第二話
「ルシオ様、まずはどこに行くおつもりですか?」
父と兄に送り出されてすぐにアリサに目的地を聞かれた。
僕はどうしようかと少し考えてから一つの都市を口に出した。
「王都はどうだろう?」
王都はここからそう遠くはないし、確か大図書館があったはずだ。家にあった図書室には魔術関連のものが多くてあまり世界情勢も何も分かりそうにはなかったのだ。とにかく今は情報が欲しいのだ。
「王都ですと、ここからでは丸一日は掛かりますね」
「野営を一度挟んで行きましょう」というアリサの言葉をそのまま受け取り王都への道を歩いた。
……王都なんて都市はあっただろうか?
ふと思い出して心の中で呟く。自分がルシオになる前はあの小さな小屋の周辺から離れようとはしなかったからどうにも分からない。あの頃にも大きな都市はあったのだろうか?
あの小屋の周辺以外の知らぬことに不安を抱き視線を足元に落とした。
「…白詰草だ…」
「どうかされましたか?」
足元に咲いていた白い丸い花を見て名前を呟けばアリサは不思議そうな顔をして声をかけてきた。
「花が咲いていたから、ちょっと気になっただけ」
「…ルシオ様、そんなに花はお好きでしたか?」
「好きというか何というか、たまたま?」
花は好きとか嫌いとかというよりも自分が創った物だから知っている。自身にとって花という存在はそういう物だった。
◇◆◇
「薪…これで足りるのかな?」
「少し、心許ないですね」
今日の野営地として選んだ木の下で薪として集めたあまり多くない枯れ枝を見て二人でもう少し集めた方がいいかも知れないと話していた。
「僕が集めに行くからアリサは支度を始めておいて」
「あ、ちょっ…!」という背後からのアリサのやや焦ったような声には気付かず僕は茂みの中に入って行ってしまった。
「あ……野営場所、どこだっけ」
それに気が付いたのは薪を両手一杯に拾えた時だった。
薪を拾いに行かなければいけないということにだけ気を取られていたせいで何にも考えてなかったことに気が付き、自分の血の気が引いたことが分かった。
通って来た道が確かにあるが、途中で何度か曲がったような気がする。
アリサを待つべきか……いやでも必要以上に迷惑を掛けるべきでもないだろうし……かと言って勝手に動いて余計に迷子になるのも……
うんうんと一人で頭を抱えて唸る。
そうやって暫く唸っていればすぐ隣の茂みがガサリと音を立てて黒い影が現れた。見れば、身長はきっと自分の二倍はあろうかという大きさで見たことのない生き物だった。
___道中は魔物に気をつけて行きなさい。
こんな時に旅に出る前の兄の言葉を思い出した。そうか、これが魔物なのか。
「Burn the flames__炎よ燃やせ__!」
持っていた薪を全部落として右手に炎を灯すが、ここは森の中だ。安易に炎魔法を使えば山火事が起きてもおかしくない。
動物は炎が嫌いだと聞く、それは魔物にも有効であろうか。炎の灯った右手を魔物に向けると魔物は怯んむ……なんてことはなく、むしろ変に刺激してしまったようだった。
振り下ろされた魔物の腕に死を覚悟して両目をキツく瞑るもゴトリという重い何かが落ちるような音の後、静けさだけが広がった。
「熊型魔獣20匹討伐、完了〜。君、大丈夫?」
聞いたことのない男の声で恐る恐る目を開けて顔を上げれば、大剣を背に背負う月のよく似合う男が立っていて男の黄色い両目がこちらをジッと伺うように見ていた。
「ルシオ様!」
アリサが声を張り上げながら茂みから現れると僕の方に駆け寄って来て無事を確認して男に向かって鋭い目つきで「誰ですか?」と問い掛けた。
「アリサ、この人はさっき僕を助けてくれたんだ。悪い人じゃないよ、きっと」
「悪い人は優しくしてから後で騙してくるんです!」
「そうそう、気を付けたほうがいいよ。お坊ちゃん」
アリサを宥めようと言った言葉はどうやら逆効果だったらしくピシャリと言い返されてしまった。男は男で何が面白かったのか、楽しそうにこちらを見てクツクツ笑っている。
「ルシオ様、行きましょう。こんなのと話すのは時間の無駄です」
アリサがそう言い切って歩き始めてしまったものだから僕はそれに置いて行かれないように後ろについて行った。




