第七話
「……でもあの量じゃ足りないですね」
結局、あの後もほぼ国中を歩き回り睡蓮の数を数えて宿に帰る途中にノエルはそう呟いた。
「何個あったんだ?」
かなりあったような気がするんだが…と思いつつも取り敢えず聞いてみる。
「37個ですね」
「え…」
「あ、37個と言っても妹さんが生贄にされるまでの日数を考えて直ぐにでも利用出来そうなものだけですよ。この37個以外のものはどれも芽ばかりだったので」
どうやら蕾にならなければあの睡蓮は本来の性質を発揮しないようだ。
「因みにだけど、ノエルちゃん。それって幾つぐらいあれば良いとか分かるの?」
「そこまではちょっと……ですが、王都の洪水が多い地域ではあの花は大体100個無いくらいの量だそうです。だから、国全体で洪水が多いとされるこの国では数が足りないですよね…」
「つまり、この国で洪水が多いのはその花が足りないからということですか?」
ノエルが細々と話した内容を纏めるように言ったアリサの言葉にノエル「そうなんです」と返した。さらに続けて「本来なら国が調査するはずなんですが…」と言った。
「……確か、水の国って洪水は滅多に起こらないんじゃなかったか?」
何でだろうなぁと4人で頭を捻っていた時に思い出したのは、王都の大図書館で読んだ水の国の文献についてだった。
あまり詳しく書かれたものを読んだわけではないが、その文献には【国全体に多く川が流れているのにも関わらず、この国は大雨が降っても洪水は滅多に起きない】と書かれていたように思う。
「んー…あ、そう言われてみれば昔読んだ本にそんなことが書かれていたような気もするし、レビン君も同じようなこと言ってたよね」
3人とも疑わしげな目を向けていたが、メグは暫く考え込んだあと思い出すようにして言った。
「じゃあ、もしルシオ様が仰ったことの通りだとして…一体どうやって洪水が起きるように?」
「あっ、そっか。洪水が起きてなかったのって十分に睡蓮が咲いていたからで、睡蓮の数が少なくなったから洪水が起きるようになったってことになるんじゃ」
話を続けようとしたノエルを遮ってアリサとメグは各々の武器に手を掛け僕とノエルを背に庇うと辺りを警戒し始めた。
夕日がゆっくりと落ちて建物の影に呑み込まれるまでの数秒間、誰も話さなかった。影が僕らを呑み切ってメグがたった一言「早く宿に帰ったほうが良いかも」と言った。アリサを見れば、彼女もメグの言葉に同感なのか無言で頷いて「早く帰りましょう」と言った。
◇◆◇
「今夜は出来るだけ1人にはならないようにしよう。特にルシオ君とノエルちゃんはね」
宿に帰ると開口一番にメグが言った。
そんなに何か良くないことがあったのか、と詳しく聞きたいというのに2人とも緊張したような表情でずっと居るものだから何も聞けなくなってしまった。
「メグザリーさんもアリサさんもどうされちゃったんでしょう」
アリサとノエルが部屋に入る直前、ノエルは心配そうに両手を握り締めながら小声で僕に言った。
メグと外に取り残された僕もメグに促されて向かい側の部屋に入った。
「メグ」
「どうしたの? ルシオ君」
真夜中、流石に寝てるだろうかと思い小さな声で名前を呼べば驚いたことに起きていたようで返事が返ってきた。
「何かあったのか?」
「……夕方、話していた時に誰かが見ていたんだよ」
メグは暫く押し黙った後に口を開いてポツポツと話し始めた。
「俺も正確なタイミングは分からなかったけど、ノエルちゃんが洪水と睡蓮の関係性に気が付いた辺りからはっきり気配を感じたんだ」
「それってノエルが危ないってことなんじゃ」
「いや、俺たち全員だよ。だってノエルちゃんが話した時、俺たちも一緒に居たからね。けど、まだ監視ってところかな」
メグの話に口を挟んだ僕の言葉を遮ってメグは話した。
正直に言うとあまり信じられないような内容だったのだが、申し分のない実力を持っているメグが言った上にアリサもメグと同じことで反応している。きっと、嘘ではないのだろうと思う。
「……それにしても、誰が…?」
「ルシオ君、もう寝るよ」
思わず呟いた言葉に返事は無く、メグは寝るように促した。
もしかすれば、まだ近くに監視の人間が居るのかもしれない。僕はそう思って僕はベットの中に潜り込んで朝を待った。




