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43 魔剣ちょっぴり覚醒

 瘴魔の鋭利な触手鉤爪が私に届く瞬間、私は何かに引っ張られて後ろへ倒れた。


 同時に金属同士がぶつかるような、鋭い音。


「──あ」


 見ればアンディ君が黒い剣で、瘴魔の鉤爪を受け止めていた。


「アンディ君!」


「シンシア下がって!」


 アンディ君は、黒い剣で瘴魔の鉤爪を弾くと、職種状になった腕を切り裂いた。

 その動きは、まるで戦いを熟達している騎士のようだ。


 アンディ君が手にしている剣は、前に私がアンディ君の中で視た、あの中二心を擽ぐるデザインと雰囲気は似ていた。

 しかし、デザインは(ガード)の中心に獣の眼のような赤い宝石があしらわれている以外はシンプルで、騎士達が普段使いしている剣とよく似ている。


 一体どこからその剣出したんだ、アンディ君。

 来る時は手ぶらだったよね?


「──あ!」


 こちらに向かってくる触手が増えたので、私はアンディ君の前に防護壁を張る。

 伸ばされた触手は時弾かれるが、防護壁は追尾しないので、このままではアンディ君の方も身動きが取れない。

 それなら、体にピッタリ沿うように防護壁を展開して──。


「〝光の守り(ライトベール)〟!」


「これは……、ありがとう、シンシア!」


 防護壁よりは劣るが、それでも無いよりはマシだろう。

 瘴気は防げないだろうけど、それ以外の攻撃はなんとかなるはず。


 アンディ君は触手達を薙ぎ払い、そして持っていた剣を瘴魔に向かって、()()()。 


「え?」


 剣を瘴魔は避けるように飛び退くが、剣が床に突き刺さると同時に、陰の刃が剣山のようにその場に幾重にも発生し、瘴魔に突き刺さる。


『──っ』

 

 その隙に、ジョニーさんが瘴魔の首を刎ね、頭と体を縦に真っ二つに切断した。


 今度は、復活することはなかった。


 ◇

 

 それからすぐにエリカさんが呼んだらしい衛兵と聖女様が到着し、デクスターとまだ生きている悪漢どもは捕縛された。後からから騎士達もやってきて、現場を引き継いだ。


 魔物による穢れは聖女によって、綺麗さっぱり浄化される。

 直接対峙したジョニーさんもアンディ君も私も、瘴気の影響はないようだ。


 聖女様が浄化をする様子は神秘的で、そういえば父親の違う私の姉のポーラは聖女の適性もあったなと思い出したが、すぐにどうでも良くなって忘れた。


 さて、この世界では瘴気や魔物による犯罪は、かなり重い。

 これは種族や国が違い、崇める神が違ったとしても共通する認識であり常識なのだ。

 なにしろ瘴気は魔物を生み、魔物は瘴気をばら撒く。

 魔物が触れたものものは穢れ、それが生き物であれば放っておくと体を蝕まれ死に至るし、その死体からも瘴気は発生する。

 土地であれば生き物が死に絶え住めない土地となり、物であれば瘴気をばら撒く呪物となる。

 そして放置すれば、いずれは国が滅んでしまう。

 なので、瘴気は見つけ次第、必ず浄化しなければならない。


 そして浄化は聖女にしかできない。

 近年では各国聖女の人数は十分いるらしいが、それでも何が起きるかわからない。

 その聖女を人災で想定外に派遣する事になるので、デクスターの罪は重くなる。 

 彼は上級貴族なので死罪はにはならないかもしれないが、もう貴族ではいられないだろう。


 ちなみに、今回。唯一の死亡扱いとなったのが、ランタナ侯爵家のタウンハウスにいた悪漢共のリーダーの、バリーという男だった。

 魔物に取り憑かれた時はかなり驚いたが、ああなった時点で彼は既に死んでいるらしい。

 彼の死はデクスターが大元の原因ではあるが、バリーがあらゆる犯罪に手を染めていた事と、平民であることから、これに関しては魔物を扱ったことよりは罪状が軽くなるという。

 これが貴族と平民の差だ。

 平民が貴族を害すればほぼ死罪が確定するが、貴族が平民を意図的に害しても そこまでの罪には問われないのだ。


 そして瘴魔(しょうま)の事。

 あまり一般的に知られてはいないが、魔物は時として人を取り込み、その命と姿を奪う。 

 奪った人物の姿を利用して、人の社会に溶け込み、そして滅ぼす為に暗躍するのだという。

 そうやって人の姿と知性を得た魔物を、瘴魔と呼ぶそうだ。

 正直、人の側を被っていると、見破るのは相当困難らしい。

 それに彼らには人を騙し取り入る知恵があるので、意図的に囲っている者もいるという。これもバレたら、即アウトだ。


 私とアンディ君といえば、師匠に断りもなく危険な事をした為、一ヶ月の謹慎。

 アンディ君は私が原因で協力することになったのでそれだけで済んだが、私だけそれプラス三ヶ月のお小遣い無しとなった。

 とほほだ。

 でも、お小遣いを稼いではいけないとは言われなかったな……。ニヤリ。


 師匠はあの時、エリカさんのアシストをしていたため、私たちにまで気が回らなかったらしい。

 監督不行届として、師匠はお父様達に謝っていた。

 それに申し訳なくなり、私も謝りまくってしまった。


 とにかく私たちの処遇は、それで手打ちとなった。


 ◇


「ごめんね、アンディ君。私のせいで」


「いや、一緒に行こうと決めたのば僕だから、シンシアのせいじゃないよ」


『でも、無鉄砲は程々にした方がいいと思うぜ〜』


「うぐっ、それは、はい、反省してます」


 一ヶ月間はどうせ外出できないので、その間は勉強と私は魔導師としての修行、アンディ君は剣の修行に勤しんでいた。庭に出るのはOKなのだ。


「でも、あの、瘴魔? に立ち向かったアンディ君、とっても格好良かったよ!」


「え? そ、そう?」


「うん! 剣術習い初めて、まだ一ヶ月ちょいでしょ? いつの間にあんなに上達したの?」


「あれは、ネロに協力してもらったんだ」


「協力?」


『オレ様も呪いが解けてな。色々と自由にできるようになってきた。そこでオレ様の魔力とアンディの魔力を同調させて、オレ様を昔使っていた騎士の動きを模倣したのだ。ついでに身体能力も向上させてやった』


「それであんなに凄い動きを……。あ、じゃあの剣は? ネロの本体?」


『いや、俺様の魔力とアンディの魔力から作り出した()()()だ。切れ味は本物と大差ないけどな!』


 どうやらアンディ君とネロは、影製の剣や刃物を魔力が続く限り作り出せるらしい。

 これも得意魔法の一種なんだろうか? 


「な、なんか、格好良いわね……」


「えへへ」


『もっと褒めていいぜ!』


 アンディ君は照れくさそうに微笑み、ネロはフンスッと胸を張っている。


「よし、アンディ君とネロにお礼がしたいから、何か作るわ」


「え?」


『何を〜?』


「え? えーと、お菓子、とか? どうせ一ヶ月間は外出できないしさ」


 前世ではホットケーキしか作ったことはないし、今世では料理すらしたことないけど、なんとかなるよね! (フラグ)


 ◇


 お父様も変な格好はしていたが、怪我はなかった。

 あの格好をさせたのは、デクスターの愛人のカレンという女で、羞恥心により逃げ出させない為、らしい。

 嘘だね、絶対カレンってヤツの趣味だ。


 あの日以来、お父様はポーっとする時間が増えた。

 エリカさんが魔女工房にやってくると、すごく嬉しそうにしてるし、身だしなみに身気を使うようになったのだ。

 あと、アンディ君と一緒に筋トレも行うようになった。次の日は筋肉痛で仕事にならなかったけど。

 どういう風の吹き回し?

 お父様は自分が美少女フェイスな自覚がなかったので、仕事以外のことは結構だらしないのに。


 エリカさんはドレス姿に戻り、謹慎で時間のある私たちにマナー講習の時間を増やしたのだった。

 だけど、エリカさんも最近悩みがあるみたい。

 そして今日、その相談を受けた。


「シンシアちゃん、相談があります……」


「う、うん。人に聞かれたくない? なら私の部屋に行こう」


 そして話を聞く。


「──え? それって、本当ですか?」

 

「はい」


「私は反対しないわ。お父様が了承したら、それに従う」


「ありがとう」


「こちらこそ、ありがとう!」


 それは、とても素敵な申し出だった。






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