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前世最強退魔師、転生して最弱に ~現代ハンター社会で霊力無双~  作者: 甲賀流


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第10話


 教室に設置された大型モニターが、二十五階層ダンジョンの光景を映し出している。


 ちょうど今から、各グループが探索を始めようとしているところ。

 初めてのダンジョンで皆、緊張した様子がモニター越しでも伺える。


 ――いや、それよりも。


 俺は画面に映る三人の姿を見て、眉をひそめる。


 澪と、白影京士が同じグループだと?


 まるで悪い冗談だ。

 二人が性格、選抜試験後の険悪さを知っていれば絶対に組み合わせてはいけないって、誰にだってわかるはず。


 そんなチームを編成したのは、おそらく――


 画面の向こうで、彼らに班の内訳を直接言い渡した張本人――神楽木怜だ。


 無表情に腕を組み、本校の生徒たちにではないどこかへ視線を向ける彼女。

 その瞳は何を考えているのかまったく読めない。


 ――まさか、わざと?


 いや、いくらなんでも……。


 俺は小さく首を振った。


 何も起こらないでくれよ。


 そう願いながら、モニターを見つめ直した。


 

 * * *



 その頃、澪は――

 


 緊張と慣れない環境で喉がカラカラになる。

 ダンジョンの湿った空気が、やけに肌にまとわりついていた。


「そ、そ、そういえば、お二人はどうしてこんなに険悪ですの?」


 そんな中、何がとは言わないがまったく空気を読まないお嬢様の声が、静かなダンジョン内に響いた。


 あたし、白影京士、久世詩音。


 ダンジョン演習・二十五階層にて、三人一組のチームとして進行中。

 だがその道中ずっと無言のまま、というのもさすがに居心地が悪かったのだろう。


 言ったのは詩音。

 明るく上品な口調だが、場を和ませるには少しばかり、強引すぎる。


「え、えーっとぉ……」


 あたしはその返答に詰まる。


 険悪。そう言われれば確かにそうだが、どう説明すればいいのだろう。

 何もなかったとは言えないし、かといって今この場で掘り返したくもない。


「ハッ、そんなこと、どうでもいいだろ」


 そのとき、あたしの逡巡を断ち切るように、京士が吐き捨てるように言い放った。


 ああ、やっぱりそう来るか。


 空気が、さらに重くなる。


「あ、あれぇぇ……えっと、そのぉ……」


 詩音が戸惑いながらも何とか場をつなごうとするが、その努力は見事に空回っていた。


 ……どうやら、この子は相当な天然らしい。


 初めの印象では、冷静で落ち着いたお嬢様タイプかと思ったが……どうやら違ったみたいだ。


「あ、そうだ! えと、たしか怜先生が、今回はグループだけではなく、個人成績もみてそれなりの報酬を渡すって言ってましたけど、一体どんなものがもらえると思われますか?」


「……っ、し、知らねぇな」


 珍しく白影京士が一瞬、言葉を詰まらせた。それに肩も少しビクついていた気もする。


 なんというか今の彼の反応には、怒りよりも焦りの感情が強かったような。


 まぁどちらにせよこれも良い話題とは言えない。


 というよりグループで協力する演習に、個人成績を加えること自体が良くない方針だと思う。


 まるで仲間割れをしろと――


 そう言っているようなもんだ。


 そしてこのルールを決めたのが神楽木怜、本人なのだとしたら、


 あのハンター、相当良い性格をしてるわね。


「それよりも詩音さん、あなたの魔力感知はかなり遠くのものまで判別できるのね。すごいわ!」


 とりあえず話題は変えないと。


 そう思い、話の矛先を詩音へ向けた。


「えっ、えっと、そうなのです? そう思います? なんだか嬉しいですわ〜。実はこれ、ワタクシの得意分野でして……」


 興味が自分へ向いて嬉しいのか、自分の力について褒められたのが嬉しいのか、彼女の感情の行方は定かじゃない。


 だけど詩音が楽しそうに語る姿を見ていると、この重苦しい空気が――いくらかマシになった気もする。


「……み、皆様! ここから500メートル東、マッドデーモンの群れがいますわ。どうなさいましょう?」


「んなもん、ぶっ倒すに決まってんだろ!」


 まずはハッ、とひと笑い。京士は脇目も振らずに詩音が指す方角へ一人駆けていく。


「ま、待ってくださいまし! 澪さんも、早く行きましょ?」


「え、あ、うん!」


 あたしたちも後に続いた。


 しかし500メートル先にいるモンスターまで正確に分かるとはね。


 あたし……いや、あたしたちハンター学校の一年生だったら、その索敵距離はせいぜい100メートルくらいが限度。


 さすが得意分野というだけはある。


 しかもその個体名まで。


 だけどあたしたち――ダンジョンは初めてのはず。

 実際にモンスターと対峙するのだって。


 擬似ダンジョンで出現するモンスターの種類は限られてる。


 それこそ今追っているマッドデーモンなんて、教科書でしか見たことがないし。

 

 ――あれ、詩音さんって一体何者?


「み、澪さんっ!」


 彼女の呼びかけで我に返る。


 マッドデーモン――泥をまとったチビ悪魔。


 この湿地帯に、十数体がウヨウヨと飛び交っている。


 群れ単位での戦闘力はDランク……つまりレッドゴーレムに匹敵するが、単体では大したことないはず。


「ハァァァァッ! 死ねやぁっ!」


 鋼鉄で包まれた両腕を乱暴に振るう京士。


 ドスッ――


 ただの大振りで頭ごなしな一撃かと思いきや、あの小さなモンスターの脳天を叩き、見事に一発KOさせている。


 ドスッ――


 それは初手だけでなく、その後何体も。


 白影京士――あたしからしたら、憎き相手。

 今回の不正についてもそうだけど、廻を虐める普段の行いから、白影家という権力的な暴力を振りかざすその行為。

 全てに対して、怒りが沸いてくる。


 まるでハンター協会の上層部と思考が同じ。

 あたしはこういう社会を変えたいのだ。


 ……じゃなくて、今は協力しなくちゃ。

 みんなで力を合わせる!


 そう自分に言い聞かせた。

 

「あたしも……行くかっ!」


 グチャッ――


 泥沼のような足場。

 気づけばこの地一帯が泥でぬかるみ始めていた。


「チッ、なんだこれ!」


「わ、わ、わ……な、なんですのっ!?」


 京士、詩音の足元も同様。泥に沈むさまに焦る様子を見せている。


 ――重い。


 脚が地面にめり込むような感覚。

 

 そして目の前には、ぐちゃぐちゃの泥を滴らせながら、チビ悪魔――マッドデーモンが不気味な笑みを浮かべていた。


「ッ……来る!」


 泥の塊をぶん、と腕ごと振り投げてくる。

 それを横跳びで回避すると同時に、あたしは自身の身体にかかる重力を限界まで削る。


 ふわりと浮く。

 地を蹴る力がそのまま推進力となり、あたしは羽根のように加速した。


 目の前のマッドデーモンの体が、わずかに沈む。


 〈天秤の禊〉


 これがあたしの固有スキル。


 この能力の本質は、あたしと敵との重さのバランス操作。

 あたしが軽くなればなるほど、相手の身体には過剰な重力がのしかかる。


 それはまさに、天秤のごとく。


「ギギ……ッ!」


 マッドデーモンの足元の泥が、まるで沼のように沈んでいく。

 全身をどろどろに塗ったその体が、今や泥ごと自重で沈んでいるようだった。


「ギィィッ!」


 知らぬ間に迫っていた二体目の悪魔。


 あたしにとって、近接戦闘は得意な分野だ。この距離からの攻撃は決して外さない。


「〈天秤の禊〉」


 重さを最大限削った最速の拳――そしてその直撃の瞬間に、あたしは重力を逆転させた。


「――重力、反転っ!」


 拳の重さは自重を超え、相手――マッドデーモンに叩き込まれる。

 

「ギィッ!?」


 パリンッ――


 倒されたマッドデーモンは消滅というかたちで、ポリゴン状となって天へ昇っていく。


「あわわわぁ……」


 慌てふためく詩音の声。


 彼女はなんとか手に持つ槍のような武器でマッドデーモンを倒していっているが、肝心の足元が泥沼に沈みつつある。


「し、詩音さんっ! 〈天秤の禊〉」


 他者と自分を、重力の天秤にかけるこの能力。


 もちろん相手を軽くする、そんなサポート的な使い方もできるわけで。


「ぬ、抜けましたぁっ! 澪さん、ありがとうございまし!」


 そう言って詩音は再び戦いに戻っていく。


 やっぱりこの力、チーム戦でも役に立つ。

 それにこの二十五階層のモンスターにも通用するんだ。


 初めて擬似ダンジョンではない本物のダンジョンを経験して、強固になったこの自信と確信。


 思わず握る拳に力が入る。


 そしてようやく戦いが終わった。


「ふぅ〜。なんとか終わりましたわねぇ……」


「ふんっ、この程度、腕試しにもならねぇ!」


 詩音はやれやれと額の汗を腕で拭い、一方の京士は顔色一つ変えずそう言い放つ。


 そんな二人の姿を見て、あたしはひと段落ついたことを実感する。


 なんとか凌げたみたいでよかった。


 ブーッブーッ


 あたしたち三人のスマホが同時にバイブする。


「……なんだろ」


 そこには発信元がハンター学校の公式メールアドレスから。たしか選抜試験の時もこのアドレスから連絡が届いていた。

 だから、今回も何か演習に関わる内容のはず。


 

 桐島澪 150pts

 久世詩音 100pts

 白影京士 100pts


 以上がここまでの個人評価ポイントです。

 尚、演習終了まで加算は引き続き行っていき、総合的なポイントが高かった上位三名にはある報酬を用意していますので、お楽しみに。



 そんなメール内容。


「点数……?」


 メールが届いたのは戦闘の直後。

 つまりこの個人評価は、おそらくさっきの戦績から導き出したものだ。


 にしても配点が早すぎない?


 誰かが……いや、採点するとすれば、あの怜というハンターだろう。


 しかしどちらにせよ、人が点数を決め、メールを送信するには時間が足らなさすぎる。


 あたしは頭上に目をやった。


 あの撮影ドローンが戦闘シーンを記録しているのだとすれば、


 中に搭載されているAIシステムが採点をしている?


 そう考えるのが一番自然だけれど……。


「……このオレが、100pts、だと?」


 スマホ片手に、全身を震わす京士。


 自分が学年で一番だと自負し、参加者の中で最もプライドの高い彼としては不服極まりないだろう。


 その憤りはあたしを睨む彼の目が、彼の表情が全てを物語っている。


 そして――なぜお前が上にいると。


 そんな憎悪のこもった瞳だ。


「み、皆様っ!」


「っ! 次はなんだっ!」


 詩音から本日二度目の呼びかけに、京士は感情のまま振り返る。


「ありましたわ! この先――まっすぐ300メートルのところに、アストラカリスがっ!」


「し、詩音さん! 本当!?」


「ええ。たしかに感じますわ!」


 ついに見つけた。

 たしか課題はグループにつき、最低でもアストラカリス一本。


 つまり――この先のそれを採れば、あたしたちの成すべきことは終わりということ。


 なんか意外とアッサリ終わったような。


 どことなく物足りなさはあるけれど、初めてのダンジョン演習としてはこの辺りが引きどころだろう。


 これを糧に今後何度もダンジョンを探索して、あたしは立派なハンターに――


「……アストラカリスは、オレが採るっ!」


 マッドデーモンの時同様に、またも先走ったのは白影京士。


「……だからチーム戦だってのに」


「み、澪さんっ! ワタクシたちも行きましょっ!」


 独りよがりな京士に呆れつつもあたし、桐島澪と久世詩音は、駆け足で彼の後を追って行くのだった。

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