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鵲屋  作者: 鳩胸 錦
2/13

2話 家族の温もり


数十分ぐらい経っただろうか。


「まいどー!流星群宅急便でーす!」


「早っ!」


扉を開けると、銀色の制服を着た配達員が

小さなダンボールを抱えて立っていた。


「ご苦労様です」


軽く頭を下げ、ダンボールを受け取る。

中には丁寧に包装された『千変万化の布』が入って

いた。


「よし。後は残った仕事を片付けないと」


仕分けされた短冊は、七夕当日に流星群宅急便が

回収し、光の粒になって地上へ降りそそぐ。


「七夕まであと少し。ラストスパートだ」


僕はダンボールの山を見つめ、椅子に座り直した。


そして、七夕当日。


「流星群宅急便でーす!短冊を回収しに

 来ました!」


「……ああ、どうも。お願いします」


段ボール4箱分、合計50万枚以上。三日三晩、

ほとんど寝ずにやったせいでどっと疲れが出た。

だけど、これで終わりじゃない。


「あの子の所に行かないと」


地上に行くには許可が居る。役所へ行って、

外出許可証を発行してもらわなければならない。


「いらっしゃいませ」


「すみません、外出許可証を発行できますか」


「はい。かしこまりました」


手続きは驚くほど簡単だ。審査もほとんどない。


「こちらが許可証です。地上へはあちらの

 エレベーターをご利用ください」


地上行きのエレベーターは、県ごとに分かれている。

僕は「東京」と書かれたエレベーターに乗った。

扉が閉まると、体がふわりと浮いてそのまま地上へ

落ちていった。


「あんまり慣れないなぁ、この感覚」


扉が開くと、そこはもう駅の中だった。

丁度、帰宅ラッシュで賑わっている。


「……なんか、寂しいや」


僕たちの姿は人間と同じだけど、人間は僕たちを

見ることも触れることもできない。しかし、この

『千変万化の布』を被れば、短冊で見た人間の姿と

声になれる。


「これでよしっと。あとは住所を辿って……」


「お父さん?」


振り返ると、短冊で見た母親と女の子が居た。

僕は驚きと緊張で、思わず唾を飲み込んだ。


「どうしてこんな所に居るの?」


「………」


言葉が出ない。


「ごめんなさい。この子ったら人違いを……」


母親は、僕を見て止まった。


「あなた」


彼女の手から袋が落ちた。


「あなたなの……?」


声が震えている。


「ねえ、答えてよ!」


僕はほんの一瞬、迷った。

だけど


「ああ」


はっきりと、そう答えた。


「お父さん!」


女の子が抱きついてきた。チクリと心が痛む。

 

「早く帰ろっ!」


小さな手が、僕の手を握る。温かい。生きている

温もりだ。


「そうだな」


これで良かったんだろうか。

明日になれば、この魔法は解けてしまうというのに。


僕はモヤモヤした気持ちのまま、彼女たちの家に

着いた。


「今日ね、幼稚園で七夕の飾り作ったの!」


女の子は折り紙で作った吹き流しや網飾りを見せて

きた。少し歪だが、よくできている。


「おー、上手だなあ」


「でしょ!みぃちゃん、先生に褒められたもん!」 


その後、僕は女の子が眠るまで他愛のない話を

続けた。やがて、小さな寝息が聞こえ始める。

気がつくと、時計の針は10時を指していた。


「そろそろ帰らないとな……」


「……あの」


不意に、母親に呼び止められた。


「あなたは、夫ではありませんね」


心臓が止まりそうになる。


「気づいて……いたんですか」


「………はい、最初から。でも、今日だけは

 信じたかった」


彼女から涙がこぼれ落ちた。


「夫が亡くなった日の朝、私は夫と喧嘩をしました。

 そして謝れないまま彼は帰らぬ人に……ずっと、

 謝りたかったんです」


胸がきゅっと苦しくなる。


「今日は来てくれて、本当にありがとうござい

 ました」


僕は何か言おうとした。でも、言葉が見つから

なかった。僕は、この人の夫じゃない。何か言う資格

なんてないんだ。


だから。


「………まいど」


それだけ言って、僕はその家を出た。

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