表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鵲屋  作者: 鳩胸 錦
6/13

6話 守りたいもの


カメラ、財布、数日分の食料、着替え。床に並べて、

1つずつ確認する。


「これだけあれば大丈夫かな」


「長期戦になるかもしれませんからね、多いに越した

 ことはないでしょう」


「でもさ、人間に僕の姿は見えないでしょ?

 泊まる場所とかどうすればいいんだろ」


「どうするって、不法侵入すればいいだけでしょう」


即答されてしまった。


「……えっと、良心が痛むんだけど」


「良心もクソもありませんよ。自分のためにどんどん

 他人を利用して下さい」


確かに理屈は正しいけど、やっぱりまだ抵抗感は

ある。

 

「そうだ。スピカ店長、地上へは役所を通さないで

 行ってもらいます」


「あっ、そっか。役所にも星雲隊が居るかもしれない

 もんね」


仮面さんはため息をつくと、ズボンのポケットから

1枚の地図を取り出した。


「これって……」


「天の川の地図です。ここが鵲屋。そして右へ

 真っ直ぐ行けば、星雲隊の本部があります」


びっくりするほど近い。歩いた時は遠く感じたのに、

地図では目と鼻の先だ。


「右は詰みですね。では、左には何がありますか?」


「うーん」


この辺りは比較的静かで、目立つ建物なんて何もない

はずだ。だけど、聞くということは何かがあるん

だろう。


「あっ、ここって」


「はい。星雲隊の支部ですね。しかも、天の川には

 ここ以外にも複数存在します。この意味が分かり

 ますか?」


右に進めば本部。左に進めば支部。


「詰みです」


仮面さんは役所へと指を滑らせる。


「ですから、店長には贈り物になってもらいます」


「……へ?」


「流星群宅急便で、地上まで送ります」


「ええっ!?」


一瞬、理解が追いつかなかった。


「それ以外に方法はありません」


声が出なかった。でも、確かにその方法なら星雲隊に

見つからずに地上へ行ける。


「よ、よくそういうの思いつくね」


「まずは貴方とそのバッグが入りそうなダンボールを

 探しましょう」


「そういえば、2階の僕の部屋の隣にいっぱい箱が

 あった気がする」


「ふふ、楽しくなって来ましたね」


仮面さんは嬉々として、2階へ駆け上がっていった。


「……すごいなぁ、仮面さんは」


行動が早くて、迷いがない。僕とは大違いだ。


「スピカ店長!」


「ん、どうしたの?」


2階へ上がると、廊下いっぱいにダンボールが積み

上げられていた。


「っとと……」


足の踏み場がない。


「店長、この写真の中央に写っている方は先代の店長

 ですか?」


それは白黒写真だった。真ん中に居るのは、ロング

コートを着た男。酒瓶を片手に、あぐらをかいて

豪快に笑っている。


「誰だろう。おじいちゃんはもっと優しい顔だった

 はずだし、見たことない人かも」


「おや、こちらの写真にも」


別の額縁にも同じ男が居た。やはり酒瓶を持ち、

ロングコートを着ている。その周囲には大勢の人々が

居て、みんな楽しそうに笑っている。


「……なんか、今とは全然違うね」


「店長、少しこちらへ」


積み上げられた箱を押し分けながら進むと、

廊下の奥にひときわ大きなダンボールが置かれて

いた。人が1人、余裕で入れそうな大きさだ。


「そのダンボールなら、店長が収まるのでは?」


「う、うん。入ってみる」


おそるおそる足を入れ、身をかがめてみた。意外と

広く、余裕がある。


「いかがですか」


「全然余裕で入るよ。これ、何が入ってたんだろう」


「さあ?ひょっとしたら、本当に人が入っていたの

 かもしれませんよ」


「あはは、まっさか〜」


その時だった。


「おい、スピカ!」


外から怒鳴り声が響いた。


「……まさか、星雲隊?」

 

「全く。せっかちな方たちですね」


仮面さんは落ち着き払った様子で窓辺へ近寄り、

そっと外を覗いた。


「うん?店長、少しこちらへ来て下さい」


僕は足音を立てずに窓へ近づき、外を見下ろした。


「ア、アルタイル君……!」


胸の奥がひやりとした。


「お知り合いですか」


「うん。友達だよ。ちょっと行ってくるね」


僕は階段を駆け下り、扉を開けた。冷たい夜風が

店内に入り込む。


「アルタイル君、こんな時間にどうしたの?」


「良かった。無事だったんだな」


アルタイル君の顔は、どこか切羽詰まっている。


「ここじゃなんだから、中で話させてくれ」


彼が店内に1歩踏み込もうとした時だった。


「すみません、今日はもう閉店しました」


背後から機械越しの声が聞こえた。

振り向くと、仮面さんが階段を下りてきていた。


「うおっ!な、何だそいつ!」


「外で話しましょう。さあ、出て下さい」


有無を言わせぬ手つきで、仮面さんは僕たちを外へ

促した。


「……それで、話って?」


アルタイル君は周囲を確認し、声を潜めた。


「お前、追われてるらしいな」


彼の声が低くなる。


「法律違反をしたって、星雲隊から聞いた」


僕は静かに頷いた。


「ここも監視されてるはずだ。俺の家に来い。

 匿ってやるから」


彼は迷いのない目で、僕の手をしっかり掴んだ。


「行こう」


けれど、僕はその手を振り払った。


「ごめん。僕、やることがあるんだ」


「おい待てよ!このままじゃお前、捕まっちまうん

 だぞ!?捕まればアイツに――」


アルタイル君がそう言いかけた瞬間、仮面さんが

僕と彼の間に割り込んできた。


「本人がそう言っているんです。お引き取り下さい」


その声は機械越しだが、どことなく冷たい気がした。


「待てスピカ!お前、本当にそれでいいのかよ!

 絶対こっから逃げた方がお前のためだろ!?」


そうだ。本当は逃げたい。

アルタイル君の家に隠れて、嵐が過ぎるのを

待ちたい。でもそれは違う。


「アルタイル君」


深呼吸して、息を整える。


「僕の戦いに君を巻き込みたくはない。もし、君が

 逃げる手助けをすれば、君もタダでは済まない」


「スピカ……」


「僕が失うのはこの店だけだ。他には何もない。

 だからこそ守れるんだ。でも、君にはベガちゃんが

 居る」


どうしてだろう。


「君には、家族も友人も恋人も居る」


どうしてこんな気持ちになるんだろう。


「僕1人のために、その人たちを危険に晒す必要なんて

 ないよ」


自分でも驚くほど、淡々とした声だった。


「気持ちは嬉しいけど、ごめん」


「……分かった」


アルタイル君は僕の目を見て言った。


「だが、お前のやることを分かってて『千変万化の

 布』を貸した俺にも責任はある。何かあったら

 連絡してくれ」


彼はそう言い残すと、走り去ってしまった。


「なるほど、やはりそういうことでしたか」


仮面さんが小さく呟く。


「え?」


「いえ、何でもありません。それより」


少しだけ声が硬くなる。


「明日の準備を続けましょう」


僕たちは店に戻り、しっかりと鍵をかけた。


「これで、良かったのかな」


「どうでしょう。それを決めるのは今の貴方では

 なく、今後の貴方です」


「……うん。そうだね」


頷きながらも、心は晴れなかった。手を振り払った

時のアルタイル君の顔。あの寂しそうで、悲しそうな

表情が何度も頭に浮かぶ。


その夜、僕は夢を見た。天の川から住民が1人、また

1人と静かに消えていく夢だった。

灯りが消え、声が消え、最後には鵲屋だけが残る。

それが怖くて、僕は何度も目を覚ました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ