76 希望
※時は少し遡ります。
◆◆◆
広間に誰も居なくなったので、私はルイスの壊されたクラバットピンの破片を集め、修復する事にした。
理由は彼にとって、大切な物っぽかったから。
 
分析魔法で視て破片を集める。あ、破片はあまり散らばっていなかったみたいね。よかった!
そして、今現在治せる状態を確認。
よし、最上級の状態に直せる。
修復の魔法を分析に同調させ、直す!
クラバットピンは見事に修復された。
ん? あれ? これ、魔術動具か?
魔術動具はその名の通り、魔術を駆使して魔法を発生させる、魔力で動く道具だ。
大抵は魔力石とセットになっているので、使用者の魔力量や魔法適性に関係なく、使うことができる。
この辺りは魔動具と一緒だが、魔動具が普通の家電なら、魔術動具は特殊で専門的な機械といた感じだ。
といっても一般人でも持てるお守りや、申請するだけで誰でも持ち歩く事が出来る炎が出るナイフも魔術動具だし、この国の国境を囲う結界発生装置も魔術動具の一種だ。
つまり、ピンからキリまである。
この他に魔法具などもあるが、こちらは魔法使いが魔法を使う際に使う道具全般を指している。専門的過ぎるので割愛。
そして、このクラバットピンは小型ながら、亜空間収納の機能や、録画録音機能などもある、仕事用の魔術動具らしい。
正確には、アイテムボックス機能は魔術動具で、録画録音機能は魔動具になるので、魔術道具と魔動具の境目は曖昧なのかもしれない。
とりあえず、修復は無事完了。
分析の魔法で視ると完璧に直せているけど、使用者登録がされているから、動作確認は持ち主にしか確かめられないみたいだ。
じゃあ、にルイスを探そう。
流石にまだ死んではいないよね?
確かヴェネッサは、地下の牢に閉じ込めると言っていた。
この空間にある建物は、私が寝かされていたあの屋敷しかないから、その地下牢にルイスはいるという事。
他に地下がありそうな場所が無いし。
とにかく、屋敷の中へ向かおう!
◇
地下ということで、一階部分を探索しているが……広い!
無茶苦茶広いよ、このお屋敷!!
っていうか、地下牢の入り口って、どういうところにあるの?
まあ、お客様に見せるような場所ではないから、目立たないところにあるんだろうけど。
似たようなドアばかり並んでるし、よく分からないよ〜。
ちなみに、私は方向音痴ではない。
だって一度来た事のある場所なら、迷うことはないからね。
初めて来た場所?
初めて来た場所は誰だって迷うでしょう? だから、ノーカンなのだ。
「!?」
そんな事を思っていると、目の前の扉が開いた。
「ん?」
出てきたのは黒髪メガネの、ヴェネッサの執事だった。
緑の瞳と魔が合う。
どこかで会ったような気もするが、私に執事の知り合いはいないので、気のせいだろう。
「ウゲッ!? アンタ、なんでここに!?」
人の顔見て、ウゲッとはなんだ!?
「皆さんが、お屋敷に引っ込んだからよ。お客様の私を自由にさせるなんて、不用心なのね?」
意訳すると、あんたら客を放置するとか、正気か? って感じだ。
「あ〜、それは申し訳ないが、こっちも使用人はオレしかいないんでね。タッカは他の仕事で忙しいし。アンタ、いえ、お嬢様のお相手をしている余裕がなかったのです。ご了承くださいませ」
「へぇ、そう……」
はあ? なんやコイツ、正気か!?
「ああ、そう。じゃあ私も自由にさせてもらうわ」
「……地下牢への入り口は──」
「え?」
「納屋の隣です」
「は?」
「鍵はこれですね」
執事の人が、鍵を一つくれる。
「薄暗いので、足元には気を付けた方がいいですね。魔法を使うなり、適当にランタン使ってください。闇の精霊が彼を痛め付けているかもしれませんが、まあ、頑張ってください」
「な、なんで?」
「……エリカは、いえ、カプセラ女伯爵は、お元気ですか?」
「え? ええ。元気ですよ。弟も生まれましたし」
「──っ、それなら、良かったです。それでは、私はこれで」
執事の人はそう言って、どこかへ去って行った。
エリカさんの知り合い? というか、これって罠?
「……」
うん、悩んだけど分からんからとにかく行ってみよう!
罠だったらその時はその時だよね!!
◇
そして、本当に檻の中にルイスがいた。
「じょ、嬢ちゃん!?」
「ルイス、すんごいボロボロね! 何されたの!?
あ、これ、直しておいたわ。動作確認してくれる? 使用者登録されてるから、私じゃちゃんと確認できなかったのよ。
一応、分析で視たけどコレ魔術動具でしょ? 魔術動具の修理は初めてだけど、多分ちゃんと直っていると思うわ」
私は、檻越しにそれをルイスに渡す。
「え? 俺のクラバットピン!? どうして?」
「そりゃ、私が修理師だからよ。生き物は治せないけど、物は多分大体は直せるわよ!」
「そ、それは、義手も?」
「え? えーと、やったことはないけど……」
「そこで、自信がなくなんのか」
そういって、ルイスは大いに笑った。
「笑いすぎだから! とにかく視せてよ」
「はいはい」
私はルイスの義手を分析で視る。
義手は初めて分析で視るけど、魔力を元にして動くというところは、魔動具とそう変わらない筈だ。多分。
構造としては骨の様な基礎の上に、筋肉の様な素材があり、その上に細身の甲冑みたいな外部がある。皮膚に当たる場所だね。
そして、手の平や爪の部分には魔力石が取り付けらているけど、どうやら特殊な魔力石らしく、私がよく知っているものとは違う。
奇妙なのは、骨部分も筋肉も外部も全て同じ素材ということ。
筋肉のような柔軟な部分も、骨などの硬い部分も、だ。
こういった構造というか、素材は初めてだった。
後で師匠に教えてもらおう。
前腕部分の骨部分の一部が取り外し可能なのはなぜ? まあ、外側に強度があるから、骨部分がなくても支障はなさそうだけど。
分析の視界の中に、説明文が現れる。
え? 光の剣になる? 手のひらからはビームが出て、指も光の剣になる?
まさか、二刀流可能!?
なにそれすごい気になる!!
と、そんな場合じゃない。
修理自体は大きな欠損も無く、破損箇所をつなげるだけなので、私にもできそう。
分析と修復の魔法を同調させ、義手の不具合を治す。
ん? なんか魔力がうまく流れない箇所がある? 不具合? リミッターが変に働いてる?
今の破損とは関係ないけど、一応これも直しておくか。
あと、動作には問題ないけど、劣化している部分もあるから、修復しとこ。
「これで直ったと思うけど、どう?」
ルイスは右手を握ったり開いたりしている。
「問題ないな。それに前よりも魔力の流れが良い感じがする。動きがスムーズだ」
「ああ、魔力の流れが悪いところがあったから、直しといたわ。あと全体的にメンテナンスも」
「す、すごいな嬢ちゃん、いや──、シンシア」
「それより、ルイス、ボロボロだけど大丈夫なの? 私、生き物は治せないわよ?」
「戦闘は苦手だけど、一応鍛えてはいるからな。頑丈ではある」
そう言って、ルイスはボロボロのクラバットにクラバットピンをつける。
そして、クラバットピンに手を翳すと、アイテムボックス内から回復薬を取り出し、飲んだ。
「動作確認も大丈夫そうね」
「そうだな」
「じゃあ、さっさとここから出ましょう。私鍵持ってるの!」
「なんで?」
「ヴェネッサの執事の人からもらったわ」
「そう……」
なぜ、変な子って感じで見られているのかしら?
誠に遺憾なんですけど!
兎に角、檻の鍵を開けてルイスと共に外に出る。
「そのドレス何? 金魚姫?」
「文句はヴェネッサに言って!」
私の趣味じゃないからね!
「なるほど、そうする」
そうして地下から出ようとして、私たちの足は止まる。
「あれ? その人、檻から出しちゃったんだ……」
目の前には、タッカの面影のある青年。
タッカが成長すれば、そうなるだろうなといった見た目。
「悪い子だなぁ」
「ヴェネッサの執事が鍵をくれたのよ」
「デックスが? あいつ、裏切ったな……」
「貴方は、タッカ、なの?」
「うん。わかる? 大人なぼくもかっこいいでしょう?」
「そうね……」
私は、チラリとルイスを見る。
「おいおい、イケメンに騙されちゃいけないぜ? こいつはオレをボコった張本人だし、正体はヴェネッサと契約している闇の精霊だからな」
「余計な事は言わなくていいよ……」
タッカの周りに闇が集まってくる。
「シンシアは保護するけど、おっさんの方は殺しちゃっても仕方ないよね? ヴェネッサもいずれは殺すっていっていたし──」
タッカの見た目が、禍々しくなる。
「いぃっ!?」
「シンシアは後ろに!」
ルイスが私を後ろに庇う。
『死んじゃえ!!』
タッカの周りの闇が、刃物のようになって襲いかかってくる。
「──っ」
ルイスは、右腕の義手を展開した──。




