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愛する貴方を殺した世界を、私は許さない ~救国の聖女だった私が、処刑台の悪女になるまで~  作者: ぱる子
第3章:革命の戦火

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第21話 英雄の凱旋と結婚発表

 革命の勝利から数日。

 王都セレスティアは、かつてない祝祭の喜びに包まれていた。


 街角の至る所で新しい国旗――「雪原の花」の紋章旗がはためき、広場では連日のように宴が開かれている。

 圧政の冬は終わり、自由という名の春が来たのだ。


「アレン様、こっちです! 衣装合わせの時間ですよ!」


 王宮の一室。

 ミアが目を回しそうな勢いで走り回っている。

 彼女は今や「革命の英雄の筆頭侍女」として、王都中の仕立屋や料理人たちに指示を飛ばす大忙しの身だ。……相変わらず、何もないところでつまずいてはいるが。


「わかった、わかったから引っ張るな。服が破ける」

「破けたら縫います! さあ早く、シルヴィア様がお待ちですよ!」


 俺は苦笑しながら、ミアに背中を押されて更衣室へと向かった。

 今日は、新政府の樹立宣言式典。

 そして同時に、俺とシルヴィアの婚約を正式に発表する、晴れ舞台でもあった。


 更衣室のカーテンが開く。

 そこには、息を呑むほど美しい光景があった。


「……どうかしら、アレン?」


 シルヴィアが、はにかむように微笑んで振り返る。

 彼女が身に纏っているのは、純白のドレスだ。

 王宮の職人たちが総力を挙げて仕立てたそれは、絹のように滑らかで、真珠のように輝いている。銀の髪は丁寧に結い上げられ、白い花の髪飾りが清楚な美しさを際立たせていた。


 かつて夜会で見た、凍りついたような冷たい美貌ではない。

 愛を知り、困難を乗り越え、内側から発光するような、温かく力強い美しさ。


「……言葉が出ないよ」

 俺は正直な感想を漏らした。

「世界で一番、綺麗だ」


「もう、大げさね」

 シルヴィアが頬を染めて俯く。

「でも……嬉しいわ。あなたにそう言ってもらうために、お洒落したんだもの」


 彼女が近づいてきて、俺の襟元を直してくれた。

 ふわりと、甘い香りがする。

 俺は彼女の手を取り、そっと口づけを落とした。


「夢みたいだ。泥だらけで畑を耕していたのが、昨日のことのようなのに」

「夢じゃないわ。私たちが勝ち取った、現実よ」


 彼女は俺の目を見つめ、愛おしそうに微笑んだ。

「ねえ、アレン。式典が終わったら、二人で領地へ帰りましょう? みんなが待っているわ」

「ああ。トム爺さんが、とっておきの酒を用意して待ってるそうだ」

「ふふ、楽しみね。……私、早くあの大地に戻りたい。あなたと二人で、静かに暮らしたいの」


 それは、俺も同じ願いだった。

 英雄だの、革命の指導者だの、そんな肩書きはどうでもいい。

 ただ、彼女の隣で、平穏な毎日を過ごせればそれでいい。


***


 正午。

 王宮のバルコニーに立つと、広場を埋め尽くす大観衆の熱気が波のように押し寄せてきた。


「英雄アレン!」

「聖女シルヴィア!」

「二人に祝福を!」


 割れんばかりの歓声。空を舞う花びら。

 俺はシルヴィアの手を取り、高らかに宣言した。


「民衆よ、聞け! 今日、我々は新しい時代への一歩を踏み出す! 恐怖による支配ではなく、法と信頼による絆の国を!」


 オオオオオッ! と大地が揺れる。


「そして、私事ではあるが報告させてくれ! 俺は、ここにいるシルヴィア・フォン・ローゼンと結婚する!」


 俺が彼女を抱き寄せると、歓声は悲鳴にも似た絶叫へと変わった。

 祝福の嵐だ。

 国中が、俺たちの愛を祝ってくれている。


「……幸せね、アレン」

 シルヴィアが、涙ぐみながら俺を見上げる。

「私、生まれてきてよかった。あなたに出会えて、本当によかった」


「俺もだ。……愛してる、シルヴィア」


 俺たちは、数万の民衆が見守る中で口づけを交わした。

 カメラのフラッシュのように、無数の視線と祝福が降り注ぐ。

 この瞬間、俺たちは間違いなく世界で一番幸せな恋人同士だった。


 式典の後、王宮の大広間で祝賀会が開かれた。

 かつて俺が「場違いな異物」として蔑まれたあの場所は今、俺たちを祝福する笑顔で溢れている。


「よっ、色男! やったな!」

 ガルドが豪快に俺の背中を叩く。彼は新設された近衛騎士団の団長に任命されていた。真新しい制服が意外と似合っている。


「痛いぞガルド。……お前も、似合ってるじゃないか」

「へっ、窮屈で敵わねえよ。俺はやっぱり、お前さんの後ろで斧を振り回してる方が性に合ってるな」


 そう言いながらも、彼の顔は晴れやかだ。

 ミアも、あちこちの貴族や要人にお茶を配りながら(そして時々こぼしながら)、甲斐甲斐しく働いている。


「アレン様、シルヴィア様! これ、私からのプレゼントです!」

 ミアが差し出したのは、不格好だが一生懸命編まれたレースのハンカチだった。

「二人のイニシャルを入れました! ……ちょっと歪んじゃいましたけど」

「ありがとう、ミア。大切にするよ」

「嬉しいわ。私の宝物にする」


 シルヴィアがハンカチを受け取ると、ミアは「えへへ」と鼻の下をこすった。


 窓の外には、平和な王都の夜景が広がっている。

 戦火の跡はまだ残っているが、家々の窓には明かりが灯り、家族の団欒が戻りつつある。


「……綺麗だな」

 バルコニーに出た俺の隣に、シルヴィアが並んだ。

「ええ。……とても」


 俺たちは並んで手すりに寄りかかり、夜風に吹かれた。

 遠くから、祭りの音楽が聞こえてくる。


「ねえ、アレン。結婚式は、一週間後ね」

「ああ。準備は万端だ」

「私……まだ少し信じられないの。こんなに幸せになっていいのかしらって」


 彼女が不安そうに瞳を揺らす。

 あまりに完璧すぎる幸福は、時として人を臆病にさせる。


「何言ってるんだ。これは全部、君が頑張ったご褒美だ」

 俺は彼女の手を握りしめた。

「これからは、もっと幸せになるんだ。子供が生まれて、家族が増えて……おじいちゃんとおばあちゃんになるまで、ずっと一緒だ」

「ふふ。……そうね。皺くちゃになっても、手を繋いでいてね」

「もちろんさ」


 俺たちは笑い合い、キスをした。

 不安なんてない。

 俺たちには最強の仲間がいる。信頼できる民がいる。そして何より、揺るぎない愛がある。

 どんな困難が来ようとも、二人なら乗り越えられる。


 そう信じていた。

 疑いもしなかった。


 この幸せが、嵐の前の静けさであることなど、微塵も感じさせないほど、夜風は優しく、星は美しく輝いていた。

 あと七日。

 あと七日眠れば、俺たちは晴れて夫婦となり、永遠の愛を誓い合うはずだった。


 ――運命の日まで、あとわずか。

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