第四話
「……ねぇ、さっきからあの人が言う“俺の医術”って何か分かる?」
「んー…多分、花を使った医療法についてじゃないかな。この花は怪我に効くとか、この花は特定の病に効くとか、最近の医術は専らこんなモノばかりだよ」
男は思い出すようにして言うと、最後に「迷信に囚われるよりも現実見ろっての」と僕にすら聞こえるか怪しいくらいの声で付け足した。
「あの少女は?」
「あの子は…知らないなぁ」
いつの間にか白衣の男たちを追い払ったアリサは少女に手を差し伸ばして立ち上がらさせていた。
服は薄汚れていて殴られたのであろう左頬は赤く腫れていて痛々しそうだった。
「あの…ありがとうございました」
少女は立ち上がってすぐアリサに礼を言った。
「いえ、貴方の方こそ大丈夫ですか?」
「いつものことなので大丈夫です!」
アリサの問い掛けに対して元気よくそう返した少女にアリサは複雑そうな顔をした。すると、何か思案顔だった男が少女の持つ紙束に興味を示した。
「ねぇ、その紙って何書いてるの?」
「あ、これは実験結果? みたいな物です」
そう言って少女は紙をパラパラと捲って何かを探しながら話を続ける。
「近年の医術は怪我は回復魔法、病は迷信で治そうとしているでしょう? 回復魔法なんかは人間の再生能力を一時的に高めて治すという荒治療なせいで日常的に使う人間は使わない人間より早く本来の再生能力の衰えが始まると言われていたり、病は特定の花を飾るというのが効果的と言われていたり…」
「例えば、これ」と少女が指を差したのは大量にある紙束の中の一つの資料だった。
「一般的には咳止めにはクサノオウを飾ると良いとされていますが、実際はキキョウやユーカリなどの植物を加工してその成分を摂る方が良いと一部の学者が提唱し始めています」
僕が見せられた紙の内容を読み込んでいると隣で男が口を開いた。
「でも君、成人してるわけでもないのに何でこんな必死に色々と調べてるの?」
男の問い掛けに少女は今まで閉じていた目が開かれた。かなり動揺しているようだった。
少女は暫くの間、口をモゴモゴとさせてやっと一言「母のため…」と小さな声で呟いた。
「えっと…母を治す方法を早く見つけないといけなくて……でも王都で育てられる植物には限りがあるから近いうちに旅に出たいと思ってるんです」
先ほどの研究内容を話していた時とは打って変わって少女の顔は酷く落ち込んでいた。
「実は僕たちも旅をしているんだ。だから、よかったら一緒に来ないか?」
その言葉に困惑した少女が家に向かって歩いて帰る後ろ姿を暫くの間眺めているとアリサが本当に良かったのかと声を掛けてきた。
「え、ただ一人旅が不安なのかと思って…」
純粋に善意だけで提案したことが何か悪いことだったのだろうかと思いながらアリサの顔を窺えば、アリサは呆気に取られたような顔をしていたのをすぐに引っ込めて「…そうですか」とだけ言った。
◇◆◇
翌朝、結局あの少女と会うことはなかったなと昨日揃え直した旅道具を持って王都の外へ続く門の前に僕ら三人は立っていた。
「あの!」
フードの裾を引かれた感覚で後ろに振り返ると昨日会った少女が息切れをしながら大きな肩掛け鞄を持って立っていた。
僕の方に来るアリサを片手で制して、少女の次の言葉を待つ。
「回復魔法も少しだけならサポート魔法も使えます。だから、私も連れて行ってくれませんか?」
微かに震えている僕のフードの裾を掴む少女の手を僕はそっと両手で包み込む。
「嗚呼、よろしく。僕はルシオ・バーパイニー、君は?」
「私はノエル・サンドラです!」
「俺はメグザリー・ローザランド。気軽にメグって呼んでくれていいよ〜」
「私はアリサ・ルーベニーです。アリサ、よろしくお願いします」
アリサのノエルへのよろしくという言葉にメグは「俺には〜?」と反応するもアリサはその言葉を無視してノエルに「昨日の怪我は大丈夫ですか?」と話し掛けていた。
かくして、僕_ルシオは王都で家を出てからアリサ以外にメグとノエルという仲間を引き連れて旅に出ることになったのだ。




