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前世最強退魔師、転生して最弱に ~現代ハンター社会で霊力無双~  作者: 甲賀流


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第18話



 爆発の嵐が止む。


 視界は徐々に開かれ、ようやく今まで通りの湿地帯が姿を現した。


 しかし黒の門と、あの無数の霊体は消滅。

 門のあった箇所は大地が割れ、底の見えないほどの奈落が口を開けていた。


 地面には無数の大クレーター。


 そしてあちこちは焼け焦げている。


 これはさすがに、元の景色とはいえない。

 まさに変わり果ててしまった地だ。


 なのに、俺の体は全くの無傷。

 まぁ無傷なのは固有スキルの影響だが、痛みの余韻すらないのはさすがにおかしい。


 なぜだ?


「貴方、何を考えているの?」


 またこの声だ。

 確実に実体のある女性の声。


 だが、周りには誰もいない。


 唯一傍にいた神楽木怜は、今もまだ仮死状態。


 近くの霊力を探っても――


 上……?


「おわぁッ!?」


 見覚えのある淡い銀髪。

 白く透き通った肌。


 そして季節外れの青ロングコートを羽織る女性。


「いくら〈虚の器〉で体が壊れないからって、心は簡単に壊れちゃうのよ!?」


 俺の頭上斜め前には、腕を組み、ムスッとした顔で見下ろしてくる神楽木怜……の霊体がいた。


 レイ――


 俺はそう呼んでいる。


「廻、貴方その辺りは分かっているのかしら?」


 彼女はスーッと目の前に降りてきて、次は前屈みで俺を見上げるように顔を覗かせる。

 

「いや、まぁそうだな」


「いいえ、分かってないわ。だって本当に分かっているのだとしたら、あんな行動は絶対にとらないもの。ちなみにあんな行動っていうのは、本来なら【霊甲】で身を守った上で放つ【霊華爆輪】とかいう大技を、一切自分の身を守らずに行ったことよ」


「それは、〈虚の器〉ってのがあって……」


「知ってるわ。今や私は貴方の所有物、召喚体ですもの。廻、貴方の持つ固有スキルが〈虚の器〉だってことも、精神世界には白影柊真という三百年前の退魔師様がいるってこともね」


 契約した霊体は、俺の中に魂を宿す。

 だから俺のこと全てを知るのは当然のこと。


 しかし廻と柊真、まさか両方の魂まで認知されるとは思いもしなかったな。


「……というかレイ、どうやって召喚術なしで表へ出てきたんだ?」


 そもそも召喚体とは主……つまりここでいう俺の霊力で、その姿かたちが構成されている。


 だから自分の意思だけで現れるなんて、普通に考えると有り得ない。


「私は、私の霊力を込めただけよ。初めてだったけど、上手くいったみたいでよかったわ」


「よかったわって……」


 主である俺自身、未だに信じられない。

 こんなこと今まで経験がない……というか、まず前例すらないのだから。


「つまり霊力を持つ退魔師が誰かの召喚体になった場合、主の意思に関係なく外に出られるという解釈で合ってるかしら?」


 レイは顎に手を置き、冷静にそう言った。


「今のところは、なんともだな」


「ま、いいわ。諸々は後で考えるとして――」


 彼女は一息置いたのち、再び口を開く。


「私が今、表に出てきた理由、もちろん貴方を守るというのがまず一つだけど、あともう一つだけ……私をこんな目に遭わせた奴の、最期を、しっかりと自分の、この目で……」


 呪祓師へ視線を送ったレイは、突如言い淀む。

 そしてようやくの思いでゆっくりと言葉を吐いていく。

 

「……まだ、生きてるの?」


 そこには呪祓師の佇む姿。


 しかし全身は傷まみれ。

 至るところから血は流れ、むしろ生きているのが不思議な状態だ。


「ヒヒヒッ……!」


 それでも男は笑っている。


「……あなたの、血さえ手に入れられれば、死なずに済んだん、ですがね」


 彼は静かにそう呟いた。


「呪祓師、なぜお前は俺の血を欲しがる?」


「……クフフッ、なぜ、ですか。それは……僕が呪祓師だから、ですよ。強い、呪力を生み出すには、より霊力の濃い、退魔師の血が必要、ですから」


「なん、だとっ!?」


 嘘だろ?

 あの呪術って力、俺達の血を使って生み出したっていうのか?


「なるほど。だから退魔師の数が、ここ数十年で激減したってわけね」


「レイ、それってどういう……」


 ボワァッ―― 


 その瞬間、


「あぁぁぁああああああっ!!!!!!」


 男は一切の前触れもなく、突然燃え始めた。


「なんだっ!?」


「何っ!?」


 灼熱の黒い炎。


 一瞬にして最高温度まで達したその炎は、そのまますぐに鎮火。

 そして男は……いや、男だったその肉体は、黒い塵となって崩れ落ちたのだ。


「……呪力?」


 レイがそう感じとったように、俺も同種の気配を感知した。

 

 これは明らかに、自然発火じゃない。

 この黒く禍々しい感じ、確実に呪力のそれだ。


「力の代償ってやつか?」


 そういえば戦いの時も腹部を刺したり、手首を切り落としたり。

 何かと代償を支払っていた。


 つまるところ、今回の黒い炎もそういった強大な力を得たことの精算なのかもしれないな。


「いや惜しいな兄やん。この炎は残念ながら力の代償やない。ワイからのお仕置っちゅうやっちゃ!」


 黒く光り輝く方陣の上に立つ男。

 いつの間にか、ソイツはそこにいた。


「っ……!?」

 

 俺は今の今まで、その男の気配を一切感じ取られていなかった。


 そこに立つのは着崩した黒装束に、だらしなくも妙に顔立ちの整った白髪の青年。


 関西の軽妙な口ぶりでありながら、全身から溢れる呪力の密度は、先ほどの呪祓師とは全く比べ物にならない。


「彼、ちょっと喋りすぎやわ。あれ以上ほっといたら、次は何言うか分からんかったから、思わず燃やしてもうた」


「お前、何者だ?」


「ワイか? ただの呪祓師や。けど、さっきの雑魚とは一緒にせんといてな? ワイは、ホンマもんやさかい」


 ぞわり、と背筋を撫でる不快な圧。

 存在するだけで周囲の空気が重くなる、圧倒的な呪力総量。


 言葉だけじゃない。

 本当にさっきの呪祓師とは格が違うようだ。


 それどころか、底がしれない。

 こんな人間、三百年前にすら数える程しかいなかったぞ。


「お前、ここで戦うつもりか」


 こっちにはレイと、今は影に潜っているが、バルだっている。

 戦力としては、まだこちらに分があると思いたいところだが……。


「いんや、今日は戦わへん。二十五階層とかいう下層でワイが動いたら、このダンジョンごと消し飛ばしてしまいそうやからな」


「……」


「……冗談やがな。ジョークや、ジョーク。そない怖い顔せんでもええやんか。ま、ワイにもすることっちゅーのがあんねん。こう見えて、忙しいもんでな」


 一人ひたすらに話し続ける彼に、俺は返す言葉が見つからない。

 レイも同じ気持ちなのか、表情を全く変えず、口を閉ざしている。


「ま、安心せぇ。いずれまた会うことになる……いやワイから会いに行くと思うわ。愛しいあんさんにな」


 呪祓師は、まっすぐ俺を指差す。


「……なぜだ?」


「んなもん決まっとる。ワイが見るに、あんさんが現代最強の退魔師はんやからな」


 言い終えると同時に、男の足元の方陣が再び強い光を放ち始める。


「ほな、達者でなァ。次会った時は、その血――もらうで?」


 黒い光の輝きが、最高潮に達した時、呪祓師の気配は完全に霧散した。


「行ったのか」


「みたいね。だけど、次は貴方を狙うって……」


 暗いレイの小さく震えたその声色からは、恐怖や不安が明らかに表情に溢れ出ていた。


「ま、別に今ってわけじゃないんだ。その間に何か対策を考えるとして……とりあえず、出ないか?」


 俺が彼女に促したのは、今まさに継続中のダンジョン演習の授業を終わりにしないか、という提案である。


 霊体とはいえ彼女は神楽木怜。

 この演習の最高責任者だ。

 彼女に確認をするのは、ごく自然なこと。


「……そうね。そうしましょうか」


 レイは、仮死状態中の自らの肉体を一瞥したのち、納得したように首を縦に振った。


 こうして一年一組、初めての選抜試験とダンジョン演習という大きな行事は、完全に幕を閉じたのである。


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