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一章第一話

 奇跡の扉を開ける言葉は誰の脳にも(.....)刻み込まれている。


 人為的にそれを気づかせることで誰もが魔術を行使できるようになるのだ。


 ただ、真の意味に気づく者は少ない。


 魔法遣い ダイアン・フォーチュン



◆◆◆◆◆◆◆



赤月煌夜(あかつきこうや)は畳に正座している足をもぞもぞと動かしながら薄目を開けて、暗闇に染まっている空間を見つめる。

 目の前の自分の手が見えるが、それだけだった。

 右横に居る筈の山辺恋(やまべれん)も、左隣に居る筈の相田空(あいだそら)からも規則的で機械的な呼吸音しか聞こえない。

 精神が魔術起動区間へ在中しているのだ。

 精神を外界から完全に切り離し、脳のどこかに存在すると言われている魔術起動区間に在中させる方法である。

 どこにあるかも分からないのに精神をそこに飛ばせることから動物の帰巣本能に似ているかもしれない。

 因みに、煌夜にそんなことを出来る力はない。

 暗闇と規則的な息使いが、煌夜を眠りの世界へ誘う。

 寝ちゃダメだと思いながら、小さくあくび。


「赤月君? あなたは、あくびを噛み殺して何をしてるんですか?」


 怒り心頭と言った様子の先生の声が聞こえた。

 藤原美奈(ふじわらみな)先生。二五歳。性格は優しく生徒に親身になってくれる人だ。

 魔術学(実習)の時間にやる気のない煌夜に腹を立てているらしい。

 煌夜があくびをしたということが分かったところを見ると暗視の魔術でも使っているのだろうか。

 煌夜はがしがしと頭を掻いて、

「だって、出来ないんですよ俺。在中なんて……知覚ぐらいなら出来るんですけど……一応」

「……けど、出来てない人達皆頑張ってるんですよ。赤月君も頑張らないと」

 ちょっぴり疲れたように言う煌夜に美奈先生は諭すように言う。

 と。

 ふあーと大きくあくびをする音が聞こえた。

 煌夜の間近に居た先生が慌てたように駆けだした音がした。

「黒神ちゃんーー!」

 あわあ!? と叫び声が和室に響いた。



◆◆◆◆◆◆◆



「あー」

 黒神創(くろかみつくる)が変な声を出して、魔術実習棟の廊下で止まった。

 冒涜的な名前だが、本名であり、その所為か少しついてない。

 煌夜は創の視線を目で追うと、そこには縦一メートル、横三メートルの長方形の強化ガラスがあった。不良の溜まり場になるのを防ぐという名目でつけられたモノである。

 そこに近づいて覗くと、中は暗闇だった。

 赤く輝く的が暗闇を踊り、次の瞬間には電撃に撃ち落とされる。

 的が破壊される音は聞こえない。防音対策を施されているのだ。

 次は二つ同時に出てきた的を剣特有の鈍色の螺旋が二つの的を精確に切り裂く。

 一瞬遠赤外線と自動修復式魔術を使った『的』のお陰で見えた。

 細身の男子だった。

「やばいなアレ」

 煌夜は興味なさげに目だけでそれを見て言う。

「野に咲く梅のこと?」

 創が怪訝な顔をしたので、付け足す。

野梅(..)

「ぷっ。ボケの才能はねえな」

「はっ! お前には高度過ぎたボケだったか?」

 煌夜は言い返す。

 何も考えずに言った割には自信はあったのだ。

「ま、それはどうでもいいとしてさ」

 創はホントにどうでもいいといった風に答える。

「くっ! 俺のたまのボケをお前……まあ、いいか。んで何なんだよ」

「俺らの脳には、MSSがある訳だろ?」

 MSS(magic start section)――魔術起動区間ということである。

 どこに有るのかも分からないそれは、学者によって主張は違う。

 前頭葉のどこかにあるのだと、主張する者、脳の全てが実はそうなのだと言う者、魔力がそうなのだとぶっ飛んだ主張をする者、更には周囲に漂うマナに無意識に接続し、それをネットワークのようにして他人の脳を使っているのだと言う者まで居る。

 ただ分かっているのは莫大な演算能力を有しており、魔術という力を発動させられるということだ。

「ん」

 適当に煌夜は答える。

 その間にも男子は、流れるような動作で的を壊していく。

「どう違うんだろうな。俺とアイツじゃよ」

 絶対にあの男子のようにはなれないと断言しているように言いながら、しかし悲しそうではなかった。

 煌夜は自分の力を考える。

 世界では、希少で価値のある力――魔法。

「全部じゃね?」

「テメエ、ぶっ殺すぞ?」

 創は笑顔でそう言った。

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