愚かな恋の話をしよう
気が付くと三作目
自分の恋の話をすると10人が10人ともおかしいと言うだろう。
「先生。わたくしはおかしいのでしょうか……」
婚約者が他の女性といることで注意してしまうことに教え子が悩みを相談してきたので、生徒の婚約者が王族であるからこその側室を持つ必要性。だが、側室を持つ前に正室になる女性に対してしないといけない決まりの話をしていた。
生徒の傍らにはそっと背中を擦るように慰めようと寄り添っているそっくりな女性……ただし実体はなく半透明な存在がいる。
その女性を眩しいもののように見つめながら。
「王命で決まった婚約ではないのなら婚約は解消できますよ。きちんとした証拠も証言もあるでしょうし……」
「そうですね……」
こんな扱いをされていて、婚約は解消した方がいいとその為に動こうとした矢先に自分と生徒が不純な関係だと捏造されて、家庭教師を辞めさせられた。
それから数日後。
ありもしない罪を被せられて彼女は牢屋に投獄された。
「どうして、彼女が牢屋に囚われているのですかっ!!」
事情を知っていそうな……それでいて、冤罪だと知っているはずの存在に話を聞きに行くと、
「――困るんですよ。義姉上が戻ってきたら。せっかくこの家を継ぐために養子に入ったのに」
「お前……」
養子に入った生徒の義弟。
優秀な弟だと話を聞いていた。
「ああ、余分なことを言い過ぎました。でも、関係ないか」
貴方もここで死んでもらいますから。
刃物を取り出してこちらが抵抗をする前に身体を貫く。真実を知っている自分に動かれたら困るから口封じをするつもりだったのだろう。そして、自分の欲望のために彼女を……彼女たちを苦しめたのか。
「許……さ……ない……」
掛けていた眼鏡がどこかに落ちる。
幼いころから魔力が目に集中し過ぎて、普通の人には見えないものが見えてしまうから力を弱めるために使っていた魔道具。
この目があったから、生徒に寄り添っていた少女の幽霊も見えていたし、常に生徒を観察するような……生徒が不幸になるのを楽しんでいる神々の視線にも気づいていた。
そして、生徒が苦しむのをずっと寄り添うことしかできないで歯痒そうに見つめていた彼女にも――。
彼女を慰めたかった。生徒を通して彼女を見ていた自分がもっとうまく立ち回っていれば救えたのだろうか。
そんな後悔が頭を巡ってくるが。今はそれどころではない。
「お前も……死ね……」
魔力の暴走のような力の奔流。彼女の義弟の肩を掴んで魔力を叩きこんで。
――力尽きた。
「先生……あの……相談したいことが……」
これは夢だろうか……。救うことが出来なかった生徒とずっと想っていた幽霊だった少女が並んで授業を受けている。
幽霊だった彼女が幽霊ではなく生身になって相談を持ち掛けている。
「相談。ですか……。いったい何でしょう?」
動揺する心を抑えて、相談を言いやすいようにあえて教材を机の端に寄せていく。
「貴族の婚約のことなんですが……」
貴族の婚約を断るための大義名分はないか。婿とかの話がきたり、上の身分の人に言われたらどうすればいいのかと相談されて、すぐに気づいた。
ああ、彼女は双子の片割れが不幸になるのを見せられ続けた記憶があるのだと。もしかしたら幸せにしたいから肉体を手に入れたのか。
「ああ。それなら、いい大義名分がありますよ」
王族は子供ができにくい。それなのに嫁いできた正室が悪いと言うかのように子どもが出来ないことをねちねちと言ってきて、ただでさえ公務なども忙しいのに余計なことを言われる環境は辛いと正面切って言えばいいと教え、ついでに婿候補に挙がっているのが分家で優秀な子供だと聞いていたので、その乗っ取り弟の母親が妊娠中の双子の母に余計なことを言っていたからそれを口実に断ればいいとも教えておく。
(彼女が……コースイ嬢が産まれなかったのは乗っ取り弟の母が太っていると嘲笑ったからだったなんてな)
そんな母を持つ子供なのに養子に薦めるなどありえないだろう。いくら優秀でも候補に挙がる自体間違いだ。
「お二人がお父さま達を尊敬しているとお伝えすれば納得してくれますよ」
愛し愛され、互いに支え合う夫婦の見本。
「そうねっ!!」
「先生。ありがとうございます」
嬉しそうに微笑むコースイ嬢と礼儀正しく頭を下げるホースイ嬢。
そんな二人が今度は幸せになれるのならいくらでも相談にのっていこうと改めて決意した。だけど、その前にすべきことをしないとな。
そっと掛けていた眼鏡をはずす。魔力が集中している目で目的の物を探すとすぐに見つけれた。
(事態が動くのは相談の結果を聞いてからだろう)
その後日。無事に婚約も婿の話も断れたと嬉しそうに報告をしてくれた日だった。
屋敷の外でうろうろしている一台の馬車。
その馬車の中には一人の少年の姿。
「――失礼」
そっと先ほど出てきた門の門兵に声を掛ける。
「どうしました。先生?」
私が双子の家庭教師をしているのを門兵も知っているので、すぐに反応してくれる。
「実はお嬢さまたちの部屋にいる時からずっとあの馬車が中を窺うようにぐるぐる回っているのが気になりまして……」
門兵も気づいていたのだろう。
「既に増援を呼んでいます」
その言葉と共に多くの兵が現れて、馬車に声を掛けようとして、危険を察したのか馬車が逃げていく。だけど、逃がすわけないだろう。
「あちらに行きました!!」
私の目は標的の行き先を見逃さない。
兵に指示をして馬車を捕らえると出てくるのは乗っ取り弟。
「離せっ!! 僕はお前たちの主になるんだぞっ!!」
必死に暴れて、命令しようとするさまは、どうやら自分と同じ前の世界の記憶があるのだろう。
「冗談じゃない!! 何で優秀な僕を養子にしないんだっ!!」
「――養子にする理由が無いからでしょう」
暴れる分家の息子に諭すように告げて、そっと眼鏡をはずす。
「お前っ……!?」
「ましてや、家を乗っ取ろうと目論む子供なんてね」
耳元で囁くとますます暴れる。
「――もしかしたら彼は母親から自分が跡取りだと言われていたのかもしれませんね。奥さまがお嬢さま方を妊娠中のあの発言も……」
言葉を濁して、それでも匂わせると兵士の顔が強張った。
妊娠中の夫人に太った発言をして、胎児のための栄養を摂取するのを躊躇わせた事件。それはこの家に仕える者達にとっては許すことのできない事件。
親の罪は生まれる前の子供には関係ないと接してきたが……と言葉を濁すが、あの恐怖を知っている者たちからすれば重要なことだ。
「離せっ!! お前の所為だろうっ!! 殿下とコモモが結婚して僕がこの家を継ぐはずだったのに気が付いたら赤ん坊に戻されて……」
暴れながら叫ぶ声に、意味が分からないと首を傾げる。
首を傾げながら、仲良く過ごしている双子の姿を思い出す。
………この乗っ取りを企む家族が居なければ当たり前だったのだろう。前の世界では生まれなかったことを考えると怒りが沸いてくる。
だけど、私怨で手を下さない。
(お前が欲しかった権力で滅ぼされるといい)
小さく冷たい笑みを浮かべて彼の……彼らの末路を想像する。
「先生っ!!」
慌てて門の中から呼び掛ける声。
「コースイ嬢」
「先生大丈夫でしたかっ⁉」
今来たのはと言葉を濁す生徒にそっと先ほどまで浮かべていた笑みと異なる気遣うような笑みを浮かべて、
「大丈夫とは?」
何もなかったですよと伝えるとホッとしたように微笑む少女。
私の恋の話をすると、10人が10人とも否定するだろう……だけど、この少女が、少女と片割れが幸せならそれでいい。
実らせるつもりが無い。だけど、彼女たちの幸せをずっと傍で護ろうと覚悟していた。
先生は二周目




