番外編:家族
ルシオ・バーパイニーというのは私、カルエモ・バーパイニーの弟である。
ルシオは幼い頃から賢く、勤勉であった。特に興味があったのは魔術関連のことのようで自室に居なければ図書室で魔術関連の本ばかり読み漁っているか、中庭で自主練習をしていた。しかし、夜遅くまで勉強をする生活をしているせいで私が貴族学校に通う頃には朝食の席を共にすることは無くなってしまった。
そんなある日、ルシオが自分で起きたという話が舞い込んだ。何言ってるんだと思われるかもしれないが、前述した通りルシオはここ2、3年ほど朝食の時間に間に合うように起きてこれたことがないのだ。だから、それは非常に珍しいことであった。
しかし、そう思ったのも束の間のことで本人といざ対面した時のルシオはルシオであってルシオではなかった。
“一体誰だ、彼は?”
父上がルシオが行きたいと言っていた旅についての話題を出すとずっと困ったような色だった彼の瞳はハッキリとたった一瞬だけ何かを決意したような色が混じった。それは旅に出ることへの決意だったのか、もう知ることはないだろう。
「何を探しているんだ?」
彼は旅に出るまでの3日間、よく図書室に籠った。何かを探すようにずっと本棚を眺めては本を手に取り少し中身を見てまた本棚に返す。
今までのルシオでは考えられなかった行動に私は思わず声を掛けた。
「えっと、地図を」
彼は困ったような表情でそう言った。
「残念だが、我が家に地図は無いぞ」
「えっ!」
あぁ、やっぱりルシオじゃないな。驚いている彼を見て最初に会った時に感じたことをまた思った。
ルシオならば何度も幼い頃から読み漁った図書室の本のことなんて何があって何が無いかくらい憶えているはずだ。
彼は私が話し掛けたせいで戻し損ねて持っていた本を本棚に戻そうとした。チラリと見えた本のタイトルは『赤髪の旅人』であった。それは私が幼い頃、何度も読んだ本だった。
「『赤髪の旅人』か。懐かしいな」
何か反応くらいあるだろうと思いながら呟けばタイトルを見つめて不思議そうな表情で居た。
赤髪の旅人は百何十年か前に実在した花を広めた旅人だ。彼が今手に持っているものを含め世界各地に赤髪の旅人の童話は存在している。
「赤髪の…旅人…」
「なんでも口癖が『親友が創った花なんだ!』だったのだとか」
彼はこちらをじっと見ていた瞳を大きく見開いた。特に何か言葉を発することなく視線は本へと戻された。
「最期はどうなったんですか?」
「それは…誰も知らない。その赤髪の旅人がどこで産まれてどこで亡くなったのか、誰も知らないんだ」
「そうですか」とやや落胆した声で彼は言うと本を棚に戻してしまった。
◇◆◇
「この本は…」
「お前、気に入っていただろう?」
「でも…」
『赤髪の旅人』を前に受け取るか受け取るまいか考える彼に本を押し付ける。
彼の事情は何一つとしてこの3日間では分かり得なかったが、少なくともこの本が彼の探しものを手助けすることを願って。




