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前世最強退魔師、転生して最弱に ~現代ハンター社会で霊力無双~  作者: 甲賀流


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第19話


 ダンジョン演習から二日が経った。


 関西弁の呪祓師が去った後、演習に参加してた他の生徒に、諸々の説明をどうするべきか悩んでいたが、いらぬ心配だった。


 俺はレイの提案により、怜本体のスマホから、ある指示を出したのである。


『緊急事態発生。チームごとに集まって、すぐさま脱出してください』


 こういったメールを送ったのだ。


 おかげで誰とも鉢合わせることなく、ダンジョン演習を無事に終えることができた。


 そしてあの異常事態の後、学校は全学年を対象に二週間の臨時休校を発表。


 生徒たちの間では当然のように噂が飛び交っていたが、その真実を知る者はほんの一握りだ。


 というか……俺と俺の召喚体、バルとレイくらいのもの。


 ――だと思っていたが。


 俺は今日、学校に呼び出しをくらっている。

 その差出人は……神楽木怜。


 あの演習で命を落としかけた教師、そして俺の召喚体であるレイの本体。


 このタイミングでの呼び出し。

 彼女も真実を知る一人なのかもしれないな。


 そしてあの時仮死状態だった彼女は、レイのスキルにより元の姿へ。

 その後、俺の【霊繕】による回復術で一命を取り留めたのだった。


 ――だったら初めからそうすれば良かったんじゃないかなんて思ったが、そんなものは後の祭り。


 まぁもしかしたら怜なりの考えがあったのかもしれないので、タイミングが合えば今日聞いてみるつもりだ。


「……緊張、するわね」


「おぉっ!? また勝手に出てきてるのか、レイ」


「誰も見てないんだし、いいじゃない」


 学校への通学路。

 レイはさも当たり前かのように、俺の隣に並んで歩いている。


 契約して二日。

 事ある毎に姿を現すので、俺自身この現象に少しずつだが慣れつつある。


「……あと、なんでお前が緊張してるんだよ」


「え、っと……その、初対面だし」


 なぜか自分の本体に会うだけなのに、頬を赤らめている俺の召喚体。


 この二日間、何度か思ったが、霊体のレイと本体の神楽木怜、全然違う。


 なんというか、クール100%の怜に対して、クール70%、お茶目30%が混じったような。


 ま、どうでもいいが。


「……そうですか」


 俺は呆れ気味に嘆息を吐き、そのまま足取りを進めていった。


 

 * * *

 

 

 到着したのは学校の一角にある特別指導室。


 そこは普段、重要な会議や個別面談に使用されるらしく、俺は初めて足を踏み入れた。


「……あら、ノックもなしに指導室へ入るなんて。えらく肝が据わっているのね、空木廻」


「あ、えっと、すみません、先生」


 わざわざ休みの日に呼んだのはそっちだろと、思いつつも、俺はソファに座る怜に一応謝意を示す。


「冗談よ。それと、そんなにかしこまった話し方じゃなくていいわ。もっとフランクな感じで。私と貴方の仲だしね」


 そう言ってニヤニヤとする怜を見て、俺はどこかの召喚体と面影が重なる。


 なんだかんだ、怜はレイなんだなと感じた。


 ちなみにそのレイは、今俺の中に隠れてしまっているが。


『……心の準備がね』


 ――とのことらしい。


 しかし私と貴方の仲、ってのは、もしかして俺とレイのことを言っているのか?


 まぁこの二日間、霊体とはいえ、レイに対してはずっとタメ口で話している。

 だからこそ、目の前の怜に対してもかしこまらず話せるなら、俺としてはありがたい限りだ。

 

 そしてソファ同士が間にあるテーブルを挟むように向かい合っているという配置。

 俺は怜の座る向かいのソファに腰を下ろす。


「空木廻。まずは……今回の件、ありがとう」


 向かいに座る神楽木怜が、柔らかく微笑んだ。


「いや、そんな大したことはしていない」


「いいえ。貴方は桐島澪を助けてくれた上に、その加害側である白影京士の暴走まで止めてくれた。そして……あの呪祓師から、私のことまで守ってくれた。それに、この足も……ありがとう。すべてにおいて、感謝してもしきれないわ」


 怜が言葉にしたのは、全て紛れもない事実。


 怜の切断された脚だってそう。

 【霊繕】によって元に戻すことができたのだ。


【霊繕】の力の根底は、元に戻すということ。


 時間が経てば経つほど治すのは難しくなり、逆に短時間であれば、なくなった四肢をも取り戻せる。


 あの時は呪祓師を倒した後に【霊繕】を施したため少し時間が経ちすぎていた。


 修復できるか心配だったが、おそらくあの凍結がよかったのだろう。


 あの氷は、体の時間的概念までをも止めてくれていたのだと思う。


 じゃなきゃ間違いなく再生しなかった。


 まぁそれはよかったとして……問題は澪と京士の件について。

 この真実こそ、どこにも露呈されていないこと。


 あの時撮影ドローンは壊れていたし、もちろん俺だってまだ誰にも口にしていない。


 だったら、なぜだ。


 なぜ彼女は、このことを知っている?

 

氷界透視(フロストビジョン)よね、私? 冷気を張り巡らせて、その空間で起こったことを全て把握することができるのよ」


 背後から同じ声。

 そして向かいには引き攣った顔の怜がいる。


「……霊体の私って、こうも口が軽かったのね。それとも空木廻、貴方がそういう風に仕込んだのかしら?」


「いや別にそういうわけじゃない……って先生、今更だが、これってどういう状況なんだ?」


 俺は肉体と霊体、交互に目をやる。


「そうねぇ……」


 と、口を開いたのは本体の彼女。


「彼女は、私の霊力の一部ってところかしら。もっとも今は貴方の霊力が、私の霊体を構築しているようだけど」


「……分裂、みたいなことか?」


「端的に言うとそういうことになるわ。それぞれが独立した存在。今はお互いが全く関与していない完全なる別個体よ」


 つまり彼女の一部の霊力を抜き取って、それを俺の霊力が形作った、そういうことか。

 

 こんな事例は初めてだ。

 契約とは死した者のみに適応されるとばかり思っていたが、どうやら違うらしい。

 ……いや、あの時の仮死状態が、今の状況を作り出しているのかもしれないな。


「……別個体? 言うわね、貴方」


 冷たく冷え切った声。

 レイが怜に向かって言葉を放った。


「ちょ、ちょっと!? 貴方、何を言うつもり……」

 

「廻、いい? 今の私達は霊力が共有されている状態なの。だから私を形作っている貴方の霊力は、肉体側の私にも反映されている」


 俺の召喚体がベラベラと話すせいで、目の前の怜の顔がどんどんと青ざめていく。


「つまりこの契約のおかげで、神楽木怜自身も、退魔師として強くなったってわけ」


 なるほど。

 レイは怜の霊力の一部として生まれ、今は俺の霊力を通して存在している。

 そして俺の霊力はレイを通して、怜本人にも分け与えられているというわけか。


俺の召喚体が全てを言い切ったところで、本体の怜は大きくため息を吐く。


 レイが全てを言い切ったところで、本体の怜は大きくため息を吐く。


「……そうよ。全てその子の言うとおり。貴方が契約してくれたおかげで、私は強くなれた」


「今まで退魔師の契約について、たくさん研究してきたの。だから……計算通りなのよね、私?」


 一切口の閉じない霊体に、怜は「これが自分の霊体だなんて……」と小さく呆れ口調で漏らす。

 

 なんというか……不憫だな。


「ということよ、廻。貴方の霊力はこれから私によって利用されるの。嫌なら早く契約を解くことね。じゃ、失礼するわ」


 レイはそう言い残して、まるで逃げるようにそそくさと俺の影に沈んでいった。


「……はぁ。まぁいいわ。全てその通りだし。だけど、できれば貴方にはこのまま契約を続けて欲しいの」


「どうしてだ?」

 

「私は今、新しい霊術を生み出す研究してるの。だけど……それにはたくさんの霊力が必要。もちろん、私の霊力では限界がある。だから、貴方の力が欲しいのよ。それがあれば、私はもっとたくさんの霊術をあみ出すことができる。そして戦うことができるの――あの、化け物たちと」

 

 彼女の瞳からは、たしかな強い意思と熱い情熱を感じる。


 怜のいうあんな化け物とは――


「呪祓師のことだな?」


「えぇ……」


「なんなんだ、アイツらは?」


「それについては、少しだけ情報があるわ」


 怜の表情が引き締まる。


「呪祓師たちは基本、五十五層より上を拠点にしているらしい。そして彼らは皆、かつて退魔師だった家系で、その力を元に呪術という力を手に入れた奴らよ」


「元々退魔師、だったのか?」


「そう、元を辿れば私や貴方と同じ、霊力を使って戦う退魔師だったの」


 いや、そうだろうなと、心のどこかでそんな気はしていた。


 術式全てが退魔師の術と似通っていたから。


 呪力の気配も霊力の感じに近いものだったし。

 だけど、全くの別物だ。


「……彼らの呪術は、私たち現代退魔師の力を大きく上回る。だからこそ、霊術の研究が必要なの。お願い、空木廻。その力を私に貸して」


 怜は俺に深く頭を下げた。

 その真摯な想いからは、一切の邪念を感じさせない。


「わかったよ、先生。レイに分け与えた霊力くらいは好きに使ってくれ」


 俺は快く承諾した。


「……いいの?」


「あぁ。俺にできることなら協力したい」


「ありがとう……空木廻」


「いいよ、俺も1人の退魔師だからな」


 現代退魔師の力になれるのなら、俺としても願ったり叶ったりだ。


 それに、召喚体のレイは俺にとってもかなりの戦力になる。

 見たところ、レイは本体そのままの力を持っているようだしな。


「……空木廻、貴方は退魔師なのよね?」


「あぁ、そうだが」


 怜の疑問に、俺はわけも分からず答えた。


「誓魂の契約や霊繕。それらを使えるのは百年以上前に存在していた原初の退魔師だけ。いや、それでも完全に使いこなせるなんてほんの一部だけのはず。貴方……何者なの?」

 

 原初の退魔師。

 その単語を聞くのは、3回目だ。


「それが言葉通りの意味だってんなら、俺は、その原初の退魔師ってやつだ」


 今更隠しても仕方がない。

 いや、ここまでの力を見せておいて、むしろ隠す方が無理がある。


「やっぱり、そうなのね」


「……といっても、空木廻はただのハンターだ。退魔師なのは、この中の俺、白影柊真だがな」


「……え?」


 怜の体が、ピクリと硬直する。


 静寂。張り詰めた空気。

 まるで時が止まったかのような。


 やがて、小刻みに震える指が、テーブルに置いてあった空の湯呑みを倒した。


 カラン、と高い音を立てて湯呑みが床に転がる。


 それから一拍、二拍置いてから、


 ようやく時が動き始めた。


「白影……柊真さまァッ!?!?」


 怜の絶叫とともに。


「うおっ!? ビックリした!」


「し、失礼。す、少し心の整理を……じゃなくて、トイレに行ってきま……ッ!?」


 ガタッ――


 間にあるテーブルに足をぶつけても尚、怜は表情を変えずにこの部屋を飛び出していった。


「あの感じ……俺の名前って、現代にも多少は広がってるのかねぇ」


「……多少、どころじゃないわよ」


 レイの声がまたも背後から響く。


「なんだ出てきたり、引っ込んだり」


「そろそろ、出てきてもいいかなと思ってね」


 なんの心の準備か知らないが、とにかく色々整ったようだな。


「で、俺の名前ってみんな知ってるのか?」


「えぇ。退魔師なら全員知ってるわ。何せダンジョン八十層まで上った歴代最強の退魔師なんだから。みんなの憧れの的になるのは当然ね」


「憧れの的って……」


「もちろん怜もその内の一人よ」


 廻として生きてきたので現代のことは色々知ってるが、これはいわゆる『ヒーローとか英雄』みたいなことか。


 なんというか英雄として見られるのは、どうにもむず痒い。


「いいえ、それよりも『推し』に近いわ」


「……なぁ、目の前にいるのに、心の声読むのやめてくれないか?」


「あら、ごめんなさい」


 これがレイと契約したデメリットの一つ。


 心の声すらも全て通じてしまうこと。

 しかも一方的にだ。

 向こうのは一切分からない。


 人と契約するのは初めてなので、これは非常に盲点だった。


「でもね、それくらい怜は貴方、白影柊真のことを尊んでいるのよ。歴史書の中だけの存在だと思っていた『推し』がまさか、こうやって他者の中で生きてたんだから。現に私だって……」


 レイは一息ついたのち、そのまま畳み掛けるように言葉を綴っていく。


「契約して初めて貴方の魂に宿った時、そして貴方の記憶を垣間見た時、それこそ心の臓が口から溢れるかと思ったわ。だって白影柊真の記憶全てがここに眠ってあるのよ? 戦闘場面から何気ない日常の日々まで。こんなの、興奮して当然……」


 ガチャッ――


 これまで見たことないほど、興奮した面持ちでベラベラとレイが話している最中、本体の怜が指導室ドアを開けた。


「ごめんなさい。今戻ったわ」


 怜はトコトコと元の位置まで戻り座ろうとするが、チラッと俺を一瞥する。


「なにか?」


「お茶、入れてなかったわね。少しだけ待っていて……ください」


 なんか口調変わったな。

 目もチラチラと逸らされるし。


 彼女はその足取りを、指導室奥にある給湯室のような一室へ向かっていった。


「なぁ、これがさっき言ってた推しってことなのか……ってまた居ないし」


 レイのやつ、また影に潜りやがったな。


 そしてそれから10分少々、お茶を入れるにしては長い時間を待たされたのちに現れた神楽木怜は、すっかりいつものクール100%に戻っていたのである。

 

 


 

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