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転生令嬢は悲劇のヒロイン(!?)なお父様を救う為に魔女様に弟子入りします!!  作者: 彩紋銅
三章 シンシア十歳

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72 世界のどこにも無い場所

 ◆◆◆


「……?」

 

 あれ? ここどこだ?

 見知らぬ天井に困惑して、急いで寝る前の自分の状況を思い出す。

 確か、魔女工房で普通に仕事してたよね? それで、師匠を見送って……。


「起きた? おはよう」


 横を見ると琥珀色の瞳と、目が合う。


「ヒェッ!?」


 思わず飛び起きる。

 ついでに変な声が出てしまった。


「驚きすぎじゃない?」

 

 そう言って、少年はクスクス笑う。


 見知らぬ美少年に添い寝されてたら、びっくりするでしょ? フツー!


「き、君は? ここはどこ?」


「ぼくは……、タッカと呼ばれてる。闇の精霊だよ」


「闇の……」


 図書館での出来事を思い出して、思わず身構える。


「ああ、君を傷つけるつもりはないよ。図書館の時はご主人様も焦ってたから、無理矢理になっちゃったけど。()()乱暴をするつもりはなかったんだ。怖がらせてしまって、ごめんね……」


そう言って、少年──タッカは頭を下げる。


「それは、もういいよ」


 本当は第一王子が一緒にいたので、いいとかは言えないんだけど、話を進めるためにそう言っておく。


「そうか、よかった!」


「それで、ここはどこなの?」


 部屋はどこかのお屋敷の客間っぽい。

 しかし、窓から見える景色というか空の色がなんかおかしい。

 なんというか、不快にならない程度のサイケデリックというか、明るい宇宙色みたいな感じだ。

 少なくとも、前世でも今世でも見たことはない空の色。

 昼間くらいに明るいので、行動するのには問題はなさそうだけど。


「ここは世界と世界の狭間にある、ご主人様の()()。どこにもない場所だよ」


「ええ?」


 亜空間ってやつかな?

 前世でそういう単語を聞いたことがある。漫画とかアニメで。

 なんでそんなところに?

 いや、亜空間収納(アイテムボックス)とかの空間魔法は闇属性か。それならこの子──、タッカの魔法か。


「君にはしばらくの間、ここで暮らしてもらうことになる。まあ、生活には困らないんじゃないかな? 必要な物は、ぼくが取ってくるし」


「いや、よくないよ!? 私、仕事あるし、修行もしないといけないし、そろそろ本格的な貴族の勉強もしないといけないし、そもそも家族や師匠やアンディ君が心配するよ!?」


「そうなんだ〜」


「そうだよ!!」


 タッカはヘラヘラと私の言葉を聞いている。

 これ、話通じてる?


「でも、ご主人様の希望だからね。仕方ないよ」


 そう言って、タッカは悲しそうな顔をした。


「君のご主人様って……」


「ヴェネッサ・へデラ・クリムソン。この国で、最も高貴で尊くて幸せにならなければならない女性だよ」


「そ、う……」


 予想はしてたけど。


「それじゃあ、そろそろ準備しようか。流石にその格好ではご主人様の前には出られないし」


「え?」


 確かに今の私は作業服のオーバーオール姿だ。

 このままでは、腐っても王族のヴェネッサ殿下の前には出られないだろう。


「まずはお風呂に入ろうか。ドレスもあるから着せてあげるね!」


 そう言って、タッカは私の手を取って、立ち上がらせる。


「え、えーと?」


 戸惑っている間に、さっさと併設されている浴室に連れて行かれてしまう。


 ◇


「ちょ、ちょっと! お風呂は一人で入れるよ!?」


「え〜? でも貴族の令嬢は、侍女に体を洗ってもらうんだろ? ぼくだってご主人様が子供の頃は洗ってあげてたから、慣れてるし大丈夫だよ?」


「そういう問題じゃ、ないんです!!」


 そう言いながら、ホイホイと服を脱がされる。

 なんとか下着は死守するが……。


「こらこら、わがまま言っちゃいけません、よっと!」


「うぎゃあっ!?」


 タッカの影が伸日手渡しの動きを封じる。死守していた下着は、剥ぎ取られてしまった。

 そして間髪入れずにバスタオルに包まれる。


「じゃ、お風呂だ〜。入浴剤は何がいい? 花ならローズとラベンダーと百合の香りがあるよ。あとはレモンとかミントとか……」


「ええっと、レモンで〜」


 もう何だか、すっき知りたいのでそれでいいや。


「りょうか〜い」


 そうして、準備が終わって、湯に浸かる。

 お湯の温かさが、これが夢ではないと自覚させてくれる。


 さて、これからどうするか?


 連絡用のフワフワゴーレムは、生憎持ってきていない。

 だって、魔女工房内にいる時は使わないので、部屋で魔力をチェージ中だったのだ。

 師匠達はすぐ気づいていると思うし、助けに来てくれるとは思うけど、さて……。


「温まった? それじゃあ、体洗うの手伝うね〜」


 と、腕まくりをする。タッカ。


「……」


「?」


「それはいらないです!!」


「うにゃ!?」


 タッカをなんとか、浴室から追い出す。

 子供とはいえ、美少年に体を洗われるのは、色んな意味で良くない!!


 そうしてバスタイムをなんとか終わらせ、着替えを済ませる。

 あ、ほとんど自分で着たよ? ドレスの後ろのボタンはタッカにやってもらったけど。

 子供用のドレスだから、コルセットは必要ないし。

 ある程度サイズ調節ができるドレスなので、私の体でも合わせることができた。

 

 ただ、この白と黒と赤を合わせた、アズマニシキ(金魚)みたいな色のドレスはどうかと思う。

 和服なら、悪くはないかも? 

 いや、やっぱり子供のドレスとしては、あんまりだと思う。

 それに黒のティアラと靴を合わせれば、悪いお姫様の出来上がりだ。

 いや、金魚のお姫様みたいだな。


「さて、お腹も減ったでしょう? ヴェネッサ殿下とお茶会にしましょう」


 タッカはいつの間にか、黒の燕尾服を着ていた。

 彼にエスコートされ、屋敷の外へ向かう。


 外は、ますます奇妙な場所だった。

 

 上も下もマイルドなサイケデリック空間で、その中に先ほど私がいた屋敷が浮いている。

 そこから、半透明の石? 水晶? ガラス? のようなツルツルした足場が、階段というか庭の飛び石の様に浮いており、道を作っている。

 ちなみに、足場はそれだけ。落ちたらどうなるのだろう?


「大丈夫?」


「え、え〜と、これ、落ちたらどうなります?」


「ぼくの権能が生きてる間は、元の場所に戻ってくるよ」


「権能がなくなったら?」


「この空間ごと無くなるから、死んじゃうんじゃないかな?」


「な、なるほど……」


 何かあっても、タッカだけは守った方がいい、のかもしれない……。


 そして進んだ先には、広場があった。

 屋根や壁は無いが、四方を前世のイタリアの遺跡にありそうな柱が囲んでいる。

 その中心にはテーブルと椅子が用意されており、テーブルの上にはお茶会らしくスイーツや軽食、お茶などが用意されている。

 椅子は二つ。向かい合うようにセッティングされており、その一つの席に高貴そうな女性が座っていた。

 ヴェネッサ殿下だ。


「お待たせいたしました、主人様」


「気にしなくていいのよ? 女の子のオシャレには時間がかかるものだもの!」


 ヴェネッサ殿下は、タッカに優しくそう言うと、女神のような微笑みで私を見た。


「自己紹介、してくれるかしら?」


 私の名前を知らないのではない。格下の者に名乗るように命じているのだ。


「……シンシア・カプセラです」


 そう言って、カーテシーをする。


「そう、よろしくね。シンシア。座って頂戴」


 どうやら、私のカーテシーは及第点をもらえたらしい。


 タッカに椅子を引いてもらい、座る。


「お腹空いてるでしょう? マナーなんて気にせずに好きなように食べて。飲み物は紅茶でいいかしら?」


「はい」


 そして、タッカが紅茶を用意してくれる。

 ヴェネッサ殿下の分も新しく淹れる。


「んー、いい香り。王宮からからくすねてきた甲斐があるわ。」


 ヴェネッサ殿下が紅茶に口をつける。


 私もそれに倣う。

 毒の心配はないだろう。私の命を狙っているなら、ここまでにいくらでも機会はあった。

 人心を操る何かが入れられている可能性も否定できないけど、確か闇属性の魔法には、人の心に作用するものもあった筈。わざわざ、薬に頼らなくてもタッカに何かさせれば良い。


 なんて言い訳をしたが、単に喉が渇いてお腹が空いていたので、気にせず食べたいだけである。

 何かあったら、みんなごめん! である。


「ワタクシは、レモンムースのケーキを取って。シンシアは何がいいかしら?」


「私も同じもので」


 せめて、ヴェネッサ殿下と同じものを食べて、自衛。あまり意味はないかもだけど。


 それからしばらくは、食べながら好きなお菓子や、紅茶についての他愛無い会話が続く。

 特に体に異常はないので、本当に普通のお茶会の様だった。


 そしてお腹が満ちると本題だ。

 意を決して、声をかけてみる。


「あの、ヴェネッサ殿下……」


「この間はごめんなさいね」


「え?」


「あなたの都合も考えずに、無理矢理連れって行こうと、してしまったわ」


「い、いえ……」


 アンディ君に軽傷とはいえ怪我をさせたので、到底許せることではないが、ここで許さないと言う勇気は私にはない。


「私はね、これから私の好きなものに囲まれて、好きなように生きていくことを決めたの」


「え?」


 なんの話だ?


「それでね、まずは大好きなシンシアを手に入れたのよ」


「なぜ、そんなに私を好いてくれるのですか?」


 二回くらいしか顔合わせたことがないし、関わりもそこまでないけど?


「シンシアは私の理想の娘なの。もし()()()()のお兄様との間に子供ができたら、シンシアみたいな可愛らしくてお利口な子供ができたと思うもの!」


「……え?」


 今、なんて言った?

 

「ヴェネッサ殿下のお兄様、ですか? ということは、国王陛下?」


 心臓が嫌な音を立てる。

 恐怖とも少し違う、焦りの方が強い感情。


「陛下もそうだけど、私には兄がもう一人()()の。クェンティンお兄様といって、陛下とは双子だったのよ? マグノリアの家名を名乗って、公爵の位を賜っていたの。確か、魔術研究をしていたわね〜」


「え?」


 マグノリアは、アンディ君の……。


「あ、陛下の名前は知ってるかしら? フィランダーっていうの。セカンドネームはリスラムよ。

 王族の場合セカンドネームが生まれた時に名前と一緒に決められて、臣籍降下するときに家名になるのは知ってる?」


「あ、えーと、マグノリア公爵は、亡くなった、と……」


「そうなの! あの時は愛する兄様に妻どころか子供までいたから、怒りが抑えられなくって……。

 私は大変な目に遭っていたっていうのに、そんなのズルイじゃない? 

 でもお兄様まで殺してしまったのは、良くなかったわ。もうワタクシにはフィランダーお兄様しかいないんだもの。

 流石に国王になったお兄様に手を出すのはまずいと思っていたのだけれど、愛の為なら仕方がないわよね? 

 だって、ワタクシだけ愛する人と結ばれないなんて、おかしいもの!」


「あ、その、えーと……」


 なんて答えたらいい?

 これ、答え方を間違えたら、一撃死もあり得るヤツだ。


「あら? ワタクシばかり喋ってごめんなさいね? それにシンシアには少し早いお話だったかしら?」


 ヴェネッサ殿下は、そう言って恥ずかしそうに笑う。

 

 なんとか切り抜けたらしい。何もしていないけど!


 そして、今になってようやく思い出した。

 この人、()()『リザンテラ〜土の中に咲く花〜』に出てくる登場人物で、一番ヤバい人だ!






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