7 父様からの遺伝らしい(嬉)
◇
そんなわけで、修復の魔法はなんとか使えるようになったけど、今度は分析の使い方がよく分からない。
そういえば分析でも、色々種類があるらしい。
師匠曰く、分析は視ただけで、色々分かる能力の事らしい。
しかし、分析の中でも個人によって特化しているものが違う事もある。
視ただけで対象の状態が分かるもの、成分がわかるもの、遥か遠くが見えるものなど、色々あるらしい。
それら全てが使える人もいるし、練度が上がると今まで出来なかった事も出来る様になるらしい。
これは修復の方にも言えるから、こちらも出来ることが増えるとか。
修復の上位って何だろう? 生き物も治せるとか? それはなんか違うか。
思考が逸れた。
え〜と、修復の時は魔力を破損した皿に流し、それを元に破損前の状態をイメージして、それを再現して直した。それで修復という魔法を使ったのだ。
では分析は?
目に魔力を集中する? いやそもそも分析って目が起点となって発動する魔法なの?
それとも、脳裏に映像が浮かぶ感じ?
わからん。
わからんので、師匠に聞いてみよう!
わからない事があればいつでも聞けって言っていたし!
ちなみに、師匠から借りたフワフワゴーレムのホワワには、魔術通信機能も付いていたことを最近知った。
この機能で師匠は、お父様にくっ付いているフワワから情報を得ているのだ。お父様はそのことを知らない。
その結果──。
『人による』
との事。
師匠、あのさぁ……。
詳しくは、脳裏で映像を再生するように視る人もいれば、視覚に情報が表示される人もいるとのこと。
正に人によるぅ……。
ちなみに、師匠は脳裏に映像が浮かぶタイプらしい。師匠、分析使えるんですね〜。へぇ〜?
仕方ない。まずは、目に魔力集中してみるか。
……脳裏で視る場合は、どこに魔力を集中させるのだろう? やっぱり脳? 大丈夫なのかしら?
目に魔力を集中し、魔法を発動させる。
イメージだ。自分は分析魔法が使えるっていう、イメージを強く持つのだ。イメージ大事!
魔力の使い方は違うだろうが、発動させる感覚は修復と同じだろう。多分。
「え!?」
いきなり、視界の色が変化する。
なんというか、前世で画像や映像の色を反転させたような感じになる。
白黒反転、いや、ネガポジ反転? だっけ?
そんな色合いになる。
そのまま手に持っていた木箱を見ると──?
お、おおおお!?
中が見える!?
す、すごい! 超能力みたい!! いや、ある意味そうだけど!
なるほど、中の皿は綺麗に三つに割れている。……師匠が割ったのかな?
おや? 割れた断面部分が赤色になっている。これだけ色が反転? してないな。なんで?
「……あ、もしかして?」
私は、資料用に預かった方のケーキ皿を見てみる。こちらは特に赤い色は付いていない。
そして、無傷の方のケーキ皿を、床に落とした。
落としたケーキ皿はパリンっと音を立てて、大小の破片に散らばる。
それを再び分析の魔法で見る。
すると色彩が反転した視界の中で、割れた断面部分だけが赤くマーキングされていた。
つまり、私の分析魔法は〝悪い部分が分かる〟的な事? あと多分、透視も出来るね。箱の中身が分かるし。
おっといけない。
床に落ちて割ってしまった方の皿、なんとかしないと危ないな。
箒とちりとりが貴族令嬢(放置)の部屋にあるわけもないので、使用人に借りにいくか。
こういう時、中途半端に世話をされているとちょっと面倒だね。
部屋の扉を開けようとしたところで、部屋の扉をノックされた。
「シンシア? さっき何か割れるような音がしたけど?」
お父様だ。
私は割れた皿の入った木箱を机の引き出しの中に隠すと、部屋の扉を開ける。
「あ、はい! 実はお皿を落としてしまって。今、箒とちりとりを借りに行こうかと……」
「皿を? 危ないから、掃除させよう。使用人を呼んでくる」
あ、あのケーキ皿、師匠のだから回収されるとまずい。
「あ、あの! 破片は取っておいて欲しいのですが!」
「え? でも危ないよ?」
「どうしても、です!」
「──うん。わかった。言っておこう。シンシア、破片がどこに飛んでいるか分からないから、そこから動かないでね」
「は、はい!」
お父様はそのまま、使用人を呼びに行った。
そして少ししてからドリーを連れて戻ってきた。ドリーの手には箒とちりとり。
「掃除が終わるまで、僕の部屋に行こうか」
「いいのですか?」
「ああ。今は休憩時間でね。少し時間がある」
私はお父様に抱っこされながら、お父様の部屋に向かった。
お父様の部屋は屋敷の二階の、お母様の部屋の隣にある。
ちなみに、現在、お母様は出かけているらしく不在だ。最近、お母様は屋敷を開けることが多い。
「お茶を運んでもらおう」
「ありがとうございます」
侍女が二人分のティーカップと、お茶菓子のクッキーを運んでくる。
「それで、シンシアは何をしているのかな?」
「え?」
対面のソファーに座ったお父様を見る。
その方には手乗りふわふわゴーレムのフワワがいた。ピンクの毛並みの子だ。
すっかりお父様に懐いている。
「もしかして、何か危ないことをしてる? それなら見過ごせないけど?」
あ、バレてる。
いや、バレない方がおかしいか。いやいや、危ないことはそんなにしていない。
ジト目でも美少女感が抜けないお父様!
「危ないこと、は、していません。ですが、私とお父様の未来の為に色々と、しています」
「僕とシンシアの未来? それは、今は説明できない?」
「はい、その……、まだ確定ではないので……」
もし事情を話して失敗したら?
希望を持たせて落としたことになる。そんな事になったら、お父様は立ち直れないかも知れない。
私はそれが、怖い。
「──そうか。多分、君のおかげで僕は、助けられている部分もあるのだろう。だけど、シンシア。無理だけはしないで欲しい。何かあれば、すぐに言うんだ。いいね?」
お父様はフワワを撫でながら、真剣な目で言った。
「もちろんです! 私はお父様と一緒に、幸せになりたいですから!」
「──そうか。そうだね」
お父様が目を伏せる。
「そういえば、お父様は特異魔法とか持っているんですか?」
お父様は見た目美少女だが、男なので聖女の適性はない。
でも特異魔法は誰でも持っている可能性がある。
そして持っている場合は、子孫にも似たような特異魔法が発言する場合がある。
まあ、持っていない人の方が多いらしけど。
「うん、あるよ。僕の場合は〝分析〟だね」
「分析!?」
やっぱり! 私の分析はお父様譲りだったんだ!!
「ど、どんなことができるんですか!?」
「そうだねぇ。一言で言うと難しいんだけど、僕の場合は、対象に異常が無いかが分かったり、それぞれの物の相性が分かる的な感じかな? 僕の兄は透視が得意だったね。そのせいで婚約者がなかなか決まらなかったんだ……」
やっぱり、分析にもいろいろなタイプがあるんだ。
分析って分かる系能力の、総称なのかもしれない。
「お父様の家系は、分析の特異魔法の一族なんですね。それって、すごいのでは!?」
「そうだね。大元は魔法技術系の職人だったらしいし。活用できる場があれば強みになるね。そういえば昔は僕も、魔法術技師かゴーレム技師目指してたな〜」
そう言って、お父様は寂しそうに笑った。
その願い、今からでも遅くないと思います。
お父様の休憩時間が終わり、私も部屋に戻った。
中央階段に差し掛かると、一階が騒がしい。どうやらお母様が帰ってきたようだ。
‥…気づかれないうちに自室へ戻ろう。
「そろそろ、新しい従者を雇おうと思うの」
お母様の声が聞こえてきた。
ご機嫌なのか、声が大きい。
なんとなく耳を澄ましてみる。
「従者、ですか?」
微かに家令の爺さんの答える声も聞こえる。
「ええ、アーロンというのだけど──」
──アーロン!?
アーロンはヘザーの本命であり、ポーラの実の父親だ。つまりは、ヘザーの浮気相手。
浮気じゃなくて本気? 私そういう言い訳する奴、嫌いだわ。
原作では彼がルビア伯爵家のタウンハウスへ来るのは、お父様が亡くなる一年前。私が七歳くらいの時の筈だ。
少なくとも今ではない。
どういう事だ?
アーロンは異性愛者だけど、原作では美少女な見た目のお父様を性的に襲ってしまう。そしてお父様は、嫉妬したヘザーに拷問じみた虐待をされ、死んでしまうのだ。
背筋に冷たいものが伝う。
まさか、原作通りに進んでいない?
いや、シンシアが転生者な時点で、原作とは違う。そもそも、原作を変えるために行動しているのだから、違って当然。
だから、こういうことも起きる。だってここは私達の現実だから。
「アーロン様といえば、ハートシード男爵家の次男様でしたか?」
「ええ。今はご実家の領地運営を手伝っているの。それで──」
アーロン・ハートシード。
それが、本名か。
家は男爵家、と。
私は急いで部屋に戻る。
その後は魔法の修行をする余裕はなかった。
◆
「師匠! まずいです!!」
次の日、放置時間になると私は急いで師匠の元へ転送した。
「あら〜、シンシアちゃん。どうしたの〜?」
「原作でお父様を死に至らしめる原因の男が、もうすぐタウンハウスにやってきます!!」
「え〜と、原作っていうと、シンシアちゃんの前世の世界の物語? よね〜」
師匠には私が転生者であり、この世界を題材にした創作物があることも伝えている。
「なぜか、原作の時期よりもルビア伯爵家のタウンハウスに来る時期が早まったのです!」
「う〜ん。シンシアちゃんのお母様はここ数日間、シンシアのお父様と夜の夫婦生活はしていないのよね〜。それで、最近のお泊まりデートで燃え上がって〜、色々我慢ができなくなってしまったのかしら〜?」
「え?」
つまり、欲求不満が原因?
嘘だろ、ヘザー!?
「ちょっと心配ね〜。お母様の方にも監視用のフワフワゴーレムちゃん、付けておきましょうか〜」
師匠の手の上に、ポフンッと手乗りふわふわゴーレムが現れる。今度は青い毛並みだ。
「名前付けてあげて」
「え? えーと……」
ピンクの毛並みの子がフワワ。白い毛並みの子がホワワ。
「じゃあ、モフフで?」
ちょっと語感が悪いけど、他に思いつかなかった。
「じゃ、登録っと。術者の魔力情報は同調させときましょう」
師匠はそう言うと、私に常にくっ付いているホワワとモフフを近づける。
すると、お互いに頬をすりすりと知り合わせる。
可愛い!
『同調、完了しました』
うわ!? その見た目でいきなりの機械音声は、ちょっとびっくりする。
とにかく完了したらしい。
「この子にはステルス機能もあるから、対象者に気づかれる事なく監視できるわ〜。睡眠薬仕込むのは今度からこの子にさせましょう」
そう言って、モフフをフワワの元へ転送した。
「ありがとうございます!」
「でも困ったわね〜。このままじゃ計画を早めた方がいいかもしれないわ〜」
「計画?」
「アナタとお父様を、ルビア伯爵家から引き離す計画よ〜」
「そ、それは──」
「ところで、シンシアちゃん。宿題は?」
「あ、その……」
計画の内容を聞く前に補習となった。
割ってしまったケーキ皿もちゃんと直しました。破片が多くて大変だった。
ショーンは領民には結構人気。
ヘザーは過去に領地でもやらかしているため不人気。




