7話 ドキドキ!ダンボール大作戦
「――良かった、まだ寝てるな」
ガチャリとドアノブを回す音がして、誰かが入って
きた。
「えーっと?変声機は……あった。コレがねえと
始まらねえよなァ」
低くて重厚感のある声。聞き慣れない声質だ。
「昨日、歯磨きのときにうっかりここで外しちまった
のが失敗だったなァ。アイツに見つかってねぇと
いいんだが……」
ゴソゴソと何かを探す気配がする。
「誰か居るの……?」
眠い目をこすりながら顔を上げる。
そこに立っていたのは、いつもの仮面さんだった。
「お、おはようございます店長」
「……ねえ、仮面さん。さっきおじさんみたいな人
居なかった?」
「い、居るわけないでしょうそんな人。店長の
見間違いですよ」
わずかに声が上ずっている。仮面越しでも分かる
くらいにあたふたしていて、その様子が少しだけ
面白かった。
「それより、今日は地上に行く日です。朝早い
ですが、準備して下さい」
「うぅん……」
時計は朝5時。いつもなら夢の中だ。
「ふわ〜あ」
大きなあくびをしながら洗面台で顔を洗う。それでも
眠気は抜けなかった。
「やっぱり、昨日寝られなかったからかなぁ……」
「スピカ店長。朝食の用意ができました」
「ああ、ありがとう。今行くよ」
食卓には、卵とハムを乗せたトーストと牛乳が並んで
いた。
「いただきます」
口に運ぼうとすると、仮面さんがじっとこちらを
見つめていることに気づいた。
「何か僕の顔についてるの……?」
「いいえ。ただ、今日から貴方がしばらく居なく
なると思うと……今のうちに見ておきたくなり
まして」
「せ、せめて仮面外してよ……」
「それはお断りします」
「そもそもさ、どうして仮面さんは仮面なんて
着けてるの?」
仮面さんは軽く笑って、向かいの席に腰を下ろした。
「当ててみて下さい」
「うーん……病気とか怪我?」
「違います」
間髪入れずに否定されてしまった。
「じゃあ、顔に自信がないとか?」
「全国の私に謝って下さい」
「1人しか居ないよ!?」
僕は店長になってから、誰かとこうして同じ食卓を
囲むことなんてなかった。いつも静まり返った
店内に、パンをかじる音だけが虚しく響いていた。
だから今日みたいに、誰かと他愛もない話をしながら
食べる朝食は初めてだった。それが無くなると
考えると、寂しい。
そして、いよいよ流星群宅急便に託す時が来た。
「えっと……こ、この大きなダンボールをこの住所
まで送り届ければいいのですね?」
「ええ」
配達員が仮面さんの圧に押されながら、渋々
ダンボールをトラックへ積み込もうとした瞬間。
「待て!」
複数の星雲隊が、本部の方から歩いてきた。
先頭に立っているのは、副隊長のベテルギウス
さんだ。
「そのダンボールには何が入っている」
「何って、冷蔵庫と書いているでしょう」
「なぜ冷蔵庫を送る必要がある?」
ベテルギウスさんは仮面さんに詰め寄った。
「その理由を貴方に話す必要はないかと」
「……ほう。まさかとは思うが――」
鋭い視線がダンボールへ向けられる。
「あの中に、この店の店長が入っているのではない
だろうな?」
ドクンと僕の心臓が大きく跳ねた。
「まさか。なぜそんなことをしなければならないの
ですか」
「地上で、無罪になるための証拠集めをするつもり
だろう?」
完全に見抜かれている。
「そう、願いを叶えた人間が前に進んでいる証拠さえ
あれば無罪にできる」
彼は不敵な笑みを浮かべた。
「副隊長以上の承認があれば、な」
「はい。それが何か?」
仮面さんの声は、寸分も揺れない。
「この天の川で、副隊長以上は私しか居ない。
そして、私はお前たちを無罪にするつもりはない」
空気が凍りついた。だが、仮面さんは微動だに
しなかった。
「つまり、あの店長がどれだけ証拠を集めようが
無駄ということだ」
彼はダンボールの前に立った。
「さあ、調べさせてもらうぞ。そのダンボールを」
仮面さんは頷き、あっさりと身を引いた。
「……どうぞ、構いませんよ」




