第八話
朝、メグと共に支度をして部屋を出るとアリサとノエルもちょうど同じタイミングで部屋から出て来た。各々挨拶してから「さぁこれからどうしようか」といった面持ちでお互いを見る。
「今から冒険者ギルドに行こうよ」
「何で今なんですか?」
「いいから着いてきて」
メグの言葉にムッとした表情でアリサが問い掛けるもメグは詳しくは言わずに「着いてきて」とだけ言った。
僕もノエルもお互いに困った顔をして顔を見合わせてからメグの後ろに着いて歩き始め、更に僕たちの後ろにアリサが着いてきた。
「やっほー、おじさん」
「おぉ、一昨日の……ってオレはおじさんじゃねぇ! お前と歳変わんねぇよ」
メグは慣れたように冒険者ギルド所有の建物に入ると受付に居る男と軽口を叩き合いながら話し始めた。
そうやって暫く話したあと、メグがまだ入り口にいた僕らのところに帰ってきた。右手にはつい最近見たばかりの筒状にされた羊皮紙が握られていた。
「今から鳥型魔獣を倒しに行くよ」
僕らの驚いた声をメグは聞こえなかった振りをしてさっさと建物の外に出て行ってしまった。
◇◆◇
「ノエルちゃん、水の国で起きる洪水と睡蓮の数ってどんな関係性があると思う?」
水の国を東の門から出たところでメグは初めて今まで避けていた話題を自分から口にした。
「あの、良いんですか?」
「とりあえず気配も魔法が使われた形跡も無いから大丈夫だよ」
アリサに視線を向ければ、彼女はため息を吐くと「この人の言っていることは本当です」と渋々といった様子で言った。
「じゃあ、個人的な意見ですけど話しますね」
ノエルはアリサの様子を窺いながら困ったような顔をしながら話し始めた。
「昨日も言いましたが洪水と睡蓮の数には関係があると思います。最初に話したように水を急速に吸い上げると花が咲きます。つまり、水が増えるとその分吸い上げるんです。ですから、十分な数があれば洪水が起きることはまずありません」
僕もメグもアリサもここまでは昨日と同じ話だとノエルの話を相槌を打ちながら聞く。
「ルシオさんやメグザリーさんが読まれたという水の国の文献では洪水は滅多に起こらないと書かれていたんですよね?」
「嗚呼。依頼人もここ数年は異常なほどに洪水が起きるって言ってた」
「うん、そうだよ」
僕とメグはノエルの疑問にほぼ同時に頷く。
「ですが、今の水の国では洪水が起きている。それは恐らく睡蓮の数が減っているのが理由だと思います」
ノエルの話を聞き終えて昨晩から疑問に思うことを口に出した。
「でも、一体誰がわざわざ洪水を起こそうと?」
「そこが謎なんですよね」
「洪水を起こそうと考えている人間は私たちに付いている監視と何か関係があるのではないのですか?」
「アリサちゃんが言うことが本当だと仮定したとすれば、洪水と睡蓮の関係が周囲にバレると困る人がいるってことだよね」
洪水と睡蓮の関係が知られるとマズい人……何かが引っ掛かる。モヤモヤとした感じが胸につっかえて気持ち悪いな、と思いながら考える。
「あ、巫女」
「ルシオ様?」
「巫女だよ。洪水が起き始めてすぐに迷信を再開したのは巫女だ。いくら迷信が存在しているからといってすぐに迷信を再開なんてする? 洪水を防ぐための睡蓮があったんだから、まずはそっちを確認するんじゃないのか?」
「それって、ここ数年の洪水の黒幕は巫女ってことですか?」
ノエルの言葉に「多分、そうだと思う」と返すと「確かに巫女の行動は不可解だよね」とメグはうんうんと頷いた。
「ですけど、本当に迷信の通りに少女が生贄になるから洪水が止まるなんてことはないでしょう?」
「アリサちゃんの言う通り、迷信が事実の可能性は限りなく低い。だから、きっと何か裏がある」
迷信の通りに起こるはずの洪水が止まる原理とは一体何なのかと4人で頭を悩ませていると、思い出したかのようにアリサが口を開いた。
「ローザランド家は確か水の魔術師の家系でしたよね。なら聞きたいのですが、水魔法で川の水全体を制御することは可能なのですか?」
アリサの言葉にメグは一瞬だけ目を見開いたが、いつもの気の抜けたような表情に戻ると「どうだったかなぁ」と言って昔の記憶を掘り起こし始めたようだった。




