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前世最強退魔師、転生して最弱に ~現代ハンター社会で霊力無双~  作者: 甲賀流


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第16話


 

 俺――空木廻が霊力を辿ってたどり着いた先、そこは悲惨な光景だった。


 黒装束の男が二人に、片脚を失った神楽木怜。


 そして今まさにトドメの一撃が放たれようとしていた。


 あの男が怜に向かって放とうとしているのは、もしかして【霊衝】?

 しかしあんな黒いエネルギーなど、俺は知らないぞ。


 いや、今はそんなこと考えている暇はない。


「……いけ!」


 俺は考えるよりも先にこの術を放った。

 これが今放てる最大威力の【霊衝】!


 完全に十割の力を出し切った。

 軋む身体は二の次、まずは怜を助けなければいけないという一心で。


 バンッ――


 命中した。

 ちょうど術を放とうとしていた黒装束の男に。

 そして大きく吹き飛ばされた。


「何者ですかっ!?」


 もう一人の黒装束が声を荒らげている。

 完全に殺意がこちらへ向いたようだ。


 そんなことより、やはり廻の身体は凄いな。


 霊力がまだ馴染んでいない肉体でこれほどの力を使っても、少し軋む程度とは。


 本来なら全身が弾け飛んでもおかしくない。


 これが廻の持つ〈虚の器〉の力ということか。


「……柊真様」


 音もなく忍び寄る大きな影。


 白い仮面で顔を覆い、フードを被ったその人型モンスターは、膝を折って俺の前に跪いた。


「お前、バルか?」


「左様でございます! 我はこの時を……この時を、長い間待ち望んでおりました!」


 低い声で噛み締めるように話すのは、かつて柊真が契約していた召喚体、屍騎王バルムート。


 通称、バル。


 三百年前、俺が契約した元六十層のボスだったモンスターである。

 唯一自分の霊力を分け与えたからか、コイツだけペラペラと人語を話すようになってしまったのだ。


「ここに来た瞬間、なんだか力が溢れてきたんだが……これもお前の仕業か?」


「はい! 柊真様がお察しの通り、我に与えられた霊力を半分ほどお返し致しました」


「なるほど、相変わらず気が利くな」


「はっ!」


 活気のいい返事。

 まさに白影家の側近に相応しい立ち回りを三百年ぶりに見て、昔とちっとも変わらないんだと少し安心した。


「先生、そこで休んでてください。……あとは俺が片付けます」


 いや、昔を懐かしむのは後だ。

 今はこの状況を打開せねばならない。


「……お前ッ! 僕の召喚体のはず……なんで……なんで僕の命令に従わず、そんなやつの傍にいるのですかっ!? 契約者は……僕、僕でしょうがァっ!」


 こちらを見て取り乱す黒装束。


 あの口振りからするに、どうやらバルと主従契約を結んだらしい。


「そうなのか? バル?」


「はっ、一時はそのようなこともありましたが、柊真様の霊力を感じ取った瞬間に、所有権が元に戻ったようです」


 たしか二人の退魔師が一体のモンスターと契約した時、その所有権は契約の時に込めた霊力量の高い側に移るという。


 だから俺の元へ来れたというわけか。


「バルほどのモンスターを契約させるとは、見かけによらずアイツはかなり凄腕のようだな」


「い、いえ、霊術上、強制的な使役だったというだけで、我には柊真様との永劫的な契約がございます。ですので、柊真様以外から命令を受けることは決して有り得ません」


 なるほどな。


 しかし霊術による強制的な契約か。

 そんなもの、三百年前でも聞いたことないが。

 

「無視、ですか。いいでしょう。一郎、まずはあの女退魔師を殺してあげなさい!」


「ヴァァァウ!」


 俺たちが話している間に、向こうも体勢が整ったようだ。


 しかしあの獣のような雄叫びをあげる黒装束男、よく見れば顔も青白く、眼球も抜け落ちている。


 男の命令に従順なところも鑑みると、最悪の可能性を一つ思いついた。


「……アイツ、人間と契約したのか?」


 三百年前において、禁忌とされていたこと。

 契約術により召喚された者は、如何なる時も主人への命令に逆らうことができないからだ。


 だから俺たち退魔師は人との契約を、一切として行わなかった。


 現代の倫理やルールとして、人との契約がどういう扱いになるのか、細かいことは知らない。


 だが――良いこと、ではないだろう。


「バル、あの二人の足止めを頼む」


 命じるとバルは静かに立ち上がる。

 そして「はっ!」と一言短く返事をしたのち、この場から一瞬で移動した。


 バルが行き着いた先、それは召喚体であろう屍人の眼前。


 そして拳を水平に振るい、ソイツを勢いのままに吹っ飛ばしたのだった。


「……なっ!? うそ、だ……」


 さすがは六十層のボス、屍騎王バルムート。

 あの時の力は健在ってことか。

 

 俺はその隙に、怜の元へと向かった。


「先生、しっかりしてください!」


 すでに右脚は消失。

 霊術により焼き飛ばされたその大腿の断端には、ドス黒い残火が今もまだメラメラと燃えついている。


「……空木廻、あなた……何者? その純度の高い霊力、現代の退魔師でも……呪祓師でもない、ようだし」


 怜はすでに息も絶え絶え。

 一言一言を振り絞るように吐き出していく。


「今はっ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! まずは自分の命を優先してください!」

 

 顔色もよくない。

 それに首から顔の右半分にかけて、黒く太い血管がドクドクと脈打っている。

 それは……普通じゃない状態だ。


「回復術式【霊繕】」


 俺は急いで怜に流し込む。


「……【霊繕】。やっぱりあなた……」


 そう言って、彼女は俺の掌を包み込んできた。


「これじゃ、霊力を送れません! 手を離してください!」


「……いいのよ空木廻。どうせ私の体は呪力に蝕まれてしまっているもの」


「呪力?」


 聞いたことはない。

 だが彼女の顔に走る黒い血管、ここから異様なエネルギーを感じる。

 おそらく……いや、確実にこれが呪力とやら。


「ここまで莫大な、霊力を持ち……呪祓師を知らない、退魔師なんて……今の、現代には……存在、しない」


 息継ぎをしながら、言葉を紡ぐように出していく。

 


「私を……召喚体として、契約して。空木廻……いや、原初の退魔師様」

 

 耳を疑った。

 俺を原初の退魔師……いわゆる三百年前の存在だと見破ったこともそうだが、それ以上に信じられなかったことがある。


 それは契約――つまり死者の魂を縛り、召喚体として使役する行為。

 そんなものを自ら懇願してきたことだ。


「できません! そんな……命を捨てるようなこと」


「お願い……考えがあるの……。私は決して、死にはしない。だからあなたの……本物の契約術を私に見せて」


 そして怜は俺の手をパッと離し、微かにその口を動かした。


「……【白華葬(はっかそう)】」


 すると、彼女の胸部辺りに氷の華が咲いた。

 そしてそこから遠位へと広がるように、体が凍結していく。


「何、してんだ……っ!?」


 あっという間に四肢は氷漬け。

 残りは首以降。


「……頼むわね、廻」


 最後に見せた微笑み。

 その後、彼女の全てが氷に包まれてしまった。


 自死、というやつか。


 考えがあると言ったのは、俺の動きを少しでも鈍らせるため。

 つまりは確実に自分が死せるために思いついた、その場限りの口実。

 

 ――とは限らないな。


 凍った彼女の胸から、微かに……温もりと、脈打つ霊力が確かに感じ取れた。


 つまり彼女はまだ生きている?


 いわば仮死状態といったところか。


「……分かったよ、先生」


 俺はその場から立ち上がり、両手を前にかざす。


 「これが……俺の、契約――【誓魂(しこん)の儀】だ!」


 怜の真下に現れたのは、白い方陣。

 クラグ・ジャッカルと契約した時の紫の陣とはまた違う。


 今回の契約は完全なる当時の力。


 魂同士を結びつける永劫の契約。

 【契約の儀】の完全上位互換である。


 今これが使えるようになったのも、バルが霊力を分け与えてくれたおかげだ。


 俺は目を瞑り、霊力を込めた。


 魂との会話。

 そして時間にしてほんの数秒。


 怜の魂と、言葉通りの契約を結んだのだ。


 これが一方的な支配をせず、命令もしない――退魔師と召喚体が共に歩む真の契約。


「これからは、俺と一緒に戦ってくれ……レイ」


 霊力が満ち、彼女の中の魂が静かに宿った。


 そしてその瞬間――


「ふざけんな……ふざけんなよォォッ!」


 感情を乱す呪祓師の叫び声が響いた。


 どうやら、ちょうどバルが黒装束の召喚体を打ち倒したところだったようだ。


「バル……ありがとう。もう大丈夫だ」


 バルはそれからすぐ傍に寄ってきて、静かに俺の影の中へ沈んでいった。


「さあ、次は……俺の番だな」


 残るは黒装束、お前だけだ。


 俺が直々に倒してやるよ。


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