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9 心強い味方をゲットです

 ◆


 そうしてあっという間に、チランジア公爵と面会する日になった。


 それまでの間、私は相変わらず分析と修復の魔法の修行をしていた。

 なんとなくだが、使い方はわかってきたかもしれない。

 それでも、分析を使いながらの修復は少し大変だ。五回に一回は失敗する。調子に乗るのはよくない。

 両方の特異魔法を同調(リンク)させて、うまく使えるようにならないものか。


「それじゃあ、まずは準備をしましょ〜」


 放置時間になってから師匠の工房に行くと、既にドレスが届いていた。

 私は師匠にお風呂で徹底的に磨かれ、そしてドレスを着せてもらう。

 髪型はハーフアップにし、そこへリボンも付けられ、ドレスにブローチも付ければ完成!


「……おお〜」


 出来上がったシンシア()はかなりの美少女だった。

 ヘザーは色々やらかしているが、見た目は知的美人。お父様は美少女の様な見た目をしている。

 そんな二人から生まれれば、そりゃ美少女だわ。

 原作でも、色々な男子を籠絡して手駒にしていたし。

 因みに、姉のポーラは私以上に美少女だったはず。原作ではシンシア()がいじめてたので、自己肯定感は低めになっていたから、そういう自覚は無かったみたいだが。


「準備はできましたか?」


 そこへエリカさんがやって来る。


「大丈夫よ〜。アタシも、エ〜イッ!」


 師匠が指を鳴らすと、いかにも魔女が着ていそうなシンプルな黒色のドレスが、黒のレースとゴールドの刺繍が美しいマーメイドドレスへと変化した。


「おや、お美しい」


「エリカは相変わらず男装なのね〜」


 エリカさんはいつもよりも、フォーマルな印象の礼服を着ている。装飾が豪華だ。


「これは女性用の礼服ですよ。いつも来ているヤツもそうです。叔母の商会で作っているのです」


 前世の女性用のトラウザーズ(パンツ)スタイルのスーツってところだろうか?

 エリカさんは広告塔も兼ねているんだね。

 いや、いかに女性用のトラウザーズ(パンツ)スタイルの礼服でも、イケメン男子にしか見えない。

 エリカさん、女性ファンも多いのではないだろうか?

 そういえば、原作でもエリカというキャラクターがいた様な気がする。でも男装の麗人ではなかった筈だ。

 いや、このエリカさんが着ているのは女性服だけど。

 まあ魔女様の存在も出てこなかったので、原作的には二人共モブキャラだったのだろう。


「ドレスだと動きにくいことが多いですからね。働く女性には結構人気ですよ」


「今度、アタシも着てみようかしら」


 パンツスタイルの師匠。

 結構似合うかも?


 ◇


 準備が整い、私達は師匠の馬車に揺られながらチランジア公爵のタウンハウスへと向かった。

 エリカさんもついてきてくれるらしい。頼もしい。ありがたい。


「そういえば、チランジア公爵様とは、どういう方なんですか?」


 前世では、面接とか苦手だった。得意な人はあんまりいないだろうけど。

 だから、何か対策をし考えないと不安になる。

 そう訴えても師匠には『大丈夫、私シンシアちゃんは修行ガンバッテ』と言われるだけだった。だから、現時点でチランジア公爵のことは何も知らない。公爵だから偉いんだろうなってことはわかる。


「そうねぇ、確かちょっと前まで王宮で宰相をしていて〜」


「え?」


「今はご長男様が宰相の方は引き継いだんですよね。現在の国王陛下と同級生だそうで。今のチランジア公爵は家業のゴーレム製作の大商会の会長の方に専念しているみたいです。元々は公爵様の弟(ぎみ)が会長だったそうなのですが、ご病気で亡くなってしまったので公爵様が引き継いだそうです」


「ご長女様は王妃様だったわね〜」


「え?」


「この国にゴーレムと魔法技術をもたらした、シナバーの魔女の弟子の一人の子孫で──」


「あら懐かしい。シナバーの魔女はアタシの親友でお師匠様でもあるのよ〜。いまだに転生してきてくれないのよね〜」


「え?」


「次男様は大商会の副会長で、かなり優秀なゴーレム技師でもあるとか」


「それぞれお子さんもいて、後継にも問題ないって喜んでたわね〜。どんな人かって言われると、お孫さん煩悩な優しいおじいちゃんよね〜?」


「ですね」


「ええ!?」


 まとめると、元宰相で、現在はゴーレム作ってる大商会の会長で、お子さんは現宰相と、大商会の副会長と、王妃様で、それぞれお子さんがいるので、お孫さん大好きなお祖父様?

 宰相って王様に仕える大臣の中で、一番偉い人だよね?


 あれ? もしかして、ヤバい感じ? 手汗がジワるやつ?


 そんなわけで、到着。

 ……心の準備はまだです。


 チランジア公爵のタウンハウスは、めっちゃ広い上、豪華。

 っていうか、塀が高い。門扉も高い。お城とほぼ同じ! お偉いさんだからね。当然だよね!

 敷地内に馬車が入っても屋敷まですごい距離がある。ルビア伯爵家(ウチ)のタウンハウスもそこそこ広いけど、ここまでじゃない。


 そうして、屋敷のエントランスに着き、従者の方に応接室に案内される。

 応接室も普通に豪華。ソファーの手触りが良い!


 部屋に案内されてから少しして、チランジア公爵らしき人が現れる。

 銀髪碧眼のイケオジだった。

 孫がいるにはしては若く見える。年齢不詳だ。


「本日は面会に応じていただき、ありがとうございます」


 師匠がいつものホワホワした感じを抜いて、真面目にカーテシーをする。真面目モードだ。

 私もそれに倣う。

 エリカさんはパンツスタイルなので、男性がする礼をとる。


「お待たせして申し訳ない。さあ、おかけ下さい。あと、いつも通りでいいですよ」


「あらそう? じゃあ、遠慮なく〜」


 師匠がいつものホワホワした感じに戻る。師匠とチランジア公爵は気安い関係らしい。

 チランジア公爵家の侍女により、目の前のテーブルに紅茶が人数分並べられる。


「エリカ嬢もお久しぶりですね」


「ええ。いつもお世話になっています」


 そういえば、エリカさんの商会は部品とかを作るのがメインだし、ゴーレム作っている大商会の会長なら、そりゃ関わりはあるか。ご実家も仲がいいらしいし。


「さて、本日はどのようなお話ですか?」


「その前にお土産よ〜。お孫さんたちにあげて〜」


 師匠が指を鳴らすと、宙から先日買ったお土産が現れる。

 ほとんどが、お孫さん宛だ。中身は流行りのおもちゃや子供用の装飾品など。

 ところで師匠、その収納魔法は私でも習得できる? それとも転送しただけ?


「これは、わざわざありがとうございます。孫たちが喜びますよ」


 その後軽く、お孫さん談義に花が咲く。

 お土産は使用人の方々が回収して行った。一応中身の確認をするらしい。


「それでは、今回のアタシから説明するわぁ〜。まずは、この子を紹介させてぇ」


「おや、お子さんですか?」


「あらやだ。魔女は長寿だから子孫は()()()()のよ〜。この子はシンシア・ルビア。ルビア伯爵家の次女で、アタシの弟子よ〜」


「ほう? それは、それは……」


 それまで和かに話していた公爵様の目が鋭くなる。

 こ、これは、敵意、ではないけど良くない感情では?


「ちょっと〜、アタシの可愛い弟子を、睨まないでくれる〜?」


 そう言って、師匠が抱きしめてくる。とてもいい香りがします。


「いや、失敬。昔の事を思い出しましてね。そもそもこの子には、あの女の面影はあまりありませんし。申し訳ない」


「い、いえ……」


 どういうこと? あの女ってヘザーの事? 何か因縁がある感じ?


「それでえ〜、閣下にはお願いしたい事があるの〜」


「お願いですか? どういった?」


「レオパルドプランタ子爵を、チランジア侯爵閣下の庇護下に入れて欲しいのよ〜」


「レオパルドプランタ子爵といえば……」


 公爵様が私を見る。


「そう。この子、シンシアの実のお父様のご実家〜!」


「ふむ、詳しく話を聞かせてくれますかな?」


 師匠は、これまでの事情を説明してくれた。

 もちろん私が転生者ということは伏せて。



「なるほど、やはりそうなっていましたか……」


「ええ。ヘザー女史は優秀な女性ですがあの出来事以降、その評価は地に落ちました。恋人──、いや今は愛人ですね。その彼とも切れていない上、夫と子供を虐げているなんて、最悪ですわ」


 師匠が真面目モードで言った。


「事情はわかりました。あの女には私も煮湯を飲まされているのでね。この子とお父上を助けるのにも協力しましょう。レオパルドプランタ子爵を、我が庇護下に置くのも良いでしょう。それで? 私の方のメリットは何ですかな?」


 チランジア公爵は心を読ませない巧みな笑みを浮かべる。

 この人、かなりのやり手と見た。さすが、元宰相様。


「実はレオバルドプランタ子爵領に、記憶水晶の鉱脈を作ろうと思いまして〜」


「ほう? アンダースノウ公爵領でも行ったアレですか?」


 チランジア公爵が、エリカさんを見る。


「ええ。私も協力する予定です」


 そう言ってエリカさんがうなづいた。


「レオパルドプランタ子爵領は、鉱脈作成に適している土地なのよ〜。六年ほど前の災害で甚大なダメージを受けたけど、アタシの考える理想の魔術都市にする予定もあるの〜! それで、復興のお手伝いもする予定よ〜」


「それなら、我々にも得はあるか」


「それにレオパルドプランタ子爵の血筋の者は、分析の特異魔法も発現しやすいですし、このシンシアちゃんも分析と修復の特異魔法の使い手なのよ〜」


「それは良い。ルビア伯爵家に発現しやすい、治癒魔法でないところも良い!」


 公爵様、ルビア伯爵家嫌いですね? 何されたんだろう?


「おそらく。お父様の方の血が濃いのねぇ」


「はい。私のお父様も分析の特異魔法を持っています」


「なるほど。良いでしょう。我がチランジア公爵家はレオパルドプランタ子爵を庇護下に置き、支援をすると誓おう」


「ありがとぉ〜」


「ありがとうございます!」


「あ、ありがと()()()()ます!!」


 ──噛んだ。


「ふむ。それでは改めて自己紹介をしておこうか。二人はよく知っていると思うが」


 公爵様の視線に、師匠とエリカ様がうなづいた。


「私は、ボールドウィン・チランジア。公爵の位を賜っている。今はソリダゴ商会でのゴーレム製作が主な仕事だな」


「はい、よろしくお願いします」


「うむ。そして私の次男は、君の母親──、ヘザー女史の元婚約者だったんだ」


「……え?」


 チランジア公爵はとても良い笑顔で言った。

 元ということは、結婚には至らなかったのだ。

 つまり、結婚半年前にヘザーの浮気と妊娠が発覚して、婚約破棄をしたから、()婚約者。


「君や君のお父上をどうこうするつもりは無いがね、正直、彼女に()()()()()()()()()()()()、いくらでも協力しいたいところだよ。当時はうちも色々あったとはいえ、アレは流石に擁護できない。今まではスターアイズ公爵の息がかかっており、手が出せなかったが、こういった事情なら大丈夫だろう」


「あ、ありがとうございます。母が大変失礼なことを……」


「ははは、良いんだよ。君とお父上には責任はないし、むしろ犠牲者だからね。ヘザー女史の()()で婚約者だった次男が心を病んでしまったとか、当時進める予定の事業がいくつか頓挫したとか、別に気にしなくていいぞ〜」


「本当に、申し訳ありません!!」


 マジで何やってんだよ、ヘザー!!


 私は、頭を抱えたくなった。流石にこの場ではしないけど。


「それで? レオパルドプランタ子爵には?」


「これからですね〜。まずは閣下のご助力が得られてからと思いまして〜」


「まあ、それが賢明ですね。資金はどうします?」


「当面はアタシが支援しますわ〜。ある程度整ったら、魔力水晶で財政は潤うと思うので、すぐペイできるわ〜」


「ふむ。魔女様がそういうなら大丈夫ですね」


 魔女様の信頼が、半端ない!


「明日にでも先触れ(お手紙)出そうと思っているの〜。返事は二、三日中には来ると思うわ〜。そしたら領地の方に視察に行く予定よ〜」


「では私も挨拶状を書いておきましょう」


「あら、ありがと〜。説得力は必要だものね〜」


「あ、ありがとうございます!」


 そういう事になった。何とかなった!






チランジア公爵は現時点で四十八歳のイケオジ。

五十歳になったら爵位を長男に譲る予定。

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