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前世最強退魔師、転生して最弱に ~現代ハンター社会で霊力無双~  作者: 甲賀流


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第5話


「さて、残るはレッドゴーレムだけか」


 俺はさっき倒して手に入れたエアリアルタートルのドロップ品、緑の水晶玉を【インベントリ】という空間にぶち込んだ。


「このような便利技を使えるのがハンターだけとは、全く解せないな」


 そう、退魔師の頃に持ち得なかった力の一つである【インベントリ】。

 外界至るところに存在する魔力を使って、自分独自の空間を創りあげるスキル。


 今世ハンターである俺が使えるのは当たり前だが、前世使えなかった苦い思い出も相まって、なんとも複雑な気持ちになっている。


「……まぁいい。とにかく次だ。最後のモンスターの場所を探す」


 ここで使うはやはり【マッピング】スキル。


 他生徒とは極力すれ違わず、目的のレッドゴーレムに会えるルートを探す。


 いくつも白い空間があるとはいえ、参加者の数を考えれば誰かと遭遇するのはどうしても避けられない。


 しかしできる限り、知ってる顔ぶれは避けるようにしている。


 特に同じクラスの奴なんかは、今の空木廻をある程度知っている。

 だから……その、取り繕うのが非常にめんどくさい。


「【マッピング】」


 そんな俺にとって一番都合のいいルートを探すべく、マッピングを使用したわけだが。


「……ものすごい勢いで近づいてきてるぞ」


 マップ上、明らかに一点へ突っ込んでくる反応。しかもめちゃくちゃ速い。


 俺自身、気づくのが遅かったってのもあるが、今急いで逃げるのも、それはそれで目立つ。


 だから結局対面する他ないわけで。


 バコンッ――


「あぁ――――っ! 避けてぇっ!」


「あぶぅっ!」


 突然響く何かが破壊された音。そしてその直後に押し迫る背中への衝撃により、俺は床へ突っ伏す形になった。


「……あれ、廻!? ご、ごめ〜ん! ちょっと勢いあまっちゃって!」


 アハハ、と遠慮気味に微笑むのは俺の……いや、廻の幼馴染であり、ハンター学校の同級生――桐島澪である。


「ご、ごめんと言うなら、そこから退いてくれないかな?」


 今も尚、突っ伏す俺の背中に跨っている彼女へ、廻らしい口調でそう言った。


「あぁ、ごめんごめん!」


 澪はよいしょっと俺から飛び退く。


「ほら、立てる?」


 その後優しく手を差し伸べてくれたので、俺はその厚意に甘えて、遠慮なくその手をとった。


「ありがとう」


「廻、調子はどう? モンスターは何体か倒せたの?」


 ここから少し立ち話。

 まぁ知った人と遭遇すれば、当然そうなるか。


「うん、一応ジャッカルとタートルくらいは」


「え……っ!? どうやってよ!?」


 澪は俺の襟元を掴み、強引に引き寄せてきた。


「グウェッ!」


「どうやって、虚の器で倒したの!? それか密かに近接戦闘の訓練でもしてたとか!?」


「澪ちゃん、ちょっと近いよ」


「……だ、だって廻がモンスターを倒すなんて、想像もしてなかったから」


 えらい言われようだが、まぁ仕方ない。

 今の俺、空木廻の客観的評価なんてそんなところだろうし。


「ま、まぁEランクくらいは倒せるようにならないとね」


「そうね。でも廻、最後のレッドゴーレムだけは避けた方がいいかも」


「どうして?」


「あたしですらヒヤッとする場面が何度かあった。それくらいヤツは動きも速いし、頑丈、攻撃の威力だって高い。今回は先着10人が合格だって言ってたけど、多分あれに勝てるのって一年生じゃ、それこそ10人いるかいないかじゃないかな?」


「その言い草、澪ちゃんは倒したの?」


「もちろん! 初めから言ってたでしょ? あたしは合格するって!」


 澪はそう言って自身の【インベントリ】から、赤い水晶を取り出した。

 もちろんそこにはゴーレムらしき絵柄が描かれている。


 実際にゴーレムと対峙した彼女が、自分なりに分析した結果――そんな澪が言うのだから、その妥当性はかなり高い気がする。


 それに俺の【マッピング】でも、ジャッカルとタートルの数は確実に減っていっているが、ゴーレムまだまだ健在な個体が多い。

 

「そっか、すごいな澪ちゃんは」


「あたしは、めーっちゃくちゃ強いからね」


 ダンジョンを攻略する上で大事なものは、自分の力に対する絶対的な自信と信頼。

 澪はそれをすでに兼ね備えている。


 ここ三百年の歴史を知る俺からしても、彼女はきっとこれからどんどん強くなるだろう。


 俺も、置いていかれないようにしないとな。


「……ってツッコんでよ」


「え、なにが?」


「だから――こんな自信過剰なのおかしいでしょ? 冗談なんだからツッコんでよって!」


「あ、ごめん。本気かと」


「もうっ! これが本気ならあたし、ただの嫌味な女じゃん!」


「……そう、だよね。良くない良くない」


 そんな俺の態度に澪は首を傾げている。

 少し反応が怪しかったかと思ったが「ま、いっか」と彼女が納得したところで、この話は上手く流れた。


 しかしそうなると、直接的な自信の表現はしない方がいいということになる。


 ……ひとつ、勉強になったな。


「それにしても、ダンジョンって本当に危険なんだね。演習用でもこんな強敵が出てくるなんて」


 どうせだ。

 今の現代についても状況を確認しておくか。

 

「うん。でも、実際のダンジョンはもっとヤバいよ。だいたい二十層を越えたあたりから、レッドゴーレム級のモンスターがウロウロしてるらしいし」


「二十層……」


 彼女の言うとおり。

 今でいうDランクのモンスターは二十層を越えた辺りから増え始める。


「現役ハンターで、今の最高記録は五十五層まででしょ? それより上層はもう未知の世界。七十九層までは昔、すごい人たちが攻略したらしいけど、その攻略情報は全く役に立たないんだって」


「……なんで?」


「どうも三百年前の記録に残されているボスと、今のボスって全然個体が違うらしいの。ダンジョンって、倒されたモンスターは復活するでしょ? どこでどう切り替わったのか分からないけど、復活する過程で、モンスターも進化してる、なんてことも言われてる。ま、本当のことは誰も知らないけどね」


「へぇ〜」


 あの頃とボスも違っているのか。

 そうなると、八十層へ行く前の肩慣らしくらいにはなりそうだな。


「澪ちゃん、五十六層以上って今はいけないんだっけ?」 

 

「……え、何? 廻、その上に行くつもりなの?」


 彼女は目を開け、唖然としている。

 現代知識の確認として投げた問い、さすがに廻らしくなかったか。


「あ、いや……違くて、その、ただの興味本位だよ」


 澪はしばらく目を開け続けていたが、はぁ、と嘆息を吐いたのち、ようやく問いに答えてくれた。


「ダンジョンへの転移装置ができたのが、ちょうど五十年くらい前だから、今は新たに開拓中でしょ? 廻、もしかして学校の授業聞いてない?」


「き、聞いてるって! ちょっと自分の知識があってるのか、確認したくて。あはは」


「ふーん? ま、いいわ。そろそろ先に進まなくちゃね」 


 さっきから怪しまれてばかりだ。

 学校では廻として振る舞うと決めたのなら、覚悟を持って貫きとおさねばな。


「じゃあ、あたしはゴールへ向かうけど、くれぐれも……」


 澪は言葉を溜めた。

 そして一拍おいて、次の言葉を言い放つ。


「レッドゴーレムには気をつけてよ? ここまできたら、廻も戦うつもりなんでしょ?」


「うん。でも大丈夫。僕には〈虚の器〉があるから」

 

「……はぁ。いくら〈虚の器〉で外傷を防げても、痛みや衝撃は残るでしょ? それでショック死でもしたらどうするのよ!」


 大きな溜息。と同時に、彼女からは心配の声。

 ここまで身を案じてくれる人が傍にいるなんて、空木廻とはなんて幸せな人間なんだ。


 全く、白影柊真の人生とは大違いだな。


 ……って俺の過去なんて今はどうでもいい。


「ありがとう、澪ちゃん。危ない時は、素直に逃げることにするよ」


「うんうん、それがいい。廻だってちゃんとここを卒業すればハンターになれるんだから。今焦ってダンジョンに行く必要なんて全くないわ」


 と首を縦に振って、納得の意を示す澪。


 そのまま解散の流れとなった。


 澪はゴールへ、俺はレッドゴーレムを探しに、お互い別の歩みを進めていった。


 彼女へは適当にほっつき歩いてみるよとは言ったが、もちろんゴーレムの居場所はすでに明白。


 俺は目的の部屋一目散に駆けていったのだった。


 

 * * *



 レッドゴーレムがいるであろう部屋の前の空間にまで足を運んだ。


 がタイミング悪く、他の生徒が挑戦中。


 例え一緒に倒したとしてもドロップ品を手に入れるのはどちらか片方なわけだし、ここで共闘したとてトラブルが増えるだけ。


 大人しく他のゴーレムの所へ向かうか。


 バタンッ――


「うわぁぁっ!」


 噂の男子生徒が飛び出てきて、俺と肩がぶつかり合う。


「う、空木っ!?」


「あ、君はたしか同じクラスの……」


「空木、悪いことは言わねぇ。この先は行かねぇ方がいいぞ。分かったな?」


 青ざめた顔で必死の助言。

 俺を思ってのことだろうから、ありがたく受け取っておく。


「ありがとう」


「お、俺はちゃんと伝えたからな? 死んでも俺を恨むんじゃねぇぞーーっ!」


 そう言って彼はこの場を立ち去っていった。


「いいクラスメイトもいるもんなんだな」


 一年一組ではどうしても白影京士と、その取り巻き連中が目立って仕方ない。


 だからこそ目にいかなかっただけで、そういった心優しい子たちも中にはちゃんといるってことだ。


 そのうち――仲良くなってみるのもいいかもしれないな。


 俺は扉を開けた。この先に待ちかまえる選抜試験最後の砦、レッドゴーレムを打ち倒すべく。


「ゴアァァァァァァッ!!」


 俺を襲うのは部屋全体を包む灼灼たる熱気と、ゴーレムの迫力ある怒号。


 体感温度にして、約60℃あたり。

 基本的にダンジョンとは外的要因で気温が変わりにくい仕様のはずだが、それでもこの熱さ。


 本来の体表はさらに熱いはず。

 まぁ昔は触れずに倒していたから、その熱さのほどまではよく分からないが。


 こりゃハンターにもなっていない彼ら学生じゃキツイわけだ。


 そもそもこれに勝てるやつ、本当に10人もいるんだろうか?


「ま、ダンジョンに挑む前の準備運動くらいにはなるか」


 俺は霊力を手のひらに圧縮した。


「いくぞっ! 【霊衝】」


 そして圧縮したエネルギーを撃ち出す、かつて最も使い込んだ技を、今まさに迫り来ているレッドゴーレムへ向かって放ったのだった。

 

 

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