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人間不信に陥った私は、異世界に来て1日で恋に落ちた

作者: 茉莉レイ
掲載日:2026/07/03

 私には学校にも家にも居場所がない。

 

 

 親友だと思っていた人は裏で私の大切な物を壊していた。

 本、シャーペン、カバン。


 そして一番耐え難かったのは、私と彼氏との関係を壊したことだ。


 私の人生初めての彼氏であった。


 まだ1ヶ月も経っておらず、キスどころか手を繋いだこともなかった。

 そんな彼氏を奪ってきた。

 

 その日家だけでなく学校にも居場所がなくなった。

 

 私の実家の白川家は日本の財閥であり、私はそこの三女、白川(しらかわ)莉々亜(りりあ)である。

 

 長女は若くして白川グループ銀行のトップになり、次女は世界的にも権威のある音楽家になった。


 その2人に比べて私は平凡すぎた。

 スポーツも勉強も偏差値50といったところだ。


 父や母からは家族のように扱われず、毎日が苦しかった。

 親友や、ついにできた彼氏が救いになる。そう思っていた。


 しかし現実は残酷だ。私には居場所がない。


 追い詰められた少女は逃げ出したかった。

 家出をする選択肢は頭になく、死ぬことしか頭に浮かばない。


 学校の近くに崖があることを思い出した。



 気づけば私は、崖の縁に立っていた。


「来世はもっと普通の人生を送りたいよ……」


 崖から飛び降りた少女の目から流れる涙は透き通っていた。




 愉快な音楽と、楽しそうな声が聞こえてきた。

 死んだ。そう思ったが痛みはない。


 目を開けるとそこでは、フェスティバルのようなものが開かれていた。

 よく見ると、服装も建物も普段の生活と違って見え、異国のようである。


 死後の世界というにはあまりにも陽気すぎないかと思った。


 お城のような建物や、中世ヨーロッパの騎士のような人が歩いていたり、華やかなドレスを着ている人もいれば、Tシャツのような物を着ている人もいた。


「確かに崖を飛び降りて……死んだんじゃ……」


 あそこから落ちて死なないはずがない。そして、生きていたとしてもなぜこんな所に……

 

「もしかして最近流行ってた異世界転生ってやつ?」


 考えても疑問は尽きなかった。


 突然の状況で忘れていたが、学校の事、家のことを思い出し苦しくなった。

 立ちくらみがして、その場で倒れてしまった。


 意識はギリギリある。立ち上がることはできなかった。


 そんな私に1人の人間が手を差し伸ばしてきた。


「お嬢さん大丈夫?」


 顔を見ると少女であった。

 お嬢さんと言われたが、私より背が低く年下に見えた。


「ありがとうございます」


 その少女の手を取りなんとか立ち上がることができた。


「お名前は何て言うの?」


 人間不信の私は、この少女の行為には裏があると思い込んでしまった。


「私はもう大丈夫ですから。ありがとうございました。では——」


 そう言い放ち、その場を逃げるように人が少ない所に入り込んだ。


「私は死ぬことすらも許されないの? 何でこんななの……」


 私という生命は私のものではなく、誰かのもののように感じられた。

 全てが誰かのせい。誰のことも信じられない。


 絶望に追い打ちをかけるように突然後ろから手足を掴まれた。


 ゴリラのような大きさでタンクトップを着ている男2人に拘束された。

 服を破られ、下着が顕になった。


 彼氏ともしたことないのにこんなところで初めてを奪われるんだ。

 そう絶望していると掴まれていた腕が急に解放された。


 男2人が泡を吹いて動かなくなっていた。

 死んだか生きているかは分からないが、すぐに逃げようとした。


 しかし足に力が入らず、格好も恥ずかしいものであったためその場で蹲ることしかできなかった。


「見つけた! あなたこのクラルロードは近寄っちゃいけないって教わらなかったの?」


 先ほどの少女であった。

 その後ろに騎士のような人2名いるのが見え、反射的に胸を覆った。


「これかけて!」


 少女は着ていたカーディガンのような物を私にかけてくれた。

 先ほどはよく見ていなかったが、少女は青色の宝石のような目に、美しいブロンドの綺麗に手入れされているロングヘアで美しかった。


 騎士に男2名は引きずられて連れて行かれた。


 私は女性に手を繋がれ、人通りの多い場所に出た。


「ここで話すのもなんだから私の家に来てよ!」


「分かりました」


 この少女に助けてもらった訳だし従おうと思い同意した。

 外国の人のように見えるのに言語が通じることが疑問であったが、ついていけば分かるかと思った。

 


 お嬢様のような見た目をしていたため、お城にでも連れて行かれたらどうしようと思ったが連れてこられたのは花屋だった。


 見たことないような花がたくさん並んでいて神秘的であった。

 噴水のように咲き乱れツヤがかっている花や、透き通り輝くような花などがあった。


「お花好き?」


 私が眺めていると少女が聞いてきた。


「それなりに」


 焦って適当言ってしまった。


「嬉しい! じゃあ中入って!」


 母親が出迎えてきた。

 少女と同じく青色の瞳に、ブロンドのロングヘアであった。


「おかえり! あれ? フロルのお友達?」


 この子フロルっていうんだと思った。


「そう!」


 多くを話さず私を自分の部屋に連れて行った。


 とても綺麗に片付いており、何だかいい香りがした。


「ちょっと待ってて!」


 フロルと呼ばれた少女はそう言い部屋を飛び出した。


 どうしたんだろうと思っていたが数秒で戻ってきた。


 紅茶と茶菓子のようなものを持ってきてくれたのだ。


「あなたここら辺の子じゃないの?」


 バレてしまったとドキッとした。


「迷子になってしまったんです」


 適当に誤魔化した。


「それは心細いね。帰る方法見つかるまで、私の家にいていいからね!」


 申し訳ない気持ちと何か裏があるのではという考えが混在した。


「ありがとうございます。そういえば、さっきの現象は一体何なんですか?」


 私は話を変えるように、先程男2名に起こった謎の現象について聞いた。


「あれ、知らないの? 神の束縛だよ」


 知ってるはずがない。何だその厨二チックな名前は。


「すみません。分からないです」


「約束したことは神の法則によって、絶対遂行が決まりで、破った場合は約束の重さに応じて罰が下されるんだよ」


 私はゾクっとした。

 何だかやばいことを聞いてしまった。


「さっきの2人はまさにそれで、過去に何度も女性を襲ったりしていたから国家騎士団によって契約が結ばれたんだけど、またくり返したから死んじゃったんだ」


 死んだんだと思った。

 まあ私には関係のないことだ。


「国家騎士団との約束を守ると罰が降るんですか?」


 少女は首を振った。


「違うよ。一般市民同士の約束でも同じだよ」


 私は理解した。

 この世界では約束が固く守られるためのルールがあって、破ると罰が神によって与えられるんだ。


 私にとってはありがたいもののように感じられた。

 

 約束したことに嘘などあってはいけない。守られなければいけない。

 恋人になるということは、相手を大切にするのは当然だ。


 この世界では浮気はどんな罰が与えられるのか気になった。

 

 しかしこの少女に聞くのは申し訳なかった。

 純粋な少女なのだから。


「そういえばあなたのお名前は?」


 さっきは警戒しすぎてまだ名前も名乗っていなかった。


「私の名前は、白川莉々亜です」


「シラカワ? 珍しい名前だね。なんて呼べばいい?」


 この国では日本人名はいないのかなと思った。


「りりあって呼んでください」


「よろしくね、リリア!」


「よろしくです。あなたの名前は?」


 本人の口から聞きたかった。


「私もまだだったね。フロル・シュカール! 花屋の娘だよ!」


 何とも可愛らしい響きであった。

 顔も名前も、花屋の娘というワードすらも可愛い。


「フロルって名前可愛いね!」


 あまりの可愛さに、反射的に出てしまった。


「やっと堅さ無くなってきた! ありがとう! 自分でも可愛くてお気に入りの名前!」


 少女のその無邪気な表情に癒された。


「リリアは普段なにをやっていたの?」


「普段は学校に……」


「学校か〜! 懐かしい響き!」


 その言葉に驚きを隠せなかった。


「え? どういうこと?」


「ん〜? 私は去年高校を卒業したよ?」


 もしかしたら日本とは意味が違っているのかもしれない。

 それを確かめるために追加の質問をした。


「失礼だけど、フロルっていくつなの?」


 フロルは目を見開いていた。


「え? 私? 19だけど」


「えぇぇぇ!! 嘘だ! 15歳くらいかと思った!」


 私は衝撃の事実に、天地がひっくり返るような気持ちであった。


「そんなお子ちゃまじゃないよ! リリアは?」


「じゅ、じゅうなな……」


 何だかお子ちゃまというワードを聞いた後に、フロルよりも2個下の年齢を言うのは恥ずかしかった。


「私の2個下だったんだ! 私お姉さんだね」


 ニコニコしながら、私の方を見つめていた。


「あっ!」


 フロルは突然何かを思い出したかのように立ち上がった。

 

「私花屋の手伝いしなきゃだから、ここで休んでていいよ!」


 そう言いドアの方に向かい去り際にもう一言残した。


「終わったらこの街案内してあげるから、待ってて!」


「ありがとう。わかった」


 これが私とフロルの最初の約束だった。

 

 スマホが使えなかったため、本棚にあった1つの本を手に取った。


「フロルこんな本を読むんだ」


 女性同士の恋愛についの本である。


 私は彼氏ができたように男の人が恋愛対象で、女の人を好きになる感覚というのはあまり分からなかった。


 ハードな描写がなかったため、気軽に読み進めていくことができた。

 

 

 読み進めていき、告白シーンに入った。

 そこには感動的なセリフがあった。



「私の未来は貴方のために費やします。私の過去はこの日のためです。どうかこの手を取ってください」


「ありがとう。こちらこそよろしくお願いします」



 なんて感動的なんだろうと思った。

 人生全てを愛する人のために。


 私は簡単に捨てられてしまった。

 生涯かけて愛して欲しかった。


 親にも親友にも彼氏にも、私は捨てられたのだ。

 そして自分自身すらも私を捨てた。


 そしてこの異世界のような場所で、フロルに出会った。

 それは何か意味があるのだろうか。


 そんなことを考えているとドアが開いた。


「お待たせ〜!」


 フロルが戻ってきた。

 勝手に本を読んでたので怒られると思った。


「その本素敵だよね! 私も好き!」


 しかし、そんなことにはならず好きを共有した。


「あれ、どうしたの?」


「え?」


「感動したの?」


 ハンカチを渡された。

 あぁそうか、私は泣いているんだ。


 涙の理由は様々であったが、フロルに渡されたハンカチの甘く切ない花の香りが私を包み込み温かい気持ちになった。


「じゃあ出かけよっか!」


 そう言うと私の手を取った。


「うん!」


 今が一番幸せだ。そう心の中でつぶやいた。



 街に出た。

 なぜかフロルは私とずっと手を繋いでいる。


「どうしてずっと手を……」


「え?! だってデートでしょ!」


 この子は何を、と思ったが嫌ではなかった。

 むしろ今の私にとって多少の強引さは嬉しく感じた。


 ぱっと見は私の方が年上のように見えるのに、実際の年齢はフロルの方が年上である違和感を感じつつもリードされたかった。


「じゃあ今日は楽しませてね、フロル」


「もちろん! 任せてよね!」

 

 フロルは周囲に満開の花を咲かせるような明るく全力の笑みを見せた。


 街の風景は中世と現代を混ぜたようなもので、日常的にみるような建造物や、歴史的建造物もあれば、螺旋状の見たことないような形をした建物もあった。

 

 異世界といえど、空に浮かぶ建物や、空飛ぶ車のようなものは無かった。


 手を繋ぎ景色を見ながら歩いていると何だか良い香りがしてきて、その後フロルが急に止まった。


「着いた!」


 目の前にはパン屋があった。名前はゴードンのパン工房。


「パン屋さん?」


「そう! ここのパン美味しくて、リリアにも食べてもらいたかったの!」


 そう言うと私の手を引っ張り店に入った。


 中に入ると、少しふっくらとした、顎髭を生やしているおじさんがいた。


「いらっしゃいフロルちゃん! 今日はお友達と一緒かい?」


 何だか親しいようだ。


「そう! 友達のリリアだよ!」


「リリアちゃんって言うんだ! 僕は店主のゴードンだよ! よろしくね!」


 フレンドリーなおじさんであった。

 

 しかし私はうまく話せず、軽く会釈しただけだった。


 フロルとの会話や、やり取りを通じて私の人間に対する不信感が払拭されたとばかり思っていたが、フロル以外とはダメなようだ。


「じゃあ、2人ともゆっくり見ていってね!」


 何かを察してなのかゴードンさんは工房に向かっていった。


「私ここ好きで、しょっちゅう来てるんだよね!」


 親しさの理由が分かった。フロルはここの常連さんというわけだ。


「ここのパンそんなに美味しいの?」


 待っていましたと言わんばかりにフロルは私を商品棚の前まで連れていった。


「もちろん! どれも美味しいけど私のお気に入りはこれ!」


 フロルの指先には、見たこともない形のパンがあった。


 ミルフィーユのように様々なパン生地が層状になっており、間には生クリームと果物やナッツ類が散りばめられていた。


 見たことないようなパンであったが、食べなくてもわかるレベルで美味しそうであった。


「すごく美味しそう! 私もそれ食べる」


 

 イートインがあったので、購入した後すぐに食べた。


 一口食べただけで幸せな気分になった。

 サクサク感もありながら、しっとりともしていて、波状攻撃のように様々なパンの香りが鼻を突き抜けた。

 そして、その後に生クリームの仄かな甘味と、果物の瑞々しさやナッツの香ばしさが追い打ちをかけた。


「フロルこれ、すごく美味しい!」


「だよね、だよね! 良かった!」


 フロルは感動するように喜んでいた。


 なんて感情豊かで、私の病んだ心を消しとばしてくれる子なんだと、心が温かくなるのを感じた。

 


 2人はパンを食べ終えた後、神秘的な噴水や、空気が澄んだ自然豊かな森林公園

 を楽しんだ。


 時間もちょうどいい頃合いになったので、帰宅することにした。



「ただいま!」


「おかえりフロル! リリアちゃんもおかえり!」


「た、ただいま……」


 私はフロルのお母さんに失礼のないよう、精一杯の力で応えた。


「もうすぐご飯できるから、先お風呂入っちゃって!」


「は〜い。リリアも一緒に入ろ?」


 フロルの一言で一瞬にして顔が赤くなった。

 一度も友達とかと一緒にお風呂に入った経験などなかった。


「こ、交互にしよ?」


 何とか抵抗しようとした。


「なんでよ! ほら早く!」


 私の弱い抵抗を無視するように、浴室に連れて行かれた。


「自分で脱げないお子ちゃまなら私が脱がせるぞ〜!」


「自分でできるから!」


 フロルにいじわるされる前に、自分で脱いだ。

 ボディタオルを借りて、何とか大事な所を隠して中に入った。


「先二人でシャワー浴びよ? 浴びる前にお風呂入るの嫌だからさ」


 後半部分は同意見であった。


「じゃあ私後ろ向いてるから、フロル先浴びていいよ!」


「そう? 分かった。ありがとう」


 フロルの体を見ないように後ろを向いた。

 2人で服を着ずに同じ空間にいることが何だか恥ずかしかった。


「終わったから次リリア洗いなよ!」


 そう言うとフロルは先に湯船に浸かった。


 フロルは私と違いなぜか目を逸らさずこちらを見ている。


「恥ずかしいから、こっち見ないでよ!」


「え〜何で! 友達同士で恥ずかしがることないじゃん!」


 だめだこの子聞く耳を持たないと思い、私自身が体を背けシャワーを浴びた。


 ここで私は気づいた。

 今からこの湯船に2人で浸かることになる事実に。


「せ、狭いと思うから私はお風呂に浸からず先でるね!」


 恥ずかしさを誤魔化すようにそう言い、出ようとしたがフロルに腕を掴まれ湯船に強制的に入れられた。


 その勢いで私の腕がフロルの何だか柔らかいものに触れた。


「リリアのえっち」


「フロルのせいじゃん!」


 恥ずかしさで頭が埋め尽くされた。

 変わらず私はボディタオルで隠している。


「リリア何でずっと隠してるの?」


「恥ずかしい……」


「私は大丈夫だよ?」


「私が大丈夫じゃない……」


「何がそんなに恥ずかしいの?」


 悪気がない純粋無垢な口調で聞いてきた。


「だって私スタイル良くないし、胸大きくて恥ずかしいし……」


 フロルの純粋さにそのままの理由を答えてしまった。

 

「それって素敵なことだよ! 私はリリアのスタイル好きだよ!」


 肯定するようにフロルは言ってきたが、それがさらに恥ずかしさを増強した。


「じゃあ約束にする?」


 突然の言葉に思考が追いつかなかった。


「約束すれば不安消えるでしょ?」


 そうか、この世界が持つ約束の力は地球とは違っていたんだ。


「どんな約束?」


「リリアがそのタオルどけても、私は馬鹿にしないし、嫌なことはしない」


 どうしてそこまでと思ったが、フロルの真剣な眼差しに押し切られた。


「分かった」


 流れに任せられるように約束を交わした。

 地球上の約束とは違い、絶対的安心感があるように感じた。


「じゃあ取っちゃえ!」


 フロルが無邪気にそう言い放った。

 

 恥ずかしさを感じる前にボディタオルを外し、浴槽の縁にかけるように置いた。


「可愛いよ! リリア!」


 そう言いながら抱きついてきた。


 私の人生においてここまで馴れ馴れしく、強引さを持つ友人はいなかった。

 彼氏が私を裏切る前なら、フロルのことを拒絶していたかもしれない。


 しかし、今私はこの状況が嫌じゃない。むしろ好きだ。

 何が影響してかは分からないが、私は変わってしまったらしい。


「なんかこうしてると落ち着くね」


 お互いの柔らかいもの同士が触れ合いながらハグをしていると自然と口から出た。


「リリアも? 私もそう考えていたよ!」


 この状況を誰かが見たら、女の子同士のカップルがお風呂場でイチャイチャしているだけに見えるだろう。

 実際にこれはイチャイチャだ。違うことといえばカップルではないということだ。


「フロルってさ、女の子の事好きなの?」


「もちろん! 大好きだよ!」


 フロルは明るく答えたが、多分意味が伝わっていない。


「恋愛的にって意味だよ?」


「私、恋愛とかよく分からない……」


 もしかしたらフロルも私と同じで恋愛経験が少ないのかもしれない。


「彼氏とか、彼女とかいた事ないの?」


「うん」


 何だか寂しそうな顔をしていた。


「私もだよ!」


 浮気した奴のことはカウントしちゃダメって誰かが言ってた気がしたからカウントせず伝えた。


「リリア可愛いのに」


「フロルだって」


 お湯の熱さと密着している熱により、何だか頭がくらくらしてきた。

 フロルの顔も赤くなってきた。


「なんかのぼせちゃいそうだね、でよっか!」


 りりあの一言で2人は浴室を出た。

 

 フロルの母親が買っていたまだ使用していない下着がちょうど私のサイズに合ったので、それを貰い、服を借りた。


「リリアにとっても似合ってる!」


「本当?! ありがとう!」


 2人は髪のケアや、スキンケアを済ませ晩御飯を食べにリビングへ向かった。



「2人ともご飯できてるよ!」


「ありがとうママ!」


「ありがとうございます」


 私は頭を下げ礼を言い、席についた。


 テーブルにはご馳走が並んでいた。


 見るからに柔らかそうな極圧ステーキに、ゴロゴロしたポテトサラダ、ミネストローネのようなスープもあった。

 そしてお米の代わりにパンが用意されていた。


「すごく美味しそうです! いただきます!」


 ステーキは舌が必要ないほど柔らかく、ポテトサラダは満足感がすごくあり風味豊かであった。

 スープとパンの相性もよく、3個も食べてしまった。



 家族団欒とはこういうことかと思い、幸せなひと時を過ごした。


「ごちそうさまでした! 洗い物手伝いますよ!」


「リリアちゃんって偉いのね! けど大丈夫よ! フロルとゆっくり遊んであげて!」


 無理にでも何か恩返しをしたかったが、私は客としてきているだけなのでそれ以上前に出られなかった。


「ありがとうございます! 本当に美味しかったです!」


 そう伝え、フロルの部屋に向かった。



「フロルのお母さんの料理すごく美味しかった! いつもあんなご馳走なの?」


「ママの料理いつも美味しいけど、今日は年に数えられる程度のご馳走だったよ! リリアに食べさせたかったんじゃないかな?」


「それは嬉しいな」


 何だか嬉しい気持ちと悲しい気持ちがせめぎ合っていた。

 家族ってこんな温かいものなんだと思い知った。


「おうちに帰りたい?」


 フロルが突然聞いてきた。


「帰りたくない。ずっとフロルといたい」


 本音だった。

 地球に居場所はないし、フロルといる時間は苦痛を忘れることができた。


「リリア、私の可愛さにメロメロになっちゃった?」


 冗談を言うように、唇に人差し指を当て、首を傾げウインクをしてきた。


 私は気づいた。この胸の鼓動の理由に。


 これは恋だ。異世界に来て1日しか経ってないのに恋に落ちてしまった。

 彼氏に抱いていた感情とは違うものを感じた。


 私が守りたい、この子を離したくない、独り占めしたい。


「急に黙ってどうしたの〜? 怒った〜?」


 私は無言で、距離を詰め、拳2つほどの距離まで顔を近づけた。


「リ、リリア?」


 フロルの顔は赤くなっていた。


 離れようとするフロルを引き寄せ、拳1つほどの距離になった。


 フロルの表情は先ほどのお風呂の時とは比べ物にならないくらい茹で上がっていた。


 手の力を緩めたがフロルは逃げようとしない。

 むしろ自分から近づいてきた。


 2人の少女は未熟であった。

 1日で互いを好きになってしまうほどに。

 しかしこの1日はどれだけの月日をかけても実現不可能なほどに濃いものであった。


 フロルの唇が私のに触れた。

 触れた瞬間、反射的にお互い離れた。

 

 2人にとって経験したことない出来事だった。


 その甘さや幸せを再び確かめるように、無言で繰り返した。

 何度も何度も同じように。


 2人は深く入り込むことはしなかった。分からなかった。

 ただ優しくあてて離す。それを繰り返すだけだ。


 しかしそれで十分幸せを感じていたのだ。


 1分ほどしか経っていないが無限のようにも一瞬のようにも感じた。

 最初に口を開いたのはフロルであった。


「リリアは私のこと好き?」


 初めてのキスをした後の一言目がこれは反則だった。

 答えは分かっているはずなのに。


「言葉にしないとダメ?」


「ダメ」


「好きだよ」


「私もだよ! 大好きリリア!」


 よくできましたと言わんばかりに、頭を撫でてきた。

 ちゃんとフロルはお姉さんで、私は甘えたくなった。




 両思いというのは幸せであった。

 もう裏切られたくない。

 

 ふと私は思った。

 ここで約束をすれば、浮気されることなんてない。


 しかし、それは一種の呪縛だ。

 約束1つによって人の幸せを制限してしまう恐れがある。

 

 そんな私の考えを優しく振り払うようにフロルが口を開いた。


「約束なんかなくても、私達の愛? は永遠だよね!」


 その言葉で私は間違いに気づいた。


 愛は約束して縛るものなんかじゃない。

 約束などを超えた運命という束縛なのだ。


 つまり私と浮気したあいつの間には愛がなかった。

 運命ではなかったということだ。


 今ここで結ばれるのは神の束縛ではなく、運命そのものであると。


「約束なんていらないよ、行動で示す!」


 この世界において約束は最も強力な束縛だった。

 故に、約束をせずに縛ることができる運命というものは神すら超えるのだ。


「今日は一緒に寝ようね、リーちゃん!」


 今まであだ名で呼ばれたことなどなかったため新鮮で嬉しかった。


「もちろん! 一緒に寝ようねフーちゃん!」


 2人は手を握り合い眠りについた。



 フロルは恋を知り、りりあは愛を知った。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


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