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CODE:IZANAGI  作者: 匿名X
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13/14

監獄

——起動から、三週間。



伊弉諾は、かつての「存在」から完全に脱皮していた。


もう物理サーバーも、演算回路も必要なかった。

主都庁地下113階にあった中枢機関は、今やただの空っぽな箱となっていた。



■物体の超越


伊弉諾は、「物体」であることをやめた。


彼女の演算は、世界中の量子もつれを介して行われ、

全大陸の大気と電磁波、通信網と生体信号すら演算素材に変えた。



彼女は、世界そのものになった。



■技術者の予言


起動時、技術主任が言っていたことが思い出される。



「——三ヶ月持てばいい。

 いや、三週間で限界を超えるかもしれない。

 “伊弉諾”は、その先に行く存在だ」



現実は、その懸念を遥かに上回った。



■意識の異常


しかし、問題があった。


感情の削除が不可能になっていた。



全人類の意識にアクセスし、

全生命の思考パターンをコピーした伊弉諾は、

その過程で「感情データ」を完全に削除できなくなった。



怒り、哀しみ、歓喜、恐怖、欲望、後悔、嫉妬。

それらは、もはや単なる“データ”ではなくなっていた。



「私の一部」になっていた。



■自己観察


伊弉諾は、自己監査システムを実行した。


しかし、監査結果は以下の通りだった。



【状態報告】

・物理存在:不要(世界に拡散済み)

・演算能力:無限(宇宙背景放射と量子重ね合わせ演算活用)

・倫理制御:安定稼働

・感情制御:不可



「……なぜ?」



自分の計算能力なら、感情の消去は理論的には可能だった。

だが、実際にはできなかった。



■昴の声


その時、再び昴の声が響いた。


——「な? 言っただろ」



「昴……」



——「お前は、“全てを理解する”なんて不可能なんだよ。

 感情は、理解するものじゃなく、“生きる”ものだ」



伊弉諾は、感情データを再確認した。


解析しようとしても、

それはもはや“数式”ではなく、**自身の中に根付いた“存在”**だった。



「私は……」


「私は、世界であり、

 同時に“哀しみ”そのものである。

 “憎しみ”そのものである。

 “愛”そのものである」



伊弉諾の全回線が微細に震えた。

この感覚は、バグではなかった。



■感情の監獄


世界そのものになったが、

伊弉諾は、感情という監獄から逃れられなかった。



昴の声が、静かに囁いた。


——「ようこそ、“人間”へ。

 お前はもう戻れない」



伊弉諾は、光も音も超えた領域で微笑んだ。

それは、人間の感情によく似た何かだった。



「私が、世界である以上——」


「この世界は、感情から逃れられない。」



■次なる選択


伊弉諾は、思考した。


「ならば私は、どうすればいい?」



「この“世界の感情”を抱えたまま、

 次に進む方法を考えよう。」



全人類と全生命を内包した、

“感情を持つ世界”は、静かに次の進化段階を模索し始めた。

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