プロローグ
世界が死んだ。
夏だというのに極寒のように寒く感じてしまうような光景だった。
噴水が噴き出し、電気屋のショーウィンドウに並べられているテレビの音が駅前に空しく響く。
町に住む人々が、動物が、死んだように倒れ、街路樹は、一切の活動を停止している。そしてその全てに一対の羽根が接続されていた。
車やビルに傷一つつけることなく通過し、人に接続されているところを見ると、その羽根には壁というものが無意味らしい。
一人の少年と一人の少女のみしか存在していない世界。
腰まで伸びている不思議な銀髪を持つ少女は少年の予想通り、やはり無表情だった。
大きくつぶらな瞳はガラス玉のようであり、しかし輝きを失っている。
少女の背中から大小様々な天使のように幻想的な蒼の羽根が噴水のように無数に、無造作に噴き出ている。
その羽根の共通項は倒れている世界の全ての動植物に接続されているということ。
無論。
少年にもだ。
少年の場合、左腕に接続されている。
いや、接続というより、左腕と一体になっているといった感覚に近い。
『アクセス完了。魔術起動区間部に接続……。接続完了。情報なし』
時間にして、約五ミリ秒。羽根から情報を読み取る声が脳に直接聞こえた。
自分が心の中で喋っているような妙な聞こえ方だ。
『……魔力検索。種別不明。……解析開始』
少年は全身を剣山で突き刺されたような激痛に顔を歪めながら何をするでもなく少女の顔を見続ける。
少女の顔は無表情だ。
ロボットのような無機質さを秘めている訳でもなく、ただ、無表情。
譬えるとするなら『人間』としての部分を完全に欠落させた『人間』
少年の心臓が痛む。今の激痛なんて目じゃないくらいに。
魔法使い。
そう言われる人が居る。
突発的に現れる巨大な力を持つ人がそれ。
だけど。けれど。それでも。
少年の魔法では少女は救えない。
涙が、零れ落ちそうになった。
心が、『諦め』という名の暗雲に覆われそうになる。
『……解析不能。……その間二兆六十七億二千三百万六十七の情報解析を停止。全演算能力を処理系統に移行』
少年に接続されている一対の羽根以外、色素が薄くなる。
そして、少年に接続されていた蒼の羽根の色が濃厚になり、輝きを増した。