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6 イケメン侯爵夫人との出会い

 ◆


 とりあえず割れた皿はくっついたけど、直した跡はガタガタ。

 多分何かが足りない。

 それが何かわからないまま、()に三日が経った。()なだけに。


 家庭教師が来る日と師匠が仕事で遠出(出張)する日が重なったので、この三日間は屋敷で大人しくしていた。

 いや、師匠にもらった割れた皿をくっ付けまくっていた。

 しかし、魔力を流してくっ付ける事には慣れてきたが、やはり修正箇所はガタガタ。絵柄のある物はずれてしまったり歪んだりしている。

 そのせいでクローゼットには修復失敗皿が溜まっている。

 クローゼットにある、複数の皿。なんかシュールだ……。


 ちなみにクローゼットには必要最低限のものしかないのでスッカスカ。五歳児の私はここに住めるかもね!

 ドレスなんて普段着用が四着しかないし。


 っと、そんなことはどうでもいい。


 しかしなぜ、修復が完全にできないのだろう?

 これでも味があるし、使えなくはないか、完璧に修復でき(直した)たとは言えないな。 

 完璧でなくても良いのか? いや、ダメな気がする。

 

「う〜ん」


 答えが出ないので、私はヒントを求めて師匠の工房に転移した。 

 今日はお実父様もお母様(ヘザー)も出掛けていて二日ほど帰ってこない。


 別に仲良く出掛けたわけではない。

 

 お実父様は、領地への視察。二日間の出張だ。

 お母様は本命彼氏と、お泊まり旅行。表向きは友人との旅行という事になっているけど。

 ちなみに姉のポーラは留守番らしい。交流がないので、普段何をしているのかは不明。

 

「あら〜シンシアちゃん。いらっしゃ〜い。三日ぶりね〜」


「こんにちは、師匠」


「修行の成果はどお〜?」


「それが、割れた部分はくっ付いたのですが、綺麗に直せないのです」


「あら〜、そうなの〜? あらあら〜」


「……教えてはくれないのですね?」


「さあ〜?」


 師匠はニコニコと笑っているだけだった。 

 アレレ〜? 師匠、もしかして? 教える気、無〜い?


「ケーキあるけど〜?」


「食べますぅ〜」


 思わず仏頂面になる私。それを見て笑う師匠。

 紅茶も準備すると言って、私を工房の事務所に残して給湯室に引っ込んだ。


 最近、師匠の工房に来るとお菓子を用意してもらうことが増えた。

 誰かの誕生日とか、四季のお祝い事でもない限り、甘いものが食べられない私は、それが楽しみだったりもする。


「今日は王都で人気のカフェで買ってきたのよ〜。ショートケーキっていうらしいわ〜」


 出されたのは、前世日本でお馴染みのあのショートケーキだ。生クリームでデコレーションされていて、苺が乗っているやつ!


「いただきます。これも転生者が流行らせたんですか?」


「らしいわよ〜? アタシは会ったことないわね〜」


 師匠が紅茶を淹れてくれる。

 マジで師匠、何歳なんだろう……?

 いや、女性に年齢訊くのは良くない! 気にしない!!


 ケーキは普通に美味しい。

 ただ、前世でもケーキなんて、クリスマスと誕生日位にしか食べなかったので、どっちか良いかとかは比較できないけど。

 

「こんにちは。アゲートさん、いらっしゃいますか?」


 その時、凛々しい女性の声が響いた。

 事務所は工房の受付カウンターの奥にあるので、会話は結構、聞こえる。


「は〜い」


 師匠が対応に行った。


「あら〜、エリカ。いらっしゃ〜い」


「頼まれていた、魔力鉄鉱の極小ネジ千個、納品に上がりました」


「早いわね〜、流石だわ〜」


「いえいえ。それで、もう一つの方の──」


 どうやら仕事の取引先の方らしい。

 この世界にもネジってあるんだね〜。これも私以外の転生者の恩恵かな? 素晴らしいね。

 あ、でも前世の世界でも古代からネジってあったらしいし、この世界でも元々あったのかもしれないな。


「そうだわ〜。人気のカフェのケーキがあるから食べていかな〜い? 紹介したい子もいるのよ〜」


「紹介したい子、ですか?」


「ええ、そうなの〜」


 そんな会話が聞こえたかと思うと、二人は事務所に入って来た。


「この子はアタシの弟子の、シンシアちゃん」


「あ、よろしくお願いします!」


 急いで立ち上がり、覚えたてのカーテシーを披露する。


「ご丁寧にありがとう。私はエリカ・ランタナと申します」


 そう言って胸に手を当てて紳士の礼をするのは、黒髪と黄水晶(シトリン)の瞳を持つイケメンだった。

 貴族男性の着る様なジャケットとトラウザーズを身につけ、艶やかな長い黒髪は、赤のリボンで一つに緩く結っている。

 どう見ても新進気鋭な、貴公子にしか見えない。

 いや、でも師匠は侯爵()()と言っていたよね?

 もしやこの国、同性でも夫婦になれる?

 いや、エリカって女性名だわ。あと、声も。


「エリカってば、こんな見た目だけど、立派な()()なのよぉ〜」


()()()お飾りの侯爵夫人になってしまいましたよ」


 とにこやかに言う。おそらくお陰でというのは皮肉で言っているな。


「あら、アナタ達、まだ白い結婚なのねぇ」


(アレ)には元々、愛人がいますからね。そもそも私達の結婚は契約結婚ですから。あと二年したら離縁する予定ですし」

 

 エリカさんは白い結婚なんだ。前世でよく読んだ設定(?)が本当に有った!? 


「っと、シンシア嬢の前でこんな話は、良くないですね。失礼しました」


「さあ、エリカも座ってちょうだい。お茶淹れるわぁ」


「ありがとうございます」


 そんなわけで、三人でのささやかなお茶会が始まる。

 そういえば師匠の夫らしい黒騎士(?)のジョニーさんは、ここ最近見ていない。他の仕事で忙しいと前に言っていたっけ。


「そういえばシンシアちゃん、何か悩んでいたわね〜」


「え? あ、はい。えーと、修復、なんですけど、一応くっ付気はしたのですが、綺麗に直らないのです」


「修復? シンシア嬢は修復の魔法が使えるのですか?」


「この子の特異魔法なの〜」


「へえ、珍しいですね。治癒とかなら特異魔法として持っている人はよく居ますが」


「だから、アタシの弟子にしたの〜」


「ああ、そっち方面はアゲートさんの得意分野ですからね。納得です」


「でも、どうして綺麗に直せないのかしらね〜?」


「……」


「……」


 白々しいな、師匠。エリカさんも気づいているな。


「……あー、その、門外漢の私からアドバイスさせて貰ってもいいかな?」


 と、エリカさん。


「はい! お願いします!!」


 師匠、当てにならないので!


「私は自分の商会を立ち上げていてね。そこでは主に魔動具や魔術装置の部品を作っている。アゲートさんはその顧客の一人で、よく特注の部品なども作らせていただいているんだ」


「エリカは金属の扱いが上手いのよ〜」


「その際に大切なことはなんだと思う?」


「え? えーと……」


 特注の部品を作るのに大切なこと? それはやっぱり……。


「お客様の求める商品を正確に作る、ですか?」


「そうだね。ではそのためにはどうする?」


「──お互いの認識をすり合わせて、お客様の求める商品を……、えーと、形にしてゆく?」


「そう。最終的に作るべき商品の形を把握しておく事が大切だ。これを、君の修復を行う際に当てはめてみれば──」


 ──ああ、なるほど。


「その物の正しい姿、元の姿がわかっていないから、ちゃんと直せなかったんですね!!」


 そうか。

 前世でも、歴史的価値のある絵画や彫刻を元の正しい姿を理解していないまま直して、失敗したなんてニュースを見たことがある。

 つまりは、想像力が足りなかったんだ!

 ──いや、前世、世界の修復失敗は、ちょっと違うかも。単に技量の問題かも。

 でも、魔法は想像力ともいうし、そういうことだよね!

 金継ぎをヒントに魔力で割れた皿が一時的にくっ付いたのも、想像力が魔力に反映されたからだもん!


「師匠、割れた皿とかありませんか!?」


「それなら、そうね〜。ケーキのお皿は汚れてるから、こっちね〜」


 師匠は目の前にあったティーカップのソーサーを、その場で()()()()()()()()

 え? クッキー割るみたいに? え? え?


 い、いや、それはいい! 今は置いとく!!


「す、すみません、お借りします!」


 私は真っ二つになったソーサーを受け取ると、自分の前に置かれているソーサーと見比べる。

 ティーカップもソーサーも皿の縁に金の装飾があるだけでシンプルなデザインだ。

 おそらく、同じものを数セットまとめて購入しいているのだろう。私のも師匠のも同じデザインだ。


 つまり、元の状態を理解し、それを割れた方のソーサーで再現すればいい。

 魔力を割れたソーサーに流し、それを実行する。

 すると、青白い輝きを放ち、ソーサーは()()()()()()()()。いや、直った。


「で、できた?」


 真っ二つになっていたソーサーはすっかり元の状態に直っていた。傷跡も縁の金の装飾にも歪みもズレもない。


「あら〜、良かったわ〜」


「おめでとう!」


「ありがとうございます!!」


「でも、これからはもっと大変よ〜」


「え?」


「だって、元の状態に直すなら、すべての元の状態を理解しないけないんだから〜。元の姿が分からなければ想像、予測しなければならないし〜、想像力も必要ね〜。まあ分析の魔法とうまく組み合わせると、楽になるとは思うけど」


「ガ、ガンバリマス……」


 大丈夫、大丈夫。私なら出来る! ……多分!!


 ◇

 

 それから二日経った。

 師匠と初めて出会った日から、十日経過している。


 お実父様は相変わらず仕事で忙しいみたいだが、夜はグッスリ眠れている様で以前よりも健康そうだ。

 お母様は普段よりも機嫌が良いらしい。本命の彼氏と熱い夜を過ごしたのだろうか?

 ウヘァ……。


 師匠は王宮での打ち合わせと魔動具の修理依頼が入っており、私の面倒が見れないのでこの二日間は邸宅での自主練となった。

 修復に失敗していた皿も、全て綺麗に直すことができたので、預かっていた皿は全て返却した。


 そして皿の修復に慣れた頃、師匠は、新たな修行を用意してきた。

 次は箱の中に入っている皿を、実物を見ずに直すというもの。

 修復と同時に分析の方も鍛えるらしい。

 あ、資料用の完成品は見ても良い。


 ちなみに師匠のアドバイスは「ガンバッテ」だった。

 師匠とは?


 さてまずは皿の形を把握。 

 割れていない状態の物も預かっているので、よく観察する。

 メイン料理用の皿よりも少し小ぶりで、縁に金の装飾が施されている。それ以外は装飾はなくシンプルなデザインだ。

 あ、これ、この前ショートケーキが乗っていた、ケーキ皿じゃん。


 それと同じ物が、割れた状態で木製の箱の中に入っている、らしい。

 ちなみにどのように割れているのかは分からない。箱を少し振ると、カチャカチャと音がする。

 確かに割れている気配がするな。


 まずは、皿がどのような状態なのかを分析しよう。


 ……どうやるんだろうね?


 


 


エリカ・ランタナ侯爵夫人は中性的な美人の十九歳。

男装? の麗人。

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