12話 真実
「全部ねぇ……いいぜ、話してやる」
おじいちゃんは腕を組みながら話し始めた。
「半年前、俺は鵲屋が経営難で潰れそうだって噂を
耳にしてなァ。さすがに潰れるのだけは避けた
かった。だから仮面とロングコートを着て、
こっそり様子を見ることにした」
「仮面って、もしかして仮面さんの正体は………」
「そう、この俺だ」
「ええっ!?」
思わず声が裏返る。どうりで、仮面さんが色んな
ことを知っているわけだ。
「けどよ、最近になって見てるだけじゃ退屈になっ
ちまってなァ。つい手ぇ出して、そのまま店員に
なったってわけだ」
「別に採用した覚えはないけどね」
「つまり、俺は鵲屋を潰さねぇためにあの怪しい
仮面で暮らしてたってことさ。どうよ、ベテル
ギウス。これで納得してくれたかい?」
「………私が」
低く押し殺した声だった。ベテルギウスさんは拳を
強く握りしめ、震える肩のまま顔を上げた。
「私がこの半年間、どんな思いで隊長代理を務めて
きたか、あなたに分かりますか!」
空気が張り詰める。
「あなたが置き手紙だけ残して姿を消したあの日から
私はあなたの代わりに星雲隊を率い、何人もの
罪人を裁いてきた!何が正しくて、何が間違って
いるのかも分からずに……ッ!」
声が次第に荒くなる。僕もおじいちゃんも、何も
言わずに彼の言葉を聞いていた。
「私がしっかりしなければ、天の川も等星も無法地帯
になる……!そうならないために私は正義の名の
もと、必死に罪人を裁き続けてきた!その気持ちが
あなたに分かりますか!」
ーーもしかしたら、この人は人一倍、責任感が強い人
なのかもしれない。同時に全てを自分1人で背負い
込んでしまう……とても、真面目な人なんだ。
「……ベテルギウス」
おじいちゃんは静かに椅子から立ち上がると、迷い
なく膝をつき、深く頭を垂れた。
「俺は、自分の店のことだけを考えてお前
への負担なんざ、微塵も考えていなかった」
「……っ」
「本当に、すまなかった」
「頭を……上げて下さい。あなたほどの立場の方が、
軽々しく頭を下げるべきではありません」
ベテルギウスさんはそう言うと、ゆっくりとこちらへ
向き直った。その瞳にはいつもの冷たい軽蔑の色は
なく、真面目さと真っ直ぐな正義感だけが宿って
いた。
「私は、罪人を裁かなければ天の川も等星も無法地帯
になる……その焦りに囚われ、法律違反をした
理由も聞かずにお前を拘束しようとした」
彼は深く息を吐き、頭を下げる。
「悪かった。お前にしたことを、許してほしい」
「い、いえ……別にいいんです。鵲屋が無事なら、
それで十分ですから」
「これにて一件落着ってかァ」
おじいちゃんは肩をすくめて笑った。
「証拠も提出されたことだし、今回の法律違反には
目を瞑ってやる」
「ありがとう、おじいちゃん。それじゃあ僕、
ちょっと行く所があるから」
僕はベテルギウスさんに軽く頭を下げ、隊長室を後に
した。廊下へ出ると、すぐにスマホを取り出す。
震える手で番号を入力し、ほんの少しためらった後に
通話ボタンを押した。
「……もしもし、アルタイル君?」
「ああ、スピカか。どうした、何かあったのか?」
電話の奥からいつもと変わらない声が聞こえた。
「うん……実は2人きりで会いたいんだけどさ、
良ければ鵲屋まで来てくれないかな」
「えっ!?お、お前星雲隊に追われてるんじゃ……」
「ううん。色々あって、法律違反に目を瞑ってくれた
んだ」
「そうか、良かった……よし、じゃあ今から鵲屋に
行くから待ってろよ!」
通話はそこで途切れた。
静まり返った廊下に、自分の呼吸音だけが聞こえる。
「はぁ……」
スマホを握ったまま、小さく息を吐いた。呼び出して
本当に良かったんだろうか。今になって、不安が押し
寄せてくる。おじいちゃんやベテルギウスさんに
聞けば、真相は分かるはずだ。それでも………
どうしても、アルタイル君自身の口から聞きたい。
僕はスマホをポケットにしまい、ゆっくりと歩き
出した。




