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転生令嬢は悲劇のヒロイン(!?)なお父様を救う為に魔女様に弟子入りします!!  作者: 彩紋銅
三章 シンシア十歳

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82 この国で最も高貴で不幸な女性 

 ◆


 それから一週間後、私が誘拐されてからだと約一ヶ月後に、ヴェネッサの裁判が始まった。

 表向きの傍聴席に人はおらず、全員、貴族用のこちらからは姿が見えない傍聴席にいるらしい。

 そんほとんどが、十六年前のヴェネッサの被害に遭った家々だという。

 私とアンディ君の様子を見るため、それぞれの家族も来ているらしいが、どこにいるのかは分からない。


 私は事情が変わって、アンディ君達と一緒に出廷することになってしまった。

 まあ、私が発言することは殆どないんだが。


「元クリムソン王国王族、ヴェネッサ。前へ」


 裁判官の言葉にヴェネッサが証言台に立つ。 

 あの時のお姫様なピンクのフリフリドレスでも、いかがわしいナイトドレスでもなく、今はシンプルな白いワンピースを着ている、

 最低限の身支度はされているが、化粧っ気はない。


 ただ、その表情には反省の異色はなく、不満、不服と言った感情がありありと読み取れる。


「此度の裁判は貴女の罪の確認と、受けられる刑についての説明となります。異例ではありますが、何があっても貴女の罪が覆ることはありません。その上で後ほど貴女の言い分もお聞きしましょう」


「……」


 ヴェネッサは何も言わずに、頭を下げる。


 それを合図に、異例の裁判が始まった。


 ちなみに、この国の裁判も、仕組みや流れは前世の裁判とそう変わらない。

 裁判官がいて、弁護士がいて、検事もいる。

 事件の種類も、犯罪事件と民事事件にも別れてたりもする。

 なお、犯罪事件は前世でいうところの刑事事件に当たる。こちらの世界だと警察という組織がないので、そう呼ばれているらしい。警察に該当する組織はある。


 前世と違うのは、司祭と回想師と呼ばれる役職があることだ。

 司祭は大昔、神託を受けて裁判をしていた時代の名残で、今はただの書記。名目上は神々の目の役割があるらしい。


 回想師は、必要があれば被告人や証人の記憶を映像化する人の事だ。

 今回の裁判もそんな人数が揃ってはいるが、ヴェネッサの罪は既に確定しているので、今回はほとんどがお飾りかもしれない。


 それに王族。

 今回は国王陛下と王妃殿下、それに前国王陛下と前王妃殿下つまりはヴェネッサの両親も参加している。

 ……前国王の顔色がすごく悪いのが気になる。大丈夫なんだろうか? 無理もないけど。ここまで来て、倒れるなよ?


「では、ここからは、私マルシアル・コマドレッハ・カッライスが進行させていただきます」


 そして、魔術動具によって空中に映像が浮かび上がる.

 

 内容は、ヴェネッサがこれまでやってきたことについて。

 まずは、十六年前の『十二令嬢事件』の概要と、その内容についての説明。

 ここには関係者しかいないので、被害者の家名も事件の内容もガッツリ説明された。

 ただ、デリケートな部分の説明時には、私とアンディ君は耳と目を塞がれた。

 流石に子どもに聞かせるような内容ではないからね。

 私は転生者なんなので、大丈夫ではあるんだが。……いや、やっぱりエグいのは見たくないかな。


 次にカッライス王国でのこと。

 嫁ぎ先でもヴェネッサは、『十二令嬢事件』と同じことをした。

 これは、王家に対する裏切り合意であり、国同士の関係にもヒビを入れる行為だ。

 実はこれが一番、罪が重い。


 そして、アンディ君の両親を闇の精霊を使って殺害。

 マグノリア公爵家のタウンハウスを奪う。

 屋敷自体を奪って亜空間に保管(?)した上、室内を汚したという、今までにない犯行に、この件に関しての沙汰を決めるのが一番大変だったとか。


 ちなみに、マグノリア公爵家のタウンハウスは現在、元の場所に戻り証拠保持のために国によって管理されている。

 元々、屋敷が無くなっていた時も当時の状態のままで保持していたので、敷居が戻っても特に弊害は無かった。

 裁判が終わったら、修復作業を開始するらしい。


 そして私の誘拐と、そのほかにもそういった被害者がるので、その件について。


 最近もブットレア伯爵領で『十二令嬢事件』の生き残りの女性とその夫、住み込みの使用人の計三人を殺害し、命は奪っていないが結婚を控えた侍女の女性に酷いことをしたらしい。


 そして細かいことだが、五年前の王宮盗撮盗聴事件は、ヴェネッサの犯行だったとか。

 五年越しに、謎事件が解明された……。

 

「というのが、ヴェネッサ様がこれまで行ってきた許されざる行為です。何か申し開きはありますか?」


 ここでマルシアル殿下が、初めてヴェネッサを見た。


「ワ、ワタクシは……」


 一呼吸置いて、ヴェネッサは続ける。


「ワタクシは、悪くありません!! ワタクシよりも身分が低いくせに幸せそうにしていた彼女達が悪いのです!!」


 ヴェネッサから発せられたのは、謝罪とは程遠い言葉だった。


 それに、傍聴席の貴族達から殺気が漏れる。


「ワタクシはこの国で最も高貴で尊い女性なの!! それなのに、ワタクシは本当に愛する相手と結ばれる事はない!! そんなのはおかしいですわ!!」

 

「その腹いせに、多くの男女の仲を裂いてきたのですか?」


「仲を裂いたのではありません! 『愛の試練』です!! 本当に二人の間に愛があるのなら、()()()()の事で、その愛が壊れるはずがありません! もし、壊れたのだとしたら、()()()()の愛だったということですわ!!」


 傍聴席の殺気が膨れ上がる。


「なるほど。それでは、クェンティン・マグノリア公爵とその妻ラモーナ夫人の殺害については如何です?」


「それは、その、クェンティンお兄様が勝手に結婚して、子供まで作っていたから……。ワタクシは大変な思いをしているのに、そんなの酷いではありませんか!」


「なぜ酷いのです?」


「お兄様はワタクシだけを愛するべきなのよ。フィランダーお兄様は国王だから結婚も子供を作るのも仕方がないけれど、クェンティンお兄様はそうではないのだから、ワタクシと愛し合っても問題はないでしょう? それなのに裏切ったお兄様が悪いのよ!!」


 その言葉に、傍聴席からざわめきが発生する。

 彼女の言っていた結ばれない相手が誰なのかが、完全に分かったからね。

 みんなドン引きだ。悍ましい。


 ちなみに、この国でも大昔には血縁同士で結婚していた過去がある。

 多分、どの国でも大昔にはそういった事はあったんじゃないかな? 神話にもそういう話はあったし、それを参考にしたのかも。

 だけど、少なくともこの国では早々にそう言った文化は廃れた。理由は、シナバーの魔女の介入があったから。血が濃い物同士の結婚の危険性を解かれたらしい。


 なので、当然だが血縁関係があるのに結婚する事は忌避される。なので、ヴェネッサの言い分が認められる事はない。

 イトコ同士位なら、条件付きで認められている。


「なるほどなるほど。ではここで、マグノリア公爵家令息、アンドリュー・マグノリア殿と彼が契約している魔剣ネロの話を聞くとしましょう」


 アンディ君の出番だ。


「アンディ君、大丈夫だよ!」


 席を立つアンディ君に小声で告げると、アンディ君はかすかに微笑んだ。

 その肩の上には、正装(?)姿の二頭身ドラゴンのネロが乗っており、サムズアップのポーズをとっている。


「お二人とも、名前をお聞かせ願います」


 と、マルシアル殿下。


「アンドリュー・マグノリアと申します。今は亡きクェンティン・マグノリアとその妻ラモーナの息子であります」


『オレ様は魔剣ネロの化身だ。このアンドリューと契約している。真偽に関しては、魔族国のドライエックに聞いてくれ』


「ドライエック殿といえば、前魔王殿下ですね。今この国に旅行に来ているので、機会があったら聞いてみましょう」


 さらに傍聴席がざわめき、それを裁判長が静める。

 ドライエックさんや魔女の師匠は、今回は出廷していない。

 これは、ドライエックさんは非公式でこの国にいるからで、師匠はすでに罪ヴェネッサのが確定しているから必要ないでしょう? との事。

 多分、どこかで映像は見てるかも。


「では、アンドリュー様、お話をお聞かせください」


「はい。私の両親が亡くなったのは、私が五歳の頃でした──」


 アンディ君が五歳の頃、ヴェネッサはこの国に戻ってきた。

 そして、頻繁にマグノリア公爵家のタウンハウスに通っていたという。

 しかし、ラモーナ夫人やアンディ君を害するような行動が多くなったため、危機感を持ったマグノリア公爵は、避難の為に三人で領地へと向かった。

 その際、当時調べていた魔剣ネロもドライエックに渡すために、持って行っていたらしい。

 しかし、その途中でヴェネッサが使役していた闇の化け物に襲われ、両親はアンディ君を庇って亡くなった 


 そして、マグノリア公爵はアンディ君の命守る為、最後にアンディ君に取り憑かせたのだ。──いや、契約させたのだ。


「なるほど。魔剣ネロ、今の話は本当ですか?」


『本当だ。オレ様はその時からアンディと契約している』


 本当は取り憑いていただけなのだが、混乱するのでそういうことになったららしい。


『この国でのオレ様の最初の記憶は、遅いかかかってくる化け物と泣いている子供、それにすでに息のない大人の男女だった。

 子供との契約の繋がりを感じたので、その子だけでも守ろうと力を振るった』


 その言葉に、至る所から啜り泣くような声が聞こえ始める。

 何も知らない人々からすると、幼い子供を必死に守った、と映るらしい。

 真相は襲ってきた敵を、ただ処理していただけらしいけど。


「その後は、スノーデイジー侯爵家に保護され養子となった。そして、魔剣ネロの扱いを学ぶために、アゲートの魔女様の弟子になった。ということでよろしいですか?」


「はい」


 本当は、取り憑いた魔剣をなんとかする為だったのだが、その辺りは美談にしたのだ。

 ヴェネッサとは直接関係ないから。


 ちなみに、〝魔剣ネロ〟が呪いの武器だという事は知られているが、今はネロが心を入れ替えたとか、既に呪いが薄れていた、という事になっているらしい。

 私が呪いを解いたということは、伏せてもらった。

 魔剣の化身であるネロが、普通に意思の疎通ができるし、呪いの影響も本当に無いので、納得はされた様だ。


「では、最後に。アンドリュー殿達を襲った化け物とは?」


『闇の眷属。つまりは闇の精霊の(しもべ)だろう』


「なるほど。それを操れるのは、相当上位の精霊となりますね。ありがとうございます。それでは席にお戻りください」


 一礼して、アンディ君が戻ってくる。


 さて、次は私だね。


「というわけですが、ヴェネッサ様は闇の精霊と契約していましたね?」


「し、知らないわっ!」


 ヴェネッサは否定する。


 何故なら、ヴェネッサが闇の精霊と契約していたことを知っている人間はごく少数らしいから。

 両親である、前国王と前王妃すら知らないかもしれない。


「おや、否認しますか?」


「そうだったそしても、すでに契約は切れているから、証明できる術はないもの!!」


「では、ご本人にお話をお聞きしましょう。シンシア嬢、お願いすます」


「はい」


 私は籠を持って証言台に立つ。

 

 ヴェネッサは怪訝な顔で私を見ている。

 すでに、私に対する興味はなさそうだった。


「では、()をお願いします」


「はい。オレオール、お願い」


 そう言うと、籠からピョコンと()()黒猫が顔を覗かせる。


「ネコ? ──あ! まさか」


 床に降り立ったオレオールは、人間の姿に変わる。

 青年ではなく、少年の姿だ。

 見た目は以前と変わらないが、黒髪のところどころに白髪の部分がある。


「闇の精霊タッカ・シャントリエリ改め、オレオールと申します。少し前までヴェネッサ様と契約しておりました」


 精霊の出廷にその場にいた人々は、騒然となった。






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