8話 作戦勝ち
「フン、随分と簡単に引き下がったな。観念したか」
「早く見たらどうですか?」
「言われずとも」
ベテルギウスさんは、配達員を押しのけてダンボール
の前に立った。
「残念だったな。これでお前は終わりだ」
蓋が勢いよく開かれる。中に入っていたのは
「冷蔵庫……?」
「だから言ったでしょう。冷蔵庫しかないと」
ベテルギウスさんの顔に焦りが見える。
「馬鹿な、私の予想が間違っていたのか……?」
「理解してくれましたか?それではお引き取り
下さい、ベテルギウス副隊長」
「……ぐっ」
悔しげに店内を見渡すその視線が、ふと止まった。
裏口。そこに停まっている、もう1台の流星群宅急便の
トラック。
「ま、まさか……!」
ようやく気づいたみたいだ。
そう、これは僕と仮面さんが考えた作戦だ。
表口と裏口、それぞれに流星群宅急便のトラックを
1台ずつ呼んでおく。
表口には、本物の冷蔵庫を入れたダンボール。
裏口には、僕が入ったダンボール。仮面さんが
星雲隊の注意を引きつけている間に、僕は裏口から
荷台へ詰め込まれる。
「くそっ、誘導されたのか!」
「ふふ。もう遅いですよ」
ガタンと荷台が揺れる。僕を乗せたトラックは、
静かに走り出した。
「……仮面さん、大丈夫かな」
手渡された小型カメラに、まだ店先の映像が映って
いる。
「それにしても、頭の回転は速いのに頭が固いとは
困ったものです」
「違反者は徹底的に罰する。誰1人として逃すわけには
いかん。お前も拘束させてもらう」
「今の私の話、聞いてましたか?そういう所が固いと
言っているのです」
直後、星雲隊の剣先が一斉に仮面さんに突きつけ
られた。
「お前を公務執行妨害で逮捕する」
「………ふむ、それは困りますね」
そこで、映像が途切れた。
「あれ?故障かな」
叩いたり振ったりしたが、何も映らなかった。
「……きっと、仮面さんなら大丈夫だよね」
揺れる荷台の中で、ぎゅっと袖を握る。
ずっと、あの人に頼りっぱなしだった。僕が星雲隊に
捕まった時も、今回の作戦の時も、守られてばかりで
自分から動いていない。でも今は違う。ここには
僕しかいない。
「仮面さんが稼いでくれた時間、絶対に無駄には
しない」
しばらくすると、トラックがゆっくりとバックを
し始めた。やがてリヤドアが開く音がして、陽の光が
差し込んできた。他のダンボールが次々と運び
出されていく。次は、僕の番だ。
「あっ、コレって鵲屋の荷物か」
配達員たちの声がすぐ近くで響く。
「ああ、あの開店休業してるみたいな店だろ?
あそこの店員、すっげぇ変な仮面しててさ……」
「そいつ、俺も見たことあるぜ。変声機使ってる
デカい男だろ?何で店長はあんな奴を採用したん
だろうな」
たぶん仮面さんのことだ。採用した覚えはない、
勝手に居ついただけだ。
「よし。後はこの荷物を落とすだけか」
不意に持ち上げられる感覚がした。だが、数歩ほど
運ばれて動きが止まった。
「ん?ここは……」
ダンボールの隙間から覗くと、そこには真紅の橋が
広がっていた。
「そらよっと!」
ダンボールが次々と落とされていく。真っ直ぐ地球へ
向かう物、横へ逸れてどこかへ消えていく物。
「僕、ちゃんと辿り着けるのかな……?」
不安がよぎる。そして。
「重いな……おらよっ!」
次の瞬間、体がふわりと浮いた。僕は勢いよく放り
出され、そのまま真っ直ぐ地球へと落ちていった。
「うわあああああっ!」
衝撃と回転に振り回され、頭がくらくらする。
叫び続けていた声も、次第に力を失っていった。
やがて、恐怖よりも疲労が勝ち、そのまま眠って
しまった。




