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第九話

 兄はいつも水魔法をどう扱っていただろうか。


 幼い頃の記憶を漁ってアリサちゃんの問いになんて答えようか考える。



『メグ、水魔法はとても繊細な魔法だ。荒れた心で制御することはとても難しい』



 庭にある大きな池で水魔法を教えてくれていた一つ上の兄はそう言った。



『じゃあ、大きな水の龍は創れないの!?』


『んー…出来ないこともないが、魔力の消費が激しいなぁ。メグは水の龍が見たいのか?』



 兄はカラカラと笑って言っていた。だがしかし、兄の顔は思い出せなかった。


 あの時、自分は何と言って答えたかったのか。父がやって来て遮られたせいで言ってはいないし、今となってはもう思い出せなかった。




◇◆◇




「メグ?」



 アリサが問い掛けてからというもの何も話さなくなってしまったメグに肩を軽く叩きながら声を掛けると我に返った様子で「あぁ、ごめんね。ぼーっとしてた」と言った。



「えーっと、川の水全体に魔法がかけられるかについてだよね。結論から言うと掛けられはするよ。でも、そこから操れるかについては術士本人の力量によるね」


「では、巫女が相当な実力者だと仮定した場合。巫女が洪水を起こして少女を生贄として捧げさせて洪水を収める…ということは可能ということになりますね」



 アリサの言葉に僕らはうんうんと頷いた。



「あの、もしそうだとしても巫女さんは生贄が無ければ洪水を止めるのではないでしょうか? そうじゃないと自分の身が危なくなってしまいますし…」


「そうだね…って言いたいところなんだけど、巫女にも面子があるからねぇ。そう易々と洪水を止めるとは思えないかなぁ」



 メグの言葉でノエルは「ですよね…」と言って少しばかり落ち込むも、メグは「一つ生贄をわざわざ出させていることについて気になることがあるんだよね」と言った。



「人には誰しも魔力が巡っていて魔法というのは自分の身体の中に収まる分からはみ出した分を具現化したものと言われているんだよね」


「一般的な理論ですよね、魔法の」


「うん。つまり、わざわざ巫女が生贄を出させているのってその生贄から魔力を取るためなんじゃないのかってこと」



 メグの意見に全員が確かにと頷く。



「ですが、それは禁忌では?」


「そうなんだよねぇ。だから巫女側にも何か理由がありそうなんだよね。わざわざ禁忌を犯すほどの理由が」



 メグは顎に指を添えて少し目線を下に落として考え込むようにして言った。



「それなら、一度、国に戻って巫女について調べるということでいい?」


「そうだね、そうした方がいいかも」




◇◆◇




「それじゃあ、手分けして探そう」



 鳥型魔獣の討伐を早々に終えて依頼料をしっかりともらって、冒険者ギルド前でそう言うと僕とメグ、アリサとノエルで別れて国内での情報集めが始まった。



「ルシオ君、まずは何処から探す?」



 目的を特に決めず歩き始めたところでメグがそう聞いてきた。それに対して僕はどうしようかと頭を捻る。



「まずは図書館…とか? 聞き込みは警戒されてるなら最初にしない方がいいと思うんだ」


「なるほど、確かにルシオ君の言う通りだね。先に図書館に行こうか」



 二人で水の国の図書館に向かう。その途中で僕はメグに世間話程度にアリサが言っていた話を振った。



「メグ。メグの家って本当に水の魔術師の家系なの?」


「え? あぁ、うん。そうなんだよね。今は1番上の兄が当主を務めてるよ」


「なら、メグも水魔法使えるのか?」



 そう声をかけて失敗したと思った。ニコニコと笑っていたはずのメグの表情はストンと抜け落ちており、何か言葉に詰まっていたようだった。何か聞いてはいけないことだと思い慌てて話題を変えようとすれば、メグは「もう少し図書館に着くって」と言って誤魔化してしまった。


 目の前に聳え立つのは王都の大図書館よりも一回り小さい図書館であった。とはいえ、十分に大きいので水の国に関する資料も揃っていることだろう。僕とメグは扉を開けて図書館の中に入った。

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