3話 仮面さん
翌日。
「ふわあ〜あ」
眠い。今すぐ布団にダイブしたいけど、お客さんが
来るかもしれないから寝られない。まあどうせ、
来るのはアルタイル君かベガちゃんぐらいだろう。
――いや、もう1人居る。
その人は薄ら笑いを浮かべた白い仮面をつけていて、
時々ふらりと現れてはマジックを見せて帰っていく。
スーツ姿だったり、ドレス姿だったりと格好は
毎回違う。
「最近は来てないし、今日も来ないよね」
そう高を括り、2階の自室へ戻ろうとした時だった。
「流星群宅急便でーす」
「え?」
頼んだ覚えはない。誰かからの贈り物だろうか?
「お届け物です」
僕は首を傾げ、扉を開けた。
「えっと、お疲れ様です」
差し出されたダンボールを受け取った途端、ゴトリと
配達員の両手が地面に落ちた。
「うわっ!」
僕は思わずダンボールを落とす。
「だ、大丈夫……!?」
配達員の顔は、帽子の影で見えない。
「……ふふっ」
すると、袖口からにゅるりと新しい手が現れた。
「手が増えた!」
「そのダンボール、開けないんですか?」
「あっ、そうだった」
僕はおそるおそるダンボールを開けた。
中からは、ダンボール。
さらにその中からも、ダンボール。
「いや、マトリョーシカじゃん!」
思わずツッコミを入れ、顔を上げると
「あーっ!」
そこにあったのは、あの薄ら笑いを浮かべた
白い仮面だった。
「コンニチハ。七夕が終わって退屈してる頃だろうと
思って、遊びに来ました」
声は機械越しで、男か女か分からない。
でも、長身で肩幅があることから男なんだろう。
「まあ、確かに暇だけどさ。君はいつも何しに
来てるの?」
「遊びに来ています」
「だから何しに……」
「遊びに来ています」
あっ、ダメだこの人。話が通じないタイプだ。
「……ふむ」
仮面さんは、店内をゆっくり見渡した。
今にも壊れそうな床、色あせた棚。古い看板。
「この店は、貴方お1人で?」
「うん。おじいちゃんの代までは繁盛してたらしい
けど、今は僕だけ」
「ご両親は?」
「引っ越したよ、3等星にね。こんなボロ屋には
住みたくないってさ」
等星とは、簡単に言えば住みやすさの指標だ。
1等星から6等星まで存在し、1等星が最も
暮らしやすい。逆に、6等星なんて住めたもん
じゃない。
「正直、気持ちは分かるよ。でもさ」
僕は古びた看板を見上げる。
「歴史って、なくなる時は一瞬だよなって思うと
寂しくてさ」
長い沈黙があった。数秒……いや、数十秒だったかも
しれない。
「なるほど」
仮面さんは帽子を胸に当てて、一礼した。
「では、これからはこの店の従業員として
勤めさせていただきます」
「何で!?」
「そういう話の流れでしょう」
「いやいやいや!」
僕は全力で首を振った。
「まあまあ、細かいことは気にせずに。貴方の
お仕事、ぜひお手伝いさせて下さい」
「ダメ!君だって仕事してるんでしょ?
バレたらまずいよ」
「ニートですが何か?」
「ニ、ニートだった……」
そんなこんなで、なぜか従業員が増えてしまった。
「この刀、随分と良いものですね」
仮面さんは、棚の奥に飾られていた古い刀をそっと
持ち上げた。
「そうなの?」
僕は頬杖をついたまま答える。
正直、刀の良し悪しなんて分からない。
「おおっ!この壺、売ればかなり良い値が
つきますよ」
仮面さんは骨董品に興味があるらしく、楽しそうに
話しかけてくる。
「ふぅん。僕、そういうのあんまり分からないん
だよね」
「そうですね……恐らく、この棚にある骨董品を全て
売り飛ばせば、人生がもう1回やり直せる程度には
なります」
「え!?」
僕は椅子から転げ落ちそうになった。
「管理方法が良ければ、もう少し値段が上がると
思いますが……良ければ、今すぐ売り払って
きましょうか?」
「ううん」
僕は棚の前に立った。
「売らないよ」
「ほう?」
仮面さんは首を傾げる。
「この骨董品たちもこの店の思い出だから、残して
おきたいんだ」
「……分かりました」
何となく、仮面さんが笑っているような気がした。
「他の場所も片付けましょうか?」
「ううん、後は僕がやるよ。ありがとう」
この時の僕は知らなかった。
仮面さんとの出会いが、鵲屋と僕の運命を
大きく変えることになるなんて。




