは毎朝本当ににぎやかだねぇ。仕事も尽きないし、楽しみも尽きない」
草離魔粗夜と書かれた名札を胸につけた男−自称戦場カメラマンは、お馴染みの爆音に、にやりとほくそ笑んだ。すぐそこで爆撃があったらしい。赤茶けた粉塵が、上へ上へとふくれあがっていくのがわかる。
「さてと。」
男は穴だらけの廃墟の陰から立ち上がった。
「迎えに行ってあげなくちゃね♪」
男は高級な黒いカメラを片手に、道へ出た。頭が、肩が、足が、色んな箇所が赤く染まった人々が、必死の形相でこちらに向かって走ってくるのが見える。男には、前々から疑問に思うことがあった。なぜ、人類は、背後に迫る死からいつも逃れようとする?
「僕は不死身だもの、そんなちっぽけな生物のちっぽけな悩みの理由なんて、わかりっこないじゃないか」
男はそう吐き捨てると、カメラを構えた。そしてレンズごしに確認する。生きのびようとした人々の、たくましい表情と生命力とを。戦争という無差別殺人システムの元、何もかも剥奪されてしまう彼らを精一杯憐れみつつ、彼はスイッチを押したのだ。
パシャッ
軽いシャッター音が、渇いた空間に響いた。男はそろそろと廃墟の陰に引き下がると、フィルムに記憶された写真をとっさに確認した。
そこには、いつもと同じ結果があった。
目前から突如やってきた死に驚く、あどけない生物達の静止画が、あった。
「はぁ。僕はこれでも最高にいい写真だと思うのだけれどねー、なかなか新聞社に買ってもらえなくて困るんだよなぁ。わかってるのに、まーた、やらかしちゃった。」
男はため息をつくと再び、道端に出た。そして、目を見開いたまま道端いっぱいに転がる死体−つい先程まで動いていたガラクタの数々を、丁寧に撮影しまわっていくのであった。
「それにしても、故郷にいる血族に会いたいと思わないぶん、僕はまだ正義な方だと思うんだけどねん♪」
なんて戯言をこぼしながら。