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23 ドレス姿のエリカさん

 お店にやってきたのは、いつもお世話になっているエリカさんだ。

 ランタナ侯爵家夫人だけど、旦那さんには結婚前から愛人がいるので、白い結婚らしい。

 工房に移り住んでからは週に二回ほど、マナー講師として勉強を教えてもらっていた。


 ここ最近は忙しいらしく、マナーの授業はお休みだったので、実に一ヶ月ぶりに工房に顔を見せに来た事になる。

 

 私は、急いで受付に行き、ご挨拶をする。


「エリカさん、おひさしぶで──えぇっ!?」


 教わったカーテシーで挨拶うしようとして、私は固まってしまう。

 だって、そこにいたのは、いつもの男装の麗人(エリカさんが着ていたのは、女性用のトラウザーズの礼服だけど)ではなく、平服のドレスに身を包んだ淑女だったからだ。

 髪をハーフアップにしたエリカさんが、男装の麗人のエリカさんと結びつかない。

 顔は同じなのに! 

 美人すぎる!


「シンシアちゃん、お久しぶり。今のはマナーのテストだと減点になってしまうわね」


「は、はい! 申し訳ありません!」


 慌てて、カーテシーをする。


「冗談ですよ」


 女性らしくクスクス笑うエリカさんは、どこをどう見ても淑女。


「エリカさんその格好は?」


「実はこの度、目出たく離縁が成立したの。もうあの格好で、自衛する必要もなくなったのよ」


「自衛、ですか……」


「ええ。一ヶ月も授業をお休みしてしまって、御免なさいね。これからはもっと余裕ができるから、授業数を増やしても大丈夫ですよ?」


「そ、そうですねぇ……」


 エリカさんの授業は結構スパルタなので、ちょっと躊躇する。

 マナーの勉強は、少し苦手だ……。


「フフ、その辺りはアゲートとショーンさんと相談して決めましょうね」


「は〜い」


「エリカさん? お久しぶり──」


 お父様もエリカさんにご挨拶のため、顔を出す。

 そして、固まった。


 ちなみに、()()()()なのは、白い結婚とはいえ既婚女性に普通は嬢は付けないし、だからと言って夫人と呼ばれるのも嫌なので、さん付けになった。もちろん、親しい人限定だが。


「……」


「……?」


 ドレス姿のエリカさんを見て、なぜか固まるお父様。

 お父様の言葉を待っているエリカさん。


 お父様は美少女と言っても通用する見た目をしているので、美少女が二人並んでいるようにしか見えない。

 

 ちなみに、エリカさんはクール系美少女で、お父様は清純派な美少女だ。


 ……いや、今更だが実の父親に美少女はアレだけど。


「あ、あ〜、えっと、久しぶりです。エリカさん」


「お久しぶりです、ショーンさん。一ヶ月も顔を見せずに申し訳ありません」


「い、いえ、大丈夫です! お、お綺麗になられましたね?」


「フフ、ありがとうございます」


 なんだかお父様の挙動がおかしい。

 エリカさんが男装していた時は、普通に友人みたいに接していたのに。


「エリカ〜、離縁おめでと〜。今度お祝いしましょうね〜」


「ありがとうございます。これで自分の商会に集中できますよ」


 続きは気になるが、私にはアンディ君に工房内を案内するというお仕事があるので、アンディ君と共に彼の自室へ向かった。


 ◇


 アンディ君の部屋は私の隣となった。

 そういえば、少し前にピクト君が掃除していたな。


 師匠の工房は一階に工房、受付、事務所、応接室があり、二階はそれぞれの個室と食堂と台所、それにお風呂などの水回りがある。従業員用の部屋は四部屋あるので、あと一部屋余っている。


 「こっちがダイニングルームと台所で、この先が師匠──魔女様の部屋とジョニーさんの部屋。こっちが私たちの部屋で、ここがお風呂。こっちがトイレと洗面所ね」


 部屋に行く前に建物内を案内する。

 ちなみに、工房には二箇所トイレがある。一階に一箇所、二階に一箇所だ。

 どちらも商業施設みたいに個室が三室連なっている。どちらも男女共用だが、将来人数が増えるようなら分けると師匠が言っていた。

 

「そしてここが、アンディ君の部屋!」


 部屋の中にはすでに荷物が運び込まれており、ピクト君が待っていた。


「お待ちしておりました、シンシア様、アンディ様」


 ピクト君がめっちゃ渋い声で言った。

 無駄に良い声だ。


「──!」


 アンディ君がピクト君に驚いている。


「彼? はピクト君。師匠の使い魔のゴーレムだよ。お手伝いゴーレムってといって、身の回りのことを手伝ってくれるんだ」


「よ、よろしくお願いします……」


「こちらこそよろしくお願いします。それでは、荷解きをしましょう」


 アンディ君の荷物はそこそこ多い。

 特に本。


「読書が好きなの?」


「うん。あと、勉強するから……」


 侯爵家のお坊ちゃんは大変だな〜。

 まあ一応、私もまだ子爵家のご令嬢ではあるんだけど、今はほぼ平民と変わらないからね。


 服をクローゼットにしまい、小物を引き出しに収納。

 下着を畳もうとしたら、アンディ君に大慌てで止められた。自分でやるそうだ。

 ピクト君は本などの重いものを担当。

 各部屋には大きめの本棚が備え付けられているので、アンディ君の持ってきた本もほとんど収納できそうだ。 


 そんなわけで荷解きは二時間くらいで終了。

 ほとんどピクト君が頑張ったんだけど。

 ピクト君はこの後、軽く掃除をするらしい。


 ちょうどお昼なので、手を洗ってうがいをしてから食堂に向かった。


「いらっしゃーい! ご飯できてるヨー」


 食堂に行くと、猫耳メイド服の女性? が出迎える。

 彼女? は、お料理ゴーレムのクチーナだ。師匠の使い魔の一人でもある。工房内では、文字通りお料理を担当している。

 ゴーレムなので明確な性別はないが、師匠の趣味でメイド服を着せられているので女性として扱っている。


 魔女工房では、朝食と夕食はみんなで一緒にとるけど、昼食は自由な時間にとって良いということになっている。

 食べる食べないも自由。なのでメニューは簡単に作れる物が多い。


 席に着くと、サンドイッチがそれぞれの前に並べられる。

 それにスープとデザートのフルーツ。あと、紅茶。

 今日のサンドイッチの中身は、香ばしく焼いたチキンだ。


 荷解きをしてお腹が空いたのか、今回はアンディ君もパクパクとサンドイッチを食べている。

 そういえばおやつのケーキ、食べ損ねていたもんね。 


 最後のサンドイッチに手を伸ばそうとした時に、またしてもアンディくんの影が揺らめいて、影の触手が伸びてきた。そして最後の一つのサンドイッチをさっと掴むとすぐに引っ込んだ。


「あ……」


 アンディ君がすごく残念そうにしている。

 美味しかったんだね。


「よかったら、食べる?」


「え?」


 思わず、私のサンドイッチを差し出した。


「あ、えーと、もしくは新たに頼む?」


 よくよく考えれば、貴族のお坊ちゃんに対してマナーが悪かったかもしれない。

 

「あ、ありがとう!」


 アンディ君は嫌がるところか、嬉しそうにサンドイッチを受けとった。


 と思ったら、またしても影触手が伸びて私のサンドイッチも全てもって行かれた。


「あ!」


「ちょっと!」


 食べ物を食べる直前に横から掻っ攫われると、めっちゃ腹立つな〜。


 いや、待てよ?


「これって、アンディ君に取り憑いている魔剣が、食べているってことなんだよね?」


「多分……」


 だったら──。


「クチーナさん、サンドイッチおかわりお願いします! あ、デザートとかはいらないです。サンドイッチだけお願いします!!」


「ええ!? 食べ切れるカナ!?」


「はい! 責任を持って食べ切ります!!」


「え? え?」


「ヨシキタ!!」


 そして、サンドイッチが運ばれてくる。

 それをアンディ君の前に置く。


「さあ、魔剣、えーと、ネロだっけ? 好きなだけ食べればいいわ!」




  


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