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転生令嬢は悲劇のヒロイン(!?)なお父様を救う為に魔女様に弟子入りします!!  作者: 彩紋銅
二章 シンシア七歳

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21 離縁成功! エリカside

 ◆◆◆


 この日は朝から厚い雲が天を覆っていた。

 雨が降る気配はないが、なんとも気分を陰鬱にさせる天気だ。

 だが、エリカの心は踊っていた。


「これでようやく他人だな! 三年間だぞ!? 長かった!! 清々する!!」


 もう少しで元夫となるデクスター・ランタナ侯爵は、元妻となるエリカを見下す様にそう言った。

 朱色の髪と鮮やかな緑の瞳を持つ男らしいタイプの美男子だが、その顔は今勝ち起こったかのような傲慢な笑みを浮かべている。


「後から、やっぱり辞めますは無しよぉ? 男女(オトコオンナ)さん!」


 その傍らには、菫色の艶やかな髪と桃色の瞳の加護欲をそそる女性が座っている。

 童顔なのに豊満な肢体を持つ彼女は、デクスターの長年の恋人であり、現在は愛人のカレンだ。

 平民の出らしく、言葉遣いもマナーは全くなっていない。しかし長年、デクスターの恋人をやれているので、それ以外で彼を満足させられる何かがあるのだろう。


 そんな二人に目もくれず、カレンはそれぞれのサインが記入された書類を見直している。

 不備がないので、それらを書類ケースにしまうと、ようやく顔を上げた。

 これを神殿に提出し受理されると、後程それぞれに控えが届く。

 それで、この不愉快な男と愛人ともおさらばだ。


「──!」


 黄水晶(シトリン)の瞳に見据えられ、デクスターは一瞬怯む。

 これでいいはずなのに、己が望んだ事の筈なのに、頭の奥で微かな違和感がする。

 こうすることが、いけないような……。

 だがデクスターは、それを気のせいだと思考の奥底に閉じ込めて、気付かないふりをした。


「デクスター・ランタナ侯爵閣下、三年間ありがとうございました。お二人のこれからに幸多からんことを」


 エリカはそれだけ言うと、書類を大切に抱えてランタナ侯爵家のタウンハウスを後にした。

 実家の馬車に乗り込み、そのまま王都にある大神殿に向かうと、書類をさっさと提出した。

 そして、受付の神官に書類を確認してもらい、無事受理されたのだった。


 こうして晴れてエリカは、デクスターと離縁することができた。


 ◆


 エリカ・アンダースノウ侯爵令嬢が、デクスター・ランタナ侯爵令息と結婚したのは、デクスターの父に頼み込まれたからだった。

 エリカ側に特にメリットの無い婚姻だったが、エリカの父とデクスターの父は学生時代からの友人であり、恩もある。その為、相手からの申し出を断れなかったのだ。


 デクスターの実家であるランタナ侯爵家は、先祖が記憶水晶に魔術式を刻印する技術を開発した、先駆者だった。

 ランタナ侯爵家は、その使用権のお陰で莫大な財を成し、現在の地位を築いた。

 歴史ある商会も経営していたが、そこに長年勤めていた刻印職人が高齢と病を理由に退職。しかし、後進が育たず経営が悪化。技術の使用権の期限も切れ、その分の収入も無くなり、エリカとデクスターの結婚で資金と技術の援助をする事になったのだ。

 エリカとしては、実地訓練のためにこの婚姻を受けた。


 二人は二年の婚約の後、結婚。

 結婚後、デクスターは父から爵位を継いだ。

 彼の両親は領地運営に専念し、デクスターは商会の方を任された。

 

 しかし、自分の家の事情をイマイチ理解できていなかったデクスターは反発し、長年の付き合いの恋人との仲を精算せずにそのまま結婚。

 結果、エリカを蔑み冷遇し、使用人にもそれを強要した。

 流石に最低限の衣食住が保証されないのであれば、ランタナ侯爵家のタウンハウスに同居する意味はない。なのでエリカは早々に出て行き、王都に自分の家を借りた。

 資金は結婚前から自分で稼いでいたもので支払った。

 そこを拠点に、王都で落ち目になっていたとある町工場(こうば)を従業員ごと買い取って会長となり、自分の商会を作った。


 エリカは、金属を自在に操る特異魔法を持っていた。

 これは、アンダースノウ侯爵家の血筋によく現れる特異魔法であるが、どの金属でも自在に操れるのはエリカだけだった。

 これを駆使して、自分の商会──カプセラ商会を盛り返した。

 取り扱ったのは、主に魔力伝導率の良い素材でで作った魔動具用の部品や、基板。オーダーメイドのパーツなど。つまりは、ゴーレムや魔動具に使えそうな部品はなんでも作っていた。

 特にオーダーメイドの部品は品質の高さと少量から受注できるので、個人からの注文も多く注文を受けた。

 元々、営業は苦手だが腕のいい職人の揃っていたエリカの商会は、すぐに技術が向上し彼らの苦手な部分はエリカが補ったことで、商会の商品ラインナップ数と売上は格段にアップした。


 とはいえ、ランタナ侯爵家の商会──ランタナ商会も、なんとかしなければならない。

 そもそもエリカが嫁いだ理由は、この商会を回復させることだった。


 ランタナ商会の会長はデクスターだが、彼は商会の事には口は出すが、手も金も出さない。

 彼は魔力が少なく魔法も不得意であり、魔動具についてもよく分かっていない。

 学生時代は一応は魔動具科を専攻していたが、試験も課題も成績の良い下級貴族の令息に丸投げしていたのだ。彼には何も身についてはいなかった。

 しかしそれ以外の学情の成績は良好で、しかも実力でその成績だったので、その事実を彼の両親は知らない。


 爵位と商会を継いでも、デクスターは何も改める事はなかった。

 それでいて、売り上げが下がると従業員にパワハラをし、辞職を許さなかった。

 結果、主力の職人が倒れ、後進も育っておらず、事業が立ち行かなくなった。

 仕方がないのでエリカは自分が立ち上げた商会の職人と、資金の一部を融資し、商会の品質と売上の回復に努めた。

 幸い、なんとか破産は免れ、新しい職人も雇い入れることができるようになった。

 そうして業績は、徐々に回復していったのだ。


 そんなこんなでエリカは忙しい日々を送り、夫となった者の事は直ぐに忘れてしまった。


 そんなエリカに協力したのが、アゲートの魔女だった。

 アゲートのとエリカの出会いは、エリカの学園時代まで遡る。

 当時から金属を操る特異魔法の得意だったエリカは、正確無比な部品を作ることができた。

 そこに目をつけて、エリカを弟子入りさせようとしたが断られ、結局は現在の関係に落ち着いた。

 魔女との取引があるということは、これ以上ない信用となる。

 お陰で、エリカの商会はますます発展していった。


 ◆


 しかし、ここで予期せぬ事態が起こる。

 デクスターが、エリカの美しさに気づいてしまったのだ。

 エリカは黒髪と黄水晶(シトリン)の瞳を持つ、中性的な美人だ。

 女性らしい格好をすれば美女に、男性らしい格好をすれば美男子に見える。


 そして、女性らしい格好をしたエリカは、デクスターとしても好ましい見た目であった。

 彼らは表面的には夫婦である為、男女の営みがあってもいいはずだ。

 そう思ったデクスターは、理由をつけてエリカをタウンハウスに呼び付け、遅い初夜を行おうとした。


 なんとかその場を逃げ出し、身の危険を感じたエリカは、親戚が新たに売り出した女性用のトラウザーズの礼服を身に纏うことにした。

 一応、宣伝も兼ねていたが、中性的な美人のエリカが着ると、ほぼ男装になってしまっていたので、宣伝効果は薄かったかもしれない。お陰で、デクスターの(よこしま)な感情は躱す事ができたが。


 以来、デクスターは閨事を断られた羞恥心と男としてのプライドが傷つけられ、エリカを激しく憎悪する様になった。

 そもそも、デクスターは男らしい女性が苦手だ。

 これは彼が昔、とある女騎士に惚れて付き纏った結果、酷い目にあった頃が原因なのだが、彼は自分に都合の悪いことはコロっと忘れる性質(タチ)なので因果応報の重要な部分はあまり覚えていない。

 ただ、男らしい女性に対する忌避感だけが残った。


 こうして二人は歩み寄る事なく、白い結婚のまま三年が過ぎた。


 ランタナ商会の従業員に引き継ぎをし、財産関係を整理。

 エリカの商会の財産は、デクスターの手にまったく渡る事なく、離縁に成功した。

 これには実家の顧問弁護士に協力してもらった。


 今後のランタナ商会はデクスターが運営していく事になるが、その結果はエリカには預かり知らぬことだ。


 ◆


「漸く、は私のセリフですね」


 書類が無事に受理され、エリカは一息つく。

 時刻は、まだお昼前。

 時間はたっぷりとある。


「それなら、叔母様の店で新しいドレスでも買いますか」

 

 曇り空が晴れ、光芒が差した。






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