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鵲屋  作者: 鳩胸 錦
9/13

9話 おじいちゃん


「子守りだあ?」


低く、威圧感のある声。


「はい。お願いできませんか」


「チッ……面倒くせぇ。それで?どこのどいつだ」


その人は背が高く、目つきも鋭かったせいで、初めて

会った時はとても怖かったのを覚えている。


「は、初めまして……」


僕が挨拶しても、彼は見向きもしなかった。酒瓶を

片手にごろりと横になっている。いつもそんな調子

だった。


「だいたいよぉ、お(めぇ)の親父さんは

 どうしたよ。何で俺が子孫の面倒なんざ見なきゃ

 なんねぇんだァ?」


「お願いします!」


お母さんは深く頭を下げた。


「私と夫はこれから仕事ですし、他に預かってくれる

 人もいなくて……」


「要するに、そいつが邪魔だって言いてぇんだろ」


「ち、違います!」


彼は舌打ちし、のっしのっしとお母さんに近づいた。


「ったく、俺の子孫共はろくな奴が居ねえなァ。

 おい、その子供を渡せ。ある程度の面倒は見て

 おく」


「あっ、ありがとうございます!ほらスピカ、

 あなたもお礼を――」


「何でそいつが礼なんて言わなきゃなんねぇんだよ。

 お(めぇ)らの都合で預けられるんだ。

 むしろ、お(めぇ)がそいつに礼を言うべき

 だろ」


それから、僕は彼に預けられる日が増えた。


「チッ、また来たのか」


「ご、ごめんなさい……」


最初は面倒くさそうで、無愛想だった。


「しかも、親が一緒じゃねぇとはなァ。お(めぇ)、見捨て

 られたんだろうぜ」


「違うよ!お父さんもお母さんも仕事が忙しい

 からって言ってたもん!」


僕が言い返すと、男は鼻で笑った。


「ポジティブだねぇ。けどなァ、あの格好を見るに

 お(めぇ)の両親は毎回仕事に行ってるって

 わけでもなさそうだぜ?」


「なっ、何でそんなことが言えるの」


「スーツケースに大きなバッグ。動きやすそうな靴。

 そしてあのシャレた格好……お(めぇ)

 あの女が仕事に行ってるって本気で思ってんの

 かよ」


彼は、見ていないようでいて細かい所までしっかりと

観察していた。


「ははっ、よく覚えとけ。ああいう奴は平気で人を

 見捨てる。分かるんだ、俺もそういう親だった

 からよ」


横暴、乱雑、自分勝手。挙げ句の果てには平気で

人を傷つける言葉を吐く。僕はそんな彼が大嫌い

だった。それでもなぜか、日を追うごとに彼との

距離は少しずつ縮まっていった。

 

「おじいちゃん」


「違ぇよ。俺はお(めぇ)のジジイじゃねぇ、

 ひいひいひいひい………で?何の用だ、今は競馬で

 忙しいんだよ」


「コレ、なぁに?」


彼は競馬の中継から目を離し、僕を抱き上げた。


「そいつぁ短冊だ」


「たんざく?」


「あァ。だいぶかすれちまってるが、文字が書いて

 あるだろ?」


漢字が多くて何を書いてあったのかは覚えて

いないが、おじいちゃんが話してくれたことは覚えて

いる。


「この店は、最初はほんの気まぐれで作ったんだ。

 誰もやってなくて金がたんまり貰える仕事……

 そうだ、人間がやってる七夕ってヤツに便乗して

 やろうと思ってな」


おじいちゃんは、短冊を手に取った。


「1年に1回だけ忙しくて、後は楽できる。我ながら

 いい案だって思ったぜ?けどな、何年もやってる

 うちに金なんて要らねえって思い始めちまった」


「どうして?」


「何でだと思うよ」


おじいちゃんはそう言って、僕の頭をくしゃりと

撫でた。


「ま、お(めぇ)もこの店を継いだら分かる

 だろ。継がねえかもしんねぇけど」


それから少しして、おじいちゃんは出かけたっきり

帰って来なくなった。

お父さんとお母さんは店から目を背けるようになり、

鵲屋は静かに衰退していった。そして結局、半ば

押しつけられるような形でこの店を継がされて

しまった。


正直に言えば、最初は乗り気じゃなかった。

店の経営なんて面倒だし、面白くも何ともなかった。

それでも後悔はしていない。なぜなら、最近になって

やりがいを感じ始めているから。

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